1.5車線的道路整備
1.5車線的道路整備(1.5しゃせんてきどうろせいび)とは、日本において中山間地域など、交通量が比較的少ない地域の道路で、1車線のまま改良する区間と2車線に拡幅する区間または2車線化改良済み区間の活用を組み合わせた道路整備の手法である。(1.5車線の幅員という意味ではない)
概要
[編集]道路構造令第3条2項に基づき原則は全区間2車線で整備すべき第3種第4級の道路を、同条文の但し書き規定[注 1]を適用し、一部の区間について第3種第5級の規格を適用し、2車線での改良(2車線化改良済み区間の活用を含む)と1車線での改良を組み合わせた道路整備手法である[1]。中山間地域など交通量の少ない地域において、通常の2車線の道路整備を行うと、完成まで時間を要し、建設・維持管理に必要なコストが増大し、また自然環境に大きな影響を与えることとなる[2]。そのため、1車線から2車線に拡幅すべき区間を一部とし、その他の区間は待避所の設置や視距改良を行うことで整備コストの抑制に効果的となっている[2]。これによって、規格は低くなるものの、地域住民の利便性の向上を基本とした道路整備を行うことができるようになる。
元々はこの但し書き規定に着目した高知県が1997年(平成9年)から独自に導入していた整備手法であった(後述)[3]が、地域の実情に応じた道づくりを推進し、道路整備のコストの縮減を図るため、道路構造の選択肢を広げることを目的として、2003年7月24日の道路構造令改正[4]で「小型道路(乗用車専用道路)[注 2]」「高規格幹線道路等における追越区間付き完成2車線構造[4]」が新規導入され、これを受けて翌2004年(平成16年)2月に21年ぶりに改訂された解説書「道路構造令の解説と運用」(日本道路協会)において、既存規定の弾力的な運用の考え方の例として「1.5車線的道路整備」の手法が明記された[1]。
さらに、2011年8月30日に改正された道路法第30条第3項に「都道府県道及び市町村道の構造の技術的基準は、政令で定める基準を参酌して、当該道路の道路管理者である地方公共団体の条例で定める」と明記されたことで、都道府県道や市町村道の整備にあたっては地域の実情に合わせたより柔軟な対応が可能となった。なお、指定区間外(都道府県管理)の一般国道に「1.5車線的道路整備」を導入するか否かに関しては都道府県ごとに対応が分かれており、愛知県[6]や鹿児島県[7]が一般国道を1.5車線的整備の対象に含めない一方で、新潟県では生活幹線道路として位置づけられる指定区間外の一般国道においても、日交通量が1,500台/日を下回り、交通量が大きく増えない場合で、地域住民の合意形成を図ることができる場合に限り、1.5車線的整備を検討する対象に含めている[8]。
高知県での取り組み
[編集]先述したように「1.5車線的道路整備」を初めて導入したのは高知県であり、1997年(平成9年)のことである。背景として、高知県には急峻な地形が多く、幅員が5.5 m(メートル)以上の県道が総延長の30%という全国で最低レベルの水準だったことがある[9]。当時は公共投資が減る中で、住民からは「2車線でなくても良いので早く整備してほしい」という声があったので、高知県は1.5車線的道路整備を考案し、県単独事業として7つのモデル路線で実施・検証を行った[9]。その結果、工期および事業費を大幅に削減できた[9]。例えば、高知県道十和吉野線における整備では、事業費が2車線整備で行うより3分の1となった[10]。そこで、効率性がある整備手法と判断して他の区間でも導入を進めることになった[9]。その後、高知県は国へ説明・要望を行い、2003年(平成15年)からは国の補助事業としても実施が可能になった[9]。事業費削減の分、整備進捗が早くなり、この整備方法を好意的に受け止める住民は多くなった[9]。1.5車線的道路整備を補完する形として、高知工科大学と共同で中山間道路走行支援システムの開発が行われ、2010年(平成22年)度末では高知県内の29ヶ所で導入が行われた[11]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 道路構造令第3条第2項には「第一種の道路は、第一号の表に定めるところにより第一級から第四級までに、第二種の道路は、第二号の表に定めるところにより第一級又は第二級に、第三種の道路は、第三号の表に定めるところにより第一級から第五級までに、第四種の道路は、第四号の表に定めるところにより第一級から第四級までに、それぞれ区分するものとする。ただし、地形の状況その他の特別の理由によりやむを得ない場合においては、該当する級が第一種第四級、第二種第二級、第三種第五級又は第四種第四級である場合を除き、該当する級の一級下の級に区分することができる。」との記述がある。
- ^ 渋滞対策を目的として、近くに迂回路(特に道路交通法による大型等(大型自動車、大型特殊自動車、中型自動車)、大型自動二輪、普通自動二輪車(125ccを超える二輪車または側車付きで50ccを超える二輪車)の迂回路)がある場合に、通行できる車両を小型自動車等(小型自動車その他これに類する小型の自動車[5]、道路交通法による普通自動二輪車のうち側車のない125cc以下の二輪車を含む原動機付自転車)、小型特殊自動車、軽車両、歩行者に限定した道路。道路構造令第四種第一級(都市部のその他の道路・計画交通量10,000台/日以上)に該当する自動車専用道路としても導入可能で、この場合の規格は車線幅員が2.75m(普通道路は3.25m)、建築限界高さが3.0m(同4.5m)、設計荷重が3t(同25t)となる[4]
出典
[編集]- ^ a b 桐原孝晴・保久原均 2004, p. 1.
- ^ a b 森本励 2003, p. 45.
- ^ 堤悠介、倉内文孝、廣川和希、熊谷靖彦 (2011-3) (PDF), 中山間地域における 1.5 車線的道路整備の多面的評価方法の検討 2018年4月4日閲覧。
- ^ a b c “道路構造令の一部を改正する政令について”. 国土交通省道路局 (2003年7月24日). 2018年3月24日閲覧。
- ^ 具体的には、道路交通法よる普通自動車に該当し、道路運送車両法によるすべての小型自動車、軽自動車、原動機付自転車(ミニカー)のほかに、3ナンバー登録の普通自動車、現在構想が検討されている超小型車を含む。
- ^ 愛知県建設部 (2011-04) (PDF), 道路構造の手引き 第2編 道路幅員, p. 2-21
- ^ 鹿児島県土木部道路建設課 (2018-04) (PDF), 道路事業の手引き 第1編 道路設計 第7章 1.5車線的道路整備(案), p. 1-7-1
- ^ 1.5⾞線的道路整備ガイドライン (PDF) 、p.7
- ^ a b c d e f 山浦浩太 2012, p. 68.
- ^ 森本励 2003, p. 46.
- ^ 山浦浩太 2012, p. 69.
参考文献
[編集]- 桐山孝晴・保久原均「道路幾何構造に関する今後の課題」『土木計画学研究発表会・講演集』第29巻、2004年。
- 森本励「地域に応じた道路構造基準の導入」『建設マネジメント技術』2003年11月、42-46頁。
- 山浦浩太「トピックス 技術のローカルルール 地域独自の技術基準 Part1 事例:高知県 1.5車線的道路整備」『土木学会誌』第97巻第5号、2012年、68-69頁。