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だてマスク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
一般的な衛生用マスク

だてマスク伊達マスク)とは、本来の衛生上の理由とは異なる目的で常にマスクを着用すること、あるいはそのようにしてマスクを着用する人のことを指す。「(マスクを)完全に外すのは飯、風呂、寝る時だけ」と証言する者もいる[1]

概要

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一般的にマスクは、口や鼻を覆うことで、花粉粉塵が体内に侵入することを防ぐことなどの、衛生上の目的で使用されるが、そうした本来の用途から外れた目的で、マスクを使用する者がいる。

2009年の新型インフルエンザとだてマスク

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日本においては、2009年に流行した新型インフルエンザを機に、一時的にマスク着用者が増えた。翌年までに新型インフルエンザは収束し、マスク着用者は少数派になったものの、首都圏など都市部の若者を中心に日常的にマスクを着用する人が見られるようになった[2]

博報堂若者研究所の原田曜平が『近頃の若者はなぜダメなのか』(2010年1月16日発売)で「だてマスク」について取り上げた。その後、朝日新聞が2011年1月に日本の10代(男女問わず)の世代にそうした傾向が見られることを報じて[1]、同紙の取材で年代を問わず大人の中にも「だてマスク」着用者が存在することが明らかになった[3]

当初インフルエンザ対策や花粉症対策などの目的で着用していた者が「だてマスク」に転化する場合もあるため、第三者にとっては「だてマスク」かどうかの区別は容易ではない[3]。しかしその実、渋谷センター街でマスクを着用している人の内、約3割が「だてマスク」だったという調査もある[注釈 1][4]

新型コロナウイルス感染拡大以降

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2019年12月中国で感染拡大が始まった新型コロナウイルス感染症が、2020年1月以降、世界的に蔓延し、パンデミックとなった。日本においては、海外諸国とは異なり、マスクの着用が法律で義務化されることはなかったものの、第1波収束後の2020年初夏から、感染予防対策として政府、公共機関、企業、学校などが利用者に着用を強くお願いしたり、一部店舗や施設では義務化した上で未着用者の入店をお断りするなどして、マスク着用が広く普及し、マスクを着用していない顔を他人に見せる機会が大幅に減った。

その後、2022年5月政府は「屋外でのマスク着用は原則不要」と呼びかけるようになったが[5]、日常生活でのマスク着用が定着したことで、マスクを着用していない顔を他人に見せることに抵抗を感じている人が増えている。

2022年10月の産経新聞グループレブ・クリエイトの調査によると、「人前で素顔を見せることにためらいを感じる」という回答が13.9%で、男性で5.2%、女性では22.6%と女性では特に多くなっている[6]

また、2022年9月の第一三共ヘルスケアの調査によると、感染対策以外の目的でのマスク着用について、「感染対策以外で着用している」が41.5%に上った。このうち、「感染対策以外で着用している」の人が挙げた理由では、女性では「化粧をしていないことを隠すことができるため」が60.3%、「エチケットやマナーのため」が42.6%、「自分の素顔を隠すことができる」が41.8%となった。また男性でも、「エチケットやマナーのため」が46.2%、「髭を剃っていないことを隠すことができるため」が30.6%、「口臭を隠すことができるため」が10.4%となっている[7][8]

政府は2023年2月10日、同年3月13日以降、マスク着用を屋内外とも「個人の判断に委ねる」と発表した[9]

しかし、政府宣言後の2023年3月13日以降も、日本では大多数の人たちがマスクを着用し続けている。2023年4月10日に東京駅前でAIを使ってマスク着用率を調査した日本テレビ報道によると、85.6%の人々がマスクを着用していた[10]

その後、政府は2023年5月8日に新型コロナウイルスの感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)上の分類を2類相当から季節性インフルエンザと同等の5類に引き下げたものの[11]、屋内を中心にマスクを外さない人が多数となっており、新型コロナウイルス対策ではない目的での使用も常態化している。また、子どもたちを含む多くの人たちが「マスク依存症」となっている可能性がある[12]

目的

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用者や推進派が語る、「だてマスク」の目的は以下の通りである。

  • 何となく落ち着く[1]
  • 怒られている時、マスクを外しているとこたえる[1]
  • 顔がコンプレックスだから[1]
  • 顔を隠せるため視線にさらされない安心感がある[1]
  • 会いたくない知人と会ったとき、相手に気づかれずにやり過ごせる[3]
  • 人と話さずに済む[13]
  • 物怖じせずに会話ができる[13]
  • 妄想でニヤついても問題がない[13]
  • マスク美人もしくはイケメンになれる[13]
  • 仕事中に眠いのを隠すため[4]
  • ノーメイクで出かけるときの顔のカバーとして。
  • 寝ているときに乾燥から唇や顔を保湿する美容目的。
  • 真夏やスキースノーボードなどでの紫外線予防。
  • 髭が剃れなかったり、徹夜明けの無精ひげを隠す。
  • 焼き肉など臭いの気になる食事を楽しんだ後の口臭予防。
  • 調子が良くないときに何となくアピールできる。

マスク断ち

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「だてマスク」をやめる決意をすることを、「マスク断ち」と言う[3]

心理学的分析

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聖学院大学人間福祉学部准教授(心理テスト研究)の山田麻有美は「だてマスクには他者の目に対する強い意識を感じる。かつてのガングロ目力メークに通じるものだと思う。」と語る[3]

博報堂生活総合研究所アナリストの原田曜平は、「メールやSNSなどネット上のコミュニケーションに慣れた若者が“だてマスク”をするようになっている。人間のコミュニケーションは本来、言葉つきや相手の表情を含んでとられるものだったが、携帯やパソコン上の文字だけのコミュニケーションでは、そのような要素がないため、互いに本音を隠したままでことを進めることができる。それに慣れてしまった若者たちは、まず自分の本音を他人に知られることが怖い。そして自分の弱みを知られることを嫌うのではないか。」と指摘する[4]

国際医療福祉大学臨床心理学専攻教授で教育評論家の和田秀樹は、「リアルなコミュニケーションを避けるのは、社会不安障害に近い症状で、マスクは、引きこもりにならないよう何とか外に出るための一種の防衛装置である。表情を読まれないことに慣れると癖になってしまう。」と語った[4]

関連書籍

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  • 菊本裕三[だてマスク]依存症扶桑社、2011年6月。ISBN 978-4594064235http://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594064235 

脚注

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注釈

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  1. ^ 2011年3月に『女性セブン』が渋谷センター街にてマスクを着用していた10代から30代の100人にアンケートを実施したところ、31人が「だてマスク」だった。

出典

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  1. ^ a b c d e f マスクで隠す素の自分 よそおう―1”. asahi.com (2011年1月29日). 2011年5月2日閲覧。
  2. ^ 《小学生にも増加》“だてマスク依存症”の実態「『自分は繊細だと思っている人』はコロナ収束後もマスクを手放せない」”. 文春オンライン (2021年9月14日). 2023年1月24日閲覧。
  3. ^ a b c d e 大人も だてマスク 「いい人演じ」「極端な防衛本能」”. asahi.com (2011年2月17日). 2011年5月2日閲覧。
  4. ^ a b c d メールやSNSに慣れた若者 恥ずかしいからマスクする説”. NEWSポストセブン (2011年3月1日). 2011年5月3日閲覧。
  5. ^ マスクの着用の考え方及び就学前児の取扱いについて”. 厚生労働省 (2022年5月20日). 2023年1月24日閲覧。
  6. ^ マスクを外したくない理由…「素顔見られたくない」女性22.6% 産経R&D「マスクについてのアンケート」実施”. 産経新聞社 (2022年11月16日). 2023年1月24日閲覧。
  7. ^ 2022年11月28日<全国20~60代男女を対象とした「理想の肌に関する意識調査」>”. 第一三共ヘルスケア (2022年11月28日). 2023年1月24日閲覧。
  8. ^ もはや感染対策じゃない、外出時のマスク 「今後も着用する」約8割、20代が特に「外したくない」傾向に”. まいどなニュース (2022年12月8日). 2023年1月24日閲覧。
  9. ^ マスク着用の考え方の見直し等について”. 厚生労働省 (2023年2月10日). 2023年3月10日閲覧。
  10. ^ マスク“個人の判断”まもなく1か月…着用率は大きく減らず 東京駅前映像のAI解析で”. 日本テレビ (2023年4月10日). 2023年4月21日閲覧。
  11. ^ 新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針の廃止について”. 厚生労働省 (2023年4月27日). 2023年5月16日閲覧。
  12. ^ マスク依存の若者たち「“外さなくていい”は、優しさじゃない」と考える専門家の懸念”. TBSテレビ (2023年3月26日). 2023年4月6日閲覧。
  13. ^ a b c d 伊達マスクブーム到来 非モテこそ乗り遅れてはならないマスクのメリット”. excite ニュース (2011年3月4日). 2011年5月2日閲覧。[リンク切れ]

関連項目

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外部リンク

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