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有触毛亜目

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ヒゲダコ亜目から転送)
有触毛亜目
水深3,874 m から見つかったヒゲナガダコ Cirrothauma murrayi(ヒゲダコ属)
水深3,874 m から見つかったヒゲナガダコ Cirrothauma murrayiヒゲダコ属
分類Verhoeff 2023
: 動物界 Animalia
: 軟体動物門 Mollusca
亜門 : 有殻亜門 Conchifera
: 頭足綱 Cephalopoda
亜綱 : 鞘形亜綱 Coleoidea
上目 : 八腕形上目 Octopodiformes
: 八腕形目 Octopoda
亜目 : 有触毛亜目 Cirrata
学名
Cirrata Grimpe, 1916
シノニム
  • Cirromorphida
  • Cirroctopoda Young1989
  • Cirrina

有触毛亜目(ゆうしょくもうあもく、Cirrata)は、現生のタコ類(頭足綱八腕形目)を大別するうちの1亜目であり、に吸盤だけでなく触毛の列を持つタコからなる[1]有触毛類(ゆうしょくもうるい、: cirrates, cirrate octopods[2])とも呼ばれる[3][4]

名称

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階級はふつう亜目に置かれ、有毛亜目(ゆうもうあもく)[5]および触毛亜目(しょくもうあもく)[6]とも呼ばれる。また、外套膜に鰭を持つことから、有鰭亜目[7](ゆうきあもく、有鰭類[4]finned octopods[2])とも呼ばれる。ヒゲダコ亜目とも呼ばれることもある[8]

学名は研究者によりさまざまなものが用いられる。瀧 (1935)土屋 (2002)佐々木 (2010) では、Cirrata Grimpe, 1916 が用いられる。Strugnell et al. (2013) でも Cirrata の学名が用いられるが、階級は目に置かれる。Sanchez et al. (2018) でも目の階級に置かれ、Cirromorphida という学名が用いられる。Kröger et al. (2011) では Cirroctopoda Young1989 が用いられる。

形態

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体は寒天質で、触毛列や肉鰭を持ち、広い傘膜によって特徴づけられる[9][1][2]。腕の吸盤列(sucker row)は1列[6]

最大のものは全長4 m に達する[2]。一般に性的二形は小さく、交接腕も欠くが、一部の種では雄の吸盤が大きくなる[2]

触毛

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ヒゲナガダコ Cirrothauma murray の口側。腕に1本の吸盤列と、その左右に触毛列が並ぶ。

有触毛亜目の8本の腕には吸盤列が1列に並び、その両側に触毛(しょくもう、cirrus, pl. cirri)が生え、触毛列をなす[9][6][10]

触毛は長く伸びた、肉質で指状の突起である[10]。触毛で小さな獲物を操作したり、餌を口に運ぶために水流を生み出したりする[11]。触毛には化学受容器を持ち、光の届かない深海で餌を探すのに用いていると考えられている[11]

なお、ムカシダコ亜目 Palaeoctopoda に属する白亜紀の化石種ムカシダコ Palaeoctopus newboldii も触毛を持ち、吸盤列が1列である[6]。ほかの形質と合わせて、有触毛亜目と無触毛亜目の中間的形質をもつ祖先型と言われる[6]

肉鰭

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1対の肉鰭を持つジュウモンジダコ属 Grimpoteuthis の1種。

有触毛亜目には肉鰭(にくき、fin[12])があり、外套膜背側側方に1対具える[6][13]。肉鰭は単にとも呼ばれ[14]、俗に「ミミ(耳)」と呼ばれる[15]。肉鰭は筋肉からなり、水中で機動力を生み出す器官である[14]。これはイカにも見られるが、無触毛亜目のタコでは欠く[16]

肉鰭は支持軟骨(しじなんこつ、fin cartilage)により支えられる[17][13][1]スタイレット[18](棒状軟骨、stylet[19])とも呼ばれるが、この用語は無触毛亜目の持つ直線的なものに限定して用いることもある[20]。支持軟骨は軟骨質の内在性の貝殻(内殻)であるとされ[6]、「貝殻 shell」と言及されるが、軟骨を形成する組織はほかの軟体動物の貝殻を分泌する腺と相同ではないと考えられている[2]

ヒゲダコ科は鞍型の支持軟骨を持つ[2]。メンダコ科、GrimpoteuthidaeStauroteuthis では U字型の、Cirroctopus では V字型の支持軟骨を持つ[2]

傘膜

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各腕は傘膜(さんまく、web, interbrachial membrane, umbrella)と呼ばれる進展した皮膚によって連結される[21][22]

ヒゲダコ科の傘膜は明瞭な2層が区別でき[2]、一次的な傘膜(primary web)を連結する狭い膜である二次的な傘膜(secondary web)を持つ[23]。一方、Opisthoteuthoidea 上科では傘膜は1層で、二次膜を欠く[2]

内部形態

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全ての種で墨汁嚢を欠く[6][8][2]。また、腸の血洞を欠く[6]

輸卵管は、無触毛亜目のタコでは対になるのに対し[24]、有触毛亜目のタコでは単一で[25]、左側にのみ残存する[26][2][注釈 1]

生態

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いずれも深海棲で[1]、ヒゲダコ科のヒゲダコ属 CirrothaumaStauroteuthisCirroteuthis は深海遊泳性(abyssopelagic、または底棲遊泳性 benthopelagic[27])である[28]メンダコ属 Opisthoteuthis は漸深層底棲性(bathybenthic)であるように[28]、残りの属(Opisthoteuthoidea 上科)は底棲生である[27]

ヒゲダコ科は、内在性の貝殻に支えられた大きな鰭と薄い傘膜が発達するため主に鰭と傘膜を動かして泳ぐ[17]メンダコ属は、短い鰭と厚い傘膜を持ち、頑丈なによる移動を行う[17]ジュウモンジダコ属では、両者の中間的な形質を持ち、海底に生息するとともに鰭を使った遊泳を行う[17]。傘膜を翻して腕の口側を外に向け、外套膜を覆うような行動も知られている[29]

深海棲の有触毛亜目では天敵となる捕食者の記録は少ないが、これは食べられていないというわけではなく、顎板から種を見分けるのが難しいためであると考えられている[17]南アフリカで漁獲されたアカシュモクザメ Sphyrna lewini の胃内容物から、おそらくジュウモンジダコ属と思われる深海棲タコが記録されている[17]

浅海の底生のタコを多く含む無触毛亜目に比べると、捕食行動は少ない[30]。ジュウモンジダコ属では、Grimpoteuthis boylei の胃内容物から、多毛類カイアシ類端脚類等脚類などの甲殻類を捕食していることが分かっている[31]ヒゲダコ科は吸盤が退化し、歯舌や後唾腺も欠くため、微小物食性であると考えられている[32]

腎嚢にはニハイチュウ類が寄生しており、メンダコからはメンダコニハイチュウ Dicyemennea umbraculum Furuya2009 が見つかる[33]

ヒカリジュウモンジダコ Stauroteuthis syrtensis では、雌雄ともに吸盤に発光器photophore)を持つという報告がある[34][35][25]。刺激により、比較的明るい青緑色(最大波長 470 nm)の発光を行う[36][35]。光は1–2秒おきに点滅したり、5分間発光し続けることもある[35]。雌雄ともに発光するのはタコで唯一である[35]

系統関係

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Sanchez et al. (2018) による分子系統解析の結果、有触毛亜目は側系統群であることが示唆されていたが[37][注釈 2]Verhoeff (2023) では再び単系統性が支持されている[27]

Verhoeff (2023) による 16S rRNA遺伝子の配列に基づく分子系統樹を示す。

八腕形目
有触毛亜目
(上科)
ヒゲダコ科

ヒゲダコ属 Cirrothauma

Cirroteuthis

Stauroteuthis

Cirroteuthidae
Cirroteuthoidea
(上科)
(科)

Cirroctopus

Cirroctopodidae
メンダコ科

メンダコ属 Opisthoteuthis

Opisthoteuthidae
(科)

Cryptoteuthis

Luteuthis

ジュウモンジダコ属 Grimpoteuthis

Grimpoteuthididae
Opisthoteuthoidea
Cirrata

無触毛亜目 Incirrata

Octopoda

分類史

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これまで、有触毛亜目の属は研究者によって様々な異なる科に分類されてきた[27]

有触毛亜目の各属の歴史的な分類[27]
Nesis (1987) Voss (1988) O'Shea (1999) Piertney et al. (2003)
Collins & Villaneuva (2006)
Hochberg et al. (2016)
Vecchione et al. (2016)
Pardo-Gandarillas et al. (2021) Ziegler et al. (2021)
Verhoeff (2023)
Cirroteuthis Cirroteuthidae Cirroteuthidae Cirroteuthidae Cirroteuthidae Cirroteuthidae Cirroteuthidae Cirroteuthidae
Cirrothauma
Stauroteuthis[注釈 3] Stauroteuthidae N/A Stauroteuthidae
Grimpoteuthis[注釈 4] Opisthoteuthidae Grimpoteuthididae Grimpoteuthididae Opisthoteuthidae Opisthoteuthidae Grimpoteuthididae
Cryptoteuthis N/A N/A N/A
Luteuthis N/A N/A Luteuthididae
Opisthoteuthis[注釈 5] Opisthoteuthidae Opisthoteuthidae Opisthoteuthidae Opisthoteuthidae Opisthoteuthidae
Cirroctopus N/A N/A Cirroctopodidae Cirroctopodidae Cirroctopodidae Cirroctopodidae

下位分類

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Verhoeff (2023) による分類体系を示す。学名の著者は主に Hochberg et al. (2016) に基づく。

有触毛亜目 Cirrata Grimpe, 1916

人間との関わり

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サンシャイン水族館で飼育されていたメンダコ Opisthoteuthis depressaメンダコ属

有触毛亜目のタコの飼育例は少ないが、メンダコオオメンダコではごく短期間であるものの、水族館で飼育されることがある[51][52][53][54]

また、メンダコは人気が高く、衣服や日用品のデザインのほか、ぬいぐるみなど様々なグッズにも用いられる[55][56][57][58]オオメンダコは、2003年のディズニー映画『ファインディング・ニモ』のキャラクター「パール」のモデルとなっている[59][60]

脚注

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注釈

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  1. ^ 瀧 (1999) では右側のみとされるが[6]、誤り。
  2. ^ 以下、Sanchez et al. (2018) による分子系統樹を示す。
    八腕形目

    ヒゲダコ属 Cirrothauma

    ヒゲダコ科 Cirroteuthidae

    Cirroteuthis

    Stauroteuthidae

    Stauroteuthis

    Cirroctopodidae

    Cirroctopus

    メンダコ科

    Luteuthis

    ジュウモンジダコ属 Grimpoteuthis

    メンダコ属 Opisthoteuthis

    Opisthoteuthidae

    無触毛亜目 Incirrata

    Octopoda
  3. ^ Chunioteuthis を含む
  4. ^ Enigmatiteuthis を含む
  5. ^ Cirroteuthopsis を含む
  6. ^ かつては Stauroteuthidae Grimpe, 1916 と呼ばれる科を構成していたが、Verhoeff (2023) ではヒゲダコ科に内包される。また、瀧 (1999) ではこの種が「ジュウモンジダコ」と呼ばれた[6]。そのためこの科は和名ではジュウモンジダコ科と呼ばれたが[6][41][1]、ジュウモンジダコが Grimpoteuthis hippocrepium を指す和名となり[41]ジュウモンジダコ属Grimpoteuthis を指す[8]和名となったため、ジュウモンジダコ属やジュウモンジダコが所属しないにも拘わらずジュウモンジダコ科と呼ばれていた。
  7. ^ Sanchez et al. (2018) ではジュウモンジダコ属 GrimpoteuthisLuteuthis はメンダコ科に内包されるが、Piertney et al. (2003) では、ジュウモンジダコ属 GrimpoteuthisLuteuthisEnigmatiteuthis の3属が Grimpoteuthidae に含められた[47][48]EnigmatiteuthisGrimpoteuthis に内包される[27]
  8. ^ syn. Enigmatiteuthis innominata O'Shea, 1999[50]

出典

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  1. ^ a b c d e f g 佐々木 2010, p. 56.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l Hochberg et al. 2016, p. 244.
  3. ^ 瀧 1970, pp. 72–73.
  4. ^ a b 奥谷 1988, p. 254.
  5. ^ 瀧 1935, pp. 141–145.
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n 瀧 1999, p. 374.
  7. ^ 池田 2020, p. 16.
  8. ^ a b c d e EVE CONANT, NGM STAFF「あなたの知らないオクトパス: 並外れた能力」『ナショナル ジオグラフィック日本版』第30巻第5号、日経ナショナルジオグラフィック、2024年5月、16–23頁、ISSN 1340-8399 
  9. ^ a b c d e 窪寺 2013, p. 264.
  10. ^ a b AAVV 2016, p. 24.
  11. ^ a b モンゴメリー 2024, p. 180.
  12. ^ 瀧 1999, p. 331.
  13. ^ a b AAVV 2016, p. 25.
  14. ^ a b 池田 2020, p. 17.
  15. ^ 土屋 2002, p. 119.
  16. ^ 土屋 2002, p. 6.
  17. ^ a b c d e f Collins & Villaneuva 2006, p. 310.
  18. ^ 奥谷 2013, p. 2.
  19. ^ 瀧 1999, p. 336.
  20. ^ AAVV 2016, p. 31.
  21. ^ 瀧 1999, p. 334.
  22. ^ 瀧 1999, p. 366.
  23. ^ AAVV 2016, p. 30.
  24. ^ 佐々木 2010, p. 261.
  25. ^ a b AAVV 2016, p. 28.
  26. ^ 佐々木 2010, p. 262.
  27. ^ a b c d e f Verhoeff 2023, pp. 175–196.
  28. ^ a b 瀧 1999, p. 355.
  29. ^ Collins & Villaneuva 2006, p. 314.
  30. ^ Collins & Villaneuva 2006, p. 307.
  31. ^ Collins & Villaneuva 2006, p. 308.
  32. ^ 瀧 1999, p. 351.
  33. ^ 古屋 2020, pp. 3–12.
  34. ^ 奥谷 2013, p. 15.
  35. ^ a b c d e 大場 2015, p. 102.
  36. ^ Johnsen et al. 1999, pp. 113–114.
  37. ^ Sanchez et al. 2018: e4331
  38. ^ 窪寺 2017, p. 1143.
  39. ^ 佐々木 2010, p. 250.
  40. ^ a b c d e 土屋 2002, p. 135.
  41. ^ a b c 窪寺 2013, p. 269.
  42. ^ a b 窪寺 2013, p. 265.
  43. ^ a b c d e f 窪寺 2017, p. 1144.
  44. ^ 窪寺 2013, p. 268.
  45. ^ 窪寺 2013, p. 266.
  46. ^ 窪寺 2013, p. 267.
  47. ^ Collins & Villaneuva 2006, p. 293.
  48. ^ Piertney et al. 2003, pp. 348–353.
  49. ^ Ziegler & Sagorny 2021.
  50. ^ Hochberg et al. 2016, p. 262.
  51. ^ 沼津港深海水族館が”メンダコ”展示の世界記録更新中 カメラを向け続けると死ぬくらい繊細、記録更新の秘訣は?”. ねとらぼ (2016年7月1日). 2024年8月29日閲覧。
  52. ^ 株式会社サンシャインシティ (2022年3月15日). “サンシャイン水族館飼育「メンダコ」死亡のお知らせ 国内最長展示76日間”. PR TIMES. 2024年8月29日閲覧。
  53. ^ 世界初! メンダコが孵化する瞬間の撮影に成功!! 葛西”. 東京ズーネット (2020年8月20日). 2024年8月29日閲覧。
  54. ^ いわき市の水族館の「オオメンダコ」飼育が国内最長記録を更新”. 福島 NEWS WEB. NHK (2023年12月21日). 2024年8月29日閲覧。
  55. ^ 人気No.1深海生物『メンダコ』ってどんないきもの?”. いきふぉめーしょん. サンシャイン水族館. 2024年9月17日閲覧。
  56. ^ メンダコ”. グラニフ公式オンラインストア. 2024年9月17日閲覧。
  57. ^ メンダコ ぬいぐるみ M”. サンシャイン水族館. 2024年9月17日閲覧。
  58. ^ メンダコグッズ”. 幼魚水族館. 2024年9月17日閲覧。
  59. ^ カレッジ 2014, p. 70.
  60. ^ パール”. ディズニーキッズ. 2024年8月27日閲覧。

参考文献

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