カシリビマブ・イムデビマブ
成分一覧 | |
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カシリビマブ | SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対するモノクローナル抗体 |
イムデビマブ | SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対するモノクローナル抗体 |
臨床データ | |
販売名 | REGEN-COV |
Drugs.com | monograph |
ライセンス | US Daily Med:リンク |
法的規制 |
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データベースID | |
ATCコード | None |
DrugBank | DB15691 |
KEGG | D12142 |
カシリビマブ・イムデビマブ(英: casirivimab/imdevimab)は、REGEN-COVの商品名で販売されている[1]、米国のバイオテクノロジー企業のリジェネロン・ファーマシューティカルズ社が開発した実験薬である。これは、COVID-19パンデミックの原因となったSARS-CoV-2コロナウイルスに対する耐性を作り出すために設計された人工的な「抗体カクテル」である[3][4]。これは、カシリビマブ(REGN10933)とイムデビマブ(REGN10987)の2つのモノクローナル抗体で構成され、混合して使用する必要がある[1][5][6]。2つの抗体を組み合わせることで、逃避変異を防ぐことを目的としている[7]。また合剤としても販売されている[8]。
臨床試験
[編集]COVID-19患者を対象とした臨床試験において、カシリビマブとイムデビマブを併用投与することで、プラセボと比較して、治療後28日以内に疾患進行するリスクが高い人のCOVID-19関連の入院や救急外来受診が減少することが示された[2]。COVID-19の治療に使用するためのこの治験薬の安全性と有効性は引き続き評価されている[2]。
カシリビマブとイムデビマブの緊急使用許可(EUA)を裏付けるデータは、軽度から中等度のCOVID-19症状の入院していない成人799名を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照臨床試験に基づいている[2]。これらの被験者のうち、266名はカシリビマブとイムデビマブを2,400 mg(各1,200 mg)、267名はカシリビマブとイムデビマブを8,000 mg(各4,000 mg)、266名はプラセボを、SARS-CoV-2ウイルス検査で陽性となってから3日以内に単回静脈内投与した[2]。
臨床試験において事前に規定された主要評価項目は、ベースラインからのウイルス負荷の時間加重平均変化であった[2]。カシリビマブおよびイムデビマブを投与された被験者の7日目のウイルス負荷の減少量は、プラセボを投与された被験者よりも大きかった[2]。しかし、カシリビマブとイムデビマブの併用投与が有効である可能性を示す最も重要な証拠は、COVID-19に関連する医療機関への受診、特に治療後28日以内の入院および救急外来受診という、事前に定義された副次的評価項目から得られた[2]。疾患進行のリスクが高い被験者では、入院および救急外来受診の発生は、カシリビマブおよびイムデビマブ投与群では平均3%であったのに対し、プラセボ投与群では9%であった[2]。カシリビマブとイムデビマブの2つの用量のいずれかを投与された被験者では、ウイルス負荷、入院および救急外来受診の減少への効果は同様であった[2]。
2020年9月現在、REGEN-COVは、RECOVERY試験の一環として評価されている[9]。
2021年4月12日、ロシュとリジェネロンは、第III相臨床試験 REGN-COV 2069 が主要評価項目と副次評価項目の両方を満たし、非感染者の感染リスクを81%低減し、症候性患者の症状が回復するまでの期間をプラセボ群の3週間に対して1週間に短縮したと発表した[10]。
承認
[編集]2020年11月21日、米国食品医薬品局(FDA)は、SARS-CoV-2ウイルスの直接検査で陽性と判定された体重40 kg(88ポンド)以上の12歳以上で、重度のCOVID-19に進行するリスクが高い人を対象に、軽度から中等度のCOVID-19の治療薬としてカシリビマブとイムデビマブを併用する緊急使用許可(EUA)を発行した[2][11][8]。これには、65歳以上の人や、特定の慢性疾患のある人が含まれる[2]。カシリビマブとイムデビマブは、静脈内注射(IV)で一緒に投与する必要がある[2]。
カシリビマブとイムデビマブは、COVID-19が原因で入院している人やCOVID-19が原因で酸素療法を必要とする人には認可されていない[2]。COVID-19が原因で入院した人々に対しては、カシリビマブとイムデビマブの治療の利点が示されていない[2]。カシリビマブやイムデビマブなどのモノクローナル抗体は、高流量酸素や人工呼吸を必要とするCOVID-19の入院患者に投与すると、臨床転帰(臨床成績)が悪化する可能性がある[2]。2021年6月、EUAが改訂され、『SARS-CoV-2ウイルスの直接検査で陽性と判定され、入院や死亡を含む重度のCOVID-19に進行するリスクが高い成人および小児患者(12歳以上で体重40 kg以上)の軽度から中等度のCOVID-19の治療を目的として、未承認製品であるREGEN-COV(カシリビマブとイムデビマブ)の合剤の使用と、個別のバイアルとして供給されるREGEN-COV(カシリビマブとイムデビマブ)を一緒に投与する使用を認める[8][1]。』とされた。
そのEUAは、リジェネロン・ファーマシューティカルズに発行された[2][11][12]。
2021年2月1日、欧州医薬品庁(EMA)の欧州医薬品委員会(CHMP)は、COVID-19の治療および予防を目的に、リジェネロンとロシュが共同開発しているREGN-COV2抗体併用療法(カシリビマブ/イムデビマブ)のデータのローリングレビューを開始した[13][14]。2021年2月、CHMPは、REGN-COV2として知られるこの合剤を、酸素補充を必要とせず、重度のCOVID-19に進行するリスクが高い人々に対する確証したCOVID-19治療に使用できると結論付けた[15]。
2021年5月5日、インドの中央医薬品標準規制機構(CDSCO)は、ロシュ(ジェネンテック)[16]とリジェネロン[17]に対し、カシリビマブ/イムデビマブカクテルを国内で使用するための緊急使用許可を与えた。この発表は、インドにおけるCOVID-19パンデミックの第2波を鑑みて行われた。ロシュ・インディアはシプラとの提携関係を持ち、シプラが同国内で本剤を販売することを認めた[18]。
2021年7月19日、日本においてロシュ傘下の中外製薬が承認申請していたカシリビマブとイムデビマブの抗体カクテル「ロナプリーブ」を厚生労働省が特例承認。世界で初めての正式承認であり[19]、軽症患者に対して使用可能な日本国内初の治療薬となった。[20]
展開
[編集]REGEN-COVは、ニューヨーク州レンセラーにあるリジェネロンの米国主要製造拠点で製造されている[21]。2020年9月、REGEN-COVの製造能力を有効活用するため、リジェネロンは既存製品の製造をレンセラーからアイルランドの都市リムリックに移し始めた[22]。
リジェネロンは、ロシュ(ジェネンテック)と[23]、米国外でREGEN-COVを製造および販売する契約を締結している[11][24]。
社会と文化
[編集]2020年10月2日、リジェネロンは、米国のドナルド・トランプ大統領がSARS-CoV-2検査で陽性となった後、『REGN-COV2を8 g単回投与した』と発表した[25][26]。この薬は、大統領の主治医からの「人道的使用」(一時的な使用許可)の要請に応えて、同社が提供したものである[25]。
脚注
[編集]- ^ a b c d “Casirivimab injection, solution, concentrate Imdevimab injection, solution, concentrate REGEN-COV- casirivimab and imdevimab kit”. DailyMed. 18 March 2021閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q "Coronavirus (COVID-19) Update: FDA Authorizes Monoclonal Antibodies for Treatment of COVID-19". U.S. Food and Drug Administration (FDA) (Press release). 21 November 2020. 2020年11月21日閲覧。 この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
- ^ Kelland, Kate (14 September 2020). “Regeneron's antibody drug added to UK Recovery trial of COVID treatments”. Reuters 14 September 2020閲覧。
- ^ “Regeneron's COVID-19 Response Efforts”. Regeneron Pharmaceuticals. 14 September 2020閲覧。
- ^ Morelle, Rebecca (14 September 2020). “Antibody treatment to be given to Covid patients”. BBC News Online 14 September 2020閲覧。
- ^ “Safety, Tolerability, and Efficacy of Anti-Spike (S) SARS-CoV-2 Monoclonal Antibodies for Hospitalized Adult Patients With COVID-19”. ClinicalTrials (3 September 2020). 14 September 2020閲覧。
- ^ Baum A, Fulton BO, Wloga E, Copin R, Pascal KE, Russo V, Giordano S, Lanza K, Negron N, Ni M, Wei Y, Atwal GS, Murphy AJ, Stahl N, Yancopoulos GD, Kyratsous CA (August 2020). “Antibody cocktail to SARS-CoV-2 spike protein prevents rapid mutational escape seen with individual antibodies”. Science 369 (6506): 1014–1018. Bibcode: 2020Sci...369.1014B. doi:10.1126/science.abd0831. PMC 7299283. PMID 32540904 .
- ^ a b c “Fact Sheet For Health Care Providers Emergency Use Authorization (EUA) Of Casirivimab And Imdevimab” (PDF). U.S. Food and Drug Administration (FDA). 2021年7月1日閲覧。
- ^ “RECOVERY COVID-19 phase 3 trial to evaluate Regeneron's REGN-COV2 investigational antibody cocktail in the UK”. Recovery Trial. 14 September 2020閲覧。
- ^ “Phase III prevention trial showed subcutaneous administration of investigational antibody cocktail casirivimab and imdevimab reduced risk of symptomatic COVID-19 infections by 81%”. streetinsider.com. 2021年4月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年4月12日閲覧。
- ^ a b c "Regeneron Reports Positive Interim Data with REGEN-COV Antibody Cocktail used as Passive Vaccine to Prevent COVID-19" (Press release). Regeneron Pharmaceuticals. 26 January 2021. PR Newswireより2021年3月19日閲覧。
- ^ “Casirivimab and Imdevimab”. Regeneron Pharmaceuticals. 19 March 2021閲覧。
- ^ "EMA starts rolling review of REGN‑COV2 antibody combination (casirivimab / imdevimab)" (Press release). European Medicines Agency (EMA). 1 February 2021. 2021年2月1日閲覧。 Text was copied from this source which is © European Medicines Agency. Reproduction is authorized provided the source is acknowledged.
- ^ "EMA reviewing data on monoclonal antibody use for COVID-19" (Press release). European Medicines Agency (EMA). 4 February 2021. 2021年3月4日閲覧。
- ^ "EMA issues advice on use of REGN-COV2 antibody combination (casirivimab / imdevimab)" (Press release). European Medicines Agency (EMA). 26 February 2021. 2021年3月5日閲覧。 Text was copied from this source which is © European Medicines Agency. Reproduction is authorized provided the source is acknowledged.
- ^ “Genentech and Regeneron Collaborate to Significantly Increase Global Supply of REGN-COV2 Investigational Antibody Combination for COVID-19”. Business Wire (19 August 2020). 8 June 2021閲覧。
- ^ “India approves Roche/Regeneron antibody cocktail to treat Covid-19 - India News”. The Times of India (5 May 2021). 8 June 2021閲覧。
- ^ “Roche receives Emergency Use Authorisation in India for its investigational Antibody Cocktail (Casirivimab and Imdevimab) used in the treatment of Covid-19”. Cipla. 2021年5月6日閲覧。
- ^ 日本にはEUAのような緊急使用制度が存在しない。
- ^ “中外製薬ロナプリーブ「コロナ第4の薬」の正体 | 新型コロナ、長期戦の混沌”. 東洋経済オンライン (2021年7月24日). 2021年9月27日閲覧。
- ^ Williams, Stephen (3 October 2020). “Experimental drug given to President made locally”. The Daily Gazette
- ^ Stanton, Dan (11 September 2020). “Manufacturing shift to Ireland frees up US capacity for Regeneron's COVID antibodies”. BioProcess International
- ^ “Genentech and Regeneron Collaborate to Significantly Increase Global Supply of REGN-COV2 Investigational Antibody Combination for COVID-19” (19 August 2020). 2021年7月1日閲覧。
- ^ “Roche and Regeneron link up on a coronavirus antibody cocktail”. (19 August 2020) 14 September 2020閲覧。
- ^ a b Thomas, Katie (2 October 2020). “President Trump Received Experimental Antibody Treatment”. The New York Times. ISSN 0362-4331 2 October 2020閲覧。
- ^ Hackett DW (3 October 2020). “8-Gram Dose of COVID-19 Antibody Cocktail Provided to President Trump”. www.precisionvaccinations.com. オリジナルの3 October 2020時点におけるアーカイブ。
外部リンク
[編集]- “Casirivimab”. Drug Information Portal. U.S. National Library of Medicine. 2021年7月1日閲覧。
- “Imdevimab”. Drug Information Portal. U.S. National Library of Medicine. 2021年7月1日閲覧。
- “Casirivimab and Imdevimab EUA Letter of Authorization” (PDF). U.S. Food and Drug Administration (FDA). 2021年7月1日閲覧。
- “Frequently Asked Questions on the Emergency Use Authorization of Casirivimab + Imdevimab” (PDF). U.S. Food and Drug Administration (FDA). 2021年7月1日閲覧。