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WN駆動方式

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WN駆動から転送)
WN駆動方式
赤い部分がWN継手

WN駆動方式(WNくどうほうしき、WN Drive)は、電車の駆動方式の一種である。

概要

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WN継手模式図
1,067 mm軌間のWN駆動装置
(秩父鉄道5000系)

高速運転に適した電車用駆動システムとして、アメリカの大手電機メーカーであるウェスティングハウス・エレクトリック(WH)社が、傘下の機械・歯車メーカーであるナタル社(Natal Co.Ltd)と1925年以降共同開発を実施、実用化した。「WN」とは開発に携わった両社の頭文字 (Westinghouse - Natal) にちなむ。もっとも、現在の米国では単に「gear coupling」と呼称される方が多い。

駆動系全体は主電動機を車軸と平行に台車枠に固定し、小さな偏位を許容する「WN継手」を介して電動機の出力軸と駆動歯車を接続する。一般的には主電動機の荷重を全てばね上の弾性支持とした電車用の車軸無装架駆動方式全般をカルダン駆動方式と呼称するため、「WN継手」を使った「平行軸カルダン駆動」の一種とされる。

「WN継手」自体の仕組みは、二組の遊びの大きなスライドスプラインで構成される。スライドスプラインは歯車と異なり全ての歯が噛み合っているので小さくても大きな力を伝達でき、信頼性も高い。ただし公差を利用する角度変化の許容度はわずか5度以内である。

歴史

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主電動機を小型、軽量化しつつ駆動力を発揮するには、高速電動機と高減速比の歯車が必要になる。

過去に電気鉄道で使用されていた吊り掛け駆動方式は、主電動機の一端を平軸受を介して直接車軸に取り付ける[注 1]単純な構造の駆動系だった。軸ばねにより車軸が上下しようとも主電動機の出力軸が車軸と常に等距離になるよう拘束されるため歯車の噛み合わせに問題が起きない利点があった。

しかし吊り掛け駆動は、その単純さと引き換えに欠点もあった。

  • 主電動機重量の約半分が車軸にかかり、ばね下重量が大きくなる構造のため、軌道への負担が多くなる。また軌道と車輪の追従性が悪くなり、乗り心地も悪化した。
  • レールの継ぎ目や分岐器で車軸に加わった衝撃が、主電動機の筐体に直接または車軸に固定されたギアを介して主電動機の回転子に直接伝わるため、軸受や主電動機の筐体、そして直流電動機の要である整流子に損傷を生じる問題があった。また衝撃に耐える歯車を作成するため歯車のモジュール(歯の大きさ)を小さくできず主電動機軸に直結する小歯車の径を小さくするのには限界があり、起動時の引張力確保と整流子電動機の弱点であるフラッシュオーバーによる回転数上限の両方を考慮すると、出力向上に直結するモーター回転数の引き上げも困難になるなど[注 2]、さらなる高速化に向けての性能向上は頭打ちの状況であった。

この問題を克服する方法として、1920年代には、スイスなどでブフリ式駆動方式が、アメリカや欧州でクイル式駆動方式が実用化された。しかし、いずれも大型であるため電気機関車用であり、電車用としては普及しなかった。

こうして電車の性能向上のため、当時アメリカで有数の鉄道用電動機メーカーであったWH社は1925年から、傘下のナタル社と共同で、小型の車軸無装架駆動方式と低電圧高回転電動機を開発した。

平行軸WN駆動は10年以上の長期にわたる実用試験を経て信頼性や性能が確認された後、1941年シカゴ・ノースショア・アンド・ミルウォーキー鉄道(ノースショアー線)のエレクトロライナーと呼ばれる軽量構造の4車体連接車に採用されて成功を収め、さらに1948年にはニューヨーク市地下鉄用R12形電車に大量に採用され、以後アメリカとアジアで普及した。

採用事例

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日本

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WN駆動方式の主電動機
(三相誘導電動機)
WN駆動装置。WN継手が小歯車軸に固定された状態

構造的に高出力に耐える継手の特性から、古くから地下鉄私鉄各社で用いられてきた。また高速運転を行う新幹線でも、開業以来長く標準駆動システムとして使用され続けているが、700系やN700系の一部グリーン車では例外がある(後述)。

日本におけるWNドライブは、1953年6月に完成した京阪電気鉄道1800型1802[注 3][1][2]に搭載された、アメリカからの技術情報に基づき住友金属工業(現:日本製鉄)が独自開発したWN継手[3]が最初の実用化例となり、これと同様の継手を用いた東京都電5500形5502[注 4]、さらにWH社のライセンスに基づく駆動装置を備え、営団丸ノ内線開業に備えて30両が一気に製造された300形電車[注 5]、と続いた。

丸ノ内線をはじめ、米国の鉄道と同等の1,435 mm軌間(標準軌)を採用した路線のほとんど(営団地下鉄(現:東京メトロ)の銀座線丸ノ内線近畿日本鉄道奈良線大阪線などの標準軌線区、京阪神急行電鉄(現:阪急電鉄)の神宝線[注 6])においては、継手の耐久性が高く大出力化に有利なWNドライブは早くから導入された。

一方、軌間1,067 mmの狭軌路線では、装置の幅が広くなるため、WNドライブの導入には継手だけではなく主電動機の小型化、あるいはその外枠形状の工夫が必要であった。この過程では、主電動機の軸方向長さの短縮とWN継手の小型化に加え、これを補うための主電動機直径の増大も図られている。1956年に富士山麓電気鉄道(現:富士急行3100形で、主電動機の1時間定格出力は55 kWと低出力であったものの初の狭軌用WN継手が実用化され、次いで翌年に登場した長野電鉄2000系電車で75 kW級電動機へ対応する継手が実用化された[注 7]

しかし当時既に直角カルダンでは110 kW(東急5000系電車)、中空軸平行カルダンでは100 kW(国鉄101系電車)といった、より大出力の主電動機への対応を実現し、これにより付随車を組み込んだ経済的な編成での運用を可能にしていた。このため、当方式を採用した狭軌私鉄は全長15 - 18 m級の小柄な車両を運用する事業者が大半を占めていた。この点、国鉄と同じ20 m級車を運行する各社では、各モーターの出力が制限されるこの方式で所要の性能を確保するには、全電動車方式とせねばならないことがネックとなった[注 8]。このためWNドライブの日本における本格的普及は、1960年代に入り狭軌向けでも定格出力が100 kWを超える大出力電動機が製造可能になってからであり、南海電気鉄道(三菱電機製主電動機装備車両)、小田急電鉄などにその例を見ることができる。

国鉄の在来線用電車においては、中空軸カルダンが標準とされたために、WNドライブの使用実績はない[注 9]が、電気機関車では1台車1モーター2軸駆動方式を採用し継手寸法の制約が事実上なかったEF30形に採用されている。分割民営化後、JR西日本においては大出力高速回転型のモーターを使用するために駆動系の高い耐久性が求められたことから、整流子が無い分スペースに余裕を確保しやすいVVVFインバータ制御交流かご形三相誘導電動機を使用する207系以降の在来線電車においてWN継手を標準採用しており、特に223系225系新快速電車をはじめとする新型電車群の高速運転に威力を発揮している。JR西日本以外では223系と同一仕様である四国旅客鉄道(JR四国)の5000系九州旅客鉄道(JR九州)のYC1系および821系東海旅客鉄道(JR東海)の315系HC85系[5]北海道旅客鉄道(JR北海道)の737系でWNドライブが採用されている。また、日本唯一のコンテナ貨物電車である日本貨物鉄道(JR貨物)のM250系電車でもWNドライブが採用されている。車体装架カルダン駆動方式が過半数を占めている超低床路面電車(100 %超低床)では鹿児島市交通局7500形電車リトルダンサータイプX)で東洋電機製造が新設計したWN継手が採用されている。

WN継手は基本的に等速継手であり、変位を与えた状態で回転しても回転角速度変動は発生しない。ただし「たわみ板式継手」や「TD継手」ほど滑らかではない。

現在での国内での生産数は、ウェスティングハウスとの技術提携の経緯や金属加工技術の制約などから、三菱電機製主電動機と日本製鉄(前身の住友金属工業を含む)製継手の組み合わせが半数以上を占めている[注 10][6]

海外

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海外ではクイル式駆動方式と並んで最も一般的に用いられる駆動方式となっており、アジア北米などで主流となった。スペイン[注 11]を除くヨーロッパではクイル式駆動方式が主流であるが、近年ではWN駆動方式も増えつつある。

問題点

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惰性走行時の騒音

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WN継手では、継手に力が掛かっていない惰性走行時、構造上、内部にある歯車の公差により騒音が発生してしまう。

騒音発生の原因は、駆動トルクが加わらない場合、内歯を有する外筒が、内歯、外歯のバックラッシュ分だけ半径方向に偏心してしまい、モーター軸、ピニオン軸の回転数により振れ回ることによるアンバランスマス加振が原因である。従って加振周波数はモーター軸、ピニオン軸の回転数に一致する。直流モータを使用していた時代は、直流モーターの回転数上限は整流子の火花発生により抑制されていたが、その制限のなくなった3相誘導電動機やシンクロナスモーターの採用によりモーター回転数が上昇することによりこの問題が顕著となった。

このため、一定以上の速度域では惰性走行時にごくわずかに回生ブレーキをかけ、継手に負荷をかけて騒音を抑制するよう制御を行う車両[注 12]も存在する。また近年の車両では、歯車の設計において低バックラッシュ化を行い、製造時に内部の歯車の公差を出来るだけ少なくして騒音を抑える努力をしているが、歯車の経年劣化により騒音が徐々に大きくなるため、根本的な解決には至っていない。 本方式の場合、内歯は単なる直歯インターナルギアであるが、外歯は芯ずれ変位を許容するため非常に大きなクラウニングを付与する必要があり、このような非常に大きなクラウニングを有する外歯ギヤは現在の技術をもってしても研磨盤が開発されておらず、あくまでも歯切り→焼き入れ→すり合わせという工程しかとれず、歯車の高精度化によるバックラッシュの縮小は困難であり、現在はモジュールの縮小による歯型の小型化により行われている、また無闇なバックラッシュの縮小は焼きつきの可能性を増加させるため難しい状態である。

東海道山陽新幹線では、700系JR東海所属編成(C編成)のC19編成以降およびJR西日本所属編成を含むN700系Z・N編成グリーン車にのみTD継手を採用するように変更し、騒音を抑制している[注 13]

脚注

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注釈

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  1. ^ 主電動機の他端は台車枠にばねを介して弾性支持される。
  2. ^ 吊り掛け式のモーターは一般に定格回転数800 - 1,300 rpm程度であったが、WN駆動に代表される新しい駆動方式では1,500 - 2,000 rpm以上の高速モーターが多用される。
  3. ^ 1953年7月22日竣工。営業運転は翌7月23日から開始された。
  4. ^ 1953年11月21日竣工。
  5. ^ 1953年10月完成。323を除き1954年1月5日竣工。
  6. ^ 京都線車両は新京阪鉄道を出自とするため、東洋電機製造中空軸平行カルダン駆動方式TD平行カルダン駆動方式を長らく採用していたが、6300系(6330形)や9300系でWN駆動方式も採用されている。逆に、神宝線でも9000系の一部編成がTD平行カルダン駆動方式になったことがある。
  7. ^ 三菱電機の75 kW主電動機とこれに対応するWN継手のセットの場合、長野電鉄向け狭軌セットの軸方向長さは同級出力の標準軌用に比して約300 mmもの縮小で958 mmに短縮されている(一方主電動機直径は55 mm増大した)。またWH社原型の標準軌用WN継手が継手の許容軸偏位・駆動力伝達容量に相当な余裕を持っていることも割り出し、実用に問題のない範囲で偏位許容度を削る構造マージン切り詰めで小型化に振り向けた設計とした。三菱電機の技術者は、1955年当時、台車技術の発達で電車用新型台車の軸ばね剛性が比較的大きくなり、これによって車軸の変位が小さくなっていたことが、WN駆動への適正化ともなったことを指摘している[4]
  8. ^ 全電動車とすると、車両製造コストの上昇や、変電所の負荷過大などの問題が伴う。
  9. ^ 国鉄時代の車両すべて(207系900番台を除く)が直流直巻整流子式電動機を装架していたため、継手に割り当てられるスペースが限られていた。
  10. ^ ただし、三菱電機との取引のない一部事業者(阪急電鉄、京王電鉄他)や、公開入札により資材を調達している大阪市高速電気軌道(旧・大阪市交通局)などでは日立製作所東芝といった三菱電機以外の国内各電機メーカーが製作した電動機がWN継手と組み合わせて使用されている。
  11. ^ 日本の三菱電機による電気機器の提供およびライセンス生産が行われたため。
  12. ^ JR西日本223系1000番台など。
  13. ^ JR西日本所属の700系B編成はグリーン車を含め全車WN継手を使用する。また、九州新幹線用の800系や山陽・九州直通用のN700系7000番台(JR西日本所属のS編成)およびN700系8000番台(JR九州所属のR編成)でも全車WN継手を使用する。

出典

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  1. ^ 『京阪車輌竣工図集(戦後編~S40)』、レイルロード、1990年、pp.63-66。
  2. ^ 沖中忠順「京阪特急物語 -京阪特急を眺め,乗り,50年あれこれ-」『鉄道ピクトリアル No.695 2000年12月臨時増刊号』、電気車研究会、2000年、p.122。
  3. ^ 福原俊一 『日本の電車物語 旧性能電車編 創業時から初期高性能電車まで』、JTBパブリッシング、2007年、pp.128・153 - 154
  4. ^ 真鍋裕司「わが国におけるWN駆動の発達過程」『鉄道史学』第14号 鉄道史学会1995年12月 p.41-p.48
  5. ^ 2021年に登場するJR東海 新型車両 315系、特急形 HC85系のスペックと走り”. BIGLOBEニュース(鉄道チャンネル) (2021年1月2日). 2022年4月28日閲覧。
  6. ^ 石本隆一「私鉄車両めぐり150 大阪市交通局」『鉄道ピクトリアル No.585 1993年12月臨時増刊号』、電気車研究会、1993年、pp.165 - 168。

関連項目

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外部リンク

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