鳴門わかめ
鳴門わかめ(なるとわかめ)は、徳島県鳴門市周辺の地域で収穫されるワカメのブランド名。
概要
[編集]鳴門海峡を挟んだ徳島県および淡路島沿岸で収穫されるワカメを指す[1][2]。鳴門の渦潮に代表される激しい潮流のなかで育つため、通常のワカメよりも歯ごたえがあり、鮮やかな緑色なのが特徴である[3][4]。徳島を代表する名産品の1つで、プライドフィッシュの1つに挙げられている[4]。
徳島県は2014年(平成26年)10月に『徳島県鳴門わかめ認証制度』を創設[5]。適正な食品表示と加工履歴管理を備えた加工業者であることを徳島県が認定するものだが[1]、制度に強制力はなく、2021年(令和3年)4月時点で県内加工業者288業者中23社が認定を受けるに留まり、県外業者は制度の対象外となっている[6]。
「鳴門わかめ」という名称は徳島県漁業協同組合連合会が地域団体商標として出願し、2008年(平成20年)1月に登録された[2]。しかし、「鳴門わかめ」として出荷されるわかめのうち3割前後は淡路島で生産されており、「徳島県の商標」として登録されたことに対して淡路島を中心とする兵庫県の5つの漁協が異議を申し立て、翌2009年(平成21年)7月に商標が取り消された[2]。これは登録された地域団体商標が取り消された最初の例となった[2]。
歴史と生産量
[編集]鳴門わかめの歴史は古く、天平時代や平安時代に阿波の貢物として朝廷に献上されていたとの文献も見つかっている[4][7]。現在では三陸地方に次ぐ主要産地で、都道府県別に見ると徳島県の生産量は全国で3位である[4]。2011年(平成23年)には東日本大震災により最大産地の三陸地方が被災したことで三陸わかめの生産量が大きく減少し、相対的に生産割合の増えた徳島県が生産量で1位になった[8]。
昭和中頃までは天然わかめが大部分を占めていたが、1963年(昭和38年)から鳴門市と阿南市の一部で養殖へと移行し、1974年(昭和49年)には養殖の経営体数が800、収穫量は15500トンに達した[7]。その後は経営体数自体が徐々に減少し、温暖化による水温上昇の影響もあり、2016年(平成28年)には収穫量が全盛期の4割程度の5946トンまで落ち込んだ[9][10]。こうした事態に徳島県では2012年(平成24年)から品種改良を進めている[10]。
産地偽装事件
[編集]鳴門わかめでは2008年(平成20年)の発覚以降、産地偽装発覚が相次いだ。以下は事件に関する一連の経緯である。
- 2008年(平成20年)
- 1月21日 - 「鳴門わかめ」として出荷された商品に韓国や中国産のワカメが混入していたとして、徳島県は鳴門市内の加工業者2社に不適正な表示を是正するよう指示。2社のうち1社の社長は日本わかめ協会の会長を務めており、同社長が経営していた別会社も偽装に関わっていたとして厳重注意を受けた[11]。
- その後の徳島県による調査で、偽装が確認されたのは13社に及んだ[12]。県は不正を監視するために、商品の抜き打ち検査や食品表示Gメンを導入[12]。
- 産地偽装事件への対策を目的として、鳴門市内の加工業者は「鳴門わかめブランド回復緊急対策部会」を、市外の加工業者は「鳴門わかめブランド回復対策会議」をそれぞれ発足した[13]。加工業者2団体に県漁連や生産者の代表を加え、信頼回復のため「偽装が発覚すれば自主廃業する」旨を含めた『鳴門わかめ信頼回復のための協定書』を結んだ[13][14]。
- 2009年(平成21年)
- 2010年(平成22年)
- 2011年(平成23年)
- 6月 - 鳴門市内の加工業者(以下「加工業者B」)が伝票などを適切に保管していなかったとして、徳島県から行政指導を受ける[12]。
- 2012年(平成24年)
- 11月 - 徳島県は加工業者Bに2度目の行政指導[12]。
- 2014年(平成26年)
- 1月27日 - 徳島県は加工業者Bを刑事告発、県警により加工場が家宅捜索を受ける[12]。
- 同日 - 徳島県は加工業者や生産者を集めた緊急の対策会議を開催。加工業者Bは「鳴門わかめブランド対策部会」に加盟していなかったことから、生産者側は対策部会や県に「会員とそれ以外の区別が一目でわかるようにして欲しい」と要望。対策部会は、生産者が発行する産地証明書について発行を依頼しない加工業者もいることから、産地証明のために徹底するよう部会員に呼びかけるとした[12]。
- 5月28日 - 徳島県警は加工業者Bの代表者と社員2名を逮捕[20]。
- 10月 - 徳島県が、加工履歴を適正に管理している加工業者を県が認定する『徳島県鳴門わかめ認証制度』を設ける[5]。
- 2015年(平成27年)
- 2016年(平成28年)
- 1月29日 - 徳島県が鳴門市内の加工業者(以下「加工業者D」)に是正指示[15][23]。同社は事件の発端となった2008年(平成20年)の最初の調査で厳重注意を受けており、「鳴門わかめブランド対策部会」の部会長が専務を務めていた[23]。
- 2月10日 - 部会長による偽装事件を受けて「鳴門わかめブランド対策部会」の臨時総会が開催。信頼を失った部会を維持したままの信頼回復は困難と判断が示され、同日付での解散を決定した[15]。
- 2月12日 - 新しい組織設立のため、鳴門市の加工業者の呼びかけにより鳴門市と徳島市の計4社が徳島市内で発足準備会を開催。「鳴門わかめブランド回復対策会議」の解散を決定するとともに、『徳島県鳴門わかめ認証制度』の認証を受けている加工業者による「鳴門わかめ認定業者連絡会議」を近く設立することを決定[24]。
- 2月15日 - 徳島県は加工業者Dを刑事告発。対策部会の部会長による度重なる偽装であり、悪質と判断されたためである。県警により経営者自宅・倉庫・加工場などが家宅捜索を受ける[23]。
- 2月18日 - 「鳴門わかめ認定業者連絡会議」が発足。偽装事件を巡って初めて生産者と加工業者が連携を図り、その時点で『徳島県鳴門わかめ認証制度』の認証を受けていた18社のうち12社が参加した[24][25]。
- 9月 - 加工業者Cの代表者とその長男が徳島地方検察庁に書類送検[26]。
- 11月25日 - 徳島県は『徳島県鳴門わかめ認証制度』普及のため、申請に必要な加工履歴記録を簡易化するためのアプリの開発を発表[27]。
- 2017年(平成29年)
- 2022年(令和4年)
脚注
[編集]- ^ a b “徳島県鳴門わかめ認定制度”. 徳島県鳴門わかめ協議会. 2020年2月13日閲覧。
- ^ a b c d “特許庁、地域団体商標「鳴門わかめ」の認定を取り消し”. 地域ブランドNEWS. ブランド総合研究所. 2020年2月6日閲覧。
- ^ “鳴門わかめ”. あるでよ徳島. 公益社団法人徳島県物産協会. 2019年5月18日閲覧。
- ^ a b c d “鳴門わかめ”. プライドフィッシュ. 全国漁業協同組合連合会. 2020年1月15日閲覧。
- ^ a b “鳴門わかめ認証制度について”. 徳島県. 2019年5月18日閲覧。
- ^ “「鳴門わかめ」偽装 後絶たず”. 読売新聞. (2022年12月26日)
- ^ a b “鳴門わかめ”. 鳴門総合情報サイト 鳴との門. 鳴との門. 2020年1月15日閲覧。
- ^ “2011年度鳴門わかめ生産量が日本一に”. モリタケ八百秀. 2020年2月6日閲覧。
- ^ “徳島県産ワカメ生産量が過去10年最少 温暖化が影響”. 徳島新聞. (2018年1月19日)
- ^ a b “高水温耐性品種の開発で「鳴門わかめ」ブランドを守る”. 気候変動適応情報プラットフォーム. 立研究開発法人国立環境研究所. 2020年2月6日閲覧。
- ^ “鳴門ワカメも偽装 ワカメ協会会長会社などで外国産混入”. 朝日新聞. (2008年1月21日)
- ^ a b c d e f “「腹立たしい」「判別仕組みを」 ワカメ産地偽装疑惑”. 読売新聞. (2014年1月28日). オリジナルの2014年1月29日時点におけるアーカイブ。
- ^ a b “「鳴門わかめ」疑惑 偽装できぬ仕組みを作れ”. 徳島新聞. (2014年1月28日). オリジナルの2014年4月1日時点におけるアーカイブ。
- ^ “【続報】韓国産わかめを鳴門産わかめとして販売【食品偽装】”. Select Japan Coloset (2017年7月21日). 2020年1月17日閲覧。
- ^ a b c “鳴門わかめ部会が解散 臨時総会、意見割れ挙手採決で判断”. 徳島新聞. (2016年2月11日)
- ^ “ワカメ産地偽装、中国産を「鳴門産」 徳島県が是正指示”. 徳島新聞. (2009年7月22日)
- ^ “中国産ワカメを「鳴門産」と偽装 マルナガ水産”. exciteニュース. (2010年5月10日)
- ^ “鳴門産ワカメが実は中国産/理研が商品回収へ”. JC-NET. (2010年7月23日)
- ^ “海藻加工会社元社長に有罪判決=ワカメ産地偽装-徳島地裁”. NEWS10 社会 (2010年9月16日). 2020年2月10日閲覧。
- ^ “鳴門わかめ:外国産を産地偽装 経営者ら逮捕”. FC2 (2014年6月10日). 2020年2月12日閲覧。
- ^ a b c “鳴門わかめ偽装で家宅捜索 容疑で徳島県警、県の告発受け”. 徳島新聞. (2015年12月8日)
- ^ “鳴門わかめ偽装、徳島県が対策 養殖業者が生産量記録”. 徳島新聞. (2015年12月9日)
- ^ a b c “家宅捜索「半田聖治商店」中国産ワカメを鳴門産に偽装出荷”. JC net. (2016年2月16日). 2020年2月12日閲覧。
- ^ a b “鳴門わかめ、偽装防止へ新組織 県認証制度の普及図る”. 徳島新聞. (2016年2月13日)
- ^ “信頼回復へ加工・生産業者が新団体発足 認証制度へ参加呼び掛け/徳島”. 毎日新聞. (2016年2月19日)
- ^ “鳴門わかめ偽装 元業者代表ら書類送検へ”. 徳島新聞. (2016年9月24日)
- ^ “鳴門ワカメ認証の普及狙いアプリ 徳島県、産地偽装防止で”. 日本経済新聞電子版. (2016年11月25日)
- ^ “徳島県鳴門わかめ認証制度”. 2017年9月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年2月12日閲覧。
- ^ “鳴門わかめ産地偽装に有罪判決 徳島地裁”. 徳島新聞. (2017年6月10日)
- ^ “中国産ワカメに「鳴門産」と表示…徳島県が業者に是正指示”. 読売新聞. (2022年11月17日)
- ^ “中国産ワカメを「鳴門産」と偽る 食品表示法違反の疑いで業者告発”. 朝日新聞. (2022年11月30日)
外部リンク
[編集]- 鳴門わかめ 徳島県物産協会
- 徳島県鳴門わかめ認証制度
- 鳴門わかめの産地偽装について(質疑)(平成28年2月1日、徳島県知事の定例記者会見)