アルフレッド・バーンバウム
表示
アルフレッド・バーンバウム(Alfred Birnbaum、1955年 - )は、アメリカ合衆国の日本文学翻訳家、メディアアーティスト。特に村上春樹の英訳で知られる。また、アジアの芸術や大衆文化についての翻訳・執筆なども行っている。
経歴
[編集]1955年にワシントンD.C.で生まれる。ユダヤ系アメリカ人である。1960年に初来日し、小学校・高校は東京で過ごした。1977年から1978年の間、文部省奨学金で早稲田大学に留学する。以来、日本を拠点に、メディアアート活動を行うと共に、1980年代からは村上春樹や宮部みゆき、池澤夏樹などの日本文学の英訳を行っている。一時期早稲田大学で教鞭を執っていたこともあり、その他には納豆製造法の研究や、『Monkey Brain Sushi: New Tastes in Japanese Fiction』(1991年)の監修編集でも知られる。
翻訳の作風
[編集]日本語の構造にとらわれず、英語の感性を生かした翻訳を好むとされる。村上春樹は次のように語っている。
「バーンバウムは一種のボヘミアンなんです。特に定職もなく、大学に属しているわけでもなくて、タイに行ったりミャンマーに行ったりフラフラして暮らしている。彼はある場合には自分の好きなように訳すんです。正確かどうかよりは、出来上がりのかたちを重視する。だからわりに自由自在にやって、部分的に削ったりもする、勝手に(笑)」[1]
したがって、原著者よりもバーンバウム色が前面に出てしまっているという見解も見られるが、味のある作風に対してのファンも多数存在する。
タイトル | 詳細情報 | 日本語タイトル | 備考 |
---|---|---|---|
Hear the Wind Sing | 講談社英語文庫(1987年2月) | 『風の歌を聴け』 | 現在は絶版。テッド・グーセン翻訳のものが2015年に出版。 |
Pinball, 1973 | 講談社英語文庫(1985年9月) | 『1973年のピンボール』 | 現在は絶版。テッド・グーセン翻訳のものが2015年に出版。 |
A Wild Sheep Chase | 講談社インターナショナル(1989年10月) | 『羊をめぐる冒険』 | |
Hard-Boiled Wonderland and the End of the World | 講談社インターナショナル(1991年9月) | 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』 | |
Norwegian Wood | 講談社英語文庫(1989年) | 『ノルウェイの森』 | 現在は絶版。ジェイ・ルービン翻訳のものが2000年に出版。 |
Dance Dance Dance | 講談社インターナショナル(1994年1月) | 『ダンス・ダンス・ダンス』 |
短編小説・ほか
[編集]タイトル | 詳細情報 | 日本語タイトル | 備考 |
---|---|---|---|
The Wind-up Bird and Tuesday's Women | 『ザ・ニューヨーカー』1990年11月26日号[2] | 「ねじまき鳥と火曜日の女たち」 | 短編集『The Elephant Vanishes』に収録 |
The Kangaroo Communiqué[注 1] | 訳し下ろし | 「カンガルー通信」 | 同上 |
The Fall of the Roman Empire, The 1881 Indian Uprising, Hitler's Invasion of Poland, And The Realm of Raging Winds | 『The Magazine』1988年3月号 | 「ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ヒットラーのポーランド侵入・そして強風世界」 | 同上 |
Lederhosen[注 2] | 『Granta』1992年2月号 | 「レーダーホーゼン」 | 同上 |
Barn Burning[注 3] | 『The Elephant Vanishes』(クノップフ社) | 「納屋を焼く」 | 同上 |
TV People | 『ザ・ニューヨーカー』1990年9月10日号[3] | 「TVピープル」 | 同上 |
A Slow Boat to China | 『The Threepenny Review』1993年3月1日号 | 「中国行きのスロウ・ボート」 | 同上 |
The Last Lawn of the Afternoon | 訳し下ろし | 「午後の最後の芝生」 | 同上 |
The Silence | 訳し下ろし | 「沈黙」 | 同上 |
The Folklore of Our Times[注 4] | 『ザ・ニューヨーカー』2003年6月9日号[4] | 「我らの時代のフォークロア―高度資本主義前史」 | |
Underground: The Tokyo Gas Attack and the Japanese Psyche | Vintage(2000年6月) | 『アンダーグラウンド』 『約束された場所で―underground 2』 |
フィリップ・ガブリエルと共訳 |
翻訳作品(その他)
[編集]- All She Was Worth / 1996. (宮部みゆき『火車』双葉社、1992年)
- A Burden of Flowers / Kodansha International , 2000. (池澤夏樹『花を運ぶ妹』文藝春秋、2000年)
- The Navidad Incident : the Downfall of Matías Guili / VIZ Media LLC , 2012(池澤夏樹『マシアス・ギリの失脚』新潮社、1993年)
- Chinese Painting. A history of the art of China / Weatherhill , 1983.(宮川寅雄責任編集『中国絵画』)
- Yoshitoshi, the Splendid Decadent/ Kodansha International , 1985. (瀬木慎一『芳年』)
- Traditional Japanese Furniture / Kodansha International , 1986. (小泉和子『日本の伝統家具』)
- Chanoyu : the Urasenke Tradition of Tea / Weatherhill , 1988. (千宗室編『茶の湯』)
- Monkey Brain Sushi : New Tastes in Japanese Fiction / Kodansha International , 1991.
- 伊藤ガビン『Techno Sculpture : ゲームセンター美術館』編訳 アスペクト 2001 ストリートデザインファイル
- アントニオ・カッシーリ『イタリア式エログロマンガ館』都築響一共訳 アスペクト 2001 ストリートデザインファイル
- 都築響一写真・文『賃貸宇宙』筑摩書房 2001
- 都築響一写真・文『ラブホテル・消えゆく愛の空間学』アスペクト 2001 ストリートデザインファイル
- 大竹伸朗,都築響一『ローカル』アスペクト 2001
- 畠中実、柴俊一編『サウンディング・スペース 9つの音響空間』柿沼敏江共訳 NTT出版 2003
- 都築響一写真・文『珍世界紀行 ヨーロッパ編』筑摩書房 2004
- 畠中実ほか編『ネクスト メディア・アートの新世代』NTT出版 2004
- 『ローリー・アンダーソン時間の記録 : sound in the work of Laurie Anderson』畠中実,指吸保子,吉住唯,柴俊一 編 木幡和枝,ドミニク・チェン共訳 NTT出版 2005
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 「カンガルー通信」はバーンバウムよりも先にフィリップ・ガブリエルが翻訳した。ガブリエル版は『ZYZZYVA』1988年春号に掲載された。
- ^ バーンバウムが訳した「レーダーホーゼン」はオーディオブック『村上春樹ハイブ・リット』(アルク、2008年11月)のテキストに用いられた。
- ^ 「納屋を焼く」はフィリップ・ガブリエルが翻訳したものも存在する。ガブリエル版は『The New Yorker』1992年11月2日号に掲載された。
- ^ 「我らの時代のフォークロア―高度資本主義前史」はフィリップ・ガブリエルが翻訳したものも存在する。ガブリエル版のタイトルは「A Folklore for My Generation: A Pre-History of Late-Stage Capitalism」と言い、短編小説集『Blind Willow, Sleeping Woman』に収録された。
出典
[編集]- ^ 村上春樹・柴田元幸『翻訳夜話』文藝春秋、2000年、17-18頁。
- ^ FICTION THE WIND-UP BIRD ANS TUESDAY'S WOMEN BY HARUKI MURAKAMI. November 26, 1990The New Yorker
- ^ FICTION TV PEOPLE BY HARUKI MURAKAMI. September 10, 1990The New Yorker
- ^ FICTION THE FOLKLORE OF OUR TIMES BY HARUKI MURAKAMI. June 9, 2003The New Yorker