コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

ドローン・メタル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ドローン・メタル
様式的起源 ドローン・ミュージック
ドゥームメタル
実験音楽
文化的起源 1990年代初期
シアトル
関連項目
アヴァンギャルドメタル
ポストメタル
テンプレートを表示

ドローン・メタル (Drone Metal)は、ヘヴィメタルのサブジャンルの一つ。

概要

[編集]

ドゥームメタルのゆっくりとしたテンポとヘヴィネスなどの特徴と、ドローン・ミュージックの長時間保続される音(ドローン) などの特徴を組み合わせた音楽ジャンル[1][2]ドローン・ドゥーム[3]パワー・アンビエント[4]などと呼ばれることもあり、ポストメタル[5]エクスペリメンタル・メタル[6]と関連付けられることもある。

特徴

[編集]

ヴォーカルが入る場合は、グロウルヴォイスのことが多い。大抵、ギターリバーブを大量にかけたり、フィードバックを鳴らしながら演奏される[1]。また、ビートやリズムに欠けたものが多く、非常に長い曲構成となっているのが基本である。小説家John Wrayニューヨーク・タイムズの紙面で、「ドローン・メタルのライヴを見るのは、地震が起きている真っ只中でインドラーガを聞くようなものだ」と例えている[1]。また、Wrayは「(ドローン・メタルよりも)重くて、ついでに言えば、遅い音楽を想像するのは難しい」とも述べている[1]

Sunn O))) というドローン・メタルのパイオニアは、音響彫刻英語版との親和性を持っている[1]。Jan Tumlirは彼らの音楽性について、「ブラウニアンノイズと呼ばれる、サブ・ベース英語版の持続的な低周波数の轟音」といった表現をしている[2]。Sunn O)))のメンバーであるグレッグ・アンダーソンは、この轟音は観客をリラックスさせることを意図したものだといい、「低周波音をある一定以上のヴォリュームで演奏すると、聴衆を瞑想状態やトランス状態へと誘うことができるんだと思う」と述べている[1]。また、アンダーソン自身も演者として、ドローンメタルをただ耳で聴くのではなく、己の肉体全部で感じているという[1]

歴史

[編集]

1990年代

[編集]
ライヴをするSunn O)))。2006年、The Middle Eastにて。

ドローン・メタルは、1990年に結成されたシアトルのメタルバンドアースによって確立されたといえるが[7]、当時から「ミニマリスト・ポスト・グランジ」の名でも呼称されてきた[1]。アースはメルヴィンズのようなスラッジ・メタルと、ラ・モンテ・ヤングのようなミニマル・ミュージックから主なインスピレーションを得ていた。5年後に同じくシアトルで結成されたスティーヴン・オマリー英語版のバンドバーニング・ウィッチ英語版も、これと同じスタイルを取り、そこに一風変わったヴォーカルやフィードバックの要素を取り入れている。オマリーの後続グループ、Sunn O)))はもともとアースへのトリビュートバンドとして組まれたものだったが[1][2]、このジャンルの今日におけるスタイルを確立したバンドとなった。ゴッドフレッシュも多くのバンドに影響を与えている。東京都出身のBORIS[1][8]も、大阪府出身のCorrupted同様、シアトルのバンドと同時期にドローンメタルのスタイルを発展させた。

2000年代

[編集]

ナジャ英語版(トロント)、イェスー(イギリス)、ブラック・ボーンド・エンジェル英語版(ウェリントン)、カネイト英語版 (ニューヨーク)、Ocean(ポートランド)、Growing[9](ニューヨーク)、KTL(ワシントン/ロンドン)、Ascend[10]Eagle Twin(アメリカ合衆国)[11]Teeth of Lions Rule the Divine(ノッティンガム)、Conan(リヴァプール)、Moss(サウスハンプトン)らは、21世紀初頭に結成された傑出したドローンメタルバンドである。Kevin DrummOren Ambarchiのようなノイズミュージシャンもこのスタイルで活動していた[12]。また、Rhys Chatham’s EssentialistはRhys Chathamという一人の年配の作曲家によるドローンメタルへの貢献だと見ることができる[6]。彼のプロジェクトは、「ヘヴィメタルを基本的なコード進行にまで分解し、ヘヴィメタルのアプリオリな本質に到達しようとする」試みだといえる[13]

他ジャンルの芸術作品との関係

[編集]

Sunn O)))のスティーヴン・オマリー英語版は、アーティストバンクス・ヴァイオレット英語版[† 1]インスタレーション作品とコラボレーションを行っている[† 2][1]。Tumlirはロバート・ラウシェンバーグをこうした試みの先例としてあげている[2][† 3]。しかし、ヴァイオレットは、ドローン・メタルは「音響的な現象であると同時に、生理学的な現象」でもあると指摘し、音楽としてただ美的に経験するものではなく、身体的に経験するものにまでなっているという[1]。そして、これはインスタレーション作品が美的にただ観賞するものではなく、その空間で身体的に経験する芸術作品であることと同じ問題意識になっていると主張する[1]。オマリーはまた、コーマック・マッカーシーリチャード・セラを高く評価している[3]

Rhys Chathamが主導する5人組プロジェクトRhys Chatham's Essentialistは、ロバート・ロンゴによる映像作品をバックにライヴを行っている[6]ジム・ジャームッシュの2009年の映画『リミッツ・オブ・コントロール』では、ドローンメタルバンドの音楽が数多く使用されている[15]。ジャームッシュは、「私はドローンメタルが作り出すような視覚風景が大好きなんです。映画を作るのにいい刺激を与えてくれるんですよね・・・、作品を作ってる時は、私がどんな世界を想像するにしてもインスピレーションを与えてくれるような音楽を聴くことにしてるので。BORISSunn O)))アースの音楽は、私の頭の中にある情景を見つけるのに本当に役立ちましたね[16]。」と述べている。

関連項目

[編集]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 彼は、ドローン・メタルをドナルド・ジャッドの箱型の連作に匹敵する芸術表現であると考えている。
  2. ^ 『Bleed』と名付けられたこの作品は、現在グッゲンハイム美術館に所蔵されている[1]ロバート・スミッソンが60年代に発表したガラス板を粉々に砕いた作品を連想させるような外観で、スピーカーから低周波音が大音量で流されている。
  3. ^ ラウシェンバーグはアメリカの音楽家ジョン・ケージとコラボレーションを行っている[14]

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n John Wray, "Heady Metal", New York Times, May 28, 2006. [1] Access date: August 18, 2008.
  2. ^ a b c d Jan Tumlir, "Primal dirge", Artforum, April 2006. [2] Access date: August 22, 2008.
  3. ^ a b Brandon Stosuy, "Heavy Metal: It's Alive and Flourishing", Slate, August 19, 2005. [3] Access date: August 22, 2008.
  4. ^ William York, Allmusic, Sunn O))) Biography. [4] Access date: August 23, 2008.
  5. ^ Jon Caramanica, "The Alchemy of Art World Heavy Metal". International Herald Tribune, September 20, 2005. [5] Access date: August 25, 2008.
  6. ^ a b c Steve Smith, "Where Classic Avant-Garde Gets a Hint of Heavy Metal", New York Times, September 13, 2006. [6] Access date: August 28, 2008.
  7. ^ Jason Jackowiak, Splendid, September 14, 2005. アーカイブされたコピー”. 2008年9月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年9月15日閲覧。 Access date: August 23, 2008.
  8. ^ Oliver Spall, "Sunn O))) and Boris present Altar", Flavorpill, December 10, 2007. アーカイブされたコピー”. 2008年12月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年8月22日閲覧。 Access date: August 22, 2008.
  9. ^ James Parker, The Boston Phoenix, June 15, 2006. アーカイブされたコピー”. 2008年12月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年8月22日閲覧。 Access date: August 22, 2008
  10. ^ Ample Fire Within review, "Soundcheck", The Wire, July 2008, p. 45.
  11. ^ Kim Kelly, "Choice Cuts", Terrorizer #189, October 2009, p. 22.
  12. ^ Joe Panzner, Sheer Hellish Miasma review, Stylus, September 1, 2003. アーカイブされたコピー”. 2008年8月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年8月23日閲覧。 Access date: August 23, 2008.
  13. ^ ,:.ELU OF THE NINE- Maurerische Trauermusik coming 2010.:
  14. ^ 《無題イヴェント》ジョン・ケージ”. artscape. 2016年12月16日閲覧。
  15. ^ Pitchfork news, March 11, 2009. [7] Access date: March 21, 2009.
  16. ^ Jim Jarmusch and Alan Licht, "Invisible Jukebox", The Wire 309, November 2009, p. 23.