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集団思考

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

集団思考(しゅうだんしこう、: groupthink)とは、集団で合議を行う場合に不合理あるいは危険な意思決定が容認されること、あるいはそれにつながる意思決定パターン。そのまま「グループシンク」ということもある。集団浅慮と訳されることもある。いわゆるデマや流言、インターネットから発生する幼稚な自己表現などがここから発生すると見る向きもある。政治的な意思決定のような場面では、集団思考は致命的である。アメリカ史上最高の大統領ランキングで10位を確保した[1]バラク・オバマは、集団思考を避けるチームを作りたいとさえ述べている[2]

概要

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集団思考という言葉はウィリアム・ホワイト英語版1952年フォーチュン誌の中で用いたのが最初であるが、集団の心理的な特徴を表す用語として政治分析に適用したのはアメリカ合衆国心理学者アーヴィング・ジャニスである。

ジャニスは真珠湾攻撃日本真珠湾を攻撃する可能性を過小評価した、ハワイおよびワシントンD.C.の米海陸軍首脳)、朝鮮戦争国連軍が38度線を越えて進軍した場合に、中国が参戦する可能性を十分には検討しなかったトルーマン政権)、ベトナム戦争(各方面からの警告を無視した、1964年から67年にかけてのジョンソン政権による戦争の拡大)、ピッグス湾事件CIAの立案したキューバ侵攻作戦の非現実的な前提を見逃したケネディ政権)、ウォーターゲート事件(事件が政権存立に与える危険性への認識が欠如していたニクソン政権)などが起きたときの記録を調査し、誤った政策決定につながる集団の心理的傾向をモデル化した。ジャニスが用いた事例は主として、米国大統領とアドバイザーたちで構成される集団の失敗である[3]

集団思考は基本的に、戦時中や戦争の可能性が高まるなどの危機的状況下における政策決定に適用される。また、諜報機関の適切な分析を妨げる現象ともされている。例えば、米国諜報機関の多元的構造も理論上、集団思考を避ける上で有益だと言われている[4]。他方、米国上院の諜報委員会は、イラク戦争前の情報収集・分析活動の失敗を、集団思考によるものと結論づけた[5]

概念と類型

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ジャニスは上述の事例に基づく検討から、次にあげる条件があるとき、集団思考の兆候が現れ、それが欠陥のある意思決定につながると結論づけた[6]

先行する条件

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  1. 団結力のある集団が、
  2. 構造的な組織上の欠陥を抱え、
  3. 刺激の多い状況に置かれる

以上の3条件を満たすと、集団思考に陥りやすい。

構造的な組織上の欠陥とは、メンバーに発言の機会を平等に与える公平なリーダーシップの欠如[7]、整然とした手続きを求める規範の欠如、構成員の社会的背景とアイデンティティの均一性などのことである。また、刺激の多い状況とは、リーダーの意見よりもよい解決策が望めないような、集団外部からの強い脅威などのことを指している。

集団思考の兆候

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上述の先行する条件があるとき、次のような集団思考の兆候を示し始めることが多い。

第1類型
自分たちの集団に対する過大評価。自分たちを不死身と見なす幻想や、集団固有の倫理に対する信仰のことである。例えば、ニクソン大統領とそのアドバイザーは、不死身の幻想に陥り、ウォーターゲート事件による致命的ダメージを警告する声を無視したとされる[8]
第2類型
閉ざされた意識。集団による自己弁護、集団外部に対する偏見が具体例である。例えば、ピッグス湾事件における意思決定では、「敵は間抜けで弱体」と見なす集団外部への偏見が働いていたという[9]
第3類型
均一性への圧力。自分の意見が集団内の明白な合意から外れていないかを自ら検閲する行為や、決定が多数派の見解と一致するよう留意すること全会一致の幻想、決定の倫理性、効果に対する集団の自己満足を妨げる情報が集団に伝わるのを防ぐ成員の出現を指す[10]

欠陥のある決定の兆候

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集団思考の兆候を示す上記の3類型のうち、いずれかまたは全てに当てはまると、集団内の合意形成の努力の結果として、欠陥のある決定を下すことが多い[10]

その兆候とは、

  1. 代替案を充分に精査しない
  2. 目標を充分に精査しない
  3. 採用しようとしている選択肢の危険性を検討しない
  4. いったん否定された代替案は再検討しない
  5. 情報をよく探さない
  6. 手元にある情報の取捨選択に偏向がある
  7. 非常事態に対応する計画を策定できない

といった点である。

脚注・出典

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  1. ^ Total Scores/Overall Rankings | C-SPAN Survey on Presidents 2021 | C-SPAN.org”. www.c-span.org. 2023年9月7日閲覧。
  2. ^ Lecture 4.1: Group Dynamics and the Abilene Paradox - WEEK 4: Group Behavior: The Good, Bad, and Ugly”. Coursera. 2023年9月7日閲覧。
  3. ^ Janis, Irving, Groupthink: Psychological Studies of Policy Decisions and Fiascoes, 2nd edition (Boston: Houghton Mifflin Company, 1982).
  4. ^ Mark M. Lowenthal, Intelligence: From Secrets to Policy, 3rd edition (Washington DC: CQ Press, 2006), p.15.
  5. ^ The US Senate Select Committee on Intelligence, Congressional Reports: Report of the Select Committee on Intelligence on the U.S. Intelligence Community's Prewar Intelligence Assessments on Iraq, July 7, 2004, p.18.[1]
  6. ^ Janis, Irving, Decision Making: Psychological Studies of Policy Decisions and Fiascoes, p.244.
  7. ^ ibid., pp.42-43.
  8. ^ ibid., pp.220-225.
  9. ^ ibid., pp.36-37.
  10. ^ a b ibid., p.175.

関連項目

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