イギリス文化
イギリス文化(いぎりすぶんか、英語: Culture of the United Kingdom)とは、法律が国王を凌ぐ立憲君主制や、英国聖公会に由来した弱い者を助ける心理、理性と科学を重んじる思考方式、貴族と紳士の精神、大英帝国の時代で各植民地から取り入れた世界各国の価値観など、この5つの要素が1つにまとめた西欧文化である[1][2]。
英語には「ブリティッシュカルチャー」と呼ばれることが多く、日本語と中国語には「英国文化」で漢字表記することも多い。
概要
[編集]イギリスは地理的にヨーロッパの辺境に位置しており、国境は欧州大陸と接触しないが、歴史上では西欧・北欧・中欧とは密接な関係を持っていた。そのため、よく欧州文化の中の1つとみなされている[3]。イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド、コーンウォールといった5つの地域ではそれぞれに独自の風俗があり、各地域の独立性は非常に強く、統一的な風習が生まれ無かった。しかし、各地域は「イギリス王室」によって1つの国に統合し、中世から大量の古風・習慣・礼儀作法は王室の伝統を通じて中断なく継承されており、フランス・ドイツ・イタリアのような君主無しの共和精神に基づく文化とは対照的である[4]。
イギリス文化の中でもっとも称賛されているのは「英語そのもの[5][6]」と「英語の文学[7][8]」である。近代に入ると、英語で書かれた文章は徐々に小説・演劇・詩の方向へ進化しており、これに連れて多くの劇作家や詩人、小説家が出現されていた。彼らは英語の複雑化と優雅化に大きく貢献していて、英国の文学だけではなく、米国の文学や言語習慣へも大きな影響を与え、総じて「英米文学」と呼ばれるようになった[9]。また、聖書・儀式・祈祷文・聖歌は全て分かりやすい英語を使っていることにより、英国聖公会はイギリスの国教で、キリスト教の中には4番目に多い信者数を有しており[10]、その教義はプロテスタント教会のように簡潔で、その建築はカトリック教会のように豪華で、両方の良いところを持っている[11]。
世界最古の大学院文化を持ち、「卒業後の大学院生は就職へ必要なく、官僚になる必要もなく、直接大学で授業する」というシステムを作り、イギリスは学術や科学技術を研究したい人にとっては良い環境が形成しやすい[12]。この大学院文化に頼り、イギリスは哲学・科学・技術・医学に多く産出していたほか、革新的な発明も大学で誕生させつつ、結果として「産業革命[13][14][15]」という科学的躍進事件が勃発され、地球と人類の歴史的進程を絶大な正の影響を与えていた[16]。現代では多くの世界名門大学はイギリスの大学院の仕組みを模倣していて、英国式の大学院教育を受けた知識人も自分が習得したもの、つまり民主制度や科学、建築、音楽、美術、映画、テレビなどの概念や文化は全世界へと広まっている。非欧州地域では、英国文化が西洋文化の代表格として認識している人が多い[17]。
イギリス人の祖先の1つであるアングロ・サクソン人自身も、デンマークやドイツ北部からブリテン諸島へ遷入した移民であったため、イギリス人は移民や移住行為に対して非常に包容しており、イギリスに植民された国々もその自由移民と民主政治の価値観を取り入れている[18][19]。二次大戦後にはイギリスは植民地の独立を快く承認し、これらの国々との領土争いは存在しない。一方、独立成功した旧植民地諸国はイギリスに対して、殆ど憎しみや負の感情を抱いておらず、むしろより親密的な関係を求めて「英連邦」を加入している[20]。現代ではイギリスの価値観に一番近い国はアメリカやカナダ、オーストラリア、ニュージーランドであり、この5つの白人の民主国家は「ファイブアイズ」という軍事同盟を結成している。また、旧植民地の文化もイギリスに逆輸入され、とくにイギリス料理の中には大量のインド料理や中華料理・マレーシア料理の要素が反映されている[21]。
スポーツは現代イギリス文化の中で非常に重要の一環になっており、クリケット・サッカー・テニス・ラグビーなど、数多くの国際的にも有名なスポーツ大会はイギリスで生まれていた。例えば、イングランドのサッカーチームが1872年に、スコットランドのが1873年に設立され、一方、FIFAワールドカップは1930年に、UEFAチャンピオンズリーグは1955年に設立された。イングランドとスコットランドが持つチームの歴史はなんと最初の国際大会よりも長い。だから現代サッカーの分野では「イギリスチーム」というものが存在せず、必ずイングランドとスコットランドに分かれている。
今のイギリスは、アメリカと同様に「文化的超大国[22]」と評され、首都のロンドンは欧米人の古典文化と現代文化の交差点[23][24]とされている。2013~2014年にBBCが行った世界的な世論調査では、イギリス文化はカナダ文化やドイツ文化次ぐ世界3番目に理解しやすい文化と見なされていた[25]。
歴史
[編集]イギリス文化の歴史は他のヨーロッパの国々と比べると、やや複雑である。最初のブリテン島には多くのケルト人が住んでいたが、ローマ時代のイタリア文化、アングロサクソン時代のドイツ文化、バイキング時代のデンマーク文化やノルウェー文化、そしてノルマン人の王室が持てきたフランス文化に影響されていて、1つのイギリス文化へと融合していた[26][27]。また、イギリスという国は「王家」で「イングランド王国、スコットランド王国、ウェールズ公国、北アイルランドカントリー、コーンウォール州」の5つの地域を結び付いるため、各地域は国家統一とイギリス王室による統治を反対しない限り、どんな文化を保存しても構わない[28][29][30][31]。同じ現象はイギリスの旧植民地だった「インド」や「香港」にも反映されている。
具体的に言うと
- コーンウォール文化:ブリテン島でもっともケルト文化を保っている地域であり、ケルト人の独自の言語・伝統・社会構造は今でもコーンウォールに残っている。また、フランスのブルターニュ地方とはまったく同じ文化を共有しており、「ブリテン」と「ブルターニュ」はどちらもケルト語での「ブリトン人」を指している[32][33][34]。
- スコットランド文化:ケルト人がノルウェー文化を中心とした北欧人の影響を受けて融合していたが、スコットランドが独自に発展させた文化がほかの地域よりも圧倒的に多い[35][36][37]。
- イングランド文化:
- もっとも複雑である。イングランドの民族的・血縁的な基盤はケルト人にあるが、紀元前1世紀から3世紀にかけて、ローマ人に約400年の植民を受けていたため、イタリア文化の要素が強い[38]。
- 5~9世紀にはアングロサクソン人の全族遷入によって、イングランド人の言語・風習・アイデンティティは元のケルト人と大きく乖離していて、独自の文化が生まれた。英国人の「常に移民する」という伝統はここから始めったとされている[39]。アングロサクソン人はドイツ人と同じ「ゲルマン人」という民族に所属しており、そのため、現代英語の文法や書き方はドイツ語と非常に似ている。
- 10~11世紀にかけて、ヴァイキングという北欧人が植民・航海・武器・多数決選挙・均衡化政治などの文化をもたらし、イングランド人はこれらを更に発展させており、後の大英帝国の基盤を創った。一回目のヴァイキングはデンマーク人であり、かれらによる「法的支配」がイングランド全土に行われていた。その後、二回目のはノルマン人(フランス人に同化されたヴァイキング)であり、かれらによってイングランドの王室文化はできるだけ優雅的なフランス文化へ近づくようになった。この2つのヴァイキングの影響の下に、現代英国の法律はデンマーク王国のとほぼ同じく、現代英語の単語の45%~46%がフランス語から由来したという状態になった[40][41][42]。
- ウェールズ文化:コーンウォールと同様にケルト文化を中心にしたが、少量のローマ文化や大量のイングランド文化が混んでいる。
- 北アイルランド文化:アイルランド・イングランド・スコットランドの3つの文化が平均的に混ざり合っている。
イギリスは大英帝国という世界的な植民帝国に成長したあと、ブリテン島には地球中からさまざまな人種や民族を取り入れ、とくに人口の多い「インド」や地理的に近い「アイルランド」「カナダ」からの移民が多かった。19世紀から20世紀中盤にかけて、大英帝国は世界でもっとも多様性のある国と自称し続けていたが、第二次世界大戦後、植民地が独立したことにより、多様性最多の座がアメリカに譲った。そのため、イギリスは1970年代から再び「ブリテン島上の文化」のみを集中するようになり、今の段階では「ブリテン島上の文化=イギリス文化」という見方は正しいと言える。また、1989年のベルリンの壁崩壊や、2004~2007年のEU拡大に伴い、東欧からの移民が急増している。現在のイギリス政府は移民への「同化政策」を実施しており、初代の移民は自分の文化を保つことができるが、その二代目や三代目の子供は小学校の時から高校の卒業まで、イギリス文化における義務教育を受け続けることが必要としている[43]。
関連項目
[編集]- イギリスのユーモア文化・メディア・スポーツ省(イングランドの文化を担当)
- 文化・対外関係大臣(スコットランドの文化を担当)
- シュローブ・チューズデー(パンケーキデー)
- エイプリルフール
- キッチナー卿があなたを求める
- イギリスの会場一覧
- 戦後イギリスの社会史(1945–1979)
- イギリスの社会史(1979年以降)
- 英連邦の文化
参考資料
[編集]脚注
[編集]引用出典
[編集]- ^ Little, Allan (6 June 2018). “Scotland and Britain 'cannot be mistaken for each other'” (英語). BBC News 6 June 2018閲覧。
- ^ junglemaster (2023年12月20日). “Exploring Quintessential British Things & Culture and in comparison to their American counterparts! - Camp New York 🗽” (英語). campnewyork.org. 2024年12月9日閲覧。
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