クロス・アンド・ブラックウェル
以前の社名 | ウェスト・アンド・ワイアット[1] |
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種類 | 非公開会社 (1706–1960) |
業種 | 食品 |
その後 | ネスレにより買収 |
設立 | 1706年 |
本社 | |
製品 | 調味料、マーマレード、ミートソース、ミンスミート、マスタード、酢漬け |
ブランド |
リスト
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所有者 |
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ウェブサイト | crosseandblackwell.com |
クロス・アンド・ブラックウェル(Crosse & Blackwell、C&B)は、イギリスの食品ブランドである。1706年にロンドンで設立され、長らく独立の企業であったが、1960年にスイスのコングロマリットであるネスレに買収された。現在は、アメリカのJ・M・スマッカーなどがこのブランドを所有している。
クロス・アンド・ブラックウェルのブランドで販売されている商品には、調味料、マーマレード、ミートソース、ミンスミート、マスタード、酢漬けなどがある。
日本ではカレー粉のメーカーとして知られているが、カレー粉はこの会社の数多い取扱い品目のひとつにすぎず、初めて販売したときの資料も会社に残っていないという[2]。
歴史
[編集]18・19世紀
[編集]1706年に植民地の農産物を扱う「ジャクソンズ」(Jackson's)としてロンドンで設立され、後に「ウェスト・アンド・ワイアット」(West & Wyatt)となった。同社は酢漬け、ソース、調味料[3]、塩漬け魚を専門とし、イギリス国王ジョージ3世、ジョージ4世、ウィリアム4世の御用達となっていた[4]。1818年、ウェスト・アンド・ワイアット社はソーホーのキング・ストリート(現在のシャフツベリー・アベニュー)11番地に工場を建設し[5]、油漬け、果物の砂糖漬けなどを製造した[6]。
1819年、ウェスト・アンド・ワイアット社に見習いとしてエドモンド・クロス(Edmund Crosse、1804-1862)とトーマス・ブラックウェル(Thomas Blackwell、1804-1879)が入社した。1830年、2人は家族から借りた600ポンドでウェスト・アンド・ワイアット社の事業を買収し、社名を「クロス・アンド・ブラックウェル」とした[4]。同社は、1837年に女王ヴィクトリアから王室認証(ロイヤル・ワラント)を受けた[7][8]。
1839年に事業を拡大し、オフィスと店舗をソーホー・スクエア20-21番地に移転した[3][10]。その後の10年間で、著名なシェフとコラボレーションした商品を多く生み出した。例えば、1850年にはフランス出身のシェフ・アレクシス・ソイヤーと協力して、ピリッとした味の「ソイヤーズ・ソース」「ソイヤーズ・レリッシュ」「ソイヤーズ・サルタナ・ソース」を開発した[6][7][8]。また、リー・アンド・ペリンズ社が開発したウスターソースの総販売元でもあった[7]。
C&B社はカレドニアン・ロードに酢の醸造所を建設し、ソーホー・スクエアで酢漬けの製造を開始した。この工場は、ジャーナリスト・ヘンリー・メイヒューが1865年に出版した"The Shops and Companies of London, and the Trades and Manufactories of Great Britain"の中で、"Girls in Pickle"という文章で紹介されている[3]。また、1812年に設立されたバーモンジーの小規模な缶詰会社ギャンブル社を買収し[11][12][13]、長距離航海のための果物、野菜、肉の缶詰を製造した[3]。1849年には、アイルランドのコークにサーモンの缶詰を製造する工場を建設した[8]。
19世紀後半、C&B社は、ソーホー・スクエアに近いチャーリング・クロス・ロードにいくつかの建物を建設した。1875年から76年にかけて、チャリング・クロス・ロード111番地に建築家ロバート・ルイス・ルーミューの設計による2階建ての厩舎を発注した[8]。ルーミューが1877年に亡くなった後は、その息子のレジナルド・セントオービン・ルーミューの設計会社ルーミュー&アイチソンに設計を依頼し、チャーリング・クロス・ロードに倉庫を建設した[8]。1888年から1920年代まで、C&B社はチャーリング・クロス・ロード114-116にオフィスを構えていたが、これもルーミュー&アイチソンの設計によるものである[8]。
1892年に有限責任会社(limited company)となった。
20世紀
[編集]第一次世界大戦前、C&B社はヨーロッパ大陸に進出し、最初の工場をハンブルグに建設した[8]。第一次世界大戦後は、1919年にバーモンジーのソース・ピクルスメーカーのE・レーゼンビー社(E Lazenby & Son Ltd)を、1924年にはダンディーのマーマレードメーカーのジェームズ・ケイラー社(James Keiller & Son Ltd)を買収した。ケイラー社はロンドン東部・シルバータウンのテイ・ワーフに工場を構えており、テムズ川や鉄道網、ヘンリー・テートの製糖所にも近かった[3]。
その後、Cosmelli Packing Company、Robert Kellie & Son、Batzer & Co、Alexander Cairns & Sonsなどを買収した[8]。第一次世界大戦後、C&Bはさらに海外に工場を建設した。1930年までに、ボルチモア、ブリュッセル、ブエノスアイレス、パリ、トロントに工場を進出させた[8]。
郊外への移転
[編集]1920年、C&B社はスタッフォードシャー州バートン・アポン・トレント郊外のブランストンの工場用地を612,856ポンドで購入した。ここに大英帝国最大となる食品工場を建設し[14]、ソーホーにあった工場・オフィスを引き払った。
1922年、同社は新工場で生産を開始したが、ブランストンの立地は不経済であることが判明し、生産拠点はバーモンジーのクリムスコット・ストリートにあるレーゼンビー社の敷地に移された[15]。ブランストンでの生産は1925年1月に終了したが、その結果、ブランストンでは大量の失業者が発生し、ブランストンの住民はC&B社製品の不買運動を行った[14]。
バーモンジーの工場は1924年と1926年に拡張され、1969年まで使用された[15]。
ケイラー
[編集]シルバータウンにあったケイラー社の工場は、1889年の火災で焼失し、翌年に再建された。そこで保存食、チョコレート、菓子類の製造を続けていたが、1940年9月7日のロンドン空襲で爆撃を受けた。チョコレートや製菓の製造はダンディー工場に移された。シルバータウンでは保存食の製造のみが再開されたが、1956年にこれもダンディー工場に移管された[3]。
ネスレによる買収
[編集]1960年、ネスレはC&B社を買収し[16]、そのブランドを同社の世界中の多くの食品カテゴリー製品に展開した。この買収により、ネスレは11の工場を手に入れた。その中には、イギリス最大の魚の缶詰工場(アバディーンシャー州ピーターヘッド)も含まれていた。買収当時、C&B社の従業員は、生産部門で4,700人、その他の従業員と営業担当者で1,900人だった。
C&Bのブランドは、後にプレミア・フーズ社の傘下に入った。
21世紀
[編集]プレミア・フーズ社は2002年にC&Bの事業を売却した。現在、クロス・アンド・ブラックウェル(C&B)ブランドの所有権は、北アメリカのJ・M・スマッカー、ヨーロッパのプリンセス・グループ、南アフリカのタイガー・ブランドに分かれている。
脚注
[編集]- ^ About us on C&B website
- ^ 森枝卓士『カレーライスと日本人』(講談社新書) 講談社、1989年7月 ISBN 4061489372
- ^ a b c d e f “Crosse & Blackwell Ltd, Factory Road, London E16”. GLIAS Notes & News (Greater London Industrial Archaeology Society). (June 1984) 12 September 2017閲覧。
- ^ a b “A Tinned History of Crosse & Blackwell (1706–1914)”. Let's Look Again (7 March 2016). 12 September 2017閲覧。
- ^ Johnstone, Andrew (1818). Johnstone's London Commercial Guide, and Street Directory. London: Barnard & Farleg. p. 280
- ^ a b Cowen, Ruth (2010). Relish: The Extraordinary Life of Alexis Soyer, Victorian Celebrity Chef. Hachette. ISBN 9780297865575
- ^ a b c “Thousands of jars reveal Britain's saucy history”. The History Blog. 13 September 2017閲覧。
- ^ a b c d e f g h i “Crosse & Blackwell”. Cook's Info. 18 September 2017閲覧。
- ^ Maxwell Alexander Robertson, English reports annotated, 1866-1900, Volume 1, Publisher: The Reports and Digest Syndicate, 1867. (page 567)
- ^ 'Soho Square Area: Portland Estate, No. 21 Soho Square', in Survey of London: Volumes 33 and 34, St Anne Soho, ed. F H W Sheppard (London, 1966), pp. 72-73. British History Online http://www.british-history.ac.uk/survey-london/vols33-4/pp72-73 [accessed 18 September 2017].
- ^ “John Hall (of Dartford)”. Grace's Guide. 23 May 2017閲覧。
- ^ Greenland, Maureen; Day, Russ (2016). Bryan Donkin: The Very Civil Engineer, 1768-1855. England: Phillimore Book Publishing. ISBN 978-0-9934680-1-8
- ^ Robertson, Gordon L. (2005). Food Packaging: Principles and Practice. CRC Press. pp. 123. ISBN 0-8493-3775-5
- ^ a b “Branston Depot History”. The local history of Burton upon Trent. 13 September 2017閲覧。
- ^ a b “Crosse and Blackwell / E Lazenby & Sons”. Exploring Southwark. 12 September 2017閲覧。
- ^ Nestlé (1991)- 125 Years 1866-1991, Published by Nestlé SA, Vevey
関連項目
[編集]- クリス・ブラックウェル - トーマス・ブラックウェルの子孫といわれている音楽プロデューサー。