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なおエ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

なおエとは、日本で用いられている野球のメジャーリーグ関連のインターネットスラングで、「なお、エンゼルスは試合に敗れた」の略語である[1][2]ロサンゼルス・エンゼルスに所属していた大谷翔平に関する話題で用いられた[1][2]

由来

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イチローと「なおマ」

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2000年オフにMLBシアトル・マリナーズに移籍したイチローは、2001年にアメリカンリーグMVPを獲得し[3]、2004年にはメジャーリーグのシーズン最多安打記録を更新する[4]などの活躍を見せた。しかしマリナーズはイチロー在籍1年目の2001年に地区優勝したのを最後にプレーオフ進出から長期間遠ざかる[注 1]など低迷期に入り、イチローは活躍するがチームは負ける試合が多くなった。そのため日本のメディアはイチローの活躍を大きく報じるとともに、記事の末尾でチームの敗戦を一言だけ「なお、マリナーズは試合に敗れた」と伝えるようになった。この「なお、マリナーズは敗れた」が「なおマ」と略されてインターネットを通じて広がっていった[6][7]

大谷翔平と「なおエ」

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2018年から2023年までロサンゼルス・エンゼルスに所属した二刀流選手の大谷翔平は、2021年と2023年にアメリカンリーグMVPを獲得し[8]、2022年には近代のメジャーリーグ(1901年以降)で史上初めて規定投球回規定打席を同時に達成する[9]などの活躍を見せた。しかしエンゼルスは大谷の所属した6シーズンを含めて8シーズン連続で負け越す[10]など低迷期にあり、大谷が投打に活躍しても試合に負けることが多かった。そこで「なおマ」からの派生で、「なお、エンゼルスは試合に敗れた」を略した「なおエ」という言葉がネットミーム化した[11]

2021年頃から、日本のマスメディアが「なおエ」について言及することが多くなり[11]、2022年以降は多くのメディアが「なおエ」を使って報道している[注 2]

その他の派生表現

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イチローの「なおマ」や大谷の「なおエ」だけでなく、日本人選手や日系人選手が負け試合で活躍すると、「なお○」(○の部分に所属チームの頭文字が入る。レッドソックス所属の吉田正尚ならば「なおレ[7]カージナルス所属のラーズ・ヌートバーカブス所属の鈴木誠也ならば「なおカ[7][15])と応用されることもある[7]

大谷がロサンゼルス・ドジャースに移籍した2024年シーズンからは、大谷が活躍した試合でドジャースが敗れると「なおエ」の代わりに「なおド」が用いられる[16][17]。一方、ドジャースが2021年から3年連続で100勝以上を記録したチームであることから、大谷が活躍しなかった試合でチームが勝利すると「なお、ドジャースは試合に勝利した」という意味で「なおド」が用いられることもある[18][19]

メジャーリーグ(MLB)以外でも派生的に用いられることがある。2022年8月には、日本プロ野球(NPB)の中日ドラゴンズに所属する髙橋宏斗が好投しながらも打線の援護を得られず、最終的にチームがサヨナラ負けを喫したことを受け、『中日スポーツ』(ドラゴンズの親会社である中日新聞社が発行)が「なおド」と報じた[20]

類語

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日本語の「なおエ」に相当する英語表現として「Tungsten Arm O'Doyle」(タングステン・アーム・オドイル、「タングステンの腕を持つオドイル」の意)があり、この表現は2022年からアメリカのスポーツ専門メディアでも使われ始めた[21]。これはトロント・ブルージェイズファンによる、マイク・トラウトが3本塁打を放ち、大谷が20世紀前半に「アクロン・グルームズメン」というチームで活躍した「オドイル」という投手以来となる何らかの希少な記録を達成しながら、それでもエンゼルスが敗戦する、といった内容の2021年のTwitterでの発言がきっかけとなっている。なお「アクロン・グルームズメン」も「オドイル」も架空のものである[22][23][13]

Sports Reference社の運営する野球データサイトのBaseball-Reference.com英語版では、「Tungsten Arm O'Doyle」と入力して検索を実行すると大谷翔平のページが表示されるというイースターエッグが実装されている[24][25]

「なおエ」の実例とされる試合

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  • 2022年6月21日 - カンザスシティ・ロイヤルズ戦では9回に同点3ランを放つなど2本塁打、8打点を叩き出す活躍を見せたが、チームは延長戦の末11-12で敗戦した。1920年に打点が公式記録となって以来、1試合で8打点以上を記録しながらチームが負けた打者は史上5人目。また、一度もリードを奪えなかった展開に限ると初めてのことだった[26]。ファンの間では「なおエ」の象徴的な試合とされている[13]
  • 2022年7月8日 - ボルチモア・オリオールズ戦では本塁打を含む3安打の活躍を見せたが、チームは4-2で迎えた9回裏に打ち込まれ、逆転サヨナラ負けを喫した[23]
  • 2022年8月4日 - オークランド・アスレチックス戦でソロ本塁打2本を放ち、チーム全体でもソロ本塁打7本を放ったが、チームは7-8で敗戦した[注 3][27][28]。1試合ソロ本塁打7本はMLB史上最多タイで6例目、1試合7点をソロ本塁打7本で記録した先例は1900年まで遡り、1試合7本塁打を放ちながら試合に負けたのはMLB史上わずか6例目[29]
  • 2023年3月30日 - アスレチックスとの開幕戦に3番・投手兼指名打者で先発出場。6回10奪三振無失点と試合を作り、打者としても1安打を打った。しかし、後続が打たれて1-2で敗れた。MLBの記者によると、1901年以降の開幕戦で10奪三振無失点を記録した投手は26人目だが、その投手のチームが敗れたのは初めてだという[30]
  • 2023年4月9日 - トロント・ブルージェイズ戦で、花巻東高等学校の先輩である菊池雄星から大谷が本塁打を放って一時は6点をリードしたが、延長戦の末11-12で敗れた[31]
  • 2023年8月18日 - タンパベイ・レイズ戦で大谷が満塁本塁打を放ち、エンゼルスはトリプルプレーを達成したが、延長戦の末に逆転負けを喫した[14][32][33]。MLBで満塁本塁打とトリプルプレーの両方を同じ試合で達成したチームが負けるのは1979年9月7日のトロント・ブルージェイズ(対クリーブランド・インディアンズ)以来44年ぶり[34][注 4]

脚注

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注釈

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  1. ^ マリナーズが2001年の次にプレーオフに進出するのは2022年で、21年ぶりであった[5]
  2. ^ メディアでの「なおエ」の用例は、[12][13][14]など。
  3. ^ このスコアはフランクリン・ルーズベルトが「一番おもしろいゲームスコア」と記した通称「ルーズベルトゲーム」である。
  4. ^ 1979年9月7日のクリーブランド・インディアンズ対トロント・ブルージェイズの試合のボックススコア[35]を参照。ボックススコアの"Play by Play"欄で、5回表ブルージェイズの攻撃の"RRRR"が満塁本塁打、8回裏インディアンズの攻撃の"OOO"がトリプルプレーをそれぞれ示している。

出典

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  1. ^ a b ファン悲鳴 開幕戦から早速「なおエ」トレンド入り…大谷翔平、6回10K無失点も救援崩れて逆転負け」『Sponichi Annex』2023年3月31日。2023年3月31日閲覧。
  2. ^ a b トレンド入りした「なおエ」とは? 大谷翔平が開幕戦6回10K無失点好投も初勝利ならず」『日刊スポーツ』2023年3月31日。2023年3月31日閲覧。
  3. ^ Tim Spencer (2023年2月13日). “Ichiro's rookie campaign a season unlike any other”. mlb.com. 2023年12月26日閲覧。
  4. ^ イチローのシーズン最多262安打は「おそらく破られないだろう記録」MLB公式サイト」『日刊スポーツ』2022年2月14日。2023年12月26日閲覧。
  5. ^ マリナーズが21年ぶり悲願のPO進出 イチロー氏1年目以来…最長“出場なし”を返上”. Full Count (2022年10月1日). 2023年4月28日閲覧。
  6. ^ “大谷翔平が活躍すると...SNSに相次ぐ謎の言葉 イチロー由来?話題のミーム「なおエ」とは”. J-CAST ニュース: p. 2. (2021年6月30日). https://www.j-cast.com/2021/06/30415006.html?p=2 2023年4月28日閲覧。 
  7. ^ a b c d “【MLB】開幕戦で「なおレ」「なおカ」がSNSで話題に 吉田正尚マルチ、ヌートバー3出塁も所属チームは2桁失点で敗戦”. サンスポ. (2023年3月31日). https://www.sanspo.com/article/20230331-ZZFBUSI67VJYVAS5RNTV55QGWI/ 2023年3月31日閲覧。 
  8. ^ 大谷翔平が大リーグMVP 「満票2度目」は史上初」『日本経済新聞』2023年11月17日。2023年12月26日閲覧。
  9. ^ エンゼルス大谷が規定投球回数に到達 規定打席も達成し、歴史的快挙」『朝日新聞』2022年10月6日。2023年12月26日閲覧。
  10. ^ 大谷翔平ベンチからエールも5連敗 エンゼルス8年連続のシーズン負け越し決定」『スポーツ報知』2023年9月18日。2023年12月26日閲覧。
  11. ^ a b “大谷翔平が活躍すると...SNSに相次ぐ謎の言葉 イチロー由来?話題のミーム「なおエ」とは”. J-CAST ニュース: p. 1. (2021年6月30日). https://www.j-cast.com/2021/06/30415006.html 2023年4月28日閲覧。 
  12. ^ “大谷が3安打もなおエ…マ軍に連敗にネット「目標のあるチームは強い」「士気、勢いが違う」”. スポニチ. (2022年8月17日). https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2022/08/17/kiji/20220817s00001007303000c.html 2023年8月20日閲覧。 
  13. ^ a b c 大谷翔平が2発8打点でも敗れた悪夢 米メディアが選んだ今季ワーストの“なおエ”」『Full-Count』2022年9月28日。2023年3月31日閲覧。
  14. ^ a b “「究極のなおエ」大谷翔平の満塁弾でもトリプルプレーでもエ軍敗戦 ファン悲壮「どうしたら勝てる?」”. スポーツ報知. (2023年8月19日). https://hochi.news/articles/20230819-OHT1T51124.html?page=1 2023年8月19日閲覧。 
  15. ^ “カブス誠也が2発も逆転サヨナラ負けに「見るのがつらい」「恥ずかしい負け」日本のファンは「なおカ」”. スポニチ. (2023年5月18日). https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2023/05/18/kiji/20230518s00001007324000c.html 2024年1月5日閲覧。 
  16. ^ 失策→失策…投手ブチギレ、ド軍が「ひどい負け方」 大谷は好調も、連日のなおドにSNS嘆き”. Full-Count (2024年7月15日). 2024年8月2日閲覧。
  17. ^ 大谷翔平、超特大弾も盗塁も…まさかの『なおド』ドジャース最大5点差ひっくり返されサヨナラ負け”. 中日スポーツ (2024年7月28日). 2024年8月2日閲覧。
  18. ^ ドジャース、強すぎて…『なおエ』に続く新ネットスラング誕生か「今年は『なおド』が全く逆の意味で使われそう」の声”. 中日スポーツ (2024年3月30日). 2024年8月2日閲覧。
  19. ^ 「なおド」 大谷翔平7戦ぶり無安打でも 逆転勝利の立役者は球宴本塁打競争キング”. スポーツ報知 (2024年7月24日). 2024年8月2日閲覧。
  20. ^ 中日スポーツ』2022年8月17日付「『なおド』…中日・高橋宏斗”松坂超え奪三振ショー”も無援…延長11回根尾が松山にサヨナラ打を許す」(中日新聞社
  21. ^ 「『なおエンゼルスは』が初戦で復活した」大谷翔平、圧巻の6回10Kも逆転黒星 米メディアは強烈な皮肉”. CoCoKARAnext (2023年3月31日). 2023年3月31日閲覧。
  22. ^ 【MLB】大谷翔平が挑む、伝説的投手「タングステンの腕」グルームズメン・オドイルの記録!?”. SPREAD (2022年7月13日). 2023年3月31日閲覧。
  23. ^ a b 米国にも「なおエ」を表す表現が… 大谷活躍も勝てぬエ軍を表す「TungstenArm」とは?」『Full-Count』2022年7月12日。2023年3月31日閲覧。
  24. ^ Aaron Somers (2023年3月31日). “Baseball Reference adds great Tungsten Arm O'Doyle Easter egg”. Yardbarker. 2023年8月20日閲覧。
  25. ^ Edward Sutelan (2023年4月17日). “Who is Tungsten Arm O'Doyle? Meet Shohei Ohtani's 1921 comparison”. The Sporting News. 2023年8月20日閲覧。
  26. ^ メジャー史上初…大谷8打点でも一度もリード奪えず 史上5人目「8打点負け」 不名誉記録連発」『Sponichi Annex』2022年6月22日。2023年3月31日閲覧。
  27. ^ これぞ至高の「なおエ」大谷翔平が2発!1試合ソロ本塁打7本でもエンゼルスは7−8の惜敗…SNSは大盛り上がり」『中日スポーツ』。2022年8月19日閲覧。
  28. ^ 大谷1試合2発も…エ軍のソロ7本で7―8負けにネット「なおエの極み」「悲しいルーズベルトゲーム」」『Sponichi Annex』2022年8月5日。2023年3月31日閲覧。
  29. ^ 大谷翔平の2発を含め、7本塁打のエンジェルスが7-8で敗戦」『』2022年8月5日。2023年12月15日閲覧。
  30. ^ 大谷翔平が開幕戦記録“連発”も「なおエ」 米記者が嘆いた史上初の珍事」『Full-Count』2023年3月31日。2023年3月31日閲覧。
  31. ^ 「伝説のなおエ試合を見た」 エンゼルスの壮絶6-0→6-10→10-10→11-12敗戦に日本人悶絶”. THE ANSWER (2023年4月10日). 2023年4月16日閲覧。
  32. ^ “大谷翔平が満塁弾も「なおエ」の極み「満塁弾とトリプルプレーで負けるチームがどこにあるんだ」”. 日刊スポーツ. (2023年8月19日). https://www.nikkansports.com/baseball/mlb/news/202308190000631.html 2023年8月19日閲覧。 
  33. ^ “究極を超え『奇跡のなおエ』大谷翔平に満塁ホームランが出ても…9回トリプルプレーを完成させても勝てないエンゼルス、借金は3に逆戻り”. 中日スポーツ. (2023年8月19日). https://www.chunichi.co.jp/article/751929 2023年8月19日閲覧。 
  34. ^ Adam Berry (2023年8月19日). “Give up a grand slam, hit into a triple play ... and win? Rays did it”. MLB.com. 2023年8月21日閲覧。
  35. ^ Toronto Blue Jays vs Cleveland Indians Box Score: September 7, 1979”. Baseball-Reference.com. 2023年8月21日閲覧。