非常勤
非常勤(ひじょうきん)、パートタイム(英:part-time)は、勤務形態に関する用語で、労働契約における労働時間が、フルタイム勤務者よりも短い被用者を指す。短時間労働者(たんじかんろうどうしゃ)・短時間勤務職員(たんじかんきんむしょくいん)とも言い、1週間の所定労働時間が、同一の事業所に雇用される通常の労働者(常勤、フルタイム)の1週間の所定労働時間と比較して短い労働者である[2]。
補助的な作業が多く、アルバイト、有期雇用のような人もいれば、弁護士、会計士などの専門知識を持つ人も含まれることもある。常勤と比較するために使われるため、看護師、警備員など変形労働時間制が敷かれる場合には、非常勤とは呼ばれない。
労働者がフルタイムで労働可能であり、フルタイム雇用を望んでいるがパートタイム雇用しか得られない状況を不本意なパートタイム労働(Involuntary part-time)といい、不完全雇用のひとつである[3]。
産業による呼称
[編集]- 国や地方公共団体では、非常勤職員ということが多い。令和2年度からは非常勤同様の勤務形態として会計年度任用職員という区分が設けられた。
- 学校教育においては、正採用ではない教員のうち、教諭に準ずる業務を行う「常勤講師」に対して、時間が短いないしは、限定したコマ数のみを担当するものを「非常勤講師」として区別する。
- 日本の一般企業では、主婦(主夫)を本務とする者がその傍らに労働をする場合に「パートタイマー」の語を用いる例が多い。語義としては矛盾を含むが非常勤でありながらフルタイムの勤務をする「フルタイムパート」という働き方を導入している企業も少なくない。
国際労働機関条約
[編集]国際労働機関(ILO)175号条約においては、パートタイマーを労働時間がフルタイマーのそれよりも短い被用者と定義している。同条約はパートタイマーに対し、団結権、同一労働同一賃金、社会保障などを付与することを求めている。
- 第四条
- 次の事項に関し、パートタイム労働者が比較可能なフルタイム労働者に対し与える保護と同一の保護を受けることを確保する措置をとる。
- (a) 団結権、団体交渉権及び労働者代表として行動する権利
- (b) 職業上の安全及び健康
- (c) 雇用及び職業における差別
- 第五条
- パートタイム労働者が、パートタイムで働いているという理由のみによって、時間、生産量又は出来高に比例して計算される基本賃金であって、同一の方法により計算される比較可能なフルタイム労働者の基本賃金よりも低いものを受領することがないことを確保するため、国内法及び国内慣行に適合する措置をとる。
- 第六条
- 職業活動を基礎とする法定の社会保障制度は、パートタイム労働者が比較可能なフルタイム労働者と同等の条件を享受するよう調整される。この条件は、労働時間、拠出金若しくは勤労所得に比例して、又は国内法及び国内慣行に適合する他の方法により決定することができる。
欧州連合
[編集]欧州連合のパートタイム労働指令においては、第4項1において同一労働同一賃金の義務を定めている。
Clause.4.1. In respect of employment conditions, part-time workers shall not be treated in a less favourable manner than comparable full-time workers solely because they work part time unless different treatment is justified on objective grounds.
雇用条件に関しては、パートタイム労働者は、客観的な理由により異なる待遇が正当化されない限り、パートタイム労働者であるという理由のみで、同等のフルタイム労働者よりも不利な待遇を受けてはならない。
— Part-time Work Directive , 97/81/EC
オランダ
[編集]オランダはOECDで最もパートタイム比率が高く、労働者の3人に1人がパートタイム労働者である[1]。法的に同一労働同一賃金が義務づけられ、同一賃金のまま労働時間を延長、もしくは短縮する権利が保証された結果、フルタイムとパートタイムを自由に切り替えることができるようになった[4]。
日本の状況
[編集]日本では1957年(昭和32年)、大丸デパート八重洲口店が「パートタイム」を募集して一般化していった[6]。 1980年代以降、女性の雇用進出が進み、同時に雇用者に占めるパートタイマー比率が右上がりで増加している[1]。1991年には7人に一人、2009年には5人に一人、2020年には4人に1人がパートタイマーとなった[1]。
被用者保険(社会保険)
[編集]労働者災害補償保険は、すべての労働者に適用される。
健康保険および厚生年金
[編集]常勤者が健康保険および厚生年金に加入できる場合、以下の条件を満たす場合は非常勤者も加入する義務が生じる。
- 1週間の所定労働時間が、同一の事業所で働いている通常の労働者の所定労働時間の4分の3以上であること。
- 1ヶ月の所定労働日数が、同一の事業所で働いている通常の労働者の所定労働日数の4分の3以上であること。
なお複数の事業所でともに健康保険適用となる場合、保険料の計算に用いる標準報酬は、複数の事業所において合算して計算される[7]。
例外条項もあるため、詳しくは以下を参照のこと。
雇用保険
[編集]1週間の所定労働時間が20時間未満である者は、雇用保険の対象外である(雇用保険法第6条)。
短時間正社員
[編集]短時間正社員とは、以下の条件を満たすパートタイマーのこと[8][9]。
- 期間の定めのない労働契約である。
- 時給、および賞与・退職金等の算定方法等が同種のフルタイム正社員と同等。かつ、就労実態も当該諸規程に則したものとなっている。
- 以上2点をふまえた記載が、労働契約、就業規則、給与規程等において、短時間正社員に係る規定がある。
この条件を満たすパートタイマーは、健康保険および厚生年金において被保険者の資格を得る。
フルタイムへの転換
[編集]2015年(平成27年)4月からは法改定により、フルタイムへの転換オプションを提供することが求められている。
(通常の労働者への転換) 第十三条 事業主は、通常の労働者への転換を推進するため、その雇用する短時間労働者について、次の各号のいずれかの措置を講じなければならない。
一 通常の労働者の募集を行う場合において、当該募集に係る事業所に掲示すること等により、その者が従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の当該募集に係る事項を当該事業所において雇用する短時間労働者に周知すること。
二 通常の労働者の配置を新たに行う場合において、当該配置の希望を申し出る機会を当該配置に係る事業所において雇用する短時間労働者に対して与えること。
三 一定の資格を有する短時間労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を設けることその他の通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずること。 — 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
同一労働同一賃金の推進
[編集]働き方改革関連法成立により、事業主は常勤雇用者と待遇の相違があるときは、その理由を労働者より求められた場合は説明する義務が課せられた。
第14条2 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに第六条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。
3 事業主は、短時間・有期雇用労働者が前項の求めをしたことを理由として、当該短時間・有期雇用労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない
— 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
就業調整
[編集]就業調整とは、パートタイマーが年収の壁を超えないように労働時間を調整することであり、計画的に事前に勤務日数・勤務時間を選んでいることもあれば、計画性を各場合には年末に欠勤することで実現している場合もある[10]。1990年の労働力調査では、女性パートの3割で、100万円を超えると思われる場合は就業調整を行っていた[10]。
脚注
[編集]- ^ a b c d OECD Employment Outlook 2021, OECD, (2021-07), doi:10.1787/5a700c4b-en
- ^ 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 第2条
- ^ 脇坂 明「パートタイマーの類型化(I)」『岡山大学経済学会雑誌』第27巻第2号、1995年、31-60頁、NAID 120002709372。
- ^ 権丈 英子「オランダの労働市場 (特集 この国の労働市場)」『日本労働研究雑誌』第60巻第4号、労働政策研究・研修機構、2018年4月、48-60頁、NAID 40021529444。
- ^ 総務省労働力調査
- ^ 世相風俗観察会『現代世相風俗史年表:1945-2008』河出書房新社、2009年3月、82頁。ISBN 9784309225043。
- ^ 健康保険法第3条
- ^ 『短時間正社員制度 導入支援マニュアル』厚生労働省、2016年3月 。
- ^ 保保発第0630001号-短時間正社員に係る健康保険の適用について (地方厚生(支)局長あて厚生労働省保険局保険課長通知), 厚生労働省, (2009-06-30)
- ^ a b 脇坂 明「パートタイマーの類型化(III)」『岡山大学経済学会雑誌』第27巻第4号、1996年、135-156頁、NAID 110000129807。