ナルニア国物語
『ナルニア国物語』(ナルニアこくものがたり、原題:The Chronicles of Narnia)は、イギリスの文学者でありキリスト教の信徒伝道者C.S.ルイス(本名クライブ・ステープルス・ルイス(Clive Staples Lewis))の、全7巻からなる子供向け小説の総称。1950年から1956年にかけて刊行された。英米児童文学第3の黄金期というべき1950年代に、イギリスのジョフリー・ブレス(Geoffry Bles)社などからポーリン・ベインズの挿絵をつけて上梓された。
日本では石井桃子、いぬいとみこ、鈴木晋一、瀬田貞二、松居直、渡辺茂男が第二次世界大戦後の児童文学についての研究結果を発表した『子どもと文学」(中央公論社、1960年)の影響もあり、1966年に岩波書店より瀬田貞二の訳で刊行され、現在まで版を重ねている[1]。
構成と執筆の経緯
出版順に次の7作からなる。
- ライオンと魔女(1950年)
- カスピアン王子のつのぶえ(1951年)
- 朝びらき丸 東の海へ(1952年)
- 銀のいす(1953年)
- 馬と少年(1954年)
- 魔術師のおい(1955年)
- さいごの戦い(1956年)
内容は創造主のライオン「アスラン」により開闢された架空の世界ナルニアを舞台に、20世紀のイギリスの少年少女が異世界と往復しながら、与えられた使命を果たす冒険を描いている(『馬と少年』のみナルニアの隣国の少年が主人公)。登場人物に関してはナルニア国ものがたりに登場する人物一覧を参照。
ルイスはアメリカ人の少年から読む順番についての手紙があった際、ナルニアの始まりから終わりまでの出来事を順番にして読む考えを良いものだと返事を書いた[2]。即ち、年代記(Chronicles)としては『魔術師のおい』、『ライオンと魔女』、『馬と少年』、『カスピアン王子のつのぶえ』、『朝びらき丸 東の海へ』、『銀のいす』、『さいごの戦い』の順となる。
1948年に『ライオンと魔女』を友人のJ・R・R・トールキンの前で読み聞かせたところ酷評され、しばらく原稿には手をつけなかったが、別の友人から勧められて再び書き始めた。緻密に構想を練るトールキンは、ルイスが神話や聖書の存在を混在させ、あまつさえサンタクロースを登場させた点に我慢ができなかったとされる[3]。
ルイスの観点
キリスト教弁証家であるC.S.ルイスが子供に向けてキリスト教の基礎を専門用語を使わずに書いた最初で最後の小説であり、自身の最も有名な仕事となった。アメリカの子どもたちから「ナルニア国物語はアレゴリーか(ここでは Christian allegory としての意)」という質問があった際に、例えばジョン・バニヤンの『天路歴程』はまさしくアレゴリーだが『ナルニア』は違うと手紙で返事をした。
また『別世界にて』(中村妙子訳/すぐ書房)では以下の説明をしている(引用参照)。前述の『子どもと文学』の中で、石井桃子はファンタジーの形式が優れた文学者の哲学を表現するのに適した形式であった点を指摘しているが、ルイスも『別世界にて』の中でフェアリー・テールの効用に発言している。
Some people seem to think that I began by asking myself how I could say something about Christianity to children; then fixed on the fairy tale as an instrument, then collected information about child psychology and decided what age group I’d write for; then drew up a list of basic Christian truths and hammered out ‘allegories’ to embody them. This is all pure moonshine. I couldn’t write in that way. It all began with images; a faun carrying an umbrella, a queen on a sledge, a magnificent lion. At first there wasn’t anything Christian about them; that element pushed itself in of its own accord.
日本語翻訳
現在刊行されている岩波書店版の日本語訳は瀬田貞二による。そのスタイルは特に名詞の訳語選定が独特である。
- Dawn Treader = 朝びらき丸
- Before you say Jack Robinson = 竹屋の竹右衛門という前に
- Puddleglum = 泥足にがえもん
- Turkish delight = プリン
- ターキッシュ・デライトとプリンは全く別種の菓子であるが、『ライオンと魔女』の翻訳者あとがきによると、ターキッシュ・デライトは日本では全く馴染みが無いと判断したためにプリンと訳したとのことである。
映画化
『ライオンと魔女』、『カスピアン王子のつのぶえ』がウォルデン・メディア制作、ウォルト・ディズニー・カンパニー製作・配給、アンドリュー・アダムソン監督により実写映画化されている。
- 『ライオンと魔女』は2005年12月アメリカ公開。日本公開は2006年3月4日(日本配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナル・ジャパン)。2005年アカデミーメイクアップ賞を受賞。
- 『カスピアン王子のつのぶえ』は、アメリカで2007年12月[4]、日本では2008年5月に公開された。この作品とその後の『朝びらき丸 東の海へ』、『銀のいす』とを合わせて3部作として制作する予定もあったが[5]、2008年12月24日、アメリカのウォルト・ディズニー・カンパニーは2010年公開予定だったシリーズ第3作の制作から撤退すると発表した。同社は理由について、予算の都合と他事業の計画を考慮した結果だとしている。[6]
- 2009年1月、『朝びらき丸 東の海へ』が、20世紀フォックスの配給により映画化されることが発表された。制作は前2作から引き続き、ウォルデン・メディアが手掛け、主要キャストも続投する。全米公開は2010年12月予定。
各々の詳細は各個別記事を参照。
TVドラマ
- 1988年にイギリスBBCで制作された(第1章~第4章)。
アニメ
- 『ナルニア国物語~ライオンと魔女~』(原題:『The Lion, the Witch, & the Wardrobe』)。1979年にイギリス・アメリカ合作で制作された。同年エミー賞を受賞。
注
- ^ 過去には『ナルニア国ものがたり』の表記が用いられていたが、現在の版では『ナルニア国物語』となっている。
- ^ 『子どもたちへの手紙』中村妙子訳/新教出版社
- ^ B・シブリー『ようこそナルニア国へ』中村妙子訳 岩波書店
- ^ Walden Media — 2006 Press Releases — Walt Disney Pictures and Walden Media Begin Pre-Production on ... , February 6, 2006.
- ^ Walden Media — 2006 Press Releases — The Family Business, Entertainment Weekly, Jeff Jensen, April 28, 2006.
- ^ ロイター通信社,2008.12.24発信