Wikipedia‐ノート:コメント依頼/Shota
IPと個人情報について議論になっていますが、最近この問題を調べていたのでできる範囲でコメントを書いて見ます。ただ、本題とは関係ありませんし、長くなるので、ノートに書くことにします。
結論から言うと、IPやIPを逆引きして得られるホストネームは、個人情報にあたると思います。 ですが、個人情報保護法で保護の義務が課せられている場合には相当しないので、それをウィキペディアの議論の場で用いることは特に問題ないように思いました。
また、個人情報という言葉にとらわれずに、これがプライバシーにあたる可能性も考えてみましたが、これもやはりあたらないように思いました。IPアドレスとホスト名一般の結びつきは、それ自体としてはプライバシーには相当しないと思います。どのIPがどこの誰に属するものとも知れないという事情があることから、そのように考えました。
まず個人情報についてですが、個人情報は、個人情報保護法の定義によれば、公開されているものもされていないものも含めたかなり広い範囲の情報ということになっています。例えばメールアドレスなども個人情報と考えられる場合がありえます。
個人情報保護法2条に次のような定義があります。
- 生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/kojin/houritsu/index.html
IPアドレスは、「他の情報と容易に照合」することができますし、氏名などの情報と組み合わせれば本人を特定することができるようになることがありますから、個人情報の場合もあるだろうと思います。他のサイトでこのIPの利用者が同じ時間帯にどのような活動をしていたか、などといった情報はしばしば公に手に入りますし、公になっていない場合でも、利用があったサイトのサーバー/ネットワーク管理者であるとか、IPアドレスの属する学校や企業などがあればそのネットワーク管理者などが、本人を特定することができることがあると思います。
ですが、個人情報であればどんなものであっても等しく保護の対象になるかというとそういうことはなく、いろいろな制限があります。ひとつには、個人情報保護法は、個人情報を体系的に編纂して検索などができるようにしたもの(「個人情報データベース」)の対象としており、個人情報であれば何でも保護するわけではない、という限定があります。このようなデータベースであれば、その作成・維持・第三者への供与などについていろいろ制限や義務があります。今回の件で言えば、ウィキペディア上の投稿記録や外部サイトのDNSデータベースなどを作成・管理している人については個人情報保護法があてはまる場合「も」ありますが、例えばShotaさんやTietewさんなどウィキペディアン一般はこうしたデータベースの作成には何ら関与していませんし、コメント依頼などでIPアドレスやホスト名を含んだ書き込みをすることは特にデータベースの作成行為にはなりませんから、データベースで提供されている情報を利用して他人について情報を得たり、その情報を含んだ投稿をすることが個人情報保護法に照らして問題があるということにはならないのではないかと思います。
他にもうひとつ、個人情報保護法には、個人情報取り扱い事業者だけを規制の対象とするという特徴があります。この事業者は個人や、営利目的でない活動をしている者も含まれるそうですが、ShotaさんやTietewさんが同法の想定しているような「事業」を営んでいるということはできなさそうに思いました。
言い換えると、このIPアドレスを他の情報と照合することで容易に個人を特定できる立場にいる人や法人、例えば220.220.101.74さんのISPなどが、ウィキペディアの投稿記録を調査してそのISPの顧客の誰がウィキペディアでどういうことを書いているのかを体系的に収集・整理したデータベースを作ったりするとなると、これは個人情報保護法の規定する義務などに従わないといけない可能性が出てくるというのが同法の基本的な仕組みだと思います。(その場合でも、データベースの規模が十分に小さければ適用除外になるようですが。)
次に、個人情報と紛らわしいプライバシーについても考えて見ます。
個人情報保護というのは、基本的に個人についての情報が本人の知らないところで収集・流通することに一定の制限をかけようというものだと思います。同法に違反した場合には行政罰が加えられることはあるようですが、違反した個人情報取り扱い業者を個々人が提訴して何らかの賠償を求めることができるか、というと個人情報保護法違反を理由とした請求などはできないようです。
ですが、個人はプライバシー権と呼ばれる権利を有していますから、個人情報の漏洩などがあった場合に、それによってプライバシーが侵害されれば、プライバシー侵害を理由とした賠償請求などを起こすことは可能だと思います。(個人情報とプライバシーの違いについては、こちらの記事がわかりやすいように思いました。)
この権利については具体的な明文規定などがないことや、判例や学説上も理論として確立していない部分がある、あるいは時代と共に変化していく部分があるとされているようですが、私生活上の平穏を不当に乱されない権利、放っておいてもらう権利としては確立しているようです。また、判例上は、いわゆる「宴のあと」事件で確立された次のような定義が今日まで継承されているようです。
- 私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらである
- 一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立つた場合公開を欲しないであろうと認められることがらである
- 一般の人々に未だ知られていないことがらである
その後も、プライバシーに関するこのような定式化はかなり多くの判例で受け継がれています。
ではIPアドレスやホスト名などの情報を含んだ書き込みをすることがそのIPアドレスを利用している人のプライバシー侵害にあたるか、と考えてみると、そういうことはなさそうに思いました。
- ウィキペディアのように公開性の高い場での活動の記録や内容は、一般に私生活上の事実を指すプライバシーには該当しないのではないかということも思いました。
- ウィキペディアは広く一般の人に利用してもらうための百科事典なので、その作成作業は私生活上の事実と言えるかどうか疑問があります
- ウィキペディアは透明な意思決定プロセスや編集作業を重視しているので、その作業を私生活上の事実と言えるかどうかはかなり疑問がありそうに思います。
- ですが、これが例えば住所氏名などと組み合わさった場合を想定すれば、プライバシーになることもあるかも知れません。政治家の講演に出席した学生の住所、氏名、学籍番号などを大学が警察に提供したことがプライバシー侵害と判断されたケースがありますが、それと近い部分はあるかも知れません。(2002年9月12日 最高裁判決)
- 仮にそれらが私生活上の事実と言える場合があるとしても、IPアドレスだけからではそれがどこの誰の私生活上の事実であるかがわからないため、プライバシーの侵害にならないのではないかと思います。
- IPアドレスとホスト名の関連は、IPアドレスから更に関連情報を得ようと思って調べればかなり容易にいきあたる情報で、広く流通しているので「一般の人々に未だに知られていない」とは言いがたい面があるようにも思います。
- 一般には、例えば、"Aさんの自宅の郵便番号はBである"という情報をもとに、「郵便番号がBなのでAさんはC県人だ」ということを記すこととある程度似ていると思います。
これと比べて、住所や電話番号、メールアドレスなどが本人の意思に反して公開された場合などは、嫌がらせなどを引き起こす可能性が生じますから、生活の平穏を乱される、プライバシーが侵害されるということは考えやすくなると思います。
また、仮にこうした考え方が全て間違っていて、IPアドレスとホスト名の情報を含んだ書き込みをすることがプライバシーの侵害になるとしても、この侵害は違法ではないとされる可能性が高いのではないかと思います。プライバシー侵害はしばしば報道の自由や言論の自由と衝突しますから、そのバランスをどうとるかについて法廷で争われることがあります。それらの判例を参考にする限りでは、情報を公開することから得られる利益と、それによって当人に生じる被害とのバランスを見る必要があるという見方が確立されているようです。(例えば1994年2月8日 最高裁判決)
どのIPアドレスがどのISPに属するものであるかを特定することは、ウィキペディア上で「どの投稿とどの投稿が同じユーザによるものなのか」を考える上で非常に有益なことが多くあります。それに比べて、あるIPアドレスがどのホスト名に対応するかについての情報をウィキペディア上で公開する被害は、他に特別な情報・事情などがなければほぼ皆無に近いのではないかと思います。
そこで、仮にプライバシー侵害にあたるとしても、この侵害には違法性がないということになるのではないかと思いました。(違法性がないというのは、賠償責任も発生しないし、削除するべき情報などでもない、ということです。)
いろいろわからない点などはあるのですが、とりあえず以上のような理由から、IPアドレスとホスト名を関連づけて投稿することが問題になるとは考えにくいように僕には思えました。Tomos 2005年12月18日 (日) 03:01 (UTC)