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ヒルヤモリ属

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヒルヤモリ属
キタオオヒルヤモリ Phelsuma grandis
保全状況評価
ワシントン条約附属書II類
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: 有鱗目 Squamata
亜目 : トカゲ亜目 Sauria
下目 : ヤモリ下目 Gekkota
: ヤモリ科 Gekkonidae
: ヒルヤモリ属 Phelsuma
学名
Phelsuma
Gray, 1825
英名
day gecko

ヒルヤモリ属(ヒルヤモリぞく、Phelsuma)はヤモリ科に属する属。全種がワシントン条約の付属書II類に掲載されており、その取引については不明な点が多いが[1]IUCNによると一部の種にとっては脅威となっている。一部の種は飼育下繁殖に成功している[2]

分類と名称

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後期白亜紀から中期始新世、4300万年前から7500万年前の間に起源を持つと考えられている。この時期にイワヒルヤモリ英語版を含む系統から分岐したことが知られているが、どの程度近縁であるかは不明である。全ての現生種を含むクラウングループは、約3000万年前の初期漸新世に起源を持つと考えられており、その中で最も原始的な種はアンダマンヒルヤモリで、クラウングループが誕生して間もなく他の全ての種から分岐した[3]セーシェルなど西インド洋地域での種分化のほとんどは、新第三紀に起こったと考えられている[4]。ヒルヤモリ属は1825年にイギリス動物学者であるジョン・エドワード・グレイによって初めて記載され、属名はオランダ医師であるMurk van Phelsumへの献名である[5]

分布と生息地

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インド洋南西部の島々に分布する。例外としてベンガル湾アンダマン諸島にはアンダマンヒルヤモリが固有種として分布しており、東アフリカ本土に分布するニブイロヒルヤモリはおそらく移入された個体群である。多くの種がマダガスカル[6]モーリシャスに分布するが、マスカリン諸島セーシェル[6]コモロ諸島など近隣の島々にも分布する[7]ハワイ諸島の一部やフロリダ州に移入されており、フロリダ州では害虫駆除を目的として持ち込まれた。海抜2,300mまでの森林、人家の付近、竹林、果樹園、岩場などに生息する[7]。ほとんどの種は樹上性だが[7]、バーバーヒルヤモリは地上性である。

形態

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全長は6.5cmの小型種から30cmの大型種まで様々だが[7]、絶滅したギガスヒルヤモリはさらに大型であった。趾下薄板が発達しており、竹やガラスのような垂直面を歩くことができる[7]。各足の内側の指は退化している。雄の後肢の下面には、大腿孔が発達しており、雌ではあまり発達していないか存在しない。雌は首の側面に内リンパ嚢が発達しており、卵の生産に必要なカルシウムが蓄えられている。眼は大きく、多くのヤモリとは異なり昼間に活動するため、丸い瞳孔を持つ[6]を持たないため、眼は透明な鱗で覆われ、舌で掃除する。皮膚は弱く、外敵に掴まれると皮膚を剥がして逃げる[7]。多くの種は明るい緑、赤、青の色をしており、ペットとして人気がある。この鮮やかな色は種を認識する役割を果たし、カモフラージュとしても機能する。

生態

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多くの種は昼行性だが、夜行性の種もいる[7]。昼行性のヤモリは珍しく、他にはマルメヤモリ属とイロワケヤモリ属に昼行性の種がいる。日光浴を好むが、森林に適応した種では強い光を嫌う種もいる[7]。動物食性の強い雑食性であり、昆虫やその他の無脊椎動物、花の蜜、花粉、バナナなど柔らかく熟した果物を食べる[7]。飼育下ではハエの幼虫、ガの幼虫、コオロギ、スーパーワーム、バターワーム、ミールワームを与える。週に数回パパイヤ、バナナなどの甘い果物および市販の蜜を与える必要がある。昆虫から蜜を受け取る様子も観察されている[8]。人間の残飯を漁ることもある[6]。繁殖形態は卵生。1回に2個の卵を数回に分けて産む。産まれる直前の卵は雌の腹面からよく見える。孵化後6-12ヶ月で性成熟する。小型種は最長10年、大型種は飼育下で20年以上生きることもある。

分類

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約50種が分類される[9]。和名は中井(2020)を参考[7]。また亜種名も中井(2020)を参考とした[10]

人間との関係

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ペット用として飼育されることもあり、日本にも輸入されている。数種が流通し多くの種の流通はまれか、流通していない。テラリウムで飼育される。樹上棲のため、高さのあるケージで飼育するのが望ましい。枝や流木、観葉植物等を組んで活動場所や隠れ家にする。極度の低温に弱いため、日中は摂氏25-30度に保温し、ホットスポットを設ける。また、夜間は摂氏20-25度に保温する[6]。昼行性のため紫外線の出るフルスペクトルライト等の照明器具でケージ内を照射する。水は朝や照明を点灯した際に壁面に霧吹きを吹き付けて与える。餌としてコオロギや潰した果実、昆虫ゼリー、ハチミツ、果実製のベビーフードなどを与える[6]。餌にはカルシウム剤等のサプリメントをふりかけてから与える。また果実はケージや床材に直接置くと虫が涌くことがあるため、餌容器に入れて、床より高い位置で与えた方がよい[6]。慣れやすいが、触ると生体がストレスを受けるので、なるべく接触しないようにする[6]。動きが素早く掴むと皮膚が剥がれるため、扱いには注意が必要である。

画像

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出典

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  1. ^ Archived copy”. 2016年12月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年4月21日閲覧。
  2. ^ Breeding Endangered Geckos”. Matt Schaefer. 2024年11月1日閲覧。
  3. ^ Mohan, Ashwini V.; Orozco-terWengel, Pablo; Shanker, Kartik; Vences, Miguel (2020-07-16). “The Andaman day gecko paradox: an ancient endemic without pronounced phylogeographic structure” (英語). Scientific Reports 10 (1): 11745. Bibcode2020NatSR..1011745M. doi:10.1038/s41598-020-68402-7. ISSN 2045-2322. PMC 7367275. PMID 32678130. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7367275/. 
  4. ^ Rocha, Sara; Posada, David; Harris, D. James (2013-01-05). “Phylogeography and diversification history of the day-gecko genus Phelsuma in the Seychelles islands”. BMC Evolutionary Biology 13 (1): 3. Bibcode2013BMCEE..13....3R. doi:10.1186/1471-2148-13-3. ISSN 1471-2148. PMC 3598968. PMID 23289814. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3598968/. 
  5. ^ Beolens, Bo; Watkins, Michael; Grayson, Michael (2011). The Eponym Dictionary of Reptiles. Baltimore: Johns Hopkins University Press. xiii + 296 pp. ISBN 978-1-4214-0135-5. (Phelsuma, p. 206).
  6. ^ a b c d e f g h 『アクアリウム・シリーズ ザ・爬虫類&両生類 初心者でも繁殖にトライできる本』46頁。
  7. ^ a b c d e f g h i j 『ヤモリ大図鑑 分類ほか改良品種と生態・飼育・繁殖を解説』285頁。
  8. ^ “Gecko 'begs' insect for honeydew”. BBC News. (2008年2月16日). http://news.bbc.co.uk/1/hi/sci/tech/7247472.stm 2024年11月1日閲覧。 
  9. ^ Phelsuma in reptile database”. 2024年11月1日閲覧。
  10. ^ 『ヤモリ大図鑑 分類ほか改良品種と生態・飼育・繁殖を解説』222-232頁。

参考文献

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  • 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『レッド・データ・アニマルズ8 太平洋、インド洋』、講談社2001年、129、240頁。
  • 千石正一監修 長坂拓也編 『爬虫類・両生類800種図鑑 第3版』、ピーシーズ、2002年、21-22頁。
  • 『小学館の図鑑NEO 両生・はちゅう類』、小学館2004年、94頁。
  • 海老沼剛『爬虫・両生類ビジュアルガイド トカゲ2 ヤモリ上科&スキンク上科』、誠文堂新光社、2004年、34-39頁。
  • 冨水明 『可愛いヤモリと暮らす本 レオパ&クレス』、マリン企画2008年、114-115頁。
  • 富田京一『アクアリウム・シリーズ ザ・爬虫類&両生類 初心者でも繁殖にトライできる本』 誠文堂新光社、2000年。ISBN 4-416-70006-7
  • 中井穂瑞領『ヤモリ大図鑑 分類ほか改良品種と生態・飼育・繁殖を解説』誠文堂新光社、2020年、ISBN 978-4-416-62048-9

外部リンク

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