コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

ヒシモンモドキ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヒシモンモドキ
画像外部リンク
パラタイプ(新庄市産)
( National Museum Wales[1]
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
亜綱 : 有翅昆虫亜綱 Pterygota
: カメムシ目(半翅目) Hemiptera
亜目 : ヨコバイ亜目(同翅亜目) Homoptera
: ヨコバイ科 Cicadellidae
亜科 : ヨコバイ亜科 Deltocephalinae
: Opsiini
: ヒシモンモドキ属 Hishimonoides Ishihara, 1965[2]
: ヒシモンモドキ H. sellatiformis
学名
Hishimonoides sellatiformis Ishihara, 1965[2]
和名
ヒシモンモドキ
英名
False rhombic-marked leafhopper

ヒシモンモドキ(菱紋擬き)、学名 Hishimonoides sellatiformisヨコバイ科に分類される昆虫の1種。全長5mm弱のヨコバイで、全体に細かい褐色斑を散らし、翅を閉じた状態では背面中央に濃色の菱形紋を現わす。クワ萎縮病病原体であるファイトプラズマ媒介者(ベクター)として知られる農業害虫である。ヒシモンモドキ属 Hishimonoides 属のタイプ種[2][3]

和名学名ともに背面の菱形紋や全形が別属のヒシモンヨコバイ Hishimonus sellatus に似ていることに由来し、属名 HishimonoidesHishimonus (ヒシモンヨコバイの属名)+oides(…に類した)、種小名 sellatiforimissellatus(ヒシモンヨコバイの種小名/原義:を付けた…)+formis(…の形をした)の意で、属名、種小名ともにヒシモンヨコバイの学名を元にしている。

分布

[編集]

日本(本州九州)、中国[4][5]

形態

[編集]

成虫

頭頂から翅端までの長さは4.7-4.8mm、翅を除いた体長はオス3.0mm、メス3.5mm前後。全体的には褐色系のヨコバイで、生時は複眼が暗紅色、単眼は淡色。頭部上面は藁色で橙褐色の斑紋があり、顔には橙色の斑紋の他に両側に7本前後の暗色の横線がある。
前胸背の地色は頭部のそれよりも暗色、多数の淡色斑があり、そこに小点刻を散らす。小盾板は前半部に橙褐色の不規則斑があり、後端近くの側縁に褐色小斑がある。
前翅は帯灰色の半透明、翅脈は褐色、前翅後半にやや濃い褐色の三角紋があり、左右の翅を閉じたときに三角紋が背面中央で合体して大きな菱形紋を作る。この菱形紋の明瞭さには個体差があるが、一般にヒシモンヨコバイほどには明瞭ではないとされる。
オスの交尾器の結合節(connective)は前端が開いたY字型、挿入器(陰茎・aedeagus)は基部にハの字型に突出する1対の突起があり、それぞれの先端に生殖孔(gonopore)が開口する。更にそれより先に2対の突起があり、そのうち手前の1対は扁平で先が尖った柳葉状、先端の1対は長い棘状で、先端手前1/3付近で左右の突起が弱く捩れつつ交差する[2]

幼虫

終齢幼虫は約5mm[3]。ヒシモンヨコバイの幼虫に酷似するが、複眼が鮮紅色であるこで識別できるとされる[6]

卵は半月形[6]、もしくは長さ約0.7mmの卵形で乳白色、クワの枝条の樹皮下に1個ずつ産みつけられる[3]。その産卵痕は肉眼でも明瞭に認められるが、ヒシモンヨコバイの産卵痕との識別は困難だという[6]。ただしヒシモンヨコバイの卵はやや湾曲する[3]

上記のうち、成虫の頭部から小盾板までの背面の様子とオスの交尾器は原記載に線画で示されている[2]。全形は、石島(1971)[7]が白黒で成虫の写真を、伊藤(2003)[3]が幼虫と成虫のカラー写真を示している(いずれもオンラインで閲覧可:ただし後者は要登録)。さらに英国の National Museum Wales がパラタイプのカラー写真をウェブ上で公開している(右上の画像外部リンクボックス)[1]

生態

[編集]

5月初旬に越冬卵から孵化し、年に2-3世代繰り返す[3]。たとえば埼玉県秩父市では成虫は6-7月と8-10月頃に2回発生し、10月下旬から11月上旬頃に成虫は姿を消し、卵の状態で越冬する[6]

クワを主な寄主植物とし、クワ萎縮病媒介する農業害虫としてよく知られている[2][7][6]。本種は、萎縮病に罹ったクワから吸汁することで病原体であるファイトプラズマを体内に取り込み、他の健全なクワから吸汁する際にこれを媒介する。ただしファイトプラズマを取り込んでもすぐに媒介能力を有するわけではなく、一ヶ月前後の潜伏期間を経たのちに媒介可能となり、その後は死ぬまでの1-2ヶ月間にわたって媒介能力を保持する[7]。ファイトプラズマはヒシモンモドキの体内で増殖することが知られており、保毒成虫の卵母細胞内や精巣などにも多数のファイトプラズマが確認されていることから、罹病株からの吸引のみならず保毒成虫からの次世代伝搬の可能性も推定されている[8]。本種の場合、発生数が多くないことから吸汁そのものによる加害はさほどではないが、ファイトプラズマの媒介能力はヒシモンヨコバイ以上であると言われる[3]

分類

[編集]
原記載
  • Hishimonoides sellatiformis Ishihara, 1965 Jap. J. Appl. Ent. Zool. 9(1): 19–22 (p.21-22, text-fig. 2)[2].
  • タイプ産地:「Shijo, Yamagata Pref., Honshu, Japan」(山形県新庄市: "Shijo" は Shinjo の誤り)。
  • タイプ標本:ホロタイプ/オス1頭、パラタイプ/オス3頭とメス2頭。
類似種

類似種には以下のようなものがあるが、正確な同定には交尾器を調べる必要がある。

ヒシモンヨコバイがタイプ種で、旧世界に広く分布し50種数種以上が記載されており[9]、日本からはヒシモンヨコバイ、アライヒシモンヨコバイオオヒシモンヨコバイの3種が知られている。背面に菱形紋がある点でヒシモンモドキによく似ているが、オスの交尾器の挿入器の形態がヒシモンモドキより単純で、生殖孔が開く一対の突起のみが伸びるY字状であることで属が区別される。また外見上では、少なくともヒシモンヨコバイは頭部や前胸背と複眼が緑色[3]、あるいは頭部と前胸背が淡黄色で複眼が黒い[2]ことで、頭-胸背が褐色で複眼が暗紅色のヒシモンモドキと区別される。
ヒシモンモドキをタイプ種とする本属にはこれまでにアジア産の13種が分類されている[9]。そのうち日本からは2種、すなわち本稿のヒシモンモドキと本州から報告があるヒメヒシモンモドキ Hishimonoides miaolingensis が知られているが、後者は体長が約3.7mmと小さいことや背面の菱形紋がやや不明瞭なこと、オスの交尾器の挿入器の形状などの違いでヒシモンモドキと区別される[4]。ヒシモンモドキ属の種と分布は以下のとおり。

人との関係

[編集]

上述したようにクワに重篤な被害を与えるクワ萎縮病の病原体であるファイトプラズマ媒介者(ベクター)としてよく知られており、その方面からの研究がなされている。しかし一般的な昆虫図鑑などにはほとんど掲載されたことがない。

出典

[編集]
  1. ^ a b Wilson M. R. & Turner, J. A. 2010 Leafhopper, Planthopper and Psyllid Vectors of Plant Disease. Amgueddfa Cymru - National Museum Wales. Available online at http://naturalhistory.museumwales.ac.uk/Vectors. [ Accessed: 4 January 2014 ].
  2. ^ a b c d e f g h Ishihara, Tamotsu (石原保) (1965). “Two new Cicadellid species of agricultural importance (lnsecta: Hemiptera) / 農業上重要なヨコバイ科の2新種”. Japanese Journal of Applied Entomology and Zoology / 日本応用動物昆虫学会誌 9 (1): 19-22 (p.21-22, text-fig. 2). https://doi.org/10.1303/jjaez.9.19. 
  3. ^ a b c d e f g h 伊藤正樹 (2003). ヒシモンモドキ (p.608) in 梅谷献二・岡田利承 編 「日本農業害虫大事典」. 全国農村教育協会. pp. 1203. ISBN 4881371037  (無料閲覧/要登録)
  4. ^ a b Okudera, Shigeru & Imai, Atsushi / 奥寺繁, 今井敦 (2012). “New Record of Deltocephaline leafhopper Hishimonoides miaolingensis (Auchenorrhyncha, Cicadellidae) from Honshu, Japan / 日本新記録のヒメヒシモンモドキ(新称)”. Rostria (日本半翅類学会) (54): 27-28. 
  5. ^ a b Wu Dai, Chandra A. Viraktamath and Yalin Zhang (2010). “A Review of the Leafhopper Genus Hishimonoides Ishihara (Hemiptera: Cicadellidae: Deltocephalinae)”. Zoological Science 27 (9): 771-781. doi:10.2108/zsj.27.771. http://www.bioone.org/doi/abs/10.2108/zsj.27.771. 
  6. ^ a b c d e 新井裕 (1997). “秩父地方におけるヒシモンヨコバイとヒシモンモドキの発生経過”. 秩父農林振興センター試験部試験成績集 (13): 6-7. https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200902198851794600. 
  7. ^ a b c 石島嶄 / Ishizima, Takashi (1971). “クワ萎縮病のヒシモンモドキによる媒介 / Transmission of the possible pathogen of mulberry dwarf disease by a new by a new leafhopper vector,Hishomonoides sellatiformis Ishihara”. 日本蚕糸学雑誌 / Journal of sericultural science of Japan (日本蚕糸学会) 40 (2): 136-140. https://doi.org/10.11416/kontyushigen1930.40.136. 
  8. ^ 川北弘, 佐伯知明, 三橋渡, 渡部賢司, 佐藤守 (1999). “(186) クワ萎縮病ファイトプラズマのヒシモンモドキの生殖器官内分布 (平成11年度 日本植物病理学会大会)”. 日本植物病理學會報 65 (3): 367. doi:10.3186/jjphytopath.65.321. NAID 110002733337. https://cir.nii.ac.jp/crid/1573668926971379584. 
  9. ^ a b Zahniser, James N. ( Illinois Natural History Survey ) Deltocephalinae. Archived 2013年12月24日, at the Wayback Machine. [ Accessed: 4 January 2014 ].