オートギヤシフト
オートギヤシフト(AGS; Auto Gear Shift)は、スズキが開発した自動車用の有段自動変速機で[1]、同社の登録商標(第5739263号)である。マニュアルトランスミッション(手動変速機、MT)のクラッチ操作と変速操作が自動化され、運転手が介入する必要がないオートメイテッドマニュアルトランスミッション(AMT)に分類される。5段仕様の5AGSと6段仕様の6AGSがある。自動変速システムはイタリアのマニエッティ・マレリ(現マレリ)社によるもの。
インド市場(マルチ・スズキ・インディア)では当初EZ Driveと呼ばれていた[2]。
基本構造はシングルクラッチのマニュアルトランスミッション(MT)であるが、クラッチ操作および変速操作を電動油圧式のアクチュエーターにより自動で行うため、これらの操作を必要とせず、オートマチック限定免許でも運転することができる[1]。一般的にはAMT(オートメイテッドマニュアルトランスミッション)と呼ばれる[1]。他のAMTとの違いとして、オートマチックトランスミッション(AT)や無段変速機(CVT)のようにPレンジやクリープ現象を備えており、基本構造はMTであるが操作方法はATやCVTとほとんど変わらない。
2014年2月5日にインド市場向けに発表された小型乗用車、スズキ・セレリオに初めて採用された[3]。日本国内市場では、2014年8月26日発売の軽トラック、キャリイに初搭載された[4]。その後もスズキの軽自動車に積極的に搭載されていき、コンパクトカー等にも搭載されている他、最近ではストロングハイブリッド車の駆動システムとして改良し搭載されている。
2015年には、マニエッティ・マレリとスズキ、マルチ・スズキの合弁会社(Magneti Marelli Powertrain India Private、2007年設立)でインドにAMT製造のための新工場を建設した[5]。
日本国内では2018年頃に最大9車種が搭載していたが2020年代に入ってから搭載車種が減少傾向にあり、2024年現在ではソリオ、ソリオバンディットの2車種のみ設定され、軽自動車においてはラインナップから消滅している[1]。
利点と欠点
[編集]コンピュータで制御された電動油圧式アクチュエーターにより、シフトチェンジ・クラッチ操作を自動で行うため、一体型コントローラーによりプログラミングされた適切なタイミングで操作が行われる。これにより、MT車で起こりがちなエンジンの無駄な空ぶかしやガソリン消費がなくなる。また、流体を通して動力を伝えるトルクコンバータ式ATと異なりクラッチを介して動力を伝えるため、伝達損失が無く、結果としてMTやATに比べ燃費がよいとされている[注釈 1]。スズキは、AT車の手軽な操作で運転でき、かつMT車のようにダイレクト感のある走りを兼ね備えた理想のトランスミッションと述べた。例として、キャリイにおいては5速MTベースのAGS搭載によりそれまで採用されていた3速ATと比べ、高速走行時のエンジン回転数を低く抑えることができ、その分静粛性に優れるといった点もある[7]。トランスミッションの重量は基のMTの10 kg増で[8]、CVTと比較すると20 - 30%軽い[9]。
一方AMTの弱点として、変速ショックが大きい、運転しにくい、ギクシャクするといった声や、急発進する、ギヤが入らない等の問題点も挙げられている[10]。変速ショックの対策として2nd発進モードを備えた車種も存在する。
採用車種の一覧
[編集]- スズキ・セレリオ 2014年 - 現在
- スズキ・キャリイ 2014年 - 2022年
- スズキ・アルト 2014年 - 2021年
- スズキ・エブリイ 2015年 - 2024年
- 三菱・ミニキャブ 2015年 - 2019年
- 日産・NV100クリッパー 2015年 - 2024年
- マツダ・スクラム 2015年 - 2024年
- マルチスズキ・ワゴンR/スティングレー 2015年 - 現在(排気量1,000 cc)
- スズキ・アルトラパン 2015年 - 2020年
- スズキ・ソリオ 2016年 - 2020年、2022年 - (ハイブリッド専用)
- 三菱・デリカD:2 2016年 - 2020年(ハイブリッド専用)
- スズキ・ソリオバンディット 2016年 - 2020年(ハイブリッド専用)
- スズキ・イグニス 2016年 - 現在(インド、インドネシア、欧州、南アフリカ仕様)
- スズキ・ビターラブレッツァ 2016年 - 2020年
- スズキ・スイフト 2017年 - 現在(日本市場はハイブリッド専用で2021年に廃止)
- スズキ・ディザイア 2017年 - 現在
- スズキ・エスプレッソ 2019年 - 現在
- スズキ・バレーノ 2022年 -
- スズキ・エスクード 2022年 - (ハイブリッド専用)
- スズキ・ビターラ 2022年 - (ハイブリッド専用)
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 8代目スズキ・アルト(前輪駆動モデル)のWLTCモード燃費は、CVT車(車両重量650 kg)が25.8 km/L、5AGS車(620 kg)が25.4 km/L、MT車(610 kg)が24.8 km/Lであった[6]。
出典
[編集]- ^ a b c d “クラッチおよびシフト操作を自動で行う新トランスミッション「オートギヤシフト」(AGS)”. スズキ. 2024年2月29日閲覧。
- ^ “Maruti Celerio EZ Drive automatic review, test drive”. Autocar India (2014年1月25日). 2022年10月26日閲覧。
- ^ 佐久間 秀 (2014年2月6日). “スズキ、第12回インド・オートエクスポに「CELERIO」「Concept CIAZ」を出展”. Car Watch. 2022年10月26日閲覧。
- ^ 小林 隆 (2014年8月26日). “スズキ、軽トラック「キャリイ」に新トランスミッション「オートギヤシフト(AGS)」搭載モデル”. Car Watch. 2022年10月21日閲覧。
- ^ 森脇稔 (2015年10月26日). “伊マニエッティマレリ、スズキのインド合弁とセミAT新工場を開業”. Response. 2022年10月27日閲覧。
- ^ “アルト 8代目 諸元表”. スズキ. 2022年10月28日閲覧。
- ^ グーネットマガジン編集部 (2020年1月8日). “【スズキ】MTの進化形、AGS(オートギアシフト)のメリットとは”. グーネットマガジン. 2022年10月21日閲覧。
- ^ 鈴木慎一 (2021年8月8日). “アルトワークスでも選べるAGSって? 5速MTではなく5速AGSを選ぶメリットはある?”. Motor-Fan TECH. 2022年10月28日閲覧。
- ^ 佐藤耕一 (2021年5月6日). “小型車のハイブリッド化に向けた、新開発「トランスミッション(自動MT)」の可能性とは~現場のエンジニアに訊く電気自動車の最前線”. minsaku. 2022年10月28日閲覧。
- ^ MHO (2022年2月15日). “ギヤが入らなくて走れない?不具合多いスズキのAGSは何故誕生した?”. MHO ENGINEERING. 2022年10月21日閲覧。