2022年原因不明の小児肝炎
このページ名「2022年原因不明の小児肝炎」は暫定的なものです。(2022年12月) |
2022年、原因不明かつ重度の急性小児肝炎の症例が複数の国から世界保健機関(WHO)に報告された[1]。アウトブレイクが最初に検知された4月5日から7月8日までの間に35か国で1,010人が罹患し、22人が死亡、46人が肝移植を受ける事態となっている[2][3]。症状には吐き気、腹痛、下痢、嘔吐、黄疸がある[4][5]。
概要
[編集]2021年10月から2022年2月までに、アメリカ合衆国アラバマ州の病院に入院していた9人の子供が原因不明の肝炎に感染していることが確認された[6][7]。
2022年4月5日、イギリスの国際保健規則ナショナルフォーカルポイントは、スコットランド中部で、これまで健康だった幼児(11か月~5歳)に原因不明の重症急性肝炎が10例発生したとWHOに通知した[8]。その後、全土で調査が行われ4月8日には74例が確認される。そのうち6人には肝移植が必要であった[8]。発症した74人はいずれもCOVID-19ワクチンの接種を受けておらずワクチンとの関連は否定されている[9]。
2022年4月21日までにイギリス(114例)、スペイン(13例)、イスラエル(12例)、アメリカ合衆国(9例)、デンマーク(6例)、アイルランド(5例未満)、オランダ(4例)、イタリア(4例)、ノルウェー(2例)、フランス(2例)、ルーマニア(1例)及びベルギー(1例)で合計169例が報告された[10]。4月25日には厚生労働省が日本国内においても原因不明の急性肝炎に当てはまる可能性のある症例が1例報告されたと発表する[11]。5月6日までに6例が報告された[12][13]。
AからEまで5種類ある肝炎ウイルスが確認されなかった一方で、アデノウイルスが74例検出された[14]。アデノウイルスの中で、感染性胃腸炎の原因となる「41型」が複数報告されており、感染者の大半で嘔吐や下痢の症状が確認されている[14][15]。5月6日までに日本において確認された7例のうち急性呼吸器症状を起こす「1型」が1例確認されている[14][16]。しかしながら、このウイルスが肝炎を起こすことはあまり知られておらず、免疫不全の状態にある者を除き健康な子供が急に肝炎を発症することは極めて稀であるとされる[14]。
アウトブレイクの背景には2019年末から続く新型コロナウイルス感染症の世界的流行が間接的に関与した可能性も考えられている。感染拡大を防止する目的として都市封鎖など人と人との接触を減らす医療政策が行われたが、他の感染症の蔓延に影響を及ぼしたとされる。実際にアメリカ合衆国ではインフルエンザの感染者数、死者数が大幅に増加したほか、RSウイルスの感染者も急増している[17][18][19]。その他に、変異したアデノウイルスが出現した可能性も考えられている。アメリカ合衆国では2006年から翌年にかけて「14型(英語版)」の変異株により重症肺炎が多発した[20]。あるいは、イギリスでの発症例にはアデノ随伴ウイルスが患者から確認されており関連が指摘されている[20][21]。
統計
[編集]国/地域 | 症例数 | 死者数 | 最終更新 |
---|---|---|---|
アルゼンチン | 8 | 2022年5月10日[22] | |
オーストリア | 3 | 2022年6月17日[1] | |
ベルギー | 14 | 2022年6月17日[1] | |
ブラジル | 88 | 7 | 2022年6月13日[23] |
ブルガリア | 1 | 2022年6月17日[1] | |
カナダ | 7 | 2022年5月10日[22] | |
コスタリカ | 2 | 2022年5月10日[22] | |
キプロス | 2 | 2022年6月17日[1] | |
デンマーク | 7 | 2022年6月17日[1] | |
フランス | 7 | 2022年6月17日[1] | |
ドイツ | 1 | 2022年5月5日[24] | |
ギリシャ | 9 | 2022年6月17日[1] | |
インドネシア | 5 | 2022年5月10日[22] | |
アイルランド | 14 | 2022年6月17日[1] | |
イスラエル | 5 | 2022年6月17日[1] | |
イタリア | 33 | 2022年6月17日[1] | |
日本 | 122 | 2022年11月17日[3] | |
ラトビア | 1 | 2022年6月17日[1] | |
モルドバ | 1 | 2022年6月17日[1] | |
オランダ | 15 | 2022年6月17日[1] | |
ノルウェー | 5 | 2022年6月17日[1] | |
パレスチナ | 1 | 2022年5月10日[22] | |
パナマ | 1 | 2022年5月10日[22] | |
ポーランド | 8 | 2022年6月17日[1] | |
ポルトガル | 15 | 2022年6月17日[1] | |
ルーマニア | 8 | 2022年5月5日[24] | |
セルビア | 1 | 2022年6月17日[1] | |
シンガポール | 1 | 2022年5月10日[22] | |
韓国 | 1 | 2022年5月10日[22] | |
スペイン | 37 | 2022年6月17日[1] | |
スウェーデン | 9 | 2022年6月17日[1] | |
イギリス | 258 | 0 | 2022年6月21日[25] |
アメリカ | 296 | 11 | 2022年6月24日[26] |
脚注
[編集]- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t “Joint ECDC-WHO Regional Office for Europe Hepatitis of Unknown Origin in Children Surveillance Bulletin”. 欧州疾病予防管理センター (17 June 2022). 22 June 2022時点のオリジナルよりアーカイブ。24 June 2022閲覧。
- ^ “複数国における小児の原因不明の重症急性肝炎”. 厚生労働省検疫所FORTH. 厚生労働省 (2022年7月12日). 2022年12月10日閲覧。
- ^ a b 米田悠一郎 (2022年12月4日). “原因不明の小児肝炎、国内122人「急増みられず」 関連学会も調査”. 朝日新聞デジタル. オリジナルの2022年12月10日時点におけるアーカイブ。 2022年12月10日閲覧。
- ^ Mahr, Krista (2022年5月6日). “CDC investigating more than 100 children with hepatitis of unknown cause” (英語). Politico. 2022年5月7日閲覧。
- ^ Rettner, Rachael (2022年4月28日). “Mysterious hepatitis outbreak in children: What we know” (英語). Live Science. 2022年4月29日閲覧。
- ^ Baker, Julia M. (29 April 2022). “Acute Hepatitis and Adenovirus Infection Among Children — Alabama, October 2021–February 2022” (英語). MMWR. Morbidity and Mortality Weekly Report 71 (18): 638–640. doi:10.15585/mmwr.mm7118e1. PMC 9098244. PMID 35511732. オリジナルの3 May 2022時点におけるアーカイブ。 3 May 2022閲覧。.
- ^ CDC Newsroom (21 April 2022). “CDC Alerts Providers to Hepatitis Cases of Unknown Origin” (英語). CDC. 25 April 2022時点のオリジナルよりアーカイブ。25 April 2022閲覧。
- ^ a b “原因不明の急性肝炎-英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)”. 厚生労働省検疫所FORTH. 厚生労働省 (2022年4月15日). 2022年12月10日閲覧。
- ^ 熊井洋美; 後藤一也 (2022年4月22日). “原因不明小児肝炎 欧米で報告相次ぐ WHO警戒”. 朝日新聞: p. 31
- ^ “複数国における小児の原因不明の急性重症肝炎”. 厚生労働省検疫所FORTH. 厚生労働省 (2022年4月23日). 2022年12月10日閲覧。
- ^ 下司佳代子; 熊井洋美 (2022年4月26日). “原因不明の小児急性肝炎 国内でも可能性例報告”. 朝日新聞: p. 26
- ^ “新たに2人の可能性例 原因不明の小児急性肝炎―厚労省”. 時事ドットコム. 時事通信. (2022年4月28日) 2022年12月10日閲覧。
- ^ 「小児肝炎疑い例、新たに4人 原因不明、計7人に―厚労省」『時事ドットコム』(時事通信)2022年5月6日。2022年12月10日閲覧。
- ^ a b c d 金秀蓮 (2022年5月8日). “原因不明の小児急性肝炎 アデノウイルス関与か”. 毎日新聞: p. 26
- ^ 合田禄 (2022年5月8日). “原因不明の小児肝炎 米で5人死亡”. 朝日新聞: p. 3
- ^ 市野塊「原因不明の子ども肝炎 新たに4人」『朝日新聞』2022年5月7日、朝刊、29面。
- ^ Hamzelou, Jessica (2022年7月28日). “原因不明の急性肝炎が子どもに急増、パンデミックとの関連は?(原題:We’re starting to understand the mysterious surge of hepatitis in children)”. MIT Technology Review. 角川アスキー総合研究所. 2022年12月10日閲覧。
- ^ Romo, Vanessa (2022年11月2日). “RSV is surging. Here's what to watch for and answers about treatment options”. NPR 2022年12月10日閲覧。
- ^ Kimball, Spencer (2022年11月18日). “Children’s hospitals call on Biden to declare emergency in response to ‘unprecedented’ RSV surge”. CNBC 2022年12月10日閲覧。
- ^ a b 出村政杉「謎の小児急性肝炎」『日経サイエンス』2022年7月号、日経サイエンス社、13頁。
- ^ 「子どもの急性肝炎、アデノ随伴ウイルス2と関連か=英研究」『ロイター』2022年7月25日。2022年12月10日閲覧。
- ^ a b c d e f g h “Epidemiological update: Hepatitis of unknown aetiology in children” (英語). European Centre for Disease Prevention and Control (11 May 2022). 13 May 2022閲覧。
- ^ “Hepatite misteriosa: Ministério da Saúde investiga 88 casos e sete mortes no Brasil” (ポルトガル語). O Globo (2022年6月13日). 2022年6月24日閲覧。
- ^ a b “ECDC: Around 95 cases of mysterious child hepatitis in 15 EU countries”. Euractiv (6 April 2022). 9 May 2022閲覧。
- ^ “Increase in hepatitis (liver inflammation) cases in children under investigation”. UK Health Security Agency. 24 June 2022閲覧。
- ^ Ledford, Heidi (24 June 2022). “Mysterious child hepatitis continues to vex researchers” (英語). Nature 607 (7917): 20–21. doi:10.1038/d41586-022-01706-y. PMID 35750922 2022年6月25日閲覧。.