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AN/SPY-7

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
AN/SPY-7
種別 3次元レーダー
目的 多機能 (捜索捕捉追尾)
開発・運用史
開発国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
送信機
周波数 Sバンド
アンテナ
形式 アクティブ・フェーズドアレイ(AESA)
素子 窒化ガリウム(GaN)半導体素子
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AN/SPY-7は、アメリカ合衆国ロッキード・マーティン(LM)社が開発しているフェーズドアレイレーダー国土防空ミサイル防衛用の対空捜索レーダーのほか、艦載用の多機能レーダーとしても用いられる予定である。

設計

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LRDR(長距離識別レーダー; 英語: Long Range Discrimination Radar)は、地上配備型の弾道弾迎撃ミサイルであるGBI(Ground Based Interceptorと組み合わせて運用される早期警戒レーダーとして開発された[1][2]。そして2019年11月、本機をAN/SPY-7(V)1と称することが決定された[3]

LM社社内ではLMSSR(Lockeed Martin's Solid State Radar)とも称されていたとおり、窒化ガリウム(GaN)製の半導体素子を用いたアクティブ・フェーズドアレイ・アンテナを採用しており[2][3]、試作版では日本富士通製のGaN素子が採用された[4]。この素子の採用により、メンテナンス中でも継続的な観測が可能となったほか[5]スケーラビリティを備えたシステムにもなっている[4]。また従来のAESA式レーダーでは垂直方向のみのエネルギー・パルスを送受信しているのに対して、本システムでは垂直・水平の両方向のエネルギー・パルスを送受信する二重偏波によって、目標をより立体的に認識することが可能になっており、レーダー反射断面積(RCS)が小さな目標に対する探知能力が向上している[6]

また本システムは、イージス弾道ミサイル防衛システム(ABMDシステム)と連接して使用することもできる[7]。 従来のABMDシステムおよびイージスシステム(AWS)で用いられていたAN/SPY-1と同じLM社の製品であることから、他社の製品であるAN/SPY-6と異なり、新たなインターフェースを介することなく連接が可能であるというメリットがある[6]。艦載向けの多機能レーダー版であるAN/SPY-7(V)2は、アンテナを14に小型化して消費電力も低減しており[8]カナダ海軍の水上戦闘艦とスペイン海軍ボニファス級フリゲートに使用される予定である[3]。またアメリカ海軍に対しても、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の寿命を2040年代以降に延ばすためのAN/SPY-1改装プログラムとして、売り込みが図られている[9][注 1]

運用史

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アメリカ合衆国

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2015年10月にアメリカミサイル防衛局と7億8400万ドルの契約を交わした[2]

2019年、アラスカ中部のクリア空軍基地でLRDRの建設が開始された[11]

2021年、アラスカ州で運用されるAN/SPY-7の納入及び初期作戦能力の獲得が実施される予定である[12]

日本

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2018年7月30日、日本政府はイージス・アショア用にAN/SPY-7(V)1を2基購入する計画を承認し、山口県秋田県への配備を計画していた。2025年から陸上自衛隊が運用を開始する予定であった[13]が、2020年6月15日、河野太郎防衛相(当時)がイージス・アショア導入計画の停止を発表した[14]

2020年12月18日、日本政府は「新たなミサイル防衛システムの整備等及びスタンド・オフ防衛能力の強化について」と題する閣議決定を行い[15]、その中で、イージス・アショアの代替案について、「イージス・システム搭載艦」を2隻建造し、それらを海上自衛隊が運用すると決定した[16]

2021年1月27日、アメリカミサイル防衛局と米海軍イージス艦の技術部門代表(TECHREP)は、米ニュージャージー州ムーアズタウンにおいて、AN/SPY-7を搭載したAWSベースラインJ7.Bのソフトウェアのリリースに伴う試験に成功した[12]。2018年にイージス・アショアの導入決定と同時に、AN/SPY-7の導入を決定して以来、AN/SPY-7に適合した日本向けイージス武器システムの開発が進められていたが、今回の試験によって、試験的に海上配備されたAN/SPY-7を搭載したAWSベースラインJ7.Bが、弾道ミサイル防衛(BMD)目標の捜索・追跡・識別を行う能力を有する事が確認された[12]

AWSベースラインJ7.Bは、既に海上自衛隊のまや型護衛艦で運用されているベースラインJ7の改良型で、AN/SPY-7を搭載することができ、米海軍のイージス艦に搭載されるベースライン9及びベースライン10(予定)の機能を有する[12]

次回の試験は2021年10月に、イージス武器システム全体の能力向上試験が実施され、システム完成後はAegis Production Test Center(PTC)にて、イージス武器システムの適合試験・認証取得が実施される予定である[12]

カナダ

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2020年11月、カナダ海軍はSPY-7を装備したフリゲートを発表した。本艦はイロクォイ級ミサイル駆逐艦4隻(退役済)とハリファックス級フリゲート12隻の後継艦調達プログラムの中で、複数提案された中から英海軍のフリゲート26型をベースに設計されたBAEシステムズとロッキード・マーティンの案を採用した。カナダ海軍が発表した詳細情報によれば次期フリゲートの基本仕様は全長151.4m、全幅20.75m、排水量7,800トン、航続距離7,000海里、速度27ノット、127mm砲×1門、30mm機関銃システム×2門、垂直発射システムMk.41×36セル、SeaCeptor専用垂直発射システム×6セル、対艦ミサイルNSM発射基×8基、対潜水艦用短魚雷Mk.54発射管、CH-148×1機である[17]

脚注

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注釈

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  1. ^ アーレイ・バーク級フライトIIAへの換装用としてはAN/SPY-6(V)4が採用される計画となっている[10]

出典

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  1. ^ 香田 2021.
  2. ^ a b c Jen Judson (16 August 2016), “Alaska's Long Range Discrimination Radar on Track for 2020”, DefenseNews.com, http://www.defensenews.com/story/defense/show-daily/smd16/2016/08/16/alaskas-long-range-discrimination-radar-track-2020/88871568/ 
  3. ^ a b c 多田 2022, p. 163.
  4. ^ a b Lockheed Martin Demonstrates Next Generation Aegis Ashore Solution, Lockheed Martin, (Jan 11 2018), https://news.lockheedmartin.com/2018-01-11-Lockheed-Martin-Demonstrates-Next-Generation-Aegis-Ashore-Solution 
  5. ^ “Long Range Discrimination Radar (LRDR)”, MissileThreat (CSIS), (July 15, 2021), https://missilethreat.csis.org/defsys/lrdr/ 
  6. ^ a b 德丸 2021.
  7. ^ JSF「日本向けイージスアショア用SPY-7レーダー契約締結」『Yahoo!ニュース』2019年11月28日https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/00c7de67288d791db845d3a3919ca32e16eb654a2020年4月4日閲覧 
  8. ^ 石井 2024.
  9. ^ “Lockheed Martin Advocates Accelerating Aegis, SPY-1 Upgrades”, USNI.org, (January 10, 2017), https://news.usni.org/2017/01/10/lockheed-martin-advocates-quickening-aegis-spy-1-upgrade-programs 
  10. ^ 多田 2022, pp. 162–163.
  11. ^ Ellis, Tim (2019年6月5日). “Military celebrates milestone for radar system under construction at Clear Air Force Station” (英語). Alaska Public Media. 2020年4月4日閲覧。
  12. ^ a b c d e The SPY-7 Hybrid Defense Security Cooperation Project with Japan Completes Initial Engineering Demonstration of Capability” (英語). 2021年3月24日閲覧。
  13. ^ 陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)の 構成品選定結果について 防衛省, 2018年7月30日
  14. ^ イージス・アショアの配備に関する河野防衛大臣臨時会見”. 防衛省. 2020年6月24日閲覧。
  15. ^ 新たなミサイル防衛システムの整備等及びスタンド・オフ防衛能力の強化について” (2020年12月18日). 2021年7月7日閲覧。
  16. ^ 「イージス・システム搭載艦」は本当にベストな選択か? イージス・アショア代替問題”. 2021年3月24日閲覧。
  17. ^ Trevithick, Joseph (2020年11月13日). “Canada's New Frigate Will Be Brimming With Missiles” (英語). The Drive. 2024年1月19日閲覧。

参考文献

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  • 石井幸祐「イージス・システム搭載艦 (特集 令和6年度概算要求の新造艦艇)」『世界の艦船』第1009号、海人社、128-133頁、2024年1月。 
  • 香田洋二「代替案検討の前に構成システムの再評価を (特集 海上自衛隊 ; イージス・アショア代替策を考える)」『世界の艦船』第939号、海人社、144-147頁、2021年1月。CRID 1520291856062243584 
  • 多田智彦「現代の艦載兵器」『世界の艦船』第986号、海人社、2022年12月。CRID 1520012777807199616 
  • 德丸伸一「レーダーはSPY-7に! イージス・システム搭載艦を考える」『世界の艦船』第957号、海人社、104-109頁、2021年10月。CRID 1522543656105343872 

関連項目

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外部リンク

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