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ザババ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ザババ[ˈzɑːbɑːbɑː]あるいはザママ)は、メソポタミア神話の戦いを司る男性。古代メソポタミア、バビロニア北部の都市・キシュの都市神で[1][2]、初期王朝時代(前2900–2350年)には信仰の対象となっていたようである[3]古バビロニア時代(前1830-)ごろからはラガシュの主神・ニンギルス(ニヌルタ)と同一視されるようになった[3]。ザババの神殿であるエメテウルサグ(Emeteursag)はスムラエル(Sumulael)の時代(前1880-1845年)に建てられている[4]

概要

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通常はラガシュの都市神の1柱であるババ(Baba)が配偶神とされる。一方で、特にキシュにおいては、戦いの神という共通点があるザババとイナンナ/イシュタル[注釈 1]とのペアリングがよく見られ、古代バビロニアの王サムス・イルナの碑にはザババとイシュタルがキシュの主神であると刻まれている。さらにはハンムラビが、キシュのザババの神殿であるエメテウルサグを改修した際にザババとイナンナの住まう場所として塔を作っている[5]。同様にサムス・イルナはザババとイナンナのためにジッグラトを建造している[5]。そのためイナンナ/イシュタルがザババの配偶神として描かれることもあるが、サムス・イルナがキシュの城壁を修繕した記録においてイナンナを「ザババの最愛の妹」と描写していることを根拠にイナンナはザババの妹であるとする向きもある[5]

戦いの神として王の遠征を守護し、また誓約の神としての面も持っていた[6]。そのためザババの武器はカーミ・ターミス(kami-tamisu、誓いを立てたものを結びつけるもの)とよばれた[7]

また、キシュのマナナ王朝(mananaia dynasty)では不動産取引や給与の支払いなど公的な記録の中でたびたび、「ザババとイアウィウム王(Yawirum、或いはIawium)の名により」という文言で誓約がなされている[8][9]

鷲頭の杖がザババのシンボルとされたり[10]、ライオンの頭の杖あるいはメイスとともに描かれる。また別の文献では右手にはライオンがモチーフの、左手には鷲がモチーフの二本のシミターを持っているとされ[11]、これらはイガリマ、シュルシャガナという名前で人格化され神格化されている[12]。このイガリマ[注釈 2]とシュルシャガナ[注釈 3]は、ときに古代都市ニップルの女神ニン・ニニブとニヌルタの2人の男児として描かれる[13]。またはラガシュ市の主神ニンギルス[注釈 4]とババの2人の息子として描かれることもある[13][15]

注釈

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  1. ^ シュメールのイナンナはアッシリアのイシュタルと同一視される。
  2. ^ 野牛の門の意[13]。翻訳によっては「偉大な門」とされる。W.G.Lambertに拠れば「牡鹿の扉」と「質の高い扉」の両義に取れる[14]。また、神を指す場合は「門の守護者」となる[14]
  3. ^ Leickは「最愛の青年」の意としているが「手を浄化するもの」と訳されることが多い。この場合はシュルシャガナ(Šul-šaga)を浄化の儀式である"šu-luḫ"と同じ語ととる。
  4. ^ ニヌルタ、ニニブ、そしてザババと同一視される。

出典

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  1. ^ Goddeeris 2002, p. 253.
  2. ^ Van Der Toorn 1996, p. 69.
  3. ^ a b Black 1992, p. 187.
  4. ^ Melville 2010, p. 92.
  5. ^ a b c Melville 2010, p. 93.
  6. ^ 日本オリエント学会 2004, p. 495.
  7. ^ Van Der Toorn 1996, p. 87.
  8. ^ Goddeeris 2002, p. 284.
  9. ^ Goddeeris 2002, p. 317.
  10. ^ 三笠宮崇仁 2000, p. 143.
  11. ^ Gavin 2008, p. 234.
  12. ^ De Shong Meador 2009, p. 13.
  13. ^ a b c Leick 2009.
  14. ^ a b Ebeling 1976, p. 44.
  15. ^ Black 1992, p. 39.

参考文献

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  • 日本オリエント学会 (2004), 古代オリエント事典, 岩波書店, ISBN 4-00-080301-8 
  • 岡田明子、小林登志子共著 (2000), 古代メソポタミアの神々 - 世界最古の「王と神々の饗宴」, 三笠宮崇仁監修, 集英社, ISBN 4-08-781180-8 
  • Jeremy Black, Anthony Green (1992), Gods, Demons and Symbols of ancient Mesopotamia, University of Texas Press, ISBN 978-0-292-70794-8 
  • Gavin, White (2008), Babylonian Star-Lore, Solaria Publications, ISBN 978-0-9559037-0-0 
  • Ancient Mesopotamian Gods and Goddesses」 
  • Goddeeris, Anne (2002), The Economy and Society in Northern Babylonia in the Early Old Babylonian Period (ca. 2000-1800 BC), ミシガン大学, ISBN 978-90-429-1123-9 
  • Van Der Toorn, Karel (1996), Family Religion in Babylonia, Ugarit and Israel: Continuity and Changes in the Forms of Religious Life, BRILL, ISBN 9789004104105 
  • De Shong Meador, Betty (2009), Princess, priestess, poet: the Sumerian temple hymns of Enheduanna, ミシガン大学, ISBN 9780292719323 
  • Leick, Gwendolyn (2009), The Babylonian World, Routledge, ISBN 9781134261277 
  • Ebeling, Erich (1976), Reallexikon D Assyriologie Bd 5 Cplt Geb, Walter de Gruyter, ISBN 9783110071924 
  • Black, Jeremy A. (1992), Gods, demons, and symbols of ancient Mesopotamia: an illustrated dictionary, British Museum Press for the Trustees of the British Museum 
  • Melville, Sarah (2010), Opening the Tablet Box: Near Eastern Studies in Honor of Benjamin R. Foster, BRILL, ISBN 9789004186521 

関連項目

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