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オーロックス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
オーロックス
保全状況評価[1]
EXTINCT
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
亜綱 : 獣亜綱 Theria
下綱 : 真獣下綱 Eutheria
上目 : ローラシア獣上目 Laurasiatheria
: 鯨偶蹄目 Cetartiodactyla
亜目 : ウシ亜目(反芻亜目) Ruminantia
: ウシ科 Bovidae
亜科 : ウシ亜科 Bovinae
: ウシ属 Bos
: オーロックス B. primigenius
学名
Bos primigenius Bojanus, 1827
シノニム

Bos mauretanicus Thomas, 1881
Bos namadicus Falconer, 1859

和名
オーロックス
英名
Aurochs、Urus
下位分類群(亜種
本文を参照

オーロックス (: Aurochs学名: Bos primigenius) は、ウシ科ウシ属に属するウシの一種。家畜牛の祖先であり、子孫であるコブ無し系家畜牛やコブウシは全世界で飼育されているが、野生種としてのオーロックスは1627年に世界で最後の1頭がポーランドで死んで絶滅した。

形態

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体格は体長約250–310 cm、体高約140–185 cm、体重約600–1000 kg。体色はオスが黒褐色または黒色、メスは褐色は大きく滑らかで、長さは80 cmほどとされる。

名称

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英語でこの動物をさす名称として使われるものに "aurochs" や "urus" があるが、前者はこの動物を指すドイツ語に、後者は同じくラテン語に由来する。600年頃のセビリアイシドールス大司教によれば、"urus" はを意味するギリシャ語όροςに由来するという[2]。また、本来はバイソンをさす "wisent" という誤称もよく使われるが、バイソンとオーロックスは非常に古くから混同されてきた事実がその背景にある。ユリウス・カエサルガリア遠征のさいにオーロックスを「ゾウよりはいくぶん小さく、姿形や色はウシによく似ている」と記述した頃にはバイソンとオーロックスはそれぞれ "bonasus"、 "urus" として明確に区別されていたが[3]、それから約1世紀後の大プリニウスの『博物誌』ではすでに「人々がバイソンとオーロックスを混同する」と嘆いている[4]。この傾向はバイソンとオーロックスが双方とも個体数を減らしどんどん身近でなくなることで拍車がかかり、ついには両者が別の動物であることすら忘れ去られるに至る[5]

また学名としては、家畜種は野生種の学名を使うという慣習から、かつて Bos taurus という学名を与えていた家畜牛と、おなじく学名をBos indicus とされたコブウシについては、その祖先であるオーロックスとおなじ Bos primigenius という学名を使用する傾向にある[6]。特に家畜種を指すと明確にしたい場合には亜種として B. p. taurusB. p. indicus とするか、旧例通り Bos taurusBos indicus とする。学名として家畜牛に与えられた Bos taurus とオーロックスの Bos primigenius ではより古い名称は Bos taurus であるため、両者が同一種とされた場合の学名の優先権は本来ならば Bos taurus にあった。しかし、野生種に家畜種の学名を持ち込むことは大きな混乱を引き起こすと判断されたため、2003年動物命名法国際審議会が強権を発動し、優先権は Bos primigenius が持つこととなった[7](Opinion 2027)。

下位分類

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オーロックスとステップバイソンの交配とヨーロッパバイソンに至る遺伝上の系譜図

絶滅したオーロックスには、次の3亜種があったとされている。これらは、上記の亜種としての家畜種とは別である。

ウシ科の動物は自然界においても別種同士で繰り返し交配してハイブリッドを生み出してきた経緯があり、各種の遺伝上の系統や関係を明瞭にする事が困難になっている[8]。例えばヨーロッパバイソンコーカサスバイソンは北米に流入したステップバイソンの子孫がユーラシア大陸に復帰した後に、雌のオーロックスとの間になしたハイブリッド種「ヒッグスバイソン」(ヒッグス粒子の英語名 Higgs Boson に掛けた命名)の子孫であるとされる[9][10][11][12]

歴史

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生息当時の各亜種の分布図
Bos primigenius primigenius
Bos primigenius mauretanicus
Bos primigenius namadicus

およそ200万年前にインド周辺で進化したと考えられている。原牛(Bos primigenius)は第四紀初頭のうちに中東に分布を広げ、ヨーロッパに到達したのはおよそ25万年前であるとされる[13]更新世末期(1万1000年前)にはヨーロッパアジア北アフリカなどの広い範囲に分布しており[14]、1万5000年前のラスコー洞窟の壁画にもオーロックスが描かれている。

日本列島では岩手県の花泉遺跡からオーロックスの化石が発見されている[15]。ただし、2007年の花泉産脊椎動物化石リストではオーロックスの記録は除外されている[16]

絶滅

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かつてはユーラシア全体および北アフリカで見られたが、生息していた各地で開発による生息地の減少や食用などとしての乱獲家畜化などによってオーロックスは消滅していった。南アジアでは歴史時代の比較的早期に姿を消し、また、メソポタミアでもペルシア帝国が成立する時代にはすでに絶滅していたと見られる。北アフリカでも古代エジプトの終焉と同時期にやはり姿を消している[17]中世にはすでに現在のフランスドイツポーランドなどの森林にしか見られなくなっていた。16世紀には各地にオーロックス禁猟区ができたが、それは諸侯が単に自らの趣味・道楽として狩猟する分を確保するために設けたものでしかなかったため、獲物を獲り尽くすとともに閉鎖された。最後に残ったのはポーランド首都ワルシャワ近郊のヤクトルフ(Jaktorów)にある保護区であったが、そこでも密猟によって数は減り続け、1620年には最後の1頭となってしまった。その1頭も1627年に死亡が確認され、オーロックスは絶滅した[注 1]

復元の試み

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その後、1920年代よりドイツ人の兄弟ルッツ・ヘック英語版(1892年-1983年)とハインツ・ヘック英語版(1894年-1982年)がベルリンおよびミュンヘン動物園において、現存するウシの中からオーロックスに近い特徴をもつものを交配させオーロックスの姿を甦らせようと試みた[18]。作出は1932年に成功し、その個体の子孫は現在もドイツの動物園で飼育・展示されている。このウシは体形や性質はオーロックスに近いものの体格はいくぶん小柄で、作出に携わった当時の動物園長のルッツ・ヘック(ドイツ人動物学者)のを採って「ヘックキャトル英語版」とも呼ばれる。近年ではオランダで遺伝情報や近似種の交配によって復元させようと研究が行われている[19]

ギャラリー

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脚注

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  1. ^ スウェーデン王立武器庫の収蔵品に、最後のオーロックスの角で作ったという酒盃がある。

出典

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  1. ^ Tikhonov, A. (2008). "Bos primigenius". IUCN Red List of Threatened Species. Version 2008. International Union for Conservation of Nature. 2008年1月5日閲覧
  2. ^ 世界動物発見史 1988, p. 145.
  3. ^ 地上から消えた動物 1983, p. 57.
  4. ^ 地上から消えた動物 1983, p. 59.
  5. ^ 世界動物発見史 1988, p. 147.
  6. ^ 動物大百科4 1986, p. 112.
  7. ^ ICZN (31 March 2003). “Opinion 2027 (Case 3010): Usage of 17 specific names based on wild species which are pre-dated by or contemporary with those based on domestic animals (Lepidoptera, Osteichthyes, Mammalia): conserved”. Bulletin of Zoological Nomenclature 60 (1): 81–84. https://www.biodiversitylibrary.org/page/34357823#page/97/mode/1up. 
  8. ^ Buntjer, J B; Otsen, M; Nijman, I J; Kuiper, M T R; Lenstra, J A (2002). “Phylogeny of bovine species based on AFLP fingerprinting” (英語). Heredity 88 (1): 46–51. doi:10.1038/sj.hdy.6800007. PMID 11813106. 
  9. ^ Soubrier, Julien; Gower, Graham; Chen, Kefei; Richards, Stephen M.; Llamas, Bastien; Mitchell, Kieren J.; Ho, Simon Y. W.; Kosintsev, Pavel et al. (18 October 2016). “Early cave art and ancient DNA record the origin of European bison” (英語). Nature Communications 7: 13158. doi:10.1038/ncomms13158. ISSN 2041-1723. PMC 5071849. PMID 27754477. オリジナルの2017-04-19時点におけるアーカイブ。. https://www.nature.com/articles/ncomms13158. 
  10. ^ The Higgs Bison - mystery species hidden in cave art” (英語). The University of Adelaide (19 October 2016). 13 January 2017閲覧。
  11. ^ Palacio, Pauline; Berthonaud, Véronique; Guérin, Claude; Lambourdière, Josie; Maksud, Frédéric; Philippe, Michel; Plaire, Delphine; Stafford, Thomas et al. (2017-01-01). “Genome data on the extinct Bison schoetensacki establish it as a sister species of the extant European bison (Bison bonasus )” (英語). BMC Evolutionary Biology 17 (1): 48. doi:10.1186/s12862-017-0894-2. ISSN 1471-2148. PMC 5303235. PMID 28187706. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5303235/. 
  12. ^ Marsolier-Kergoat, Marie-Claude; Palacio, Pauline; Berthonaud, Véronique; Maksud, Frédéric; Stafford, Thomas; Bégouën, Robert; Elalouf, Jean-Marc (2015-06-17). “Hunting the Extinct Steppe Bison (Bison priscus ) Mitochondrial Genome in the Trois-Frères Paleolithic Painted Cave” (英語). PLOS ONE 10 (6): e0128267. doi:10.1371/journal.pone.0128267. ISSN 1932-6203. PMC 4471230. PMID 26083419. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4471230/. 
  13. ^ Telefon (18 May 2011). “Bos primigenius” (英語). www.nhm.uio.no. オスロ: Naturhistorisk museum(オスロ大学付属自然史博物館). 2020年7月31日閲覧。
  14. ^ 動物大百科10 1987, p. 30.
  15. ^ 黒沢弥悦(奥州市牛の博物館)「モノが語る牛と人間の文化 ②岩手の牛たち」(pdf)『LIAJ News』第109号、家畜改良事業団、2008年3月25日、29-31頁。 
  16. ^ 高橋啓一, 楊平, 2019年, 中国黒竜江省ハルビン市周辺のマンモス動物群を訪ねて-中国東北地域の後期更新世哺乳動物群から日本のマンモス動物群を考える, 化石研究会会誌, Vol.51(2), 第43-52頁, 化石研究会
  17. ^ 絶滅動物データファイル 2002, p. 184.
  18. ^ 知られざる歴史:ナチスは絶滅種の動物を復元するプロジェクトを行い、それを成功させていた。”. カラパイア. 2020年7月31日閲覧。
  19. ^ 野生絶滅から1世紀、欧州のバイソン再野生化へ:オランダで4頭を野生復帰、現代に調和した新しい「野生」目指す”. natgeo.nikkeibp.co.jp. 日経ナショナル ジオグラフィック社 (2016年3月28日). 2020年7月31日閲覧。

参考文献

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関連項目

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