スウェーデン語方言字母
スウェーデン語方言字母(スウェーデンごほうげんじぼ、スウェーデン語: Landsmålsalfabetet)は、スウェーデン語の方言の音声を記述するために、19世紀に考案された発音記号。
概要
[編集]スウェーデン語方言字母は、ヨアン・ルンデルによって1878年に考案された[1]。国際音声記号と同様、ラテン・アルファベットおよびそれを変形された文字を使い、各単音に対して1つの文字を割りあてている。文字の種類は118[2]あるが、印刷が不便であり[3]、現在は使われていない。
中国語用の音声記号との関係
[編集]スウェーデンのベルンハルド・カールグレンは、普通話の zhi や zi の母音を舌尖母音(apical vowel)と呼んだ。中国語学では舌尖母音のために、スウェーデン語方言字母に由来する4つの記号を使うことがあるが[4]、これらは国際音声記号ではない。ただし本来の方言字母にあったのは ʅ と ʯ の2文字だけで、のこりの2文字はカールグレンが自分で作った文字らしい[5]。
Unicode | 文字 | 対応するIPA |
---|---|---|
U+027F | ɿ | z̩ |
U+0285 | ʅ | ʐ̩ |
U+02AE | ʮ | z̩ʷ |
U+02AF | ʯ | ʐ̩ʷ |
たとえば『漢語方音字彙』では「歯」(齿)の字音は北京で [tʂʻʅ]、揚州で [tsʻɿ]、蘇州で [tsʻʮ] のように書かれている(声調は省略)[6]。
カールグレンはルンデル本人に学び、また『中国音韻学研究』の初版はルンデルの出版社から出版され、後の版よりも大量にスウェーデン語方言字母を用いていた[5]。
なおカールグレン本人は後にはこれらの記号を使うのをやめ、舌尖母音のためにはより印刷に便利な ï を使うようになった[7]。
Unicode
[編集]スウェーデン語方言字母の大半はUnicodeに含まれていない(上記の中国語で使われているものを除く)。
以下の3つの文字が Unicode 5.1 (2008) でラテン文字拡張Cの領域に追加された。『Ordbok över Finlands svenska folkmål』(フィンランドで使われているスウェーデン語方言の辞典)で使用されているものだという[8]。ただしUnicode のコード表では「ウラル音声記号の拡張」に含めている[9]。
Unicode | 文字 | 対応するIPA |
---|---|---|
U+2C78 | ⱸ | e̞ |
U+2C79 | ⱹ | l̥ |
U+2C7A | ⱺ | o̞ |
2008年にスウェーデン語方言字母106字の登録が提案されたが、いまのところ追加されていない[10]。
脚注
[編集]- ^ Lundell, Johan August (1878). “Det svenska landsmålsalfabetet”. Nyare bidrag till kännedom om de svenska landsmålen ock svenskt folklif I: 11-158 . (HathiTrust)
- ^ 外部リンクの百科事典の記事による。N3031によると最初は89字で、後に200字を越えたとする
- ^ 服部四郎『音声学 カセットテープ, 同テキスト付』岩波書店、1984年(原著1950年)、52頁。
- ^ ユエン・レン・チャオ 著、橋本萬太郎 訳『言語学入門 —言語と記号システム—』岩波書店、1980年、42頁。
- ^ a b David Prager Branner (2006). “Comparative Transcriptions of Rime Table Phonology”. In David Prager Branner. The Chinese Rime Tables: Linguistic Philosophy and Historical-comparative Phonology. John Benjamins. pp. 266-267. ISBN 9027247854
- ^ 北京大学中国语言文学系 语言学教研室编 編『汉语方音字汇』(第二版重排本)科学出版社、2003年(原著1962年)、66頁。ISBN 7801840348。
- ^ Bernhard Karlgren (1954). “Compendium of Phonetics in Ancient and Archaic Chinese”. Bulletin of the Museum of Far Eastern Antiquities (Stockholm) (26): 212 . "ï the apical vowels in Pekinese, Wade »ssŭ» and »shih»."
- ^ Therese Leinonen, Klaas Ruppel, Erkki I. Kolehmainen, Caroline Sandström (2006年1月26日). “N3031: Proposal to encode characters for Ordbok över Finlands svenska folkmål in the UCS” (DOC). 2014年10月29日閲覧。
- ^ “Latin Extended-C” (PDF). Unicode. 2014年10月29日閲覧。
- ^ Everson, Michael (2008年11月27日). “N3555: Exploratory proposal to encode Germanicist, Nordicist, and other phonetic characters in the UCS” (PDF). 2014年10月25日閲覧。
外部リンク
[編集]- “Landsmålsalfabetet”. Nordisk familjebok (Uggleupplagan ed.). (1911). pp. 1044-1048
- 百科事典の記事。文字の一覧あり。