ターンパイク理論
ターンパイク理論(ターンパイクりろん)は、 主に資本蓄積の最適な(蓄積の初期水準と最終水準に応じた)経路に関する一連の経済理論を指す。たとえば、マクロ経済学における外生的成長モデルの文脈では、無限期間の最適経路(斉一成長経路 the balanced growth path)が先ず計算される。経済計画者がある経済の資本ストックをある水準から別の水準に移行させたいとする場合、計画者が十分な時間を持っている限り、最も効率的な経路は資本ストックの水準を迅速にこの最適経路に近づけ、その経路に沿って資本ストックを発展させ、ほぼ希望する期間の終わりに近づくまでその経路に沿うことである。最終期間の近傍に至った段階で,計画者は最適経路を離れ,資本ストックを希望する最終水準に移すのである。この理論の名前は、ターンパイク(高速道路)が、たとえ最も直接的なルートではないとしても、遠く離れた2点間の最速のルートであるという考えに由来する。
由来・展開
[編集]この理論の考え方は1945年のJohn von Neumann の論文[1]に遡る[注釈 1]。Lionel W. Mckenzie[2] に依れば,この用語(高速道路を指すアメリカ英語単語)は Robert Dorfman, Paul Samuelson, and Robert Solow's の著作[3]に由来する。
この理論を理解するにはあるていどの数学知識が必要である。 しかし,この理論で大きな国際的に貢献をした筑井甚吉による以下の解説は,その直観的理解に役立つであろう
自動車で家族旅行をする場合を考えてみよう。一応,東京を出て西に向かうとしても,家族の構成員の中には京都に行きたいひともいるであろうし,奈良に行きたい人もおり,また,神戸へ行くことを主張する者もいるであろう。(途中省略) しかしながら,とりあえず東名高速道路(ターンパイク)にのって走るということには家族の全構成員が合意するであろう。経済問題においても,将来の目標に関しては人々の考え方はまちまちで,なかなか合意は実現しない。しかしながら,どのような目標を選ぶにしてもそこへ到着する効率的な経路は,すべて一旦はターンパイクに接近し,それに沿って進むということであるならば,経済をターンパイクにのせるという目標にはすべての人々が合意せざるを得ないであろう。
ターンパイク・モデルは,このような合意形成を目指して経済を効率的にターンパイクへのせることをプログラムする,いわば合意可能なプラン(agreeable plan)を生むモデルと言うことが出来る。 — 筑井甚吉、[4], p. 60.
1960年代以降,この定理は,様々な前提条件の下での展開・一般化が行われている[5][6][7][8][9][10][11][12][13]
応用
[編集]この定理は最適制御や一般均衡の文脈で多くの応用がある。一般均衡理論では無限の資本蓄積の経路を含む変動に応用できる。将来における同じ(小さな)割引率(英: discount rate)をもった複数の無限に生存する経済主体(エージェント)を有する系において、初期の賦与に関係なく、全部の主体(エージェント)の均衡配置が収束することが示される。[14][15]
ターンパイク定理に関する研究は主に理論研究に留まっている。 その特筆すべき例外が,筑井甚吉の研究である。 筑井は理論的研究でも大きな貢献[16]をしているが,世界初の試みとして,日本の産業連関データを用いて定理を実証的に実装した[17][18]。 その結果得られたモデル(ターンパイクモデル)は,日本政府によって計画立案の定量的方法と使用された[19] [注釈 2]。
注釈
[編集]- ^ それは更に1937年にドイツ語で発表された論文に遡る John von Neumann, Über ein ökonomisches Gleichungssystem und eine Verallgemeinerung des Brouwerschen Fixpunktsatzes, Ergebnisse eines Mathematischen Kolloquiums. H. 8. 1935/36. Leipzig 1937
- ^ 筑井に依れば[20]『「2000年の日本」[21]等の政府の長期見通し作業にも使われているターンパイク・モデルは,その基礎理論からモデルの構築と経済企画庁を中心とした実用化研究に至るまで,我が国で開発された数少ない国産の経済分析手法である』.
脚注または引用文献
[編集]- ^ Neumann, J. V. (1945). “A Model of General Economic Equilibrium”. The Review of Economic Studies 13 (1): 1. doi:10.2307/2296111. ISSN 0034-6527 .
- ^ McKenzie, Lionel W. (1963-10). “The Turnpike Theorem of Morishima”. The Review of Economic Studies 30 (3): 169. doi:10.2307/2296317. ISSN 0034-6527 .
- ^ Dorfman; Samuelson; Solow (1958). "Efficient Programs of Capital Accumulation". Linear Programming and Economic Analysis. New York: McGraw Hill. p. 331.
- ^ 筑井甚吉. "長期経済見通しのためのターンパイク・モデル." 産業連関 2.1 (1991): 58-64.
- ^ McKenzie, Lionel W. (October 1963). “The Turnpike Theorem of Morishima”. The Review of Economic Studies 30 (3): 169. doi:10.2307/2296317. ISSN 0034-6527 .
- ^ Morishima, M. (February 1961). “Proof of a Turnpike Theorem: The "No Joint Production" Case”. The Review of Economic Studies 28 (2): 89. doi:10.2307/2295706. ISSN 0034-6527 .
- ^ Nikaidô, Hukukane (1964). “Persistence of Continual Growth Near the von Neumann Ray: A Strong Version of the Radner Turnpike Theorem”. Econometrica 32 (1/2): 151–162. doi:10.2307/1913740. ISSN 0012-9682 .
- ^ Atsumi, Hiroshi (April 1965). “Neoclassical Growth and the Efficient Program of Capital Accumulation”. The Review of Economic Studies 32 (2): 127. doi:10.2307/2296057 .
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- ^ Tsukui, Jinkichi, and Yasusuke Murakami. Turnpike optimality in input-output systems: Theory and application for planning. Vol. 122. North-Holland, 1979.
- ^ 筑井甚吉、村上泰亮、時子山和彦、時子山ひろみ、高島忠、西藤冲、日水俊夫、小林良邦、近藤誠『ターンパイク・モデル(多部門最適化モデル)』東京経済研究センター〈経済企画庁経済研究所研究シリーズ 第28号〉、1973年3月。
- ^ 筑井甚吉. "長期経済見通しのためのターンパイク・モデル." 産業連関 2.1 (1991): 58-64.
- ^ 経済企画庁総合計画局編『図説2000年の日本: 日本経済21世紀への挑戦 』1982, 日経BPM(日本経済新聞出版本部)
参考文献
[編集]- Bewley, Truman (1982). “An Integration of Equiliblium Theory and Turnpike Theory”. Journal of Mathematical Economics 10 (2-3): 233-267. doi:10.1016/0304-4068(82)90039-8.
- Neumann, J. V. (1945-46). “A Model of General Economic Equilibrium”. Review of Economic Studies 13: 1-9. JSTOR 2296111.
- Yano, Makoto (1984). “The Turnpike of Dynamic General Equilibrium Path in Its Insensirivity to Initial Conditions”. Journal of Mathematical Economics 13 (3): 235-254. doi:10.1016/0304-4068(84)90032-6.