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ガーデン・ツーリズム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ガーデンツーリズムは、園芸の歴史において重要な植物園庭園などを訪れる観光旅行である。

概要

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このタイプの観光には海外旅行も国内旅行も含まれ、行き先になじみがある場合はひとりで、また行き先の国や地域で言葉の壁がある場合はツアーに参加して移動と目的地の近くに宿泊先を確保する手段を得ながら、植物園や庭園めぐりをする。2000年の統計によるとアルハンブラタージマハルはどちらも旅行者が200万人を超えたため、ランドスケープ・コンサルタントは対応に追われている。

キューケンホフ公園を訪れた観光客

ガーデン・ツーリズムでは次の訪問先に人気がある。

歴史

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イギリスに定着した庭めぐり (ガーデンツアー) には個人宅の庭やふだんは非公開の庭園めぐりがふくまれ、通称「イエローブック」 (the 'Yellow Book') と呼ばれる『イギリスとウェールズの公開庭園と募金』 (Gardens of England and Wales Open for Charity) は、公開庭園の一覧に加えて見学を受け付ける期間ほかの情報を網羅したイギリスとウェールズの庭めぐりのガイドブックである[1]。この案内書はイギリスの雑誌「カントリーライフ」が最初に1931年に発行し、ある公益活動の団体が始めた「ナショナル・ガーデンズ・スキーム」という企画に沿ったガーデンツアーを取上げたものである[2]

ナショナル・ガーデン・スキーム

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ガーデンツアーをイギリスに根づかせた団体は19世紀後半創設の地域看護を進める協会で、リバプールの篤志家が雇った看護師を地域の老人介護に派遣したことから始まった。やがてナイチンゲールとビクトリア女王の後援を得て活動を発展させると[3]、看護協会として全国で看護師を養成、地域の老人介護や妊産婦の看護のために派遣しつづけ、その活動を支えたアレクサンドラ王妃の功績を記念しさらに活動を盛んにする資金を集めるため、1920年代後半に理事のエルシー・ワグ (Elsie Wagg) が当時の園芸ブームに注目、ガーデンツアーと募金活動を両立させる「ナショナル・ガーデン・スキーム」を考え出したのである。

看護協会の呼びかけた「手入れの行き届いた魅力的で個性のある庭を見学者に紹介し、なおかつ公共の利益に役立てる」という事業に賛同すると、庭の持ち主は自慢の園芸の成果を公開、ひとりにつき1シリングの見学料を集めて団体に寄付したのである。ガーデンツアーが動き出したのは1927年、その年は609カ所の庭園が賛同して8000英国ポンドを集め、翌年の1928年に「王妃の地域看護協会」The Queen's Institute of District Nursing (英語版)と改称、1931年には最初のイエローブックが出たこともあり、協力する庭の数は1000を超えた。やがて助成金の交付団体として創設以来、21世紀初頭にわたる募金をもとに累計4500万英国ポンドを支給するまでに基金が充実していく[4]。それと並行して、個人の庭の持ち主はそれぞれが希望する寄付先に400万英国ポンドを支払ってきたのである[2]

第二次世界大戦後の1948年以降、ガーデンツアーは新しい段階へと発展。協会の募金活動はナショナルトラスト運動と連携、見学地にトラストが保全を進めた貴重な庭園を加えたことから見学者が大幅に増える[1]。トラストは活動に対して協会から補助金を受け、歴史的に貴重な庭園の修復をさらに進めていく。庭園や庭が見学者の期待にこたえるかどうかをめぐっては地域の調整役から認定を受ける体系を設けて、庭の持ち主が公認を名乗る水準を保ってきた (『イエローガイドを片手にイギリスとスコットランドのすばらしい庭園めぐりを――ナショナル・ガーデン・スキームおよびスコットランドのガーデン・スキームの募金事業に協力する個人の庭』より[5])。2013年に公開した庭園や個人の庭は合計3700カ所を超え[2]、「イエローブック」の名称は2015年に「Gardens To Visit」に変更している[2]

庭園めぐりと書籍

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初めて庭園めぐりを記録に残した人々のうち、1580年から1581年にわたって目的地のフランス、ドイツ、オーストリア、スイス、イタリアを旅行したミシェル・ド・モンテーニュは旅日記をつけており死後に見つかると1774年に出版された[注釈 1]

ファイン・モリソン (Fynes Moryson または Morison) (1566 – 1630) は1590年代にヨーロッパと地中海東部の各地を旅行し、帰国後に4、5冊の全集を計画して1617年に著作集 "Itinerary" の最初の3冊組を出した[9]。当時のエルサレム、トリポリ、アンチオク、アレッポ、コンスタンチノープル、クレタ島の社会の様子を伝える記録として歴史学で評価されている。 - また、イギリスの作家で造園家、日記作者ジョン・イーヴリンは1664年、王立協会で初めての出版物として林業の実態を海軍に伝える報告をつづり、やがて森林をたたえる著述で植林を説きつづけた[10][注釈 2]マギー・キャンベル=カルバー(英語)はイーヴリンが調査をした森林をたどりフランスやイタリアで視察した庭園を訪れ、イーヴリンを象徴するカシから彼がもっとも気に入っていたさまざまな常緑樹まで伝記にまとめている[13][14]。こうしてごく限られた人々が書き残した庭めぐりの経験は、ガーデンツアーとしておよそ100年にわたって発展してきたのである。

日本のガーデン・ツーリズム

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ガーデニングという言葉の定着にともない、新しいタイプのツーリズムとしてガーデン・ツーリズムに通じるフラワー・ツーリズムや庭園めぐりが広まり始めた[15]。グリーン・ツーリズムのひとつの形、花の街づくりやガーデニングの延長など捉え方はさまざまあり、あるいは国際ガーデンツーリズム協会 (IGTN=International Garden Tourism Network) は日本の先進事例として北海道のガーデン・ツーリズムを北海道で紹介する事業を評価[16]。あるいは1997年頃からイギリスのナショナル・ガーデンズ・スキームを参考に行われるオープンガーデン活動[17]の成果が日本のガーデン・ツーリズムを支えつつある[18]

国土交通省は訪日外国人旅行数2000万人を達成する新しい魅力としてガーデン・ツーリズムに着目して調査と課題の整理を実施[19]。2019年に「庭園間交流連携促進計画(ガーデンツーリズム)登録制度」を制定[20]。①地域の風土や歴史を反映したテーマ設定、②地域活性化などのビジョンの提示が条件で、申請は自治体や施設管理者でつくる協議会が行い、大学教授や観光関係者で構成する審査会が審議し、国土交通省都市局長が承認する[21]

国交省認定地

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注釈

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  1. ^ モンテーニュ (1533-1592) の紀行文は初版についでイタリアのアレッサンドロ・ダンコナ Alessandro D'Ancona (1835-1914) の監修版ほか『Journal de voyage de Michel de Montaigne en Italie, par la Suisse et l'Allemagne en 1580 et 1581』という題名で数回、出版されてきた[6]。1774年の初版は電子書籍があり[7]、日本語訳が出版されている[8]
  2. ^ 2005年にはギリアン・ダーレイ (Gillian Darley) が大英図書館の保管するイーヴリンの手稿[11]などを元に新たな伝記を出版[12]

脚注

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  1. ^ a b The National Gardens Scheme”. The National Gardens Scheme (NGS). 2016年3月11日閲覧。
  2. ^ a b c d The National Gardens Scheme (NGS) (2016年3月3日). “Gardens To Visit 2016 (The Yellow Book)” (English). Constable. 2016年3月11日閲覧。
  3. ^ 1887年にビクトリア女王が「即位10周年婦人会基金」Women’s Jubilee Fund から7万英国ポンドを寄付した活動は、1889年に慈善団体「ビクトリア女王即位10周年記念看護協会」 'Queen Victoria's Jubilee Institute for Nurses' として公の活動を開始The History of the QNI”. The Queen's Nursing Institute. 2016年3月16日閲覧。
  4. ^ 1999年から2014年の15年間の助成金は累計2700万英国ポンドで対象は看護と庭園の事業。2014年度の募金250万英国ポンドはナショナルトラスト研修事業をふくむ10団体・組織に助成The National Gardens Scheme”. About IW&I. Investec Wealth and Investment. 2016年8月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年3月16日閲覧。
  5. ^ 特集記事”. Follow the yellow guide road to great British gardens: Private gardens open for charity under the National Gardens Scheme and Scotland's Gardens Scheme. The Christian Science Monitor (2002年4月24日). 2013年11月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年3月15日閲覧。 HighBeam Researchを参照。内容の閲覧は会員のみ。
  6. ^ Michel Eyquem de Montaigne (1889年). Alessandro D'Ancona: “Journal de voyage de Michel de Montaigne en Italie, par la Suisse et l'Allemagne en 1580 et 1581”. Città di Castello : S. Lapi. 2016年3月11日閲覧。
  7. ^ Journal du voyage de Michel de Montaigne en Italie, par la Suisse et l' Allemagne en 1580 et 1581, avec des notes par M. de Querlon” (pdf) (フランス語). フランス国立図書館#電子図書館「ガリカ」. ローマ: Le Jay (1862年3月24日). 2016年3月5日閲覧。注釈・肖像画入り、 (LIV-416 p.)
  8. ^ ミシェル・ド・モンテーニュ (1949年10月). モンテーニュ旅日記. 佛蘭西文庫. 29. 關根秀雄 (翻訳者). 白水社. NCID BN09467569 
  9. ^ Moryson, Fynes (1907年). “An Itinerary: Containing His Ten Years Travel Through the Twelve Dominions of Germany, Bohemia, Switzerland, Netherland, Denmark, Poland, Italy, Turkey, France, England, Scotland and Ireland”. グラスゴー: James Maclehose and Sons. 2016年3月15日閲覧。
  10. ^ Lewis, Rhodri (2007年). “Journal of British Studies” (英語). Review of John Evelyn: Living for Ingenuity. ケンブリッジ大学出版局; North American Conference on British Studies. pp. 939–940. doi:10.1086/522720. 2016年3月15日閲覧。
  11. ^ The John Evelyn archives” (英語). 大英図書館. 2016年3月15日閲覧。
  12. ^ Lambrusco, Leah (1 September 2007). “To Wider, Stranger Worlds”. Open Letters Monthly: An Arts and Literature Review. 2016年3月15日閲覧。
  13. ^ Maggie Campbell-Culver (2006年). “A Passion for Trees: The Legacy of John Evelyn” [樹木に注ぐ情熱――ジョン・イーヴリンの遺産]. Eden Project Books. 2016年3月15日閲覧。
  14. ^ “Diary: Gillian Darley”. 28. London Review of Books. (2006年6月8日). pp. 38-39. http://www.lrb.co.uk/v28/n11/gillian-darley/diary 2016年3月15日閲覧。 
  15. ^ 小林昭裕、有山忠男『北のランドスケープ――保全と創造』淺川昭一郎 (編著)、環境コミュニケーションズ、97-109頁。 
  16. ^ 十勝・上川でつづく北海道ガーデン街道、ガーデンショーなど庭と観光をテーマにした取り組みに、2015年の国際ガーデンツーリズム賞「ガーデンフェスティバル・オブ・ザ・イヤー」を授賞“国際協会賞を受賞 十勝、上川のガーデンツーリズム”. 十勝毎日新聞社. (2015年3月18日). オリジナルの2016年3月22日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20160322131933/http://www.tokachi.co.jp/news/201503/20150318-0020594.php 2016年3月16日閲覧。 
  17. ^ 小西康生、貴多野乃武次『現代ツーリズム研究の諸相』神戶大学経済経営研究所、2003年、v, 98-109, 125-126, 150-163頁。 
  18. ^ ガーデンツーリズムによる観光とまちづくりの可能性”. 平成27年度第2回都市・地域セミナー. 公益社団法人 日本都市計画学会北海道支部 (2016年2月26日). 2016年3月16日閲覧。
  19. ^ 北海道ガーデンツーリズム推進事業報告書”. 国土交通省北海道運輸局 (2015年3月). 2016年3月16日閲覧。
  20. ^ 発足後の国土交通省の正式表記はガーデンツーリズムで「・」(中黒)は入らない
  21. ^ 読売新聞 2020年10月9日夕刊

関連項目

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