コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

USエアー427便墜落事故

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
USエアー 427便
事故に巻き込まれたボーイング737-300型機N513AU
出来事の概要
日付 1994年9月8日
概要 サーボバルブの劣化によるラダー制御装置の作動不良
現場 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国ペンシルベニア州 ビーバー郡 ホープウェル・タウンシップ英語版
北緯40度36分14秒 西経80度18分37秒 / 北緯40.60393度 西経80.31026度 / 40.60393; -80.31026座標: 北緯40度36分14秒 西経80度18分37秒 / 北緯40.60393度 西経80.31026度 / 40.60393; -80.31026
乗客数 127
乗員数 5
負傷者数 0
死者数 132 (全員)
生存者数 0
機種 ボーイング737-3B7
運用者 アメリカ合衆国の旗 USエアー
機体記号 N513AU
出発地 アメリカ合衆国の旗 オヘア国際空港
経由地 アメリカ合衆国の旗 ピッツバーグ国際空港
目的地 アメリカ合衆国の旗 パームビーチ国際空港
テンプレートを表示

USエアー427便墜落事故(USエアー427びんついらくじこ)は、1994年9月8日にアメリカ合衆国で発生した航空機墜落事故である。

シカゴオヘア国際空港からピッツバーグ国際空港を経由してフロリダ州ウエストパームビーチに向かう定期便だったUSエアー427便がピッツバーグ国際空港の手前で墜落し、乗員乗客132人全員が死亡した。

当日の427便

[編集]

機体

[編集]

機材はボーイング737-3B7で登録番号N513AUであり、以前はN382AUとして登録されていた。機体は1987年に納入され、CFM56-3B2エンジン2基を搭載し、飛行時間は約16,800時間だった。

クルー

[編集]

機長、副操縦士のどちらも非常に経験豊かで、約12,000時間と約9,000時間の飛行経験があった。副操縦士は元はピードモント航空の社員で、同社が1989年にUSエアーと合併したことに伴い移籍していた。2人の客室乗務員は1989年にピードモント航空に入社した。残る一人の客室乗務員は1988年10月にUSエアーに入社した。

墜落までの経緯

[編集]
CVRFDRに基づいて作られた墜落時の様子。

427便はピッツバーグへの進入中にデルタ航空1083便(機材はボーイング727-200)の後方についた。しかしデータによると427便はデルタ航空1083便から4.1マイル (6.6 km)以内に接近したことはなかった[1]:2

7時2分に同機は1083便の後方乱気流に入り込んだ。3回の揺れとクリック音に続いて更に1回大きな揺れが生じ、その後機体が突然左に傾き始めた[1]:4。427便は失速に陥った。機長と副操縦士は事態を理解できずに混乱し、管制が427便が無許可で降下し始めたのに気付いたとき、機長は無線の送信キーを入れて緊急事態を宣言した[1]:6。以後送信キーはそのままだったので、ピッツバーグの管制塔は操縦室の悲鳴を全て聞くことになった。機体はロールし続けて機首からまっ逆さまに落ちていき、これによって生じた急激なGに逆らって機長は3回「引け」と叫んだ後に悲鳴を上げ、副操縦士が「God no」と言った数秒後に地表に激突し爆発した。このとき同機は機首下げ80度で左に60度傾いており、後に発見された速度計の表示は264ノット (489 km/h)、時刻は午後7時03分25秒で後方乱気流に入ってから28秒後だった[2]

墜落現場

乗客127人と乗員5人は全員死亡した[1]。墜落地点はプライベート・グラベル・ドライブウェイとペティタ・レーンの丘陵地帯であり、その後追悼碑が置かれている。

事故原因

[編集]
NTSBがFDRのデータに基づいて作った初期の動画。操縦桿の位置とバンク角の相関に注目のこと
FDRの情報に基づく操縦席の再現動画。方向舵が逆に動いた際、飛行機は『交差速度』以下で飛行していた。この速度を割ると補助翼は一杯に切った方向舵に打ち勝てなくなる。高度を維持しようと操縦桿を引いた結果、パイロットは失速を招くと同時に、方向舵で生じたロールを補助翼で打ち消すことを知らぬ間に不可能にしてしまった[3][4][5]

アメリカ国家運輸安全委員会(NTSB)が事故調査を主導し、その配下でFAAやボーイング社、USエアー、USエアーのパイロット組合など関係各所が動員されて調査に当たった。NTSBの歴史上で初めて、現場の捜査官は対生物災害用の全身防護服を着用した[6]。衝突の衝撃が大きく、遺体が断片化して飛散したため現場はバイオハザード宣言され、6,000に及ぶ遺体の断片を回収するのに2,000個の保冷袋を必要とした[7]。 USエアーは427便の乗客名簿を調べたが、うち5~6人については事実確認に手間取った。アメリカ合衆国エネルギー省の職員数名は後続便の航空券を使って427便に乗っていた。幼い子供1名は航空券なしで便乗していた[8]。 犠牲者の中には神経行動学者として有名なウォルター・ハイリゲンベルグ英語版がいた[9]

CVRとFDRは両方とも回収されて調査された。FDRが旧式だったため事故機の操舵面(方向舵、補助翼、昇降舵など)の記録はなかったが、2つの重要な情報が記録されていた。1つは機体の針路であり、もう1つはピッチ角を制御する操縦桿の位置である。アプローチ中に427便はデルタ航空1083便の後方乱気流に遭遇したが、FAAは「後方乱気流に遭遇しただけでは記録されたような 19:03:00以降の継続的な変針は起こらない」と判断した[1]:245。 427便が急降下に入る直前に針路が突然変わったことから、調査官はすぐに方向舵に注目した。データに方向蛇ペダルの情報がないので、調査官は方向舵が故障で誤動作したのかそれともパイロットが誤操作したのかを特定する必要が生じ、このためCVRの解析が異例なほど重要となった。パイロットの発言や息遣いを分析すれば、方向舵の故障に対処しようと格闘していたのか、それとも乱気流で慌てて誤ったペダルを踏んだのかが判るかも知れないからである。ボーイング社は後者らしいと捉えたが、USエアーとパイロット組合は前者らしいと捉えた[1][10]

FDRから操縦桿のデータを調べたところ、パイロットは急降下の間中、CVR上でも明らかにスティックシェイカーが作動している中で操縦桿を引き続けるミスを犯していたことが判った。それで飛行機の仰角が上がったせいで補助翼の利きが落ち、方向舵によって引き起こされたロールの回復が邪魔されて失速に至ったのである。機体が横滑りを始めたため、操縦桿を引いてもバンク角が悪化する一方だった[10]

ボーイング737型機の飛行特性として、方向舵を一杯に切って生じるロールを補助翼で打ち消すことの出来る下限速度があり、これを下回ると補助翼は方向舵に勝てなくなる。この速度を交差速度(crossover speed)と言い、水平飛行時は190ノット (350 km/h)だった。 ボーイング社のテストパイロットはシミュレータと737-300の試験機の両方でFDRのデータと一致する飛行状況を再現すると共に、水平飛行中に190ノット (350 km/h)で方向舵を一杯に切った状態から回復する方法を発見した。そのためにはロールの逆向きに操縦桿を回しつつ、操縦桿を引かずにおくことで補助翼の利きを取り戻すことが肝要だった[10]:153。NTSBによれば、事故機のパイロットが直面した状況からの正しい回復方法を訓練していた航空会社はそれまで存在せず、しかもロールが始まってから回復不能になるまでの時間的猶予は10秒間しかなかった[10]:153。 また、FDRの調査からは、同機の失速後、80度の降下角で大きく横滑りしつつ約490km/hで急降下する間中、クルーと乗客は最大4Gにおよぶ加速度に曝されていたことが判った[1]

427便の残骸

調査官は後に、事故機の方向舵から回収された負荷制御装置(PCU)が、他の新しいPCUよりもテストにずっと敏感なことを発見した。装置が故障した詳しい仕組みはサーボ弁に関係している。これは高高度の飛行中では通常冷たいまま休眠しているが、機内で使われ続けた熱い作動油を注入されると固着する場合があった。その特定の条件が満たされる確率は実験室では1%未満だったが、427便の墜落を招いた方向舵の故障を説明できた。この固着は起きた後に痕跡を残さず、またボーイングの技術者はこの固着が起きると条件次第では方向舵がパイロットの操作と逆方向に動いてしまう場合がある(ラダーリバーサル)ことを発見した。以上に照らして、ボーイング社はこれらの試験結果は状況設定が極端なことから非現実的だと感じた[11][10]。 ボーイング社は方向舵が逆に動いたのは恐らく人為的なもので、パニックを起こした人間が自動車事故でアクセルとブレーキを踏み間違えるのと同様のことだったのではないかと述べた[10]。 FAAの公式見解は、方向舵の不具合の原因を特定するには証拠不足というものだった[12]

しかし1996年6月9日に発生したイーストウインド航空517便急傾斜事故により、ラダーリバーサルの発生が実際に確認された。

1999年3月24日、NTSB史上最長の4年半以上におよぶ事故調査の末に、NTSBは最終報告を公表した[1][13]。 NTSBは事故が機械的な故障によるものと結論した。

「NTSBは、USエアー427便の事故原因は方向舵が一杯に切られて機体が制御不能に陥ったことだと結論する。方向舵の舵面は、方向舵の主負荷制御装置サーボ弁の副スライドがサーボ弁外筒に対して中立位置から外れた位置で固着したことと主スライドが過大動作したことから、パイロットの操作とは逆向きに動いたと考えるのが最も確からしい」 [1]:ix

NTSBは、それまで原因不明とされていた1991年3月3日のユナイテッド航空585便墜落事故もラダーリバーサルが原因だったと結論した。3件ともボーイング737型機で起きた事故である[1]:292–295

その後

[編集]

427便の事故はボーイング737(全型式)の事故としては犠牲者数の多さで発生当時史上2位だった。2012年現在では同機種史上6位である。機種を問わない米国史上では発生当時7位であり、米国で起きた737の事故として発生当時史上1位だった。2012年現在では米国史上11位である[14]。 本事故は1989~1994年の間にUSエアーで起きた5回目の墜落事故だった[8]ペンシルバニア州は事故現場の回収と清掃に50万ドルを費やした[7]

USエアーはNTSBに対し操縦士に交差速度と方向舵を一杯に切った状態からの回復に関して訓練を施すべきだと提言した[3]。この結果、各社の操縦士は速度190ノット (350 km/h)以下で補助翼の利きが不十分な状態における操縦法について注意と訓練を受けた。なお、この速度はそれまで737型機における通常の着陸進入速度だった。ボーイング社は事故の原因は副操縦士が混乱して方向舵ペダルを踏み違え、逆向き一杯に切ったままそれを何らかの理由で墜落まで正さなかったことだとする見解を変えなかった[1]:96-100[15]。カッツマン・ランパート・マククルーン法律事務所は航空事案を専門に扱う法律事務所で、USエアー427便とユナイテッド航空585便の遺族側弁護を共に担当したが、同事務所によるとボーイング社は737型機の方向舵が飛行中意図しない動作を起こす場合がある点について公判上で争うことを最終的に断念した[16]。何れにせよ、ボーイング社は方向舵制御装置を再設計して冗長な予備系を付加することに同意し、世界中の737型機全てに対してこの改修を無償提供した[17]。NTSBは、重大勧告の一つとして、航空会社にFDRを改修して操縦士の方向舵操作状況を含む各種のデータ採取機能を追加するよう要請し、実施期限を2001年8月1日とした[1]:297。USエアーの元パイロットで427便事故の原因調査に参加したジョン・コックスは、ボーイング社の設計変更以来、方向舵の逆動事故が起きていないことがNTSBが正しかったことの証明だと2016年に述べている[18]

USエアーは便番号として427便を廃止した。当時USエアーは僅か2ヶ月前の1994年7月にもシャーロット=ダグラス空港でUSエアー1016便墜落事故を起こしており、これらの事故で一時経営状況が悪化した[19]

この事故を扱った作品

[編集]

脚注

[編集]
  1. ^ a b c d e f g h i j k l Aircraft Accident Report – Uncontrolled Descent and Collision With Terrain, USAir Flight 427, Boeing 737-300, N513AU, Near Aliquippa, Pennsylvania, September 8, 1994. 国家運輸安全委員会. (1999-03-24). http://www.ntsb.gov/investigations/AccidentReports/Reports/AAR9901.pdf 
  2. ^ 28 Seconds of Horror, Pittsburgh Tribune-Review, https://web.archive.org/web/20050310133845/http://www.pittsburghlive.com/pages/newsextra/427double.pdf 
  3. ^ a b Bertorelli, Paul (1997年10月19日). “USAir 427: US Airways' View of the Accident – AVweb Features Article”. Avweb.com. 2016年12月3日閲覧。
  4. ^ 28 Seconds: Roxie, Trixie and the fat guy 3”. Sptimes.com (1994年9月8日). 2016年12月3日閲覧。
  5. ^ Federal Aviation Administration (1994年9月8日). “Lessons Learned”. Lessonslearned.faa.gov. 2016年12月3日閲覧。
  6. ^ "Hidden Danger". メーデー!:航空機事故の真実と真相. シーズン4. 2007. Discovery Channel Canada / National Geographic Channel。
  7. ^ a b http://bloximages.newyork1.vip.townnews.com/timesonline.com/content/tncms/assets/v3/editorial/0/de/0deaa316-379f-11e4-b97b-0017a43b2370/540e211b61f27.pdf.pdf
  8. ^ a b 28 Seconds: The Mystery of USAir Flight 427 Part One: Zulu, http://www.sptimes.com/28-seconds/zulu4.html 2012年12月31日閲覧。 
  9. ^ List of Crash Victims, Wilmington Morning Star, (1994-09-10), https://news.google.com/newspapers?id=y_EVAAAAIBAJ&sjid=BBUEAAAAIBAJ&pg=6843,3617484&dq=walter-heiligenberg+usair 2009年10月3日閲覧。 
  10. ^ a b c d e f Adair, Bill (2002). The Mystery of Flight 427: Inside a Crash Investigation. ISBN 1-58834-005-8 
  11. ^ Business - Expert Panel May Have Key To Which 737S Are Most At Risk - Seattle Times Newspaper, (1997-08-17), http://community.seattletimes.nwsource.com/archive/?date=19970817&slug=2555173 
  12. ^ http://lessonslearned.faa.gov/USAir427/FAA%20position.pdf
  13. ^ NTSB Office of Public Affairs (24 March 1999). "NTSB Concludes Longest Investigation in History; Finds Rudder Reversal was Likely Cause of USAIR Flight 427, A Boeing 737, Near Pittsburgh in 1994" (Press release). National Transportation Safety Board. 2016年7月18日閲覧
  14. ^ Ranter, Harro, ASN Aircraft accident Boeing 737-3B7 N513AU Aliquippa, PA, https://aviation-safety.net/database/record.php?id=19940908-0 
  15. ^ The Seattle Times: Safety at issue: the 737, Old.seattletimes.com, (1996-10-29), http://old.seattletimes.com/news/local/737/part03/ 2016年12月3日閲覧。 
  16. ^ US Air 427 crash Near Pittsburgh, Pennsylvania, Katzman Lampert & McClune, http://klm-law.com/us-air-427-crash-near-pittsburg-pennsylvania/ 
  17. ^ Boeing: News Feature -- 737 Rudder Enhancements -- Enhanced Rudder System, (2008-01-12), オリジナルの2008-01-12時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20080112190010/http://www.boeing.com/news/feature/737rudder/new-pcu.html 
  18. ^ "Fatal Flaws". Why Planes Crash. シーズン2. 2016. MSNBC。
  19. ^ Halvonik, Steve (2004-09-05), Disaster only one in a string of setbacks for troubled company, Pittsburgh Tribune, オリジナルの2007-05-20時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20070520055859/http://www.pittsburghlive.com/x/pittsburghtrib/news/specialreports/flight427/s_247851.html 2012年1月1日閲覧。 

関連項目

[編集]
一連の方向舵問題から生還したSGR517便の機材
ボーイング737で発生した同様の原因の事故
事故原因として、上記3つの事故のような方向蛇の誤作動が疑われた737の事故
ボーイング747-400で異なる原因だがラダーの不具合により発生した事故
ノースウエスト航空時代に下部方向蛇の不具合を起こしたデルタ航空747-400初号機
ラダーの脱落による墜落事故

外部リンク

[編集]