陸上自衛隊高等工科学校
陸上自衛隊高等工科学校(りくじょうじえいたい こうとうこうかがっこう、英語:JGSDF High Technical School; HTS)は、神奈川県横須賀市御幸浜の陸上自衛隊武山駐屯地に所在する防衛大臣直轄の教育機関。中学校を卒業予定または卒業の15歳以上17歳未満の男子[注釈 1]を対象に、将来、陸曹となるべき者の養成を目的とする。
高等学校ではないが3年制で、通信制高等学校と連携しており高等学校卒業資格の取得が可能[2]。「自衛隊版の高校[3]」と称される。全寮制。略称は
概要
[編集]高等工科学校生徒(旧 陸上自衛隊生徒)の教育を行なう施設として、2010年(平成22年)3月26日に陸上自衛隊少年工科学校から改編された。施設の位置づけ(陸上幕僚長の指揮監督を受ける防衛大臣直轄の機関)及び所在地は旧校と変わらない。1学年あたりの生徒数は2018年(平成30年)度まで約320名だったが、翌年以降は約350名に増員[注釈 2]。一方、応募者数と受験倍率は減少傾向にある[注釈 3]。
中学校を卒業し、採用試験を経て高等工科学校生徒に任命された者が入校する。一条校ではないので、生徒が高等学校卒業資格を得るために通信制高等学校である神奈川県立横浜修悠館高等学校と技能提携している[3]。
学費や寮費は無償であり、所定の給与が生徒に支給される[3]。
原則的に、本校卒業後の4月1日に陸上自衛官となり、陸士長の階級を与えられ、約1年間の教育を経た後に3等陸曹に昇任する[2]。本校に在校中の身分は自衛官ではなく[注釈 4]、防衛大学校本科学生と同様に「特別職国家公務員」たる自衛隊員[2]である。
生徒制度の改編に際しては生徒の募集を停止しなかったため、当初は旧制度の生徒と新制度の生徒が混在していた[注釈 5]。旧生徒の身分は自衛官であった[8]。
少年期から専門的な軍事教育を施し、卒業後は早々に曹に任官して自衛隊の業務を正式な職業とする者となり、また多くの出身者が幹部候補生制度を通し幹部を目指すなど共通点が多いことから、本校は帝国陸軍における陸軍少年飛行兵学校・陸軍少年戦車兵学校・陸軍少年通信兵学校等(陸軍少年飛行兵・陸軍少年戦車兵・陸軍少年通信兵等)に類似する。なお、陸軍幼年学校は元より将校候補者を少年期から養成する軍学校であり、曹(下士官)候補者を養成する高等工科学校とは教育の位置付けが異なるが、制服常装冬服の装飾(肩章・袖章の飾線や形状)や「模範生徒」制度に幼年学校の影響がある。
2022年(令和4年)12月に閣議決定された防衛力整備計画では、自衛隊の人的基盤の強化の一環として「陸上自衛隊高等工科学校については各自衛隊の共同化及び男女共学化を実施する」とされた[9]。2023年(令和5年)3月の国会答弁で浜田靖一防衛大臣らは、これらの施策を2028年(令和10年)度から開始することを明らかにした[1]。
教育内容
[編集]本校の教育内容は、一般の普通科高校に相当する「一般教育」、専門分野を教育する「専門教育」、自衛官としての素地を作る「防衛基礎学」の3分野に分けられ、それぞれの専門教官が授業を行う[2]。
- 一般教育
- 学習指導要領に準拠した内容で、普通科高校と同様のカリキュラムのもとで教育を行う。この一般教育とレポート作成など通信制の教育により、生徒は本校卒業と同時に横浜修悠館高等学校卒業の資格を得る。
- 3学年では選択科目の違いによって「教養」「理数」「国際」「システム・サイバー」の四つの専修コースに分かれる。「システム・サイバー」は、サイバー防衛の専門家の養成を目的として、2021年(令和3年)度から設けられたコースである[10][11][12]。また、2023年(令和5年)度より、新たに「AI・ロボティクス」の専修コースが設けられる[13]。
- 専門教育
- 現在の陸上自衛隊で使用される高度に高機能化・システム化された装備品の能力を発揮させるため、その素地を養う。内容は「電子機械(メカトロ)工学」「情報工学」および「ロボット制作等を通じての教育」に大別される。
- 防衛基礎学
- 陸上自衛官として必要な基礎的事項の教育。法令等を学ぶ「服務及び防衛教養」と野外における基礎的な行動を学ぶ「戦闘及び戦技訓練」に大別される。射撃訓練と戦闘訓練は2学年・3学年で行う。
学生生活
[編集]基本、平日は7時間授業で水曜日は8時間、金曜日は6時間である。週休2日制[3]。外出は原則的に休日のみであり、定められた時間と行動範囲内に限り許可される[2]。休日の外泊は許されていない。携帯電話は1学年の冬休み明けから持てるが、生徒の生活態度により遅らせられたり、禁止になることがある[注釈 6]。
クラブ活動の体育クラブは横浜修悠館高校の名義で対外試合を行っており、軟式野球部の全国大会優勝(2013年)[14]、剣道部の定通制全国大会25連覇(1990年-2014年)[15]などの実績がある。各生徒は特定クラブ(ドリル部/吹奏楽部/和太鼓部/サイバー・コンピュータ部)か、もしくは体育クラブと文化クラブの両方に所属しなければならない。但し、2学年からは文化クラブを続けるか否か選択できる。2022年(令和4年)より文化クラブに新しくeスポーツ部ができた。
教育理念・校風・制服
[編集]- 教育理念
- 「技術的識能を有し、知徳体を兼ね備えた伸展性ある陸上自衛官としてふさわしい人材を育成する」
- 校風
- 「明朗濶達・質実剛健・科学精神」
- 制服
- 詰め襟の短ジャケット型の制服に一新された。陸上自衛隊91式制服以前にあった赤ラインが復活し、伝統を継承する形となっている。生徒の服制の詳細は、自衛隊法施行規則(防衛省令)によるが冬服は濃灰色でえんじ色の飾線を入れた二つポケット、前面ファスナー留めの詰め襟短ジャケットの上下。ズボンはサスペンダー使用。夏服1種上衣は冬服同様、2種上衣は白のスタンドカラーで襟にえんじ色の飾線のシャツ。帽章は、飛桜馬及び若葉の組み合わせたものと独自のデザインのものになる。制服着用時の靴下は黒。それ以外は白。制服には襟首、シャツならポケットの上にそれぞれの学年は金属で出来たバッチ(学年識別章)をつける。1学年は黒下地に銀色の線が横に二本。2学年は銀色の線の間に銀色の桜が一つ。3学年は桜が二つとなっている。
組織編成
[編集]- 企画室
- 総務部
- 総務課
- 管理課「高工校」
- 教育部
- 教務課
- 主任教諭(1人)
- 第1教官室(一般教育を担当。旧第2教育部)
- 第2教官室(専門教育を担当。旧第1教育部)
- 生徒隊(防衛基礎学を担当)
- 第1教育隊(第1学年)
- 第2教育隊(第2学年)
- 第3教育隊(第3学年)
主要幹部
[編集]官職名 | 階級 | 氏名 | 補職発令日 | 前職 |
---|---|---|---|---|
陸上自衛隊高等工科学校長 兼 武山駐屯地司令 |
陸将補 | 篠村和也 | 2024年 | 3月28日陸上幕僚監部法務官 |
副校長 兼 企画室長 |
1等陸佐 | 井芹嘉宏 | 2024年 | 8月 1日情報本部勤務 |
副校長 兼 防衛教官 |
防衛教官 | 竹田幸浩 | 2021年 | 4月 1日|
総務部長 | 1等陸佐 | 天内一雄 | 2023年12月22日 | 陸上自衛隊関西補給処装備計画部企画課長 |
教育部長 | 1等陸佐 | 中野昌英 | 2023年 | 3月13日中部方面総監部総務部広報室長 |
生徒隊長 | 1等陸佐 | 米谷知久 | 2023年 | 3月13日陸上自衛隊航空学校企画室長 |
代 | 氏名 | 在任期間 | 出身校・期 | 前職 | 後職 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 山形克己 | 2010年 | 3月26日 - 2010年 3月28日生徒15期・ 防大20期 |
陸上自衛隊少年工科学校長 兼 武山駐屯地司令 |
退職 |
2 | 市野保己 | 2010年 | 3月29日 - 2012年 3月29日生徒19期・ 防大24期 |
中部方面総監部幕僚副長 | 富士教導団長 |
3 | 菊池哲也 | 2012年 | 3月30日 - 2014年 3月25日中央大学 昭和57年卒[注釈 7] |
陸上幕僚監部法務官 | 第4師団副師団長 兼 福岡駐屯地司令 |
4 | 小和瀬一 | 2014年 | 3月26日 - 2016年 3月22日生徒24期・ 東京理科大学[注釈 8] |
第4師団司令部幕僚長 | 陸上幕僚監部監察官 |
5 | 滝澤博文 | 2016年 | 3月23日 - 2018年 3月26日生徒24期・ 防大29期 |
中部方面総監部防衛部長 | 第6師団副師団長 兼 神町駐屯地司令 |
6 | 堀江祐一 | 2018年 | 3月27日 - 2020年 3月17日生徒26期[16]・ 日本大学[注釈 9] |
第8師団副師団長 兼 北熊本駐屯地司令 |
東北方面総監部幕僚副長 |
7 | 岩名誠一 | 2020年 | 3月18日 - 2022年 3月22日生徒27期・ 防大32期 |
東北方面総監部幕僚副長 | 退職 |
8 | 富崎隆志 | 2022年 | 3月23日 - 2023年 4月20日生徒29期・ 法政大学[注釈 10] |
北部方面総監部幕僚副長 | 第11旅団長 |
9 | 今井俊夫 | 2023年 | 4月21日 - 2024年 3月27日防大40期 | 東北方面総監部幕僚副長 | 統合幕僚監部首席後方補給官 |
10 | 篠村和也 | 2024年 | 3月28日 -生徒28期・ 防大33期 |
陸上幕僚監部法務官 |
陸上自衛隊生徒出身の著名人
[編集]陸上自衛隊生徒を参照。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 2028年度から本校は男女共学化される予定[1]。
- ^ 第64期(2018年入校)の入校者数320名[4]に対して、第65期は346名[5]。
- ^ 2016年度の応募者数は2721名(8.6倍)[6]、2021年度は1779名(5.2倍)[7]。
- ^ 少年兵を禁止する国際条約との関係。高等工科学校生徒#制度改編の経緯を参照。
- ^ 学校改編時点での生徒は3学年(54期)及び2学年(55期)が旧生徒、1学年(56期)が新生徒。
- ^ 校則ではなく、生徒会による不文律。
- ^ 昭和57年入隊、63期幹候・防大26期相当
- ^ 68期幹候・防大31期相当
- ^ 70期幹候・防大33期相当
- ^ 74期幹候・防大37期相当
出典
[編集]- ^ a b “陸上自衛隊高等工科学校、28年度から共学化”. 神奈川新聞. (2023年3月24日) 2023年3月25日閲覧。
- ^ a b c d e “高等工科学校Q&A”. 陸上自衛隊高等工科学校. 2019年8月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年1月27日閲覧。
- ^ a b c d “15歳からの国家公務員”. 防衛省. 2019年8月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年1月27日閲覧。
- ^ “陸上自衛隊 高等工科学校 第64期生徒 着校・入校式”. ニコニコ動画. 日本文化チャンネル桜 (2018年5月18日). 2023年3月26日閲覧。
- ^ “陸上自衛隊 高等工科学校 第65期生徒 着校・入校式”. ニコニコ動画. 日本文化チャンネル桜 (2019年6月27日). 2023年3月26日閲覧。
- ^ “平成29年版防衛白書 資料69”. 防衛省. 2020年6月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月27日閲覧。
- ^ “令和4年版防衛白書 資料57”. 防衛省. 2023年3月27日閲覧。
- ^ 防衛省設置法等の一部を改正する法律(平成21年6月3日法律第44号)附則第2条
- ^ “防衛力整備計画 Ⅹ 防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化”. 防衛省. 2023年3月27日閲覧。
- ^ 「サイバー防衛 陸自にプロ」『読売新聞』第51771号2020年2月18日、夕刊第4版、10面。
- ^ “サイバー・電子戦教育を強化 防衛省、人材確保なお課題”. 時事通信. (2020年7月24日) 2021年5月30日閲覧。
- ^ “陸上自衛隊高等工科学校入校案内”. 防衛省陸上幕僚監部. 2021年5月31日閲覧。
- ^ “陸上自衛隊高等工科学校受験案内”. 防衛省陸上幕僚監部. 2023年1月28日閲覧。
- ^ “軟式野球部”. 高等工科学校. 2020年3月30日閲覧。
- ^ “剣道部”. 高等工科学校. 2020年3月30日閲覧。
- ^ “高等工科学校 学校長あいさつ”. 陸上自衛隊高等工科学校. 2019年8月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年8月14日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 高等工科学校(公式ページ)
- 陸上自衛隊 高等工科学校 (@JGSDF_HTS_pr) - X(旧Twitter)
- 陸上自衛隊高等工科学校組織規則(平成22年陸上自衛隊訓令第11号)(防衛省・防衛施設庁情報検索サービス)
- 高等工科学校生徒(防衛省公式ページ)
- 高等工科学校 第60期生徒 着校・入校式[桜H26/4/23] - YouTube
- 動画でわかる!高等工科学校生徒の一日 - YouTube
- 高等工科学校 平成24年春・第58期生徒、第1教育隊の一日[桜H24/7/27] - YouTube
- 陸上自衛隊高等工科学校の生徒の服装に関する訓令
座標: 北緯35度12分34.3秒 東経139度37分43.8秒 / 北緯35.209528度 東経139.628833度