エルロンの車両
この項目では、エストニア国内で旅客列車を運行する国有会社のエルロン(エストニア語: Elron)[注釈 1]が2019年の時点で所有している電車および気動車について解説する。これらは社名変更前のエレクトリラウッテー(エストニア語: Elektriraudtee)時代の2012年から導入され、それまで使用していたソ連国鉄時代の電車・気動車を全て置き換えた。形式は電車が1300形・1400形、気動車が2200形・2300形・2400形である[1][2][3][4][5]。
概要
[編集]2010年8月、エレクトリラウッテーは老朽化が進んだ旧ソ連国鉄の電車・気動車を全面的に置き換えるためにスイスのシュタッドラー・レールと契約を交わし、シュタッドラーが世界規模で展開する鉄道車両ブランドであるFLIRTを導入する事を発表した。内訳は電車が18編成、気動車が20編成で、エストニア独立後最大規模の鉄道車両発注案件となった[1][2][4][6][7]。
多くのFLIRTが導入されているヨーロッパ各国の鉄道よりも建築限界が大きい旧ソ連国鉄の基準に合わせて、全幅(3,500 mm)や全高(4,500 mm)はそれらの車両よりも大きく設計されており[注釈 2]、座席配置についても3列+2列のクロスシートとなっている。また充電用のコンセントが各座席の壁際に設置されている他、wi-fi通信も可能である。運転台付近を除いた車内の70%は床上高さ580 mmの超低床構造となっており、車椅子用乗降スロープやバリアフリー対応トイレ、自転車用フロアなど様々な利用客に適した設計となっている。またFLIRTの導入に併せ、エストニアの各旅客駅のプラットホームの高さがそれまでの1,100 - 1,300 mmから550 mmにまで下げられている[1][2][6][8][9]。
各編成の車両番号は電車・気動車の区別なく通し番号となっている他、エストニア各地の地名にちなんだ愛称が付けられている。また電車編成と気動車編成は連結し協調運転が可能な設計となっている[3][9]。
営業運転への導入は2013年から2014年にかけて行われ、旧型車両は全て置き換えられた。また前述のプラットホーム改良など施設の刷新も行われた結果、エルロンの利用客数は2014年6月の時点でFLIRT導入前から約50%も増加した[1][2][3][4][6]。
電車
[編集]エルロン1300形電車 エルロン1400形電車 | |
---|---|
4車体連接車の1400形(1401) | |
基本情報 | |
運用者 | エルロン |
製造所 | シュタッドラー・レール |
製造年 | 2012年 - 2013年 |
製造数 |
12編成(1300形) 6編成(1400形) |
運用開始 | 2013年1月7日 |
主要諸元 | |
編成 |
3車体連接車(1300形) 4車体連接車(1400形) |
軌間 | 1,520 mm |
電気方式 |
直流3,000 V (架空電車線方式) |
設計最高速度 | 160 km/h |
編成定員 |
1300形 着席196人 立席162人 1400形 着席274人 立席223人 |
車両重量 |
1300形 119 t 1400形 139 t |
編成長 |
1300形 57,750 mm 1400形 75,040 mm |
全幅 | 3,500 mm |
全高 | 4,500 mm |
床面高さ |
580 mm 1,170 mm(先頭部分) |
車輪径 | 860 mm |
編成出力 | 2,600 kw |
定格出力 | 2,000 kw |
備考 | 主要数値は[2][3][4][7][10]に基づく。 |
エストニア国内の電化区間用に導入された電車。3車体連接編成には"1300形"、4車体連接車には"1400形"の形式名が付けられている。車体構造は広軌(1,520mm)路線であるヘルシンキ近郊列車向けに製造されたSm5形電車を基に設計され、電気機器はポーランドやイタリアなど直流3,000 V路線に導入された電車タイプのFLIRTと同様の構造となっている[2][10]。
2012年11月17日に最初の編成(1401編成)が到着し、試験運転が行われた後、2013年1月7日から営業運転を開始した。同年中に全車両の製造が完了している[6]。
-
3車体連接車の1300形(1324編成)
-
車内
気動車
[編集]エルロン2200形気動車 エルロン2300形気動車 エルロン2400形気動車 | |
---|---|
4車体連接車の2300形(2314) | |
基本情報 | |
運用者 | エルロン |
製造所 | シュタッドラー・レール |
製造年 | 2012年 - 2014年 |
製造数 |
6編成(2200形) 8編成(2300形) 6編成(2400形) |
運用開始 | 2014年1月1日 |
主要諸元 | |
編成 |
3車体連接車(2200形) 4車体連接車(2300形) 5車体連接車(2400形) |
軌間 | 1,520 mm |
設計最高速度 | 160 km/h |
編成定員 |
2200形 着席105人(一等席16人、二等席89人) 立席99人 2300形 着席161人(一等席24人、二等席137人) 立席154人 2400形 着席214人(一等席70人、二等席144人) 立席211人 |
車両定員 |
2200形 116 t 2300形 136 t 2400形 159 t |
編成長 |
2200形 45,750 mm 2300形 59,895 mm 2400形 74,320 mm |
全幅 | 3,500 mm |
全高 | 4,500 mm |
床面高さ |
580 mm 1,170 mm(先頭部分) |
車輪径 | 860 mm |
固定軸距 |
2,700 mm(動力台車) 2,750 mm(付随台車) |
機関 | CUMMINS QSK23 |
機関出力 | 671 kw |
編成出力 | 1,342 kw |
備考 | 主要数値は[2][3][4][7][8][11]に基づく。 |
エストニア国内の非電化区間用に導入した車両。2012年12月10日に最初の編成(2404編成)がエストニアに到着した[3]。
FLIRTで初めて気動車方式を採用し、同じくシュタッドラーが世界規模で展開するGTWで採用された、ディーゼルエンジンなど主要機器を搭載したパワーパック(Powerpack)と呼ばれる小型車両を1両中間に挟み、その両側に旅客用車体を繋ぐ連接式列車となっているのが特徴である。編成両数によって形式が分かれており、パワーパックを含む3車体連接車が"2200形"、4車体連接車が"2300形"、5車体連接車が"2400形"である。なお2300形と2400形の中間車体は電車(1300形、1400形)よりも全長が短い[8]。
長距離利用を考慮し、各形式には2列+2列配置の一等席が1箇所(2200形、2300形)、もしくは2箇所(2400形)に設けられており、外見からは窓上の黄帯で判別する事が出来る。二等席とはコンセントの位置が異なっており、各座席には手すり部分に存在する[8]。
エンジンとしてパワーパック内にカミンズ製のQSK23(671 kw)が2基搭載されており、これを用いてABB製のIGBT素子を用いたCC750DE形発電機を稼働させ、発生した電力は電動機や車内電源に用いられる他、電気ブレーキにも使用される。加えて5車体連接式の2400形では各先頭車の屋根上に設置されたスーパーキャパシタへの充電が行われ、加速時に400 kwの電力を供給する事で燃料費の削減を図る。また緊急時に備えてパワーパックには消火システムが完備されている[8][12]。
営業運転は2014年1月1日から始まり、同年までに全編成の納入が完了した。非電化区間の他、旧型気動車から受け継いだ電化区間での運用も存在する[6][3][4]。
-
3車体連接車の2200形(2235編成)
-
主要機器を搭載した小型車両"パワーパック"
-
車内の一等席部分
-
2315編成の先頭部
窓上に黄帯が塗られた部分が一等席部分である
導入予定の車両
[編集]2021年、エルロンはチェコのシュコダ・トランスポーテーションとシュコダ・ヴァゴンカのコンソーシアムとの間に、6両の新型電車導入に関する契約を結び、翌2022年にはオプション権を用いて10両の追加発注を実施した。これはチェコやスロバキア向けに製造が行われている「レギオパンター」と呼ばれる車両を基にエルロン向けに設計を変更したもので、直流(3,000 V)・交流(25,000 V、50 Hz)双方に対応した3両編成の交直流電車となる。一等座席32人を含む着席定員236人の長距離用編成(11編成)と二等座席のみで構成された着席定員263人の短距離用編成(5編成)が導入予定で、前者は3300形(3339 - 3347、3349、3350)、後者は4300形(4348、4351 - 4354)という形式番号で区別される一方、シュコダからは21Evという形式名が付けられている。双方とも車椅子やベビーカー、自転車向けのフリースペースが設置される予定になっている他、冬季に座席の一部を取り外しスキー板を搭載する事も可能である。また、車内は空調が完備されており、wi-fi通信にも対応する。エルロンへの納入は2024年夏季以降を予定しており、試運転を経て2025年から2026年にかけて営業運転に投入される事になっている[13][14][15]。
関連項目
[編集]- 軌間1,520 mm(1,524 mm)区間向けのシュタッドラー・レール製の電車
- 軌間1,520 mm(1,524 mm)区間向けのシュコダ製の電車
- シュコダ16Ev - ラトビアのパッサジエル・ヴィリシエ社向けの車両(レギオパンター)[16]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d 38 FLIRT trains in operation in Estonia: Number of passengers increased by 45% Stadler Rail 2014年6月12日 2019年7月22日閲覧
- ^ a b c d e f g 38 FLIRT trains in operation in Estonia: Number of passengers increased by 45% Railcolor 2014年6月18日作成 2019年7月22日閲覧
- ^ a b c d e f g About trains Elron 2019年7月22日閲覧
- ^ a b c d e f Stadler Rail delivers final FLIRT train to Estonia’s Elron RAILWAY TECHNOLOGY 2014年6月18日作成 2019年7月22日閲覧
- ^ Petr Kadeřávek 2013, p. 64-66.
- ^ a b c d e f g h Harald Hepp (2013-1). “Stadler’s 1,520 mm-Gauge Activities” (英語). Railvolution (Railway Builder s.r.o. pages = 36-42) 13 (1).
- ^ a b c Petr Kadeřávek 2013, p. 64.
- ^ a b c d e Petr Kadeřávek 2013, p. 65.
- ^ a b Petr Kadeřávek 2013, p. 66.
- ^ a b Electric low-floor multiple unit FLIRT for Eesti Liinirongid AS (Elron), Estonia - ウェイバックマシン(2014年4月1日アーカイブ分)
- ^ a b Diesel low-floor multiple unit FLIRT Eesti Liinirongid AS (Elron) - ウェイバックマシン(2016年3月4日アーカイブ分)
- ^ “BORDLINE® CC750 DE, energy storage option” (PDF). ABB. 2019年7月22日閲覧。
- ^ “THE ŠKODA TRANSPORTATION GROUP HAS BEEN AWARDED A CONTRACT FOR THE SUPPLY OF MODERN ELECTRICAL UNITS FOR ESTONIA”. ŠKODA TRANSPORTATION (2021年2月8日). 2021年2月18日閲覧。
- ^ “First Elron Panter”. Railvolution (2024年3月23日). 2024年3月26日閲覧。
- ^ “First Estonian RegioPanter in Latvia”. Railvolution (2024年4月22日). 2024年5月8日閲覧。
- ^ “Latvian RegioPanters entered passenger service”. Railvolution (2023年12月15日). 2024年3月26日閲覧。
参考資料
[編集]- Petr Kadeřávek (2013-4). “The First Estonian FLIRTs” (英語). Lococomotive-Inform 4: 64-66.