コンテンツにスキップ

ソウルの春 (映画)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ソウルの春
서울의 봄
監督 キム・ソンス
脚本 ホン・ウォンチャン
イ・ヨンジュン
キム・ソンス
ホン・インピョ
製作 キム・ウォングク
出演者 ファン・ジョンミン
チョン・ウソン
音楽 イ・ジェジン
撮影 イ・モゲ
編集 キム・サンボン
製作会社 Hive Media Corp
配給 クロックワークス
公開 大韓民国の旗 2023年11月22日
日本の旗 2024年8月23日
上映時間 142分
製作国 大韓民国の旗 韓国
言語 韓国語
テンプレートを表示

ソウルの春』(ソウルのはる、原題:서울의 봄)は2023年韓国映画

概要

[編集]

1979年12月12日韓国ソウルで発生した粛軍クーデター(12.12 軍事反乱)を題材としており、反乱軍と鎮圧軍の9時間の攻防を一部フィクションを交えながら描いている。

題名の『ソウルの春』とは朴正煕暗殺事件以降に韓国で一時的に勃興した民主化ムードを指す言葉だが、本作では『ソウルの春』自体は端的に触れられるだけであり、むしろそれが頓挫する要因となった粛軍クーデターを主軸に描いている。

あらすじ

[編集]

1979年10月26日夜、大韓民国首都ソウル韓国陸軍陸軍本部B2バンカーに臨時で集められた陸軍の将官たちはそこで、国務総理のチェ・ハンギュより、パク・チョンヒ大統領暗殺されたことを告げられる。すぐさま緊急国務会議が開催され、陸軍参謀総長のチョン・サンホ大将を戒厳司令官とする非常戒厳令発動が決定し、チョン総長は戒厳法に基づき、国軍保安司令官のチョン・ドゥグァン少将を暗殺事件の合同捜査本部長に任命した。

長らく韓国に絶対権力者として君臨したパク大統領の死により、「ソウルの春」という民主化ムードが勃興し始める中、軍内部ではチョン総長とドゥグァン保安司令官の対立が表面化し始める。権力欲が強いドゥグァン保安司令官は軍内で無視できない勢力を有する秘密組織「ハナ会」のリーダーでもあり、保安司令部や合同捜査本部の権限を活用して権勢を思うままに振るっていた。それを快く思わないチョン総長は、高潔な軍人として知られる陸軍本部人事参謀部次長のイ・テシン少将に、軍内要職の一つである首都警備司令官への就任を要請する。政治的対立に巻き込まれるのを嫌うイ少将は当初これを断ったが、その高潔さや軍本来の任務に忠実であることを見込んだチョン総長の度重なる要請に遂に応じ、首都警備司令官に就任する。

チョン総長とドゥグァン保安司令官の対立はますます深まり、チョン総長はドゥグァン保安司令官を年度初めの軍内部の人事で更迭し、合わせてハナ会を粛清しようと試みる。その動きをハナ会を通じて掴んだドゥグァン保安司令官は、先手を打ってチョン総長を排除し、軍の実権を掌握することを決意。まずハナ会ナンバー2で自身の盟友でもある第9歩兵師団長のノ・テゴン少将を仲間に引き入れると、次いでハナ会メンバーやハナ会の後援者たちも仲間に加え、クーデター計画を企て始めた。

そして12月12日。ドゥグァン保安司令官を始めとしたハナ会メンバーやその後援者は、ハナ会メンバーの一人であるチャン・ミンギ大佐が団長を務める首都警備司令部第30警備団に司令部を置いてクーデターを決行し、チョン総長をパク大統領暗殺事件への関与容疑を理由に逮捕して保安司令部に連行する。それと並行する形でドゥグァン保安司令官は大統領に就任したチェ国務総理からチョン総長逮捕同意書の決裁を取ろうと試みるが、チェ大統領はオ・グクサン国防部長官の決裁が必要であるとしてこれを退けた。そして肝心のオ長官は、チョン総長逮捕時に発生した銃撃戦に慌てて何処かに姿を消し、行方知れずになっていた。

ドゥグァン保安司令官はクーデターの障害になるイ少将の他、陸軍憲兵監のキム・ジュニョプ准将特殊戦司令官のコン・スヒョク少将を同じ時間に宴席に招く形で遠ざけることを図ったが、宴席にドゥグァン保安司令官が現れないことをイ少将は不審に思う。その後、ドゥグァン保安司令官などの反乱の報を受けたイ少将は、キム准将やコン少将ともに反乱鎮圧に向けて動くが、指揮権を掌握した陸軍参謀次長のミン・ソンベ中将を始めとした陸軍本部の面々は強硬鎮圧に消極的な態度を取っていた。それでも3人は各々の方法で反乱鎮圧に向けて最善を尽くし始める。

反乱側はソウル近郊の部隊に動員命令をかけて陸軍本部などの要所の確保に動き出した。イ少将はそれらの部隊が漢江を渡らなければソウル中心部に入れないことを察知して、ソウル市にかかる2本の橋を封鎖した。しかしソウル市外にあるもう一つの橋は首都警備隊の指揮範囲外だった。イ少将は出動部隊の指揮官の説得や現場を守る部隊への協力を求め、いったん撤退させることに成功する。さらに、イ少将はハナ会の影響のない部隊に出動を依頼して、反乱の鎮圧を図る。一方ドゥグァンはオ長官に会うために陸軍本部に向かった。イ少将は陸軍本部の警備部隊に、ドゥグァンの逮捕を指示し、陸軍本部内でドゥグァンが乗った自動車を抑止させた。しかし、反乱側はその情報部隊を使って陸軍内部の通信回線を盗聴して鎮圧の動きを察知していた。反乱側は息のかかった者を通じて、陸軍本部の警備部隊に逮捕ではなく「待機」させろと命じ、その隙を見てドゥグァンらは脱出してしまう。

反乱側は軍内部の人脈を通じて自分たちが実権を握っていると電話をかけ、中立的な立場の部隊の抑止にかかった。いったんは撤退した反乱側の動員部隊も、再びソウル中心部に進むこととなる。イ少将が協力を依頼した部隊の方がソウル中心部には先に到達するはずだったが、ドゥグァンは電話でミン中将に「双方が部隊を撤収する」ことを提案し、ミン中将はそれに同意してしまう。反乱側は部隊を引き上げると見せかけて再び進軍させ、ついにソウル中心部に入った反乱側は陸軍本部を制圧した。ミン中将は、ジュニプ准将の反対を押し切って陸軍首脳部を首都警備隊の基地に移動させた。反乱側は特殊戦司令部も襲撃し、コン少将は銃撃戦の末、負傷して拘束された。イ少将が協力を要請した部隊も動員を翻意し、追い込まれたイ少将は手持ちの100人ほどの部隊と数台の戦車、そしてソウルを狙える郊外にいる野戦砲部隊だけを使って、実力でのドゥグァンらの逮捕に向かった。非常線の張られた陸軍本部前でイ少将は反乱側と対峙する。

キャスト

[編集]

【】内はモデルとなった人物

スタッフ

[編集]
  • 監督:キム・ソンス
  • 脚本:ホン・ウォンチャン、イ・ヨンジュン、キム・ソンス、ホン・インピョ
  • 製作:キム・ウォングク
  • 撮影:イ・モゲ
  • 音楽:イ・ジェジン
  • 編集:キム・サンボン
  • 照明:イ・ソンファン

製作

[編集]

チョン・ドゥグァンを演じたファン・ジョンミンは、演じる際のかつらは試行錯誤を繰り返し、メイクには毎回3 - 4時間をかけたという[3]。ファンは日本の読売新聞からの書面インタビューにおいて、先行作品であるテレビドラマ『第5共和国』への意識の有無については「実在の人物について言及することは控えている」という理由で回答しなかったが[3]、2023年12月に光州市でおこなわれた舞台挨拶の際には、観客の上げた「43年待った」というプラカードを見て感情がこみ上げ、涙を流す場面があった[4]

反響

[編集]

これまで映画の題材として取り上げられなかった粛軍クーデターを描いた本作は、韓国内で1300万人以上という2023年公開の映画で最高の動員を記録した[5]

脚注

[編集]
  1. ^ 演じたヨン・ドンホンは本作撮影後の2022年12月に病気のため死去し、本作が遺作となった。そのため、本作のスタッフロールでは彼を追悼する一文が加えられている。
  2. ^ a b 本作における特殊戦司令部麾下の空挺旅団(空輸特戦旅団)は、いずれも史実のように「奇数の部隊番号」ではなく「偶数の部隊番号」が付与された架空の部隊名となっている。第2空挺旅団はクーデター当時朴熙道が旅団長だった第1空輸特戦旅団が、第4空挺旅団は同じようにクーデター当時崔世昌が旅団長だった第3空輸特戦旅団がそれぞれモデルとなった。
  3. ^ a b “映画「ソウルの春」で圧倒的な悪役演技のファン・ジョンミン、心がけたのは「偶像化されない演じ方」…書面インタビュー”. 読売新聞. (2024年8月21日). https://www.yomiuri.co.jp/culture/cinema/20240820-OYT1T50075/ 2024年8月31日閲覧。 
  4. ^ “映画『ソウルの春』で“チョン・ドゥグァン”を演じた俳優ファン・ジョンミン、光州の劇場で涙”. KBSワールド. (2023年12月20日). https://www.kbsworld.ne.jp/entertainment/view?blcSn=65556&rowNum=1 2024年8月31日閲覧。 
  5. ^ 崔盛旭 (2024年8月29日). “映画「ソウルの春」が描く韓国現代史の暗部 民主化を阻んだ軍事クーデター、一夜の攻防”. 朝日新聞Globe+. https://globe.asahi.com/article/15401721 2024年8月31日閲覧。 

外部リンク

[編集]