翼竜 (航空機)
Wing Loong I/翼龙I
成都 GJ-1 翼竜I(簡体字:翼龙I、英語:Wing Loong I)は、中華人民共和国の中航工業成都飛機設計研究所(簡体字:中航工业成都飞机设计研究所、英語表記:Chengdu Aircraft Design Institute、CADI)が設計し、中国航空工業集団有限公司が生産する多用途中高度長時間滞空無人航空機(ドローン)[1][2][3][4]。GJ-1(簡体字:攻击I、英語:Attack-1)とも称される[4][5]。
偵察、攻撃、シギント(信号・電波情報収集)、対テロ・対反乱作戦、非致死性兵器による抑止作戦、麻薬密輸防止、国境パトロール、インフラや災害時の監視を目的に開発された[5]。
派生・発展型も生産されており、2022年に公開された「翼竜III」は、最大で航続距離は1万キロメートル、滞空時間は40時間を超える[6]。
開発
[編集]2004年の珠海エアショーで存在が公表され、2007年10月に試作機が初飛行し、2014年11月に珠海エアショーで中国人民解放軍空軍のラウンデルがマーキングされた機体が公開された[5]。
機体
[編集]流線形の胴体の機首上面にはバルジ部があり衛星通信アンテナが搭載されているものと思われる。機首下部にはEO/IRターレットが取り付けられている。ランディンギアは前輪式である。主翼の翼平面形は高アスペクト比のテーパー翼で中翼配置である。V字配置の尾翼を持つ。推進方式はプッシャー式である。出力100hpのターボチャージャー付ピストンエンジンを1つ搭載する。プロペラの翼の枚数は3枚である。主翼のハードポイントには一対の兵装用パイロンが付けられている[5]。
派生・発展型
[編集]- 翼竜I-D
- 翼竜II
- 翼竜III
- 翼竜10
運用者
[編集]- 中国人民解放軍空軍
- カザフスタン防空軍[7] - 2023年時点で、2機の翼竜Iを保有している[8][9]。
- ウズベキスタン軍[10][11]
- パキスタン軍[12][13][14][15][16]
- サウジアラビア軍[7]
- アラブ首長国連邦軍[7][17][12][18]
- エジプト軍[17][12][19]
- ナイジェリア軍[20]
- インドネシア軍[21]
- セルビア軍[22]
- モロッコ軍[23]
運用
[編集]2013年9月9日、中国方面から国籍不明の無人機1機が尖閣諸島に近い東シナ海上空を飛行して、日本の航空自衛隊のF-15戦闘機がスクランブルを行った[24]際、日本の防衛省は翼竜と推定したことが報じられるも、『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』は自衛隊が撮影した映像ではBZK-005の特徴に一致していると分析している[25]。
2017年、エジプトはシナイ半島での軍事作戦で、翼竜IIを使用してISILを空爆した[26][27]。
2018年、アラブ首長国連邦(UAE)は翼竜IIで、イエメン内戦においてフーシの政治部門指導者サーレハ・アリ・アッ=サンマード最高政治評議会議長の殺害に成功した[28][29]。
2019年12月、イエメンのフーシはサウジアラビアのAH-64 アパッチと翼竜IIを撃墜したと発表した[30]。2019年にイエメンではサウジとUAEのAH-64が7機、翼竜IIとCH-4Bの4機が撃墜されたとされる[30]。
2020年1月、リビア国民軍(LNA)を支援するUAEの翼竜IIがリビアの首都トリポリにあるリビア国民合意政府(GNA)の士官学校を空爆し、26人の士官候補生を殺害したとされる。このドローンはUAEの基地があるリビアのアルカディムから運用されていた[31]。前年2019年から、UAEが調達したものと思われるLNAの翼竜IIとGNAのトルコ製無人攻撃機のバイラクタル TB2が数ヶ月にわたって双方の攻撃に投入されており[32]、同年5月から7月にかけてGNAが持つバイラクタルTB2の12機の半分近くの6機が翼竜IIに破壊され、翼竜IIも1機破壊された[33][34]。
2020年11月に起きたティグレ紛争では、アッサブにあるUAEの基地から出撃した翼竜IIがティグレ州に侵攻するエチオピア政府軍の援軍として展開したエリトリア軍のために空爆を行ったとティグレ人民解放戦線が主張した[35]。
仕様
[編集]翼竜I
[編集]- 全長:9.0m
- 全高:2.8m
- 全幅:14.0m
- 最大離陸重量:1,150kg
- ペイロード:200kg
- 離陸滑走距離:800m
- 実用上昇限度:7,500m
- 最大速度:280km/h
- 航続時間:20時間
- 武装
- センサー
- AVIC Luoyang LE380 EO/IRターレット
- DH-3010 SARレーダー
これらの兵装が選択できる。二つのパイロンに取り付けられる。
関連項目
[編集]出典
[編集]- ^ “中国独自開発の無人機「翼竜」、100機目を納入へ”. 新華社 (2018年12月28日). 2019年9月30日閲覧。
- ^ “兵器も安くて高性能…中国製の軍事用ドローンが欧州進出”. ビジネスインサイダー (2019年9月15日). 2019年9月30日閲覧。
- ^ “尖閣飛来は「翼竜」か 中国軍無人機、空対地ミサイル搭載可能”. 日本経済新聞 (2013年9月13日). 2019年9月30日閲覧。
- ^ a b “平成28年版防衛白書第I部わが国を取り巻く安全保障環境”. 防衛省. 2019年9月30日閲覧。
- ^ a b c d Jane's All The World's Aircraft:Unmanned 2018-2019, IHS Markit, 2018, pp. 28-30
- ^ 「新型ドローン公開 中国が軍事力誇示 広東省の航空ショー」『毎日新聞』朝刊2022年11月9日(経済面)2022年12月3日閲覧
- ^ a b c “Kazakhstan purchases two Chinese Wing-Loong UCAVs” (7 June 2016). IHS Jane's 360. 8 June 2016時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年9月30日閲覧。
- ^ “KADEX 2018: Kazakh Air and Air Defence Forces draw Wing Loong I MALE UAV”. Army Recognition. (2018年5月25日) 2019年7月2日閲覧。
- ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. pp. 179-180. ISBN 978-1-032-50895-5
- ^ “媒体称翼龙无人机已出口阿联酋乌兹别克斯坦” (Chinese). SINA military (15 November 2012). 2019年10月10日閲覧。
- ^ “China sells armed drones to Serbia amid concerns arms deal could destabilise region” (英語). テレグラフ (2019年9月11日). 2019年10月10日閲覧。
- ^ a b c “Chinese-made drone crashes in Pakistan”. Popular Science (22 June 2016). 2019年9月30日閲覧。
- ^ “Is Pakistan Secretly Testing a New Chinese Killer Drone?”. The Diplomat (22 June 2016). 7 November 2016閲覧。
- ^ “[Rahul Bedi]”. China, Pakistan to jointly produce Wing Loong II UAVs, says report (9 October 2018). 9 October 2018時点のオリジナルよりアーカイブ。13 October 2018閲覧。
- ^ “Chinese Wing Loong II drones sold to Pakistan”. Army Recognition (11 October 2018). 2018年10月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。13 October 2018閲覧。
- ^ “China and Pakistan to Jointly Produce 48 Wing Loong II Drones”. Drone Below (11 October 2018). 2018年10月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。13 October 2018閲覧。
- ^ a b “China's Weapons of Mass Consumption”. Foreign Policy (20 March 2015). 2019年9月30日閲覧。 “Since 2011, China has also sold the Wing Loong, an armed drone, to several countries in Africa and the Middle East, including Nigeria, Egypt, and the United Arab Emirates.”
- ^ “UAE revealed as Wing Loong II launch customer”. IHS Jane's 360 (26 January 2018). 26 January 2018時点のオリジナルよりアーカイブ。26 January 2018閲覧。
- ^ “Egypt shows Wing Loong UAV”. IHS Jane's 360 (19 October 2018). 2018年10月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年9月30日閲覧。
- ^ “Nigerian Air Force getting Wing Loong, CH-3 and CH-4 UAVs”. Defence Web (2020年11月12日). 2020年11月13日閲覧。
- ^ “Indonesia acquires four Wing Loong I UAVs from China”. IHS Jane's 360 (25 February 2018). 26 February 2018時点のオリジナルよりアーカイブ。10 March 2018閲覧。
- ^ “Serbia confirms procurement of Chinese UAVs”. IHS Jane's 360 (21 September 2018). 2018年9月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。23 September 2018閲覧。
- ^ Defensa.com (2021年1月9日). “Morocco has equipped itself with Chinese Wing Loong 1 armed UAVs” (スペイン語). Defensa.com. 2021年3月9日閲覧。
- ^ “(お知らせ)国籍不明 無人機(推定)の東シナ海における飛行について”. 統合幕僚監部. (2013年9月9日) 2021年12月19日閲覧。
- ^ “日本が中国無人機の撃墜を宣言 深刻な結果を招くことに”. 中国網. (2013年9月18日) 2020年11月30日閲覧。
- ^ “Egypt inducts armed Chinese drones”. Arabian Aerospace. (2019年4月29日) 2019年11月19日閲覧。
- ^ “The story of the Wing Loong drone and the Egyptian battle against ISIS in Sinai”. Al Arabiya. (2017年2月27日) 2019年11月19日閲覧。
- ^ “How the UAE’s Chinese-Made Drone Is Changing the War in Yemen”. Foreign Policy. (2018年4月27日) 2019年10月10日閲覧。
- ^ “Chinese armed drones now flying across Mideast battlefields”. AP通信. (2018年10月4日) 2019年10月10日閲覧。
- ^ a b “Houthi Rebels claim to have downed an Apache helicopter and a UAV”. War is Boring (2019年12月3日). 2019年12月14日閲覧。
- ^ “UAE implicated in lethal drone strike in Libya”. BBC News. 2020年12月2日閲覧。
- ^ “Chinese drones hunt Turkish drones in Libya air war”. サウスチャイナ・モーニング・ポスト (2019年9月). 2019年11月19日閲覧。
- ^ “Turkey is fighting a formidable drone war in Libya”. Ahval news (2019年9月14日). 2019年12月14日閲覧。
- ^ “Useful, but not decisive: UAVs in Libya’s civil war”. 国際戦略研究所 (2019年11月22日). 2019年12月14日閲覧。
- ^ “Expert: No Evidence UAE Drones Are Being Used in Ethiopia’s Tigray Conflict” (英語). ボイス・オブ・アメリカ (2020年12月11日). 2021年3月9日閲覧。
参考文献
[編集]- Martin Streetly (2018). IHS Jane's All The World's Aircraft:Unmanned 2018-2019. IHS Markit. ISBN 978-0710632777