スタインウェイ・バーティグランド
スタインウェイ・バーティグランドの1907年の広告からのスケッチ | |
別名 |
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発明者 | ヘンリー・ジーグラー |
開発時期 | 1903 |
関連楽器 | |
主なメーカー | |
モデルK(Model K)またはバーティグランド(Vertegrand[1])は、スタインウェイ・アンド・サンズによって1903年に発表されたアップライトピアノである。バーティグランドは、現在大量生産されている最も古い実質的に変化がないアップライトピアノの設計である。生産は1939年頃から1982年に再登場するまで中断したものの、構造設計は1世紀以上もの間、実質的に変化がないままである[2] [3]。
有名なバーティグランドには、イギリスのピアニストであるミセス・ミルズに因んで名付けられたビンテージの1905年製ピアノがある。このピアノは50年以上の間アビー・ロード・スタジオで使用され続けている[4]。その特徴的な調子外れのホンキートンクサウンドは、ビートルズによるいくつかの録音を含む非常に多くのアビーロード録音に登場している[5]。
生産の歴史
[編集]モデルK(1903年–1943年)
[編集]モデルKとも呼ばれるスタインウェイ・バーティグランドはスタインウェイの製作責任者ヘンリー・ジーグラー(Henry Ziegler)によって設計され[2]、1903年に500米ドル(2023年時点の$16,956と同等)[6]の価格で発表された[7]。鋳鉄フレームの最上部に表示された「バーティグランド」という名称は、スタインウェイのその当時の品ぞろえと比較したこの楽器の大きさを反映している。52インチ(132 cm)という高さは、1894年に発表された高さ54.3インチ(138 cm)の「アップライト(直立)グランド」(ニューヨークではモデルI、ハンブルクではモデルR)よりも小さかったが、49インチ(125 cm)モデル(後にモデルVとなった)よりも大きかった[8]。
『ニューヨーク・トリビューン』誌に掲載された1910年の広告は、このピアノを「20世紀の科学研究と音楽面での成長の具現化」と形容した[3]。グスタフ・マーラーは、彼が「全ての面において音楽家の要求を満たすアップライトピアノを作ることができるとは想像したこともなかった」と述べた[9]。
アメリカのモデルKは1930年に大恐慌の結果として製造が中止されたが、ハンブルク工場はこのモデルの生産を続けた。1930年代までには「バーティグランド」という用語はハンブルク製ピアノの鉄骨の鋳造から消え、手塗りのコメント「Erzeugnis der Steinway-Werke Hamburg-Altona(ハンブルク=アルトナ・スタインウェイ工場の製品、の意味)」に置き換わった。ハンブルクにおける生産は、ハンブルク・スタインウェイ工場が1943年の連合国の空襲の頃に戦争に関連する生産のために占有されるまで続いた。空襲では工場の記録の全てが破壊された[10]。
モデルK52およびモデルK132(1982年–)
[編集]モデルKはモデルK52として1982年に再登場し、スタインウェイの縦型ピアノの売り出しのトップを占めた。ハンブルク工場は同様のモデルK132で続いた。現代のモデルKピアノはオリジナルと実質的に同じ寸法および弦スケールを有しているものの、「バーティグランド」という命名は保持されなかった。
ウィリアム・セオドア・スタインウェイが1982年の再設計を任され、この時までにオリジナルの計画は失われており、スタインウェイ社員の技術者John Boygos所有のより古いモデルKを詳細に分析することによって再作成しなければならなかった[2]。オリジナルの1903年設計からの変更点は、横隔膜響板、 高速化アクション、ヘキサグリップ・ピンブロック(ピン板)、わずかに修正された張弦スケジュールを含む1930年以降に実行されたもののみであった[2]。
アビー・ロードのミセズ・ミルズ
[編集]特に有名なバーティグランドはロンドンにあるアビー・ロード・スタジオによって所有されている。この楽器はミセス・ミルズによって頻繁に演奏されたため、「ミセズ・ミルズ」ピアノと呼ばれるようになった。
アビー・ロードはこの1905年製ピアノを1953年に404英ポンド[4](2023年時点の£14,248と同等[11])で購入した。エンジニアのStuart Eithamはより古い音を作るためにスタインウェイの技術者にこのピアノを修正させた。ハンマーはタック・ピアノの明い音を模倣するためにラッカー処理によって硬くされた[5]。このピアノは昔風のバーの音色に近付けるためにわずかに音高をずらした状態に保たれた。最低音域の鍵以外の全ての鍵は2本以上の弦を有するため、鍵毎に弦のうちの1本の音高をわずかにずらすことでコーラス効果が得られる[12][13]。
ビートルズは「レディ・マドンナ」[5]や「シーズ・ア・ウーマン」[5]、「アイ・ウォント・トゥ・テル・ユー」[14]、「ペニー・レイン」[15]といった楽曲の録音においてこのピアノを使用した。加えて、ビートルズは「ロッキー・ラックーン」の中間部[16]や「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」の導入部[15]においてこのピアノを使用した。
ビートルズのジョージ・ハリスンの息子ダーニ・ハリスンは2013年の映画『ビューティフル・クリーチャーズ 光と闇に選ばれし者』のサウンドトラックを彼のバンドthenewno2と共にアビー・ロードで録音した。
脚注
[編集]- ^ “Vertical grand”(縦型グランド)の短縮形。
- ^ a b c d Kehl, Roy F.; Kirkland, David R. (2011). The Official Guide to Steinway Pianos. Milwaukee: Amadeus Press. pp. 211–214. ISBN 978-1-57467-198-8
- ^ a b “The Steinway Vertegrand”. New-York Tribune. (30 January 1910)
- ^ a b Hemmingsen, Piers A.. “Mrs. Mills Rocks: Gladys Mills and her Piano Tour Canada and the USA – October 1968”. Capitol 6000. 2016年10月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年9月26日閲覧。
- ^ a b c d “Keyboards of the Beatles Era”. Harmony Central (7 February 2014). 21 October 2017時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年9月26日閲覧。
- ^ Federal Reserve Bank of Minneapolis Community Development Project. "Consumer Price Index (estimate) 1800–" (英語). Federal Reserve Bank of Minneapolis. 2019年1月2日閲覧。
- ^ Steinway & Sons (October 1907). “The Goal of Perfection”. Country Life in America (New York: Doubleday, Page & Co.) XII: 623 2014年8月30日閲覧。.
- ^ “Five Steinway Pianos for the Ages”. Steinway & Sons. 2015年11月25日閲覧。
- ^ Roman, Zoltan (1989). Gustav Mahler's American Years, 1907-1911: A Documentary History. Stuyvesant, New York: Pendragon Press. p. 355. ISBN 978-0-918728-73-9
- ^ Büttner, Annett (1996). “Klaviere und Flügel aus Hamburg: Zur Geschichte der Firma Steinway & Sons” (ドイツ語). Zeitschrift des Vereins für Hamburgische Geschichte (Hamburg: Verlag Verein für Hamburgische Geschichte) 82: 47–64. オリジナルの22 May 2018時点におけるアーカイブ。 .
- ^ イギリスのインフレ率の出典はClark, Gregory (2024). "The Annual RPI and Average Earnings for Britain, 1209 to Present (New Series)". MeasuringWorth (英語). 2024年5月31日閲覧。
- ^ “Abbey Road Keyboards announced”. Propellerhead. 2014年8月30日閲覧。
- ^ “Guide to Abbey Road Keyboards”. Kreativ Sounds. 2014年8月31日閲覧。
- ^ Fontenot, Robert (14 March 2015). “The Beatles Songs: 'I Want to Tell You' – The history of this classic Beatles song”. oldies.about.com. 2016年6月13日閲覧。
- ^ a b “That Week On TV: Let's Have a Party! The Piano Genius of Mrs Mills”. Radio Times. 2014年8月31日閲覧。
- ^ “The Beatles Songs: Rocky Raccoon”. About. 2014年8月31日閲覧。
参考文献
[編集]- “Dhani Harrison on Recording at Abbey Road: 'It Didn't Freak Me Out'”. Rolling Stone. 2014年8月31日閲覧。
外部リンク
[編集]- K-132 - Steinway & Sons - スタインウェイ・ジャパン
- Traditional K-52 - Steinway & Sons - Steinway & Sons New York