角果
定義
[編集]アブラナ科の果実は、2枚の心皮からなり、その間に隔膜(隔壁[2][3]、胎座枠[4]; replum[注 2])を残して、心皮が弁(valve)となって外れることで裂開する[6][7][8](下図2)。複数の心皮からなり裂開することから蒴果の一型であるが[4][7]、このようなアブラナ科の果実は特に角果とよばれる[2][4][6][7][8]。成熟した状態では、果皮はふつう乾燥している。
角果のうち、長さが幅の2–3倍以上のものは長角果とよばれ、アブラナやショカツサイ、オランダガラシ、シロイヌナズナ、イヌガラシ、カキネガラシ、ハタザオ、ワサビ、タネツケバナなどに見られる[6][8][7](上図2a, b, 下図3a, b)。一方、長さが幅の2–3倍以下のものは短角果とよばれ、ナズナやグンバイナズナ、マメグンバイナズナ、イヌナズナなどに見られる[6][8][7](下図3c, d)。短角果はふつう扁平であるが、2枚の心皮が接している面に平行な面に扁平な例(下図3c)と、垂直な面に扁平な例(下図3d)がある[8]。長角果と短角果には中間的なものもあり、その区分は必ずしも明瞭ではない[7]。
ダイコンなどの果実は角果と同じ構造をしているが、裂開せず、1種子を含む部分ごとに分節する。このような果実は、節長果(節裂果)とよばれる[7][9][10](上図3e)。
種子散布
[編集]熟したタネツケバナの角果に触れると、瞬間的に果皮が2枚に分かれて丸まり、種子をはじき飛ばす(自動散布)[11](下図4a)。さらに飛ばされた直後の種子は表面に粘液質をまとっており、動物に付着して散布される(付着散布)[11]。
ゴウダソウ(ルナリア)は大きく楕円形の角果を形成し、種子が付着した果皮(弁)がそこからはずれ、風に乗って散布される[12](上図4b, c)。
例外的に、節長果は裂開せず、種子を1個ずつ含む単位(分果)に分節する。ハマダイコンの分果は厚くコルク質の果皮が種子を包んでおり、海流にのって散布される[13]。
ギャラリー
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ “siliqua”. Merriam-Webster Dictionary. 2022年5月6日閲覧。
- ^ a b 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編), ed (2015). “植物用語の図解”. 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. pp. 10–17. ISBN 978-4582535310
- ^ 清水晶子 (2004). 大場秀章. ed. 絵でわかる植物の世界. 講談社. pp. 101, 141, 142. ISBN 978-4061547544
- ^ a b c 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “蒴果”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 536. ISBN 978-4000803144
- ^ “replum”. Merriam-Webster Dictionary. 2022年5月6日閲覧。
- ^ a b c d 清水建美 (2001). 図説 植物用語事典. 八坂書房. pp. 96–108. ISBN 978-4896944792
- ^ a b c d e f g 山崎敬 (編集), 本田正次 (監修), ed (1984). “1. 果実”. 現代生物学大系 7a2 高等植物A2. 中山書店. pp. 101–110. ISBN 978-4521121710
- ^ a b c d e 門田裕一 (2017). “アブラナ科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 4. 平凡社. pp. 45–71. ISBN 978-4582535341
- ^ 福原達人. “8-2. 非動物散布”. 植物形態学. 福岡教育大学. 2022年5月13日閲覧。
- ^ 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “節長果”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 793. ISBN 978-4000803144
- ^ a b 多田多恵子 (2010). “タネツケバナ”. 身近な草木の実とタネハンドブック. 文一総合出版. p. 60. ISBN 978-4829910757
- ^ Leins, P., Fligge, K. & Erbar, C. (2018). “Silique valves as sails in anemochory of Lunaria (Brassicaceae)”. Plant Biology 20 (2): 238-243. doi:10.1111/plb.12659.
- ^ 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 (2012). “ハマダイコン”. 草木の種子と果実. 誠文堂新光社. p. 114. ISBN 978-4-416-71219-1
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 「角果」 。コトバンクより2022年6月12日閲覧。
- Armstrong, W.P.. “Fruit Terminology Part 1”. Wayne's Word. 2022年5月21日閲覧。(英語)