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ファツィオリ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Fazioli Pianoforti
種類
ジョイント・ストック・カンパニー
業種 楽器製造
設立 1981年
創業者 Paolo Fazioli
本社 イタリア サチーレ
主要人物
Paolo Fazioli
製品 グランドピアノ
売上高 6,500,000[1] (2012年)
ウェブサイト www.fazioli.com
モスクワで(2014年)

ファツィオリ・ピアノフォルティ: Fazioli)は、1981年に創業したイタリアグランド・ピアノメーカーである[2]

概要

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創始者兼現社長、パオロ・ファツィオリは、家具職人の家に生まれ、ロッシーニ音楽院ピアノを、ローマ音楽院作曲を専攻した後、ファツィオリ社を1981年に創業した。綿密な手作業をふんだんに盛り込み、世界で最も高額なピアノ[3]として知られている。また独立アリコート方式、「4番ペダル」など特殊な設計でも知られる。現時点で世界最長サイズ(奥行き308センチメートル)のモデルも製作している。

工場はイタリア北部のサチーレにある。この際、各分野の専門家たちに、ゼロからピアノを設計する計画への参加を要請[4]ミケランジェリピアノ調律も務めたピアノ調律師兼製作者のチェーザレ・アウグスト・タローネの弟子らを招聘し、1980年に最初のモデルを完成させた。

グランドピアノの生産台数は、2009年時点で年間120台程度とされ、それ以外の製品は製造していない[5]

特徴

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響板

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ピアノの音色を決定づける響板は、フィエンメ峡谷産のレッドスプルースが使用されている。またファツィオリの響板は、製作が終わってから2年間、空気管理された倉庫で熟成される。

ハンマーのフェルト

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他メーカーでは機械によるハンマーのフェルト作りが一般的であるが、ファツィオリはフェルトに硬化剤を使用せず、手作業でフェルトを作る[6]。これにより弾力に優れたハンマーが得られる。

フレームの鋳造

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現代の一般的なピアノ製造工程では、ピアノ内部の鉄製フレームを鋳造する際、真空吸引法を用いる。これは鋳型の隅々に鉄を確実に流し込み、作業を短時間で進めることができるという利点を持つが、ファツィオリでは、伝統的な方法で時間をかけて鋳造している。

可変式ブリッジによる倍音の調律

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多くのピアノの中高音部の駒からヒッチまでの弦(バックストリング)には倍音を豊かに響かせるためのアリコートブリッジが取り付けられている。通常のアリコートブリッジは一体型で、各音程毎にアリコートブリッジの位置を独立して調節することは不可能である。ファツィオリでは各音のブリッジを個別に移動できる独立アリコート方式を採用している。ただし、独立式アリコートブリッジはファツィオリのみに見られる特徴ではない。

駒の材質の使い分け

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ファツィオリでは、駒の基礎(カエデとマホガニーとの積層材)上に貼る木材にカエデシデツゲの3種を用い、硬度の違いを生かして音域ごとに(低音から中音域にカエデ、高音域にシデ、最高音域にツゲ)3種を順に使用するよう設計している[7]。駒の表面の加工も、熟練した職人の手作業で仕上げられる。

4番ペダル

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通常の3本のペダルの更に左側に4番ペダルの物があり、この特許を取得している。このペダルによって、ハンマーと弦の距離が短くなり、同時に鍵盤が浅くなる。ファツィオリはこれを「音色を変えることなく音量のみが小さくなる」としている[8]。これによってピアニッシモの効果が得られるだけでなく、グリッサンドや速いパッセージに利点がある。 4番ペダルは、モデルF308のみ、標準仕様である。他機種ではオプションで4本ペダル仕様にすることが可能であるが、追加料金が必要となる。また購入後にペダルの増設はできない。

金属部品のメッキ

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ファツィオリでは防錆と美観を考慮し、金属部品に金メッキ処理を採用している。

現行機種一覧

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F308(ミラノ・ショールーム、2016年)

ファツィオリは、6種類のグランド・ピアノを製造している[9]

  • F156
  • F183
  • F212
  • F228:通常のセミ・コンサート・グランド・ピアノ
  • F278:通常のフル・コンサート・グランド・ピアノ
  • F308:ファツィオリ独自の特大コンサート・グランド・ピアノ

機種番号のFに続く数字は、ピアノの奥行きを(センチメートル単位で)表している。ただし、F308の現行機種の実際の奥行きは302cm。

日本における納入先施設

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一般に開かれている施設を、以下に納入順で記す。

日本国内のファツィオリ納入先施設(一般公開)
納入順 施設名 場所 納入機種 ペダル 納入時期 使用できるホールの客席数 備考
1 栗東芸術文化会館さきら 滋賀県栗東市 F278 3本 小ホール149席
中ホール406席
大ホール810席
日本で初めてファツィオリを納入したホール。
2 北上市文化交流センター さくらホール 岩手県北上市 F278 3本 小ホール264席
中ホール461席
大ホール1406席
2005年10月にアルド・チッコリーニが再来日し、ファツィオリを演奏。
3 石川県こまつ芸術劇場うらら 石川県小松市 F212 3本 小ホール250席 詳細は公開されていない。
4 美浜町生涯学習センターなびあす 福井県三方郡美浜町 F308 4本 文化ホール489席
5 豊洲シビックセンター 東京都江東区 F278 3本 ホール300席 舞台周りの壁が総ガラス張りで夜景が見えるホール。
6 渋谷ホール&スタジオ 東京都渋谷区 F212 2018年11月 ホール30席
7 阿久根市民交流センター(風テラスあくね) 鹿児島市阿久根市 F278 2019年1月 ホール541席
8 フェニーチェ堺(堺市民芸術文化センター) 堺市堺区 F308 3/4本
(選択可)
2019年3月19日 小ホール312席
大ホール2000席
特注モデル。
9 中札内文化創造センター 北海道中札内村 F278 2020年1月 ハーモニーホール487席

広く一般に開かれていない施設を、以下に納入順で記す。

日本国内のファツィオリ納入先施設
施設名 場所 納入機種 ペダル 納入時期 客席数 備考
幕張ベイタウン・コア 千葉県千葉市美浜区 F278 3本 2002年4月26日 200席 東日本初の導入で、市民運動により選定・募金により購入された。幕張ベイタウン自治会連合会所有。地域ボランティアスタッフによる管理。使用は地元幕張ベイタウン関連団体主催、または共催イベントのみ許可(審査あり)。観客に対する制限はない。
渋谷教育学園幕張中学校・高等学校田村記念講堂 千葉県千葉市美浜区 F278 3本 2009年 非一般公開:学内用途のみ。

海外における納入先施設

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評価

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  • 高松国際ピアノコンクール:初めてFAZIOLIがこのコンクールに採用された2010年、石村純がFAZIOLIを選んで第2位となった[11][12]。ところが、FAZIOLIは高松から撤退した。
  • ショパン国際ピアノコンクール:初めてFAZIOLIがこのコンクールに採用された2010年、ダニール・トリフォノフがFAZIOLIを選んで第3位となった。それ以降ダニール・トリフォノフはコンサートでFAZIOLIを使用している[13]。2021年は1位のブルース・リウ、3位のマルティン・ガルシア・ガルシア、5位のレオノーラ・アルメッリーニ英語版がFAZIOLIを選んでいる[14]
  • ルービンシュタイン国際ピアノコンクール:初めてFAZIOLIがこのコンクールに採用された2014年、FAZIOLIとSteinwayの2社のピアノのみが公式ピアノとしてコンクール側が採用した。最終審査に出場した全6人の参加者の内、大協奏曲でSteinwayを弾いたのは1人のみで、5人がFAZIOLIを選んだ[15]。その後も定期的にFAZIOLIアーティストが順当に本選へ進んでいる。
  • シドニー国際ピアノコンクール:初めてFAZIOLIがこのコンクールに採用された2016年、最終審査に出場した全6人の参加者は、1人あたり協奏曲を2曲ずつ演奏しなくてはならず、最終審査全体として12曲の協奏曲が演奏された。その内、9曲の協奏曲がFAZIOLIでの演奏を希望され、FAZIOLI以外のメーカーのピアノで演奏されたのはたった3曲という状況になるほど参加者からの支持が圧倒的に強かった[16]。しかし、2023年の出場者の好みはシゲルカワイかスタインウェイに戻っている。
  • ピアニストBoris Giltburgはベートーヴェンピアノソナタ全集をFazioliで完成した[17]

国際ピアノコンクールとファツィオリ

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全日程をすべてファツィオリで消化するコンクール

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現時点で公式ピアノとして採用されているコンクール

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かつて公式ピアノとして採用されていたコンクール

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参考文献

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  • 斎藤信哉著『ピアノはなぜ黒いのか』(幻冬舎)
  • 吉澤ヴィルヘルム著『ピアニストガイド』(青弓社)

脚注

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注釈

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出典

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  1. ^ 2013_08_23_corriere_sera_sette_0”. www.fazioli.com. fazioli (2013年8月23日). 2014年5月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月2日閲覧。
  2. ^ イタリア語の標準的なアクセントは、後ろから2つ目の音節の母音につくため、「ファツィオーリ」ともカタカナ表記される。
  3. ^ 出典:吉澤ヴィルヘルム著『ピアニストガイド』、青弓社、2006年、227ページ。
  4. ^ 『パリ左岸のピアノ工房』、新潮社、2001
  5. ^ 『日経ビジネス ONLINE』
  6. ^ 製造・技術情報 | FAZIOLI
  7. ^ 駒はマホガニーとメープルのラミネート下部と、メープル・シデ・ツゲの上部によって構成されます。”. fazioli.co.jp. ファツィオリジャパン株式会社. 2023年10月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月2日閲覧。
  8. ^ ファツィオリの技術情報公式サイト日本語版、2010年11月閲覧
  9. ^ The six models (F156 - F308)公式サイト
  10. ^ The Globe Life Newsletter"Juilliard breaks with all-Steinway tradition, purchases a Fazioli"、2011年3月29日
  11. ^ 高松国際ピアノコンクール 第2回出場者一覧
  12. ^ 高松国際ピアノコンクール YouTube公式映像
  13. ^ トリフォノフ公式サイト
  14. ^ 第18回ショパン国際ピアノコンクール レポート”. FAZIOLI日本総代理店. 2022年4月22日閲覧。
  15. ^ a b FAZIOLI日本総代理店トピックス公式サイト
  16. ^ a b FAZIOLI日本総代理店トピックス公式サイト
  17. ^ The Complete Piano Sonatas”. www.naxos.com. www.naxos.com. 2023年6月24日閲覧。
  18. ^ news”. www.concorsosalagallo.it. www.concorsosalagallo.it. 2022年1月4日閲覧。
  19. ^ Concorso Pianistico Internazionale Ettore Pozzoli 2009 - La premiazione”. www.youtube.com. Youtube. 2022年5月9日閲覧。
  20. ^ Piano FVG”. www.youtube.com. youtube. 2023年10月2日閲覧。
  21. ^ Massarosa International Piano Competition”. www.youtube.com. youtube. 2023年10月3日閲覧。
  22. ^ vincitore del Concorso pianistico internazionale Alexander Scriabin di Grosseto”. www.fazioli.com/. FAZIOLI. 2024年6月15日閲覧。
  23. ^ 大室一也 (2021年12月25日). “ショパン・コンクールで上位3人が演奏「ファツィオリ」成長の秘話”. webcache.googleusercontent.com. 朝日新聞デジタル. 2023年10月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月2日閲覧。
  24. ^ ファツィオリジャパン株式会社 (2022年2月5日). “第13回 リスト国際ピアノコンクール・ユトレヒト(リスト・ユトレヒト)”. webcache.googleusercontent.com. fazioli.co.jp. 2023年10月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年10月2日閲覧。
  25. ^ enhancing-the-melodies-the-importance-of-piano-technicians”. www.pianoplus.com.au. piano+. 2023年10月2日閲覧。
  26. ^ Spanish pianist Pedro López Salas won the second prize at the 12th Paderewski Piano Competition in Bydgoszcz (Poland).”. www.fazioli.com. FAZIOLI (2022年11月19日). 2024年5月30日閲覧。
  27. ^ 石村純はFAZIOLIを選択。”. i.ytimg.com. i.ytimg.com. 2022年1月5日閲覧。
  28. ^ FAZIOLI日本総代理店トピックス公式サイト
  29. ^ 公式ピアノモデルが記載されるようになった。”. tchaikovskycompetition.com. tchaikovskycompetition.com. 2023年6月24日閲覧。
  30. ^ 公式ピアノに、ファツィオリではなくベヒシュタインが使用されるように変更された。”. www.europe-piano.com. www.europe-piano.com. 2023年6月24日閲覧。

外部リンク

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