配当利回り
配当利回り(はいとうりまわり、英: Dividend yield)は、ファンダメンタル分析の指標の一つで、株価に対して年間の配当をどれだけ受け取れるかをパーセントで示す。預金の利子や新発10年物国債の利回りと比較し、株式投資が相対的にどれだけ有利かの判断に使われる[1]。
計算方法
[編集]下記の通り、1株あたりの年間の配当金額[注釈 1]を株価で除して求められる。例えば、株価が1000円、1株あたり35円の配当が支払われる場合には配当利回りは3.5%となる。配当金は、日本の税制において原則として課税対象となる[注釈 2]。分母となる株価は絶えず変動するため、配当利回りも同様に変動する。1株あたりの配当が変動しない場合、株価が上昇すると配当利回りは低下し、下落すると上昇する[3]。前述の例で、1株あたり35円の配当がそのままと仮定すると、株価が1400円に上昇すれば配当利回りは2.5%、875円に下落すると4%となる。日本では株主優待制度を実施している企業もあり、「優待利回り」も個人投資家が株主還元に積極的な銘柄を見出す指標として使われる[4]。
配当利回り = 1株あたりの配当金 ÷ 直近の株価 × 100 優待利回り = 金額換算した1株あたりの株主優待 ÷ 直近の株価 × 100
市場全体の配当利回りの計算方法には、「単純平均利回り」と「加重平均利回り」がある。単純平均利回りは1株あたりの配当金額を単純平均株価[注釈 3]で除して求められる[8]。加重平均利回りは、単純平均利回りに上場株式数によるウエイトを付けたもので、主要国の多くは加重平均型で利回りを算出しているため、国際的な比較では加重平均利回りを用いることが一般的である[9]。
単純平均利回り = 対象銘柄の1株当たり平均配当金 ÷ 単純平均株価 × 100 加重平均利回り = 全銘柄の現金配当金総額 ÷ 全銘柄の時価総額 × 100
配当利回りに似た用語に配当性向があるが、企業の利益のうち株主への配当に充てる割合を示すものであり、別の指標である。
傾向
[編集]2023年9月時点の東証プライム市場の有配会社平均利回りは2.30%、スタンダード市場2.35%、新興企業を中心としたグロース市場はやや低く1.27%[10]。いずれも銀行預金の金利に比べ高水準である[注釈 4]。米国株の2023年10月16日時点の配当利回りは、ダウ平均銘柄2.91%、S&P 5002.27%、新興企業やハイテク株の比率の高いNASDAQでは1.65%であった[12]。
成長性の高い企業では投資家からは配当よりも業績の成長による株価上昇が期待され、利益を成長投資に充てるため配当利回りは低くなる傾向がある。成熟産業とよばれる業種では逆に、配当利回りが高めになることが多い[13]。高配当株の明確な基準はないが、一般に配当利回りが4~5%以上であれば高配当と評価される[14]。前の会計年度より配当金額を増加させることを「増配」といい[注釈 5]、増配が発表された企業は好調な業績への期待感から株が買われ、株価は上昇傾向となる[15]。米国株では1954年以来[注釈 6]増配し続けているカリフォルニア州の水道・電力事業会社アメリカン・ステイツ・ウォーターを筆頭に、プロクター・アンド・ギャンブルや3Mが65年以上連続増配している[16]。日本の企業では、2023年10月時点で33年連続増配の花王が最も長く、25年のSPK[注釈 7]、24年の三菱HCキャピタルがこれに次ぐ[18]。
高配当の株式は短期の株価の値動きに注視する必要性が低く、多くのインカムゲインが得られることから長期投資に適している。反面、成熟企業が多く大幅な株価上昇によるキャピタル・ゲインが得にくいこと、配当課税[注釈 2]、減配リスクや業績低迷下で無理な配当を行うことにより財務が悪化することに起因する株価下落のリスクも存在する。また、株価低迷により見かけ上の利回りが上昇しているにすぎないケースもある[19]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 中間配当や、四半期配当を実施している企業もあるが、年間の合計額をもとに算出する。投資判断には、すでに支払い済みの年度の実績ではなく今後の配当予想を用いる[1]。
- ^ a b 2023年10月現在の税制では、上場株式の場合、収入金額から株式等を取得するための借入金の利子を差し引いた額が配当所得となり、所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%が源泉徴収される[2]。少額投資非課税制度(NISA)の非課税枠が使える場合がある。
- ^ 対象銘柄の株価の合計を銘柄数で割った値。現在の平均的な株価水準を測るうえで分かりやすい指標ではあるが、品薄株や値嵩株に左右されやすく[5]、増資に伴う権利落ちや株式分割が正しく反映されず連続性に欠けるため[6]、過去からの連続性を必要とする指標には日経平均株価など修正平均株価が用いられる[7]。
- ^ 2023年10月16日時点で、三大メガバンクの三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行の1000万円以上の3年物の大口定期預金、300万円以上のスーパー定期がいずれも0.0020%。最も高利率のオリックス銀行では、同条件で0.2200%[11]。
- ^ 前の期より配当を減少させることは「減配」。
- ^ 2023年時点で69年間継続中。
- ^ 大阪市福島区の自動車部品商社。銘柄コード7466[17]
出典
[編集]- ^ a b (石原 2015, p. 199)
- ^ “No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)”. 国税庁 (2023年4月1日). 2023年10月16日閲覧。
- ^ “用語集 配当利回り”. SMBC日興証券. 2023年10月16日閲覧。
- ^ “優待利回り”. 野村證券. 2023年10月16日閲覧。
- ^ “単純平均株価”. 三井住友DSアセットマネジメント. 2023年10月16日閲覧。
- ^ “証券用語集 単純平均株価”. 東海東京証券. 2023年10月16日閲覧。
- ^ “用語集 単純平均株価”. SMBC日興証券. 2023年10月16日閲覧。
- ^ “用語集 単純平均利回り”. 日本取引所グループ. 2023年10月16日閲覧。
- ^ “用語集 加重平均利回り”. 日本取引所グループ. 2023年10月16日閲覧。
- ^ “その他統計資料 株価平均・株式平均利回り”. 日本取引所グループ. 2023年10月16日閲覧。
- ^ “預貯金金利一覧”. 日本経済新聞 (2023年10月16日). 2023年10月16日閲覧。
- ^ “米国株 平均配当利回り”. 投資の森(株式会社ディーボ). 2023年10月16日閲覧。
- ^ “証券用語集 配当利回り”. 東海東京証券. 2023年10月16日閲覧。
- ^ “「今なら利回り4~5%の銘柄がゴロゴロある」お金の専門家が持ち続ける高配当株おススメ3選”. プレジデントオンライン (2023年5月11日). 2023年10月16日閲覧。
- ^ “証券用語集 増配”. 東海東京証券. 2023年10月16日閲覧。
- ^ “60年以上連続で増配する銘柄も!注目の米国連続増配銘柄”. auカブコム証券 (2023年9月21日). 2023年10月16日閲覧。
- ^ SPK株式会社
- ^ “「連続増配株ランキング」ベスト20”. ダイヤモンドZAi (2023年10月2日). 2023年10月16日閲覧。
- ^ “高配当株をおすすめしない4つの理由とは?買ってはいけない銘柄の特徴も解説”. マネーはじめてナビ (2023年3月23日). 2023年10月17日閲覧。
参考文献
[編集]- 石原敬子『株・証券用語がよ~くわかる本』秀和システム、2015年、199頁。ISBN 978-4-7980-4260-2。