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複素数の偏角

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
複素数平面での複素数の絶対値 r, 偏角 φ

数学において、複素数偏角(へんかく、: argument of complex)とは、複素数平面上で複素数が表す点の動径が表す一般角のことである。複素数 z の偏角は記号で arg z で表す。偏角はラジアンで表す。

複素数を極形式表示することで、絶対値と偏角が得られる。これにより、複素数の乗除が簡明に行うことができる。

複素数に対する偏角は、2π の任意の整数倍を足す分だけ表し方がある。つまり、多価関数である。そこで表示を一意にするには、主値を決め、区間 (−π, π] などに制限する。

2π の任意の整数倍の差を除いて次の等式が成り立つ:

arg zw ≡ arg z + arg w
arg z/w ≡ arg z − arg w
(何れも mod 2π)

定義

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偏角 φ の2つの選び方

複素数 z = x + yi偏角は、arg z と書かれ、正のから動径 Oz までの角度を反時計回りに測った角度である。弧度法で表示する。時計回りに測ると負になる。

複素数に対する偏角の表示を一意にするために、主値区間 (−π, π] に制限する。[0, 2π) にすることもある。

主値を (−π, π] にすると、逆正接関数 tan−1 を用いて次のように表せる:

上記の式には条件分岐が多数あるが、符号関数 sgnヘヴィサイドの階段関数 H(x) を用いることで次のようにまとめることもできる:

0 × (0 除算を含む式) = 0 と形式的に考えることで、更にまとめることもできる:

あるいは、逆余弦関数 cos−1逆正弦関数 sin−1 を用いて次のように表すこともできる:

ここで、|z|複素数の絶対値で、|z| = x2 + y2 である。

主値を [0, 2π) にするには、上記の定義で、負となる偏角の値に対しては 2π を加えることにすればよい。

偏角を「位相[1]、振幅[2]と呼んだりすることもある。

基本的な性質

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  • は不定

主値をとる偏角

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1 + i(青点)の主値 Argπ/4 である。赤い線は分岐切断である。

主値 (−π, π] における偏角の値を、記号で Arg z(最初の文字を大文字)で表すことがある。表記には揺れがあり、argArg が文献によって逆になることもあることに注意。

数値計算

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複素数 z = x + yi の偏角は逆正接関数 arctan y/x で表せる。

x > 0 のとき、すなわち π/2 < Arg z < π/2 のとき

Arg z = tan−1 y/x

が成り立つが、x > 0 以外の場合の偏角を逆正接関数で表すには、場合分けが必要である。x < 0 の場合はさらに y > 0y < 0 の場合に分ける。

上半平面、下半平面ごとに表示することもできる:

Arg の主値を区間 [0, 2π) とする変種では、値が負のときに値に 2π を足すことで得られる。

正接の半角公式 tan θ/2 = sin θ/1 + cos θ を用いると、1つの計算式で表せる:

ただし、この表示は、計算の精度が上記より下がる。

この表示は、x < 0, y = 0 の近くでは 不定形 0/0 に近づき、浮動小数点の計算において、計算が不安定となり、オーバーフローする可能性がある。この範囲でのオーバーフローを避けるには、もう1つの正接の半角公式 tan θ/2 = 1 − cos θ/sin θ を用いて次の計算式が使われる:

主値 Arg は、プログラミング言語の数学ライブラリでは関数 atan2 あるいはその変種の言語を用いて多くの通常利用可能である。atan2(y, x) の主値は区間 (−π, π] である。

積・商の偏角

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2つの複素数の乗除は、極形式表示することにより、簡明に行うことができる。複素数 z1, z2 の極形式表示を

z1 = r1(cos φ1 + i sin φ1)
z2 = r2(cos φ2 + i sin φ2)

とすると、

arg z1z2 ≡ arg z1 + arg z2
arg z1/z2 ≡ arg z1 − arg z2
(何れも mod 2π)

z ≠ 0n が整数のとき、

arg znn arg z (mod 2π)

脚注

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  1. ^ Dictionary of Mathematics (2002). phase.
  2. ^ Knopp, Konrad; Bagemihl, Frederick (1996). Theory of Functions Parts I and II. Dover Publications. p. 3. ISBN 0-486-69219-1 

文献

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  • Ahlfors, Lars (1979). Complex Analysis: An Introduction to the Theory of Analytic Functions of One Complex Variable (3rd ed.). New York;London: McGraw-Hill. ISBN 0-07-000657-1 
  • Ponnuswamy, S. (2005). Foundations of Complex Analysis (2nd ed.). New Delhi;Mumbai: Narosa. ISBN 978-81-7319-629-4 
  • Beardon, Alan (1979). Complex Analysis: The Argument Principle in Analysis and Topology. Chichester: Wiley. ISBN 0-471-99671-8 
  • Borowski, Ephraim; Borwein, Jonathan (2002) [1st ed. 1989 as Dictionary of Mathematics]. Mathematics. Collins Dictionary (2nd ed.). Glasgow: HarperCollins. ISBN 0-00-710295-X 

外部リンク

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