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カコジル酸

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
カコジル酸
Structural formula
Ball-and-stick model{{{画像alt1}}}
識別情報
CAS登録番号 75-60-5 チェック
PubChem 2513
ChemSpider 2418 チェック
UNII AJ2HL7EU8K チェック
EC番号 200-883-4
DrugBank DB02994
KEGG C07308 チェック
ChEBI
RTECS番号 CH7525000
特性
化学式 C2H7AsO2
モル質量 137.9977 g/mol
外観 白色結晶または粉末
密度 1.1 g/cm3以上
融点

192 -198 ℃

沸点

200 ℃以上

への溶解度 667 g/l
酸解離定数 pKa 6.3
危険性
安全データシート(外部リンク) External MSDS
EU分類 猛毒 T+
Rフレーズ R26/27/28, R40
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

カコジル酸Cacodylic acid)またはジメチルアルシン酸Dimethylarsinic acid)は化学式 (CH3)2AsO2H で表される有機ヒ素化合物両性である[1]。カコジル酸塩は除草剤として多く用いられ、カコジル酸とカコジル酸ナトリウムの混合物ベトナム戦争において枯葉剤 (青)(Agent Blue)として使用された。カコジル酸ナトリウムは生体試料を電子顕微鏡のために調製、固定する際の緩衝液としてよく用いられる[2]

歴史

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1760年、ルイ・クロード・カデ・ド・ガシクール三酸化二ヒ素 As2O3 と4当量の酢酸カリウム CH3CO2K を化合させ、酸化カコジル ((CH3)2As)2Oカコジル ((CH3)2As)2 を含む“カデの発煙液体”と呼ばれる赤色液体を合成した。これが最初に合成された有機金属化合物であると考えられている[3]

カコジル類の初期の重要な研究はマールブルク大学ロベルト・ブンゼンによってなされた。ブンゼンは化合物について「この物質のにおいは瞬時に手足のうずき、さらには、めまいや失神をもたらす。これらの匂いに晒されると他の悪影響が顕れなくても舌が黒い膜で覆われることが特徴である」と述べた。彼のこの分野の研究はメチルラジカルに対する知見を深めることにつながった。その後、ブンゼンはカコジルの爆発に巻き込まれて右目を失明した。

カコジル酸およびその塩は多種多様な製造業者および商品名において除草剤に配合された。APCホールディングス社はカコジル酸とその塩を“Phytar”の商品名で発売した[4]枯葉剤 (青)としてベトナムで使用されたものは Phytar 560G である[5]

合成と反応

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酸化カコジルの過酸化水素などによる酸化または三ハロゲン化ジメチルヒ素の加水分解によりカコジル酸を調製する[1]

カコジル酸を還元してできるジメチルアルシン(III)は有機ヒ素化合物合成における汎用性の高い中間体である[6][7]

身体への影響

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カコジル酸は、経口摂取、吸入または皮膚接触により高い毒性を有する。かつては無機ヒ素解毒の副産物と考えられていたが、今日ではカコジル酸自体が健康への深刻な影響を持っていると考えられている。げっ歯類に対して催奇性があることが示されており、高用量において口蓋裂死産を高頻度に引き起こす。ヒト細胞において遺伝子毒性があることが示されており、アポトーシスやDNA産生の減少、複製DNA鎖の短縮を引き起こす。カコジル酸自体に強い発がん性はないが、発がん性物質存在下において腎臓や肝臓などの臓器の腫瘍生成を促進する。

関連項目

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出典

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  1. ^ a b 『化学大辞典』東京化学同人、1989年。ISBN 978-4807903238 
  2. ^ よくわかる電子顕微鏡技術 p6
  3. ^ Seyferth, D. (2001). “Cadet's Fuming Arsenical Liquid and the Cacodyl Compounds of Bunsen”. Organometallics 20 (8): 1488–1498. doi:10.1021/om0101947. 
  4. ^ Stanley A. Greene (2005). Sittig's Handbook of Pesticides and Agricultural Chemicals. William Andrew. p. 132. ISBN 978-0-8155-1903-4. https://books.google.co.jp/books?id=hAoKEHpyu6wC&pg=PA132&redir_esc=y&hl=ja 
  5. ^ Committee to Review the Health Effects in Vietnam Veterans of Exposure to Herbicides; Institute of Medicine (1994). Veterans and Agent Orange: Health Effects of Herbicides Used in Vietnam. National Academies Press. pp. 89-90. ISBN 978-0-309-55619-4. https://books.google.co.jp/books?id=RjCHcoUE3B8C&pg=PA89&redir_esc=y&hl=ja 
  6. ^ Feltham, R. D.; Kasenally, A. and Nyholm, R. S., "A New Synthesis of Di- and Tri-Tertiary Arsines", Journal of Organometallic Chemistry, 1967, volume 7, 285-288.
  7. ^ Burrows, G. J. and Turner, E. E., "A New Type of Compound containing Arsenic", Journal of the Chemical Society Transactions, 1920, 1374-1383
  • Kenyon, E. M.; Hughes, M. F. (2001). “A Concise Review of the Toxicity and Carcinogenicity of Dimethylarsenic Acid”. Toxicology 160 (1-3): 227–236. doi:10.1016/S0300-483X(00)00458-3. 
  • Elschenbroich, C; Salzer, A. (1992) Organometallics, 2nd Edition
  • Bunsen Biography
  • 平野寛 ・宮澤七郎(監修) 著、医学・生物学電子顕微鏡技術研究会 編『よくわかる電子顕微鏡技術』朝倉書店、1992年。ISBN 978-4254300444 

外部リンク

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