アダプトゲン
アダプトゲンとは、トラウマ、不安、肉体的疲労などのストレスへの抵抗能力を高める働きのある天然のハーブである。どのアダプトゲンも抗酸化物質を含んでいるが、抗酸化物質がすべてアダプトゲンであるというわけでもなく、抗酸化作用がアダプトゲンの第一の作用であるとも言い難い[1]。
アダプトゲンに関する認識は数千年前の古代インドや古代中国までさかのぼるが、本格的な科学的研究が始まったのは1940年代後半になってからである。1947年、Nikolai Lazarev 博士はアダプトゲンを、「体に悪影響を与える物理的、化学的、または生物学的なストレッサーを、非特異性の抵抗力を高めることによって撃退するもの」と定義した[1]。
1968年、Israel I. BrekhmanとI. V. Dardymovは正式に次のような実用的な定義を発表した。
- 服用者に無害であること
- 非特異的な反応を示すこと-つまり、物理的、化学的、生物学的な様々なストレス因子に対して抵抗力を高めること
- 生理機能を正常化すること;標準値からどの方向にずれても正常値に戻すこと
つまり、アダプトゲンとは通常の用量では無害で、特定の対象のみではないストレスへの防衛反応を作りだし、そして身体を正常化する作用を持っている。アダプトゲンは、視床下部-下垂体-副腎系(hypothalamo-pituitary-adrenal axis)を正常化する。定義によると、アダプトゲンは天然の、恒常性、代謝調節機構の新しいパーツとなってくれる。
アダプトゲンは、内分泌性ホルモンや免疫システムのバランスを保ち、私たちの体のホメオスタシスを最適に維持してくれるという点で他の物質と比べてユニークであると主張されている[1]。アダプトゲンの正常化機能は、機能が亢進した器官の働きを抑えることも、機能の低下した器官の働きを強めることもできる。しかし、長期間のストレス下に対抗するためのアロスタシス-つまり、ホメオスタシスのように血圧などを固定された一定値に維持するのではなく、環境に適応できるような値に保つ機能-にも有効に働く[2]。
アダプトゲンであるとされるハーブ類
[編集]現在知られているアダプトゲンのほとんどは、アーユルヴェーダか漢方で伝統的に使用されていたものである。有意水準の科学研究[1][3]によってこれらのアダプトゲンの有効性が確かめられたもの。
- アシュワガンダ (Ashwagandha/Withania somnifera)
- 冬虫夏草 (シネンシストウチュウカソウ/Cordyceps/Cordyceps sinensis)
- 党参(トウジン) (ヒカゲノツルニンジン/Dang Shen/Codonopsis pilosula)
- エゾウコギ (シベリア人参/エレウトロ/Eleuthero/Eleutherococcus senticosus)
- ホーリーバジル (カミメボウキ/Holy Basil/Ocimum sanctum)
- 高麗人参 (朝鮮人参/オタネニンジン/Ginseng/Panax ginseng)
- イボツヅラフジ (グドゥーチー/Guduuchi/Tinospora cordifolia)
- アマチャヅル (ジャオグラン/Jiaogulan/Gynostemma pentaphyllum)
- 甘草(カンゾウ) (Licorice/Glycyrrhiza glabra)
- マカ (Maca/Lepidium meyenii)
- 霊芝(レイシ) (マンネンタケ/Reishi/Ganoderma lucidum)
- ルージァ・カルタモイデス (Rhaponticum/Rhaponticum carthamoides/Stemmacantha carthamoides)
- ロディオラ (Rhodiola/Rhodiola rosea)
- 朝鮮五味子(チョウセンゴミシ) (チョウセンゴミシ/オミジャ/シサンドラ/Schisandra/Schisandra chinensis)
- チャーガ (カバノアナタケ/Chaga mushroom/Inonotus obliquus) [4] [5]
- シラジット (Shilajit/Ashphaltum bitumen)
科学研究の数は少ないものの、アダプトゲンである可能性のあるもの:
- アムラ (アマラキ/Amla/Emblica officinalis)
- タイツリオウギ (Astragalus/Astragalus membranaceus)
- 何首烏(カシュウ) (ツルドクダミ/He Shou Wu/Polygonum multiflorum)
- クコ(枸杞) (Lycium/Lycium chinensis)
- ワダソウ (Prince Seng/Pseudostellaria heterophylla)
- シャタバリ (Shatavari/Asparagus racemosus)
- パフィア (Suma/Pfaffia paniculata)
高麗人参は「総合的な正常化効果」を示すアダプトゲンの一例である。高麗人参の有効成分はジンセノサイドと呼ばれる物質である。朝鮮人参は、神経系を活性化させるジンセノサイドRg1や、神経系を落ち着かせるジンセイノサイドRb1を含む[1]。しかし、ジンセノサイドだけが朝鮮人参の有効性を決定する訳ではない。ジンセノサイド濃度の高い調合液は活性が低く、アダプトゲンとしての特性には補助要因が必要であることが示される。
- 医薬品との相互作用に注意
- セント・ジョーンズ・ワート、エゾウコギ、高麗人参、アマチャヅルなどは、医薬品との相互作用が報告あるいは示唆されており、摂取の前に薬剤師や医師に相談した方が良い[6]。
アダプトゲンに共通する構造
[編集]植物体内の、どの化学的構造がアダプトゲンの効果のある有効成分であるかを判断するのは難しい。アダプトゲン研究者の Panossian、植物学者でハーバリストである Robyn Klein によると、アダプトゲンは次のような構造を含むことが多い[7][8]。
トリテルペノイドサポニンは、アダプトゲン構成要素のもっとも多くの研究の注目の的である。高麗人参のジンセノサイド、アマチャヅルのジペノサイド、エゾウコギのエレウテロサイドは、サポニンに含まれる。たとえば、ジンセノサイドの脂肪親和性は、細胞内のステロイドホルモン受容体に結合するのに有利である。トリテルペノイドサポニンは、植物ステロールやエクジソンも含み、それらはほ乳類にはアダプトゲンとしての働きがあると考えられている。植物ステロールは、フィトセラピーよりも食品科学において研究されてきたが、それは免疫機能を持つと知られている[9]。植物エクジステロイドはそのタンパク同化作用のため運動選手や重量挙げ選手によく用いられている。ルージァ・カルタモイデスはこれらの化合物を含むことで有名である。オキシリピンは、酸化された脂肪酸であり、ロイコトリエンと形が似ているため、プロスタグランジン様作用を示す。例えば、甘草やヨーロッパカンゾウのヒドロキシル化脂肪酸などがそうである[7][8]。
上記の構成要素に加え、多くのアダプトゲンは免疫システムの構成要素を活性化し、免疫による効果を充実させると報告されている多糖類を含む。多糖類を多く含む植物は、漢方などで伝統的に使用されてきた。免疫系の活性化に加えて、活力を増進させる、滋養強壮剤とされていた。多糖類を含むアダプトゲンには、American ginseng, Asian ginseng, astragalus, cordyceps, eleuthero, licorice, lycium, prince seng, reishi, rhaponticum, and shatavariなどがある[1]。
脚注
[編集]- ^ a b c d e f Winston, David & Maimes, Steven. “Adaptogens: Herbs for Strength, Stamina, and Stress Relief,” Healing Arts Press, 2007.
- ^ [1]Robyn Klein."Allostasis Theory and Adaptogenic Plant Remedies" 2004
- ^ Saleeby, J. P. "Wonder Herbs: A Guide to Three Adaptogens", Xlibris, 2006. (Three chapters on adaptogens Rhodiola rosea, Eleuthero & Jiaogulan.)
- ^ Hobbs, Christopher "Medicinal mushrooms: The history, chemistry, pharmacology and folk uses for modern times" Botanica Press, 1987.
- ^ http://www.minnesotamushrooms.org/news/2005/04/chaga.php
- ^ セイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート) - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所)
- ^ a b Panossian, Alexander G., 2003. Adaptogens: a historical overview and perspective. Natural Pharmacy, 7(4), 1, 19- 20.
- ^ a b [2]Robyn Klein Masters Thesis Paper, May 2004, Montana State University, Dept Plant Sciences & Plant Pathology: Phylogenetic and phytochemical characteristics of plant species with adaptogenic properties
- ^ Bouic, Patrick J.D., 2002. Sterols and sterolins: new drugs for the immune system? Drug Discovery Today, 7(14), 775-778
参考文献
[編集]- Adaptogens.org
- David Winston & Steven Maimes. “Adaptogens: Herbs for Strength, Stamina, and Stress Relief,” Healing Arts Press, 2007. The definitive guide to adaptogenic herbs. Includes overview, history, actions, health benefits, 21 monographs; and chapters on adaptogens as food and adaptogens for animals.
- Adaptogens in America