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クロロジフェニルホスフィン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
クロロジフェニルホスフィン
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識別情報
CAS登録番号 1079-66-9
PubChem 66180
特性
化学式 C12H10ClP
モル質量 220.64 g/mol
外観 無色から淡黄色液体
密度 1.229 g cm−3
沸点

320 °C

への溶解度 反応する
危険性
GHSピクトグラム 腐食性物質急性毒性(低毒性)
GHSシグナルワード 危険(DANGER)
Hフレーズ H290, H302, H314, H318, H412
Pフレーズ P234, P260, P264, P270, P273, P280, P301+312, P301+330+331, P303+361+353, P304+340, P305+351+338, P310, P321, P330
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

クロロジフェニルホスフィン (Chlorodiphenylphosphine) は、化学式 (C6H5)2PCl で表される有機リン化合物である。Ph2PCl と略される。無色の油状液体で、にんにく様の刺激性の匂いがあり、ppb のレベルでも感じ取れると言われている。多くの配位子を含む分子に Ph2P基を導入するための有用な試薬である[2]。他のハロホスフィンと同様に、Ph2PClは、水などの多くの求核試薬と反応し、空気中でも容易に酸化される。

合成と反応

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クロロジフェニルホスフィンは、ベンゼン三塩化リンから商業規模で生産される。ベンゼンは 600℃前後の極端な温度で三塩化リンと反応し、ジクロロフェニルホスフィン (PhPCl2) と HClを生成する。高温の気相での PhPCl2の再分配で、クロロジフェニルホスフィンが得られる[2][3]

2 PhPCl2 → Ph2PCl + PCl3

または、クロロジフェニルホスフィンは、トリフェニルホスフィンと三塩化リンを出発物質として再分配反応によって調製される。

PCl3 + 2 PPh3 → 2 Ph2PCl

クロロジフェニルホスフィンは、加水分解によってジフェニルホスフィンオキシドを与える。ナトリウムで還元するとテトラフェニルジホスフィン英語版が得られる。

2 Ph2PCl + 2 Na → [Ph2P]2 + 2 NaCl

用途

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クロロジフェニルホスフィンは、他のクロロホスフィンとともに、さまざまなホスフィンの合成に使用される。代表的なルートはグリニャール試薬への使用である [3]

Ph2PCl + MgRX → Ph2PR + MgClX

Ph2PClとの反応から生成されるホスフィン類はさらに開発され、農薬(例えばEPNのような)、プラスチックの安定剤(Sandostab P-EPQ)、さまざまなハロゲン化合物触媒、難燃剤(環状ホスフィノカルボン酸無水物)として使われる。また、紫外線硬化塗料システム(歯科材料で使用)にも使われ、Ph2PClを産業界で重要な中間体にしている[2][3]

ジフェニルホスフィド誘導体の前駆体として

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クロロジフェニルホスフィンは、ジオキサンの還流下で金属ナトリウムとの反応を介して、ジフェニルホスフィドナトリウムの合成に使用される[4]

Ph2PCl + 2 Na → Ph2PNa + NaCl

ジフェニルホスフィンは、Ph2PCl と LiAlH4 の反応で得られる。通常、後者は過剰に用いられる[5]

4 Ph2PCl + LiAlH4 → 4 Ph2PH + LiCl + AlCl3

Ph2PNa と PH2PH は両方とも有機ホスフィン配位子の合成に用いられる。

特性評価

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クロロジフェニルホスフィンの品質は、しばしば 31P NMR スペクトルでチェックされる[6]

化合物 31P ケミカルシフト

(ppm vs 85% H3PO4)

PPh3 -6
PPh2Cl 81.5
PPhCl2 165
PCl3 218

脚注

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  1. ^ International Union of Pure and Applied Chemistry (2014). Nomenclature of Organic Chemistry: IUPAC Recommendations and Preferred Names 2013. The Royal Society of Chemistry. pp. 926. doi:10.1039/9781849733069. ISBN 978-0-85404-182-4 
  2. ^ a b c Quin, L. D. A Guide to Organophosphorus Chemistry; Wiley IEEE: New York, 2000; pp 44-69. ISBN 0-471-31824-8
  3. ^ a b c Svara, J.; Weferling, N.; Hofmann, T. "Phosphorus Compounds, Organic," In 'Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 7th ed.; Wiley-VCH: 2008; doi:10.1002/14356007.a19_545.pub2; Accessed: February 18, 2008.
  4. ^ Roy, Jackson W; Thomson, RJ; MacKay.m.f, . (1985). “The Stereochemistry of Organometallic Compounds. XXV. The Stereochemistry of Displacements of Secondary Methanesulfonate and p-Toluene-sulfonate esters by Diphenylphosphide Ions. X-ray Crystal Structure of (5α-Cholestan-3α-yl)diphenylphosphine Oxide”. Australian Journal of Chemistry 38 (1): 111–18. doi:10.1071/CH9850111. 
  5. ^ Stepanova, Valeria A.; Dunina, Valery V.; Smoliakova, Irina P. (2009). “Reactions of Cyclopalladated Complexes with Lithium Diphenylphosphide”. Organometallics 28 (22): 6546–6558. doi:10.1021/om9005615. 
  6. ^ O. Kühl "Phosphorus-31 NMR Spectroscopy" Springer, Berlin, 2008. ISBN 978-3-540-79118-8