KIC 11145123
KIC 11145123 KIC 11145123 | ||
---|---|---|
星座 | はくちょう座 | |
見かけの等級 (mv) | 13.116[1][2] | |
変光星型 | DSCT[3][4] GDOR[5] | |
分類 | 青色はぐれ星[6][7] | |
位置 | ||
赤経 (RA, α) | 19h 41m 25.3411383552s[8] | |
赤緯 (Dec, δ) | +48° 45′ 14.990032692″[8] | |
視線速度 (Rv) | −135.4±0.2 km/s[6] | |
固有運動 (μ) | 赤経 -20.900 ミリ秒/年[8] 赤緯 -3.693 ミリ秒/年[8] | |
年周視差 (π) | 0.8344 ± 0.0100ミリ秒[8] (誤差1.2%) | |
距離 | 3910 ± 50 光年[注 1] (1200 ± 10 パーセク[注 1]) | |
絶対等級 (MV) | 2.8[注 2] | |
KIC 11145123の位置(赤丸)
| ||
物理的性質 | ||
半径 | 2.24 R☉[3] | |
質量 | 1.46 M☉[3] | |
スペクトル分類 | A[7] | |
有効温度 (Teff) | 7564.0+16.7 −16.2 K[8] | |
金属量[Fe/H] | −0.71±0.11[6] | |
他のカタログでの名称 | ||
2MASS J19412534+4845150[4], Gaia DR3 2134738697628000512[4] | ||
■Template (■ノート ■解説) ■Project |
KIC 11145123は、太陽系から見てはくちょう座の方向約3,910 光年の距離にある変光星。見かけの等級は13.116等と、肉眼で見ることはできない。その特徴から「青色はぐれ星」と考えられている。また、既知のどの天体よりも扁平率が小さいことから「宇宙で最も丸い天体」として知られている。
特徴
[編集]太陽系外惑星探査機「ケプラー」による観測で動径脈動と非動径脈動の両方が観測されており、変光星としてはかじき座γ型変光星 (GDOR)[5]またはたて座δ型変光星 (DSCT)[3]として分類されている。
分光スペクトルからはA型主系列星のように見える[7]が、「ケプラー」によって得られた精度の高い測光データと星震学による研究から、他の恒星には見られない特徴が発見されている。
- ヘリウムの存在量が異常に高い
星震学研究の大家として知られるドナルド・カーツは、ケプラーの観測対象となった主系列星の中から、音波で構成されるpモードと重力波で構成されるgモードの両方の固有振動が観測された星を探し、KIC 9244992とKIC 11145123の2つを選び出して研究を進めた。2014年にカーツは、「KIC 11145123の質量は太陽の1.46倍、半径は2.24倍で、誕生初期のヘリウム含有率が36%(重量比)であった」とするモデルを発表した[3]。これは、ビッグバン元素合成で生成されたヘリウムの存在量約25%に比べて格段に高く、通常の星形成では到達し得ない比率である[9]。
- 外層のほうが内層より速く自転している
カーツの研究では、固有振動の観測結果から星の内層と外層の自転速度が求められた。その結果、自転の周期は約100日で、星全体がほぼ一体となった剛体のように自転しており、しかも内層に比べて外層のほうが5%速く自転しているという結果が得られた[3]。通常の恒星では中心部のほうが自転速度が速く、外層の自転速度が内層に追いつくことはあっても追い抜くことは難しいため、未知のメカニズムの存在が示唆される結果となった。
- 扁平率が異常に小さい
2016年のGizonらの研究では、赤道半径と極半径の扁平率が(1.8±0.6)×10−6、すなわち赤道半径が極半径より約50万分の1だけ長いことが示された[10]。これは約3 kmに相当し、自転周期から想定される理論値の約3分の1しかない[10]。このことから、星全体を極方向に引き伸ばそうとする何らかのメカニズムの存在が示唆された[9]。KIC 11145123の扁平率が2016年時点で既知の天体の中で最も小さな値であったことから「宇宙で最も丸い天体」と呼ばれた[9][11]。
これらの特徴から、KIC 11145123が単独星として誕生して進化してきたと説明することは難しく、「何らかの形で外部からヘリウムを獲得した」として説明するシナリオが想定された[9]。2017年には高田-比田井昌英らによって、すばる望遠鏡の高分散分光器HDSを用いた分光観測によって得られた化学組成パターンや金属量、空間移動速度のデータから、KIC 11145123は「青色はぐれ星」であるとする研究結果が発表された[6][9]。青色はぐれ星は「連星系における相互作用」あるいは「恒星同士の衝突合体」によって生じたとする説が有力であり、KIC 11145123の特徴を説明する上でも有力な説であるとされる[6][7][9][12]。
2021年には国立天文台の八田良樹(当時)らによって、KIC 11145123が初期ヘリウム量26%の単独星として生まれ、その後他の天体との相互作用を経験して外周部の化学組成が変化した可能性がある、とする研究結果が発表された[12]。八田らは、質量1.36 M☉、初期ヘリウム量26%、初期金属量0.2%とする、カーツが2014年に構築したモデルより一般的なパラメータのモデルを構築し、単独星として誕生したKIC 11145123が他の星との相互作用で現在の姿となった可能性を示している[12]。
名称
[編集]特に固有名は存在しない。「KIC」は、系外惑星探査機「ケプラー」が観測した天体約3000万を記録した「Kepler Input Catalog」の頭文字である[13]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ Zacharias, N. et al. (2012). “VizieR Online Data Catalog: UCAC4 Catalogue (Zacharias+, 2012)”. VizieR On-line Data Catalog: I/322A.. Bibcode: 2012yCat.1322....0Z .
- ^ Zacharias, N. et al. (2013-01-14). “The Fourth US Naval Observatory CCD Astrograph Catalog (UCAC4)”. The Astronomical Journal (American Astronomical Society) 145 (2): 44. Bibcode: 2013AJ....145...44Z. doi:10.1088/0004-6256/145/2/44. ISSN 0004-6256.
- ^ a b c d e f Kurtz, Donald W. et al. (2014-08-13). “Asteroseismic measurement of surface-to-core rotation in a main-sequence A star, KIC 11145123”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (Oxford University Press (OUP)) 444 (1): 102-116. arXiv:1405.0155. Bibcode: 2014MNRAS.444..102K. doi:10.1093/mnras/stu1329. ISSN 0035-8711.
- ^ a b c "KIC 11145123". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年10月29日閲覧。
- ^ a b Li, Gang et al. (2019-10-18). “Gravity-mode period spacings and near-core rotation rates of 611 γ Doradus stars with Kepler”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (Oxford University Press (OUP)) 491 (3): 3586-3605. arXiv:1910.06634. Bibcode: 2020MNRAS.491.3586L. doi:10.1093/mnras/stz2906. ISSN 0035-8711.
- ^ a b c d e Takada-Hidai, Masahide et al. (2017-06-16). “Spectroscopic and asteroseismic analysis of the remarkable main-sequence A star KIC 11145123”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (Oxford University Press (OUP)) 470 (4): 4908-4924. arXiv:1706.04314. Bibcode: 2017MNRAS.470.4908T. doi:10.1093/mnras/stx1506. ISSN 0035-8711.
- ^ a b c d Hatta, Yoshiki et al. (2019-01-28). “The Two-dimensional Internal Rotation of KIC 11145123”. The Astrophysical Journal (American Astronomical Society) 871 (2): 135. arXiv:2111.06853. Bibcode: 2019ApJ...871..135H. doi:10.3847/1538-4357/aaf881. ISSN 1538-4357.
- ^ a b c d e f Gaia Collaboration (2022). “VizieR Online Data Catalog: Gaia DR3 Part 1. Main source (Gaia Collaboration, 2022)”. VizieR On-line Data Catalog: I/355/gaiadr3. Bibcode: 2022yCat.1355....0G .
- ^ a b c d e f 八田良樹、関井隆「KIC 11145123の星震学:内部自転,扁平率,進化過程」『天文月報』第113巻第2号、80-85頁、ISSN 0374-2466。
- ^ a b Gizon, Laurent et al. (2016-11-04). “Shape of a slowly rotating star measured by asteroseismology”. Science Advances (American Association for the Advancement of Science (AAAS)) 2 (11). arXiv:1611.06435. Bibcode: 2016SciA....2E1777G. doi:10.1126/sciadv.1601777. ISSN 2375-2548.
- ^ Crew, Bec (2016年11月17日). “Scientists Just Discovered The Roundest Object in The Known Universe”. ScienceAlert. 2022年10月29日閲覧。
- ^ a b c Hatta, Yoshiki et al. (2021-12-01). “Nonstandard Modeling of a Possible Blue Straggler Star, KIC 11145123”. The Astrophysical Journal (American Astronomical Society) 923 (2): 244. arXiv:2110.06926. Bibcode: 2021ApJ...923..244H. doi:10.3847/1538-4357/ac23c9. ISSN 0004-637X.
- ^ “Dictionary of Nomenclature of Celestial Objects”. CDS (2022年10月21日). 2022年10月29日閲覧。