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英領ギアナ1セント・マゼンタ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
英領ギアナ1セント・マゼンタ
発行国 英領ギアナ (en (現在のガイアナ)
発行場所 ジョージタウン
発行時期 1856年
希少性 非常に少ない発行枚数
現存数 1枚
額面 1セント
評価額 (最高額)948万ドル (2014年6月17日の取引でバイヤーズ・プレミアム英語版含む)[1][2]
(最新額)830.7万ドル (2021年6月8日の取引でバイヤーズ・プレミアム含む)

英領ギアナ1セント・マゼンタ(えいりょうギアナ1セント・マゼンタ、英語: British Guiana 1c magenta)は、切手蒐集家の間で最も有名[3]かつ貴重[4]とされている切手である。1856年に英領ギアナ(現在のガイアナ)で枚数限定で発行されたうちの1枚で、今のところ現存する唯一のものである。今まで流通した郵便切手の中で唯一、英国王立切手コレクションに収蔵されていないものである[5]

目打が無く、マゼンタの紙に黒のインクで、帆船のイラストとギアナ植民地におけるラテン語のモットー「Damus Petimus Que Vicissim(与えよう、見返りを求めて)」が印刷され、細い線で四角く囲まれている。発行国である英領ギアナの名とこの切手の価格が、四角を取り囲むように印刷されている。2014年6月17日には948万ドルで落札され[1][2]、この切手単独で4回も、一枚の切手の売却最高額を更新したことになった[6]。なお記録更新が期待された2021年6月のオークションでは830万ドル強にとどまっており、前回よりは値を下げた[7]

背景

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1セント・マゼンタは1856年に発行された3種類の普通切手のうちの1つで、地元新聞紙に貼って使われる予定だった。他の普通切手である4セント・マゼンタと4セント・ブルーは郵便切手として使われる予定だった。

しかし切手を運ぶ予定の船はやって来ず、予定が狂った。地元の郵便局長であったE・T・E・ダルトンと、公認印刷業者のジョセフ・バウムとウィリアム・ダラス(二人はジョージタウンで『Official Gazette』紙を発行していた)は急場しのぎに3種類の切手を印刷する必要に迫られた。ダルトンが切手のデザインを描いたが、印刷業者の二人はそのデザインに船の絵を付け加えた。ダルトンはこれを歓迎せず、郵便局員に偽造を防ぐための自筆サインを書きこませた。そのためこの切手にはE・D・W、つまり局員であったE・D・ワイトの名が書き込まれているのである。

解説・歴史

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よりはっきり印刷の具合がわかる。(この写真は同時期に発行された4セント・マゼンタ)

1セント・マゼンタは知られている限り1枚しか現存していない。使用済みで、八角形に切り取られている。ダルトンの命令によって書きこまれたサインは左側にあり、武骨な消印が押されている。

1873年に12歳のスコットランド人学生であるルイス・ヴァーノン・ヴォーンが、英領ギアナの街デメララ(切手にはここの消印が押してある)にて、叔父の手紙の中からこの切手を発見した。持っていた切手カタログにこの切手のことが載っていなかったため、ヴォーンは数週間後に地元の切手蒐集家であるN・R・マッキノンにこの切手を6シリングで売った[3]。1878年にマッキノンのコレクションはリヴァプールの切手商人であるトーマス・リドパスに120ポンドで売却された[8]。間もなくして同年、リドパスは1セント・マゼンタを150ポンドで著名な切手蒐集家であるフィリップ・フォン・フェラリー英語版に売却した[8]

ニューヨークの資本家であるアーサー・ハインド英語版は、1917年に死去したフェラリーのコレクションを1922年に開催された14回にも及ぶオークションで次々と購入した。1922年4月6日のオークションで登場した1セント・マゼンタは30万フラン+税(7343ポンド)で競り落とされた[8]。1935年10月30日に行われたハーマー・ルック商会のオークションでは、イギリスの著名な切手蒐集家であるパーシヴァル・ロイネス・ペンバートン英語版が7500ポンドで競り落としたが、取引が成立せず、元ハインド夫人のミセス・スケイラに返却された[8]。1940年にミセス・スケイラはニューヨーク市にあるメイシーズ百貨店の切手売り場で個人売買を行い、フロリダから来たエンジニアであるフレッド・ポス・スモールが4万ドルで購入した。スモールはオーストラリア生まれで、少年の頃この切手のことを耳にしてからずっと所有を夢見ていたのである[9]。この1セント・マゼンタを購入したことで、スモールは英領ギアナで発行された切手を全て入手したことになった。1970年にスモールは自分の切手コレクション全てをオークションにかけ(75万ドルの価値があると見積もられた)、1セント・マゼンタはアーウィン・ワインバーグ英語版率いるペンシルベニア州投資家組合に28万ドルで落札され、見世物として10年近く世界を渡り歩いた。その後1980年に、アメリカ人切手蒐集家であるジョン・デュポンによって93万5000ドルで購入され[3][6]、一枚の切手としての最高額記録を再び更新した[6]。デュポンが友人を殺害した罪で収監されるやいなや、1セント・マゼンタは銀行の金庫にしまい込まれたとされる[10]。デュポンは2010年12月9日に、収監されたまま亡くなった。

デュポンの遺産として、1セント・マゼンタは2014年6月17日にニューヨークのサザビーズのオークションにかけられ、948万ドルで競り落とされた[1][2]。靴デザイナーのスチュアート・ワイツマン英語版[11]に落札されるまでに要した時間はたったの2分であり、この切手が一枚の切手の売却史上最高額を4度目に更新したことになった。ちなみに破られた直前の記録は、1855年発行の3スキリング・イエロー(スウェーデンが発行、スキリングは通貨の単位)が1996年に記録した230万ドルである[6]。ワイツマンはその後、1セント・マゼンタを含む自身の所有する珍品の切手・コイン計3点をサザビーズに出品し、1セント・マゼンタの落札額は1000~1500万ドルが見込まれていた[12]が、2021年6月8日にニューヨークで開催された競売では830万7000ドルにとどまり、新記録どころか前回の落札額にも届かなかった[7]。落札したのはイギリスの老舗切手商であるスタンレー・ギボンズ英語版であり、同社は1セント・マゼンタの所有権を証券化して一般に販売すると発表している[11]

論争

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1セント・マゼンタは同じシリーズでありほとんど同じデザインである4セント・マゼンタから「偽造した」ものだ、という説がある。しかしこれは誤りであると証明されている[13]

1920年代には、1セント・マゼンタの2枚目が見つかり、1セント・マゼンタの所有者であるアーサー・ハインドが即座に買い入れて破棄した、という噂がささやかれた。真偽は実証できていない[14]

1999年には、2枚目の1セント・マゼンタがドイツブレーメンで発見されたという知らせが舞い込んだ。ドイツの切手複製業者であるペーター・ヴィンター[15]が所有しており、現代の紙を使った複製品とされた。しかし、著名な切手蒐集家であるロルフ・ローダーとダーヴィト・フェルトマンがヴィンターが持つ1セント・マゼンタは本物だと証言した[16]。ロンドン王立切手蒐集家協会は2度鑑定を行い、ヴィンターが持つ1セント・マゼンタは4セント・マゼンタを作り替えた偽物だと結論付けた[14][17]

一般展示

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2014年11月にスミソニアン博物館内の国立郵便博物館は、1セント・マゼンタの匿名の所有者が2015年4月から3年間、ワシントンD.C.にある同博物館における展示に同意したと発表した[18]。2016年5月28日から6月4日にかけてニューヨークで開催された2016年国際切手展にて展示された[19]

出版物における登場

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参考文献

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  1. ^ a b c The British Guiana”. Sotheby's (17 June 2014). 19 July 2014閲覧。
  2. ^ a b c The British Guiana”. Sotheby's (17 June 2014). 19 July 2014閲覧。
  3. ^ a b c Carlton, R. Scott (1997). The international encyclopaedic dictionary of philatelics. Krause Publications. pp. 36–37. ISBN 0-87341-448-9 
  4. ^ http://www.bbc.co.uk/news/world-us-canada-27890106
  5. ^ Feinberg, Ashley (1 March 2014). “Why This Red Smudge Is The Most Valuable Stamp In The World”. Gizmodo Australia. 8 December 2014閲覧。
  6. ^ a b c d “Rare British Guiana stamp sets record at New York auction”. BBC News. (17 June 2014). http://www.bbc.com/news/world-us-canada-27890106 18 June 2014閲覧。 
  7. ^ a b “British Guiana One-Cent Magenta fetches $8.3 million”. All About Stamps. (2021年6月8日). https://www.allaboutstamps.co.uk/news/british-guiana-one-cent-magenta-sold/ 2021年6月9日閲覧。 
  8. ^ a b c d Williams, L. N. and M. (1946). Famous Stamps. Chambers. p. 26 
  9. ^ McGann, George (8 April 1970). “What did it feel like to own the most valuable piece of paper in the world?”. Australian Women's Weekly: pp. 2–3 
  10. ^ Rachlin, Harvey (1996). Lucy's Bones, Sacred Stones and Einstein's Brain. Henry Holt & Company. ISBN 0-8050-6406-0 
  11. ^ a b “British Guiana 1¢ Magenta, Jenny Invert plate block sell below preauction estimates”. Linn's Stamp News. (2021年6月8日). https://www.linns.com/news/world-stamps-postal-history/british-guiana-1-magenta-jenny-invert-plate-block-sell-below-preauction-estimates 2021年6月9日閲覧。 
  12. ^ “World’s most valuable stamp expected to sell for up $15m in New York”. The Guardian. ガーディアン. (2021年4月28日). https://www.theguardian.com/world/2021/apr/28/worlds-most-valuable-stamp-expected-to-sell-for-up-15m-in-london 2021年5月6日閲覧。 
  13. ^ Part 5: The Story of the World’s Most Famous Stamp from 1892 to 1922”. Sotheby's. 8 December 2014閲覧。
  14. ^ a b “British Guiana: the rarest stamp in the world?”. Stamp Magazine. http://www.stampmagazine.co.uk/news/article/british-guiana-the-rarest-stamp-in-the-world/7109 8 December 2014閲覧。 
  15. ^ Oswald, Sheryll (28 July 2001). “Peter Winter and the modern German forgeries on eBay”. 8 December 2014閲覧。
  16. ^ British Guiana 1c, 1856: Weltrarität oder Fälschung?” (German). 8 December 2014閲覧。
  17. ^ Pearson, Patrick (May 2000). “British Guiana Four Cent and One Cent of 1856”. The London Philatelist (1275): pp. 108–120 
  18. ^ “World's Most Valuable Stamp Will Be Exhibited in Washington”, Linn's Stamp News, (6 November 2014), http://www.linns.com/news/breaking-stamp-news/991/Worldand 
  19. ^ “Stamp Collectors Gather at Major International Show in NYC”. ABC News. ABC. (2016年5月29日). https://abcnews.go.com/US/stamp-collectors-gather-major-international-show-nyc/story?id=39458601 2019年5月31日閲覧。 
  20. ^ Donald Duck: The Gilded Man in the INDUCKS