サバクオオトカゲ
サバクオオトカゲ | ||||||||||||||||||||||||||||||
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亜種カスピオオトカゲ
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保全状況評価[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | ||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Varanus griseus (Daudin, 1803) | ||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||
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英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Desert monitor |
サバクオオトカゲ(学名:Varanus griseus)は、有鱗目オオトカゲ科に分類されるオオトカゲの1種。中央アジア、南アジア、 北アフリカに分布する。肉食性であり、様々な脊椎動物や無脊椎動物を捕食する[3]。
分布
[編集]ヨルダン、トルコ、モロッコ、アルジェリア、チュニジア、リビア、エジプト[4][5]、イスラエル、シリア、レバノン、イラク、オマーン、トルクメニスタン、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、西サハラ、モーリタニア、マリ、ニジェール、チャド、スーダン、アフガニスタン、イラン(カヴィール砂漠を含む)、パキスタン、インド北西部。タイプ産地はカスピ海沿岸[3][6]。
形態
[編集]体色は茶色や黄色、灰色など様々。全長は通常1 m程だが、大型の個体は2 m近くまで成長する。背中から尾にかけて横縞が入り、背中に黄色い斑点が散らばる個体もいる。幼体は明るいオレンジ色で、特徴的な縞模様があるが、成長に伴い消失する。鼻孔は吻端よりも目に近い位置にある。性的二形は無い。年に3回、数ヶ月かけて脱皮し成長する。皮膚は砂漠の環境に適応している。遊泳と潜水能力も高く、獲物を求めて水に入ることもある[7]。
生態
[編集]砂漠や砂丘、乾燥した荒地に生息し、地面に巣穴を掘って生活する。10月から4月頃まで冬眠する。4月に一斉に目覚め、5月から7月が最も活発な時期である。巣穴に潜んでおり、摂食の際は外に現れる。3 - 4年で体長55 - 65 cmに達し、3 - 5年で性成熟する。寿命は雌雄共に8年以下[8]。
適正温度
[編集]変温動物であるため、気温によって行動は異なる。一定の区間では速度と体温に相関関係があり、気温21 °Cでは秒速1 m程だが、気温37 °Cでは秒速3 mで走ることが出来る。気温37 °Cを超えても速度は上がらず、気温21 °Cを下回ると非常に鈍くなる。体温は周りの環境によって変化するが、最高でも38.5 °Cである。冬眠中の体温は平均的に16 - 18 °Cである[4]。オオトカゲの中では低温耐性が強く、カザフスタン南西部まで分布している[9]。
繁殖
[編集]5月から6月にかけて交尾し、6月下旬から7月上旬にかけて産卵する[8]。卵は29 - 31 °Cの環境にあり、平均120日で孵化する。出生時は全長25 cm[6]。
食性と天敵
[編集]ほとんどのオオトカゲと同様に肉食動物であり、ネズミ、卵、魚を好むが、小型哺乳類、爬虫類、鳥、両生類、昆虫、その他無脊椎動物も捕食する[10]。シマハイエナやフェネック、スナネコなどの哺乳類に捕食される[11]。
毒性
[編集]オオトカゲ類に咬まれると後遺症が残ることがあり、以前は口内の細菌によるものと考えられていたが、殆どの種で下顎に毒腺がある事が発見された[12][13]。この毒により獲物を麻痺させていると推定されている。また血液凝固を引き起こすプロテアーゼが含まれており、タンパク質を分解して消化を助けている。さらにヒアルロニダーゼも含まれており、消化酵素を増加させて消化を助けている[14]。
亜種
[編集]サバクオオトカゲには3亜種が知られている[15]。
- V. g. griseus (grey monitor) アラブサバクオオトカゲ
- V. g. caspius (Caspian monitor) カスピオオトカゲ、カスピサバクオオトカゲ
- V. g. koniecznyi (Indian desert monitor) パキスタンサバクオオトカゲ
アラブサバクオオトカゲ
[編集]背中には5 - 8本の細い灰色帯があり、尾には19 - 28本の帯がある。尾は他の亜種よりも丸く、全長は生息地によって異なる。体色は砂漠では単純な灰色で、植物の多い地域では明るいオレンジ色である。主にトカゲとヘビを捕食するが、地面に巣を作る鳥や、小型哺乳類を捕食する場合もある[3]。
モロッコ、モーリタニアからエジプト、スーダンまでの北アフリカ、アラビア半島(バーレーンには分布しない)、トルコ南東部、シリア、イスラエル、パレスチナ、レバノン、ヨルダン、イラクに分布[16]。
カスピオオトカゲ
[編集]背中に5 - 8本の帯があり、尾には13 - 19本の帯がある。尾は平たく、体の中央部には143列の鱗がある。カスピ海の東岸から中央アジア高原地帯まで、アラル海の島々、コペトダグ山脈、イラン北部、アフガニスタン西部および南部、パキスタン西部まで分布し、標高800 mまでの高地に見られる。トルクメニスタン、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンでは一般的。
砂漠や粘土質の荒地に生息するが、時には森林でも見られる。トカゲや鳥、カメとその卵、齧歯類、ヘビを捕食する。力が強く、巣穴を簡単に掘る[3]。
パキスタンサバクオオトカゲ
[編集]背中に3 - 5本の帯、尾に13 - 19本の帯がある。尾は平たく、体の中央部には108 - 139列の鱗がある。他の亜種と比べて体が小さく、頭部は幅広で平たい。パキスタンとインド中西部に分布している。
気候変動により、冬の間は冬眠しておらず、摂食量が減少し不活発になるのみだという。主に大型の無脊椎動物や昆虫を捕食するが、小型のトカゲ、齧歯類、鳥とその雛や卵、その他様々な小型脊椎動物も捕食する[3]。
保全
[編集]亜種カスピオオトカゲの生息地である中央アジアでは、農地の増加により生息地が減少している。毎年17000匹分の皮が取引されているが、ワシントン条約により国際取引は禁止されている。北アフリカ、中央アジア、インドの一部では、依然として商業的な狩猟が行われている。
人との関わり
[編集]本種は下顎に毒腺があり、人が咬まれると吐き気、嘔吐、目眩、全身の筋肉痛、心拍数の上昇、呼吸の乱れ、下痢などの症状が現れる。症状は20分後に現れ、24時間程で収まる。咬まれた箇所の痛みは2ヶ月ほど続く可能性がある[14]。
ワシントン条約の指定種のため輸入が難しく、飼育例も少ない。そのうえ飼育下では寿命が短い傾向にある。ただし、飼育下で17年生きた例がある[3]。飼育下では環境と餌を野生と同じように整える必要がある[6]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ Soorae, P.; Eid, E.K.A.; Behbehani, S.J.Y.; Al Johany, A.M.H.; Amr, Z.S.S.; Egan, D.M.; Els, J.; Baha El Din, S. et al. (2021). “Varanus griseus”. IUCN Red List of Threatened Species 2021: e.T62252A3110663. doi:10.2305/IUCN.UK.2021-2.RLTS.T62252A3110663.en 21 March 2024閲覧。.
- ^ “Appendices CITES”. cites.org. 2022年1月14日閲覧。
- ^ a b c d e f Bennett, D. ‘’Desert Monitor, Grey Monitor’’, 『A Little Book of Monitor Lizards』, Viper Press, 1995
- ^ a b Ibrahim, Adel A. A radiotelemetric study of the body temperature of Varanus griseus in Zaranik Protected Area, North Sinai, Egypt, Egyptian Journal of Biology, Vol. 2, pp.57-66, 2000
- ^ Baha el Din, Sherif (2006). A Guide to Reptiles & Amphibians of Egypt. Cairo: The American University in Cairo Press. ISBN 978-9774249792
- ^ a b c “Varanus griseus (Daudin 1803) Desert Monitor"”. 10 June 2010時点のオリジナルよりアーカイブ。21 March 2024閲覧。
- ^ Pianka, Eric R., Dennis King, and Ruth Allen. King. Varanoid Lizards of the World. Bloomington: Indiana UP, 2004. Print.
- ^ a b Smirina, E.M., and Tsellarius, A. Yu. Aging, Longevity, and Growth of the Desert Monitor Lizard, Russian Journal of Herpetology, Vol. 3 No. 2, pp. 130-142, 1996
- ^ Malakhov, Dmitry; Chirikova, Marina (2018). “Species Distribution Model of Varanus griseus caspius (Eichwald, 1831) in Central Asia: an Insight to the Species' Biology”. Russian Journal of Herpetology 25 (3): 195–206. doi:10.30906/1026-2296-2018-25-3-195-206 .
- ^ Arbuckle, Kevin. Ecological Function of Venom in Varanus, with a Compilation of Dietary Records from the Literature, Biowak, Vol. 3(2), pp. 46-56, 2009
- ^ “Desert Monitor account at moroccoherps.com”. 21 March 2024閲覧。
- ^ Dobson, James S.; Zdenek, Christina N.; Hay, Chris; Violette, Aude; Fourmy, Rudy; Cochran, Chip; Fry, Bryan G. (2019-05-07). “Varanid Lizard Venoms Disrupt the Clotting Ability of Human Fibrinogen through Destructive Cleavage” (英語). Toxins 11 (5): 255. doi:10.3390/toxins11050255. ISSN 2072-6651. PMC 6563220. PMID 31067768 .
- ^ Fry, Bryan G.; Wroe, Stephen; Teeuwisse, Wouter; van Osch, Matthias J. P.; Moreno, Karen; Ingle, Janette; McHenry, Colin; Ferrara, Toni et al. (2009-06-02). “A central role for venom in predation by Varanus komodoensis (Komodo Dragon) and the extinct giant Varanus ( Megalania ) priscus” (英語). Proceedings of the National Academy of Sciences 106 (22): 8969–8974. Bibcode: 2009PNAS..106.8969F. doi:10.1073/pnas.0810883106. ISSN 0027-8424. PMC 2690028. PMID 19451641 .
- ^ a b Zima, Yuliya (December 2019). “On the Toxicity of the Bite of the Caspian Gray Monitor Lizard (Varanus griseus caspius)”. Biawak 13 (2): 115–118.
- ^ Mertens, R, "Über die Rassen des Wüstenwarans (Varanus griseus)", Senckenb. Biol. 1954, 35, 353-357
- ^ Ilgaz, Çetin (January 15, 2007). “The morphology and distribution of Varanus griseus (Daudin, 1803) (Reptilia: Sauria: Varanidae) in southeastern Anatolia.”. Russian Journal of Herpetology 15 (3): 173–178 .
参考文献
[編集]- Tsellarius, A. Y.;Cherlin, V. A.;Menshikov, Y. A. 1991 Preliminary report on the study of biology of Varanus griseus (Reptilia, Varanidae) in Middle Asia Herpetological Researches (1): 61-103