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自律神経失調症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
自律神経機能障害から転送)
自律神経失調症
概要
診療科 精神医学, 心身医学
分類および外部参照情報
ICD-10 G90.9[1]

自律神経失調症(じりつしんけいしっちょうしょう、autonomic dystonia[2][3][4][5][6]、 autonomic imbalance[3][7][5][8]、vegetative dystonia[4][5])とは、自律神経系に関連していると考えられている病態の総称である。器質的な異常を伴わないものの、様々な身体症状の訴えを伴う。

概念

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自律神経失調症とは、

  1. 色々な身体の症状の訴えがあるが,それに関連する器質的な異常は見つからないものについて、これを自律神経系に関連した症状とみなして呼ぶ呼び名で[2][7][4][3][9][10][11]
  2. 症候群として理解され[2][9]
  3. 定義は漠然としており,いわゆる医学的に正式な病名ではなく[12]、明確な定義がない[9][11][13]

この病気は日本では広く認知されているものの、精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)では定義されていない。疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10版(ICD-10)では、「身体化障害身体表現性自律神経機能不全全般性不安障害混合性不安抑うつ障害英語版などが,自律神経失調症に相当する概念であると考えられている。」[14]。一方、ICD-10の日本語訳では「G90.9 自律神経系の障害,詳細不明」[注釈 1]の「病名」「2 自律神経失調症」[1][16]としている。

日本で一般に広く使われている用語「自律神経失調症」は、1960年代東邦大学の阿部達夫の提唱による[17]。「自律神経失調症」の研究は第二次世界大戦前はドイツ語圏などで自律神経学の中心テーマだったのだが、戦後は「自律神経失調症」は「junk disease」とみなされて、戦前の研究は忘れられていた[17]。ただし「自律神経失調症」の意味するところは、各時代・各研究者すなわち戦前の各研究、阿部達夫の提唱時期で違いがある[17](下表[18]参照)。

自律神経失調症の疾患名の変遷
提唱者 日本語名 外国語名
Rosenbach 1878 迷走神経症 Neurose des Vagus
Noorden 1891 ヒステリー性迷走神経症 Hysterishce Vagoneurose
Zuelzer 1908 慢性迷走神経症 Chronische Vagoneurose
Eppinger and Hess 1910 交感神経緊張者 Sympathikotoniker
副交感神経緊張者 Parasymapathikotoniker
Bergmann 1934 自律神経失調症 Vegetative dystonie
Selye 1936 下垂体副腎系 Pituitary-adrenal system
Siebeck 1939 自律神経不安定症 Vegetative labilität
Okinaka 1948 Sympathikonie, paratonie
Abe 1952 脚気様状態 Beriberoid
Kushima 1952 自律神経症
Abe 1961 自律神経失調症候群 Vegetative syndrome
Abe 1965 不定愁訴症候群 Unidentified clinical syndrome
Delius 1966 精神自律神経症候群 Psycho-vegetative syndrome

阿部達夫自身は1965年に以下のように述べている[19]

「…その訴えが自律神経を介しておこるものが多いところから,いわゆる自律神経失調症などとよばれている場合もある.しかしこれら患者の多くは脚気とは全く無関係であることや,一部は自律神経失調とも関係のないところから,わたくしは不定愁訴症候群として一括しておくのがよいかと考えている」

阿部達夫は、自律神経失調症を「不定愁訴[20]や「不定愁訴症候群」[10]とほぼ同義として提唱したのである[18]

2009年、宮岡等北里大学医学部精神科学主任教授)らは「かつて内科医は自律神経失調症という病名をよく用いていた」[21]と記述し、同年、天野雄一(東邦大学医学部心身医学講座)らも、『最近では用いられなくなってきたがいわゆる「自律神経失調症」と呼ばれるカテゴリーに相当する』と述べた[22]。2011年には「かつて『不定愁訴症候群」や「自律神経失調症」という言葉を用いていた病態』[23],といった言及がなされた。「不定愁訴症候群」に関連しては、和雑誌における研究論文において,DSM-IVの登場以降は『「不定愁訴」という表現は減少し,「身体表現性障害」がMUSを代表する表現となっていたように思われる』[24] (MUS: 医学的に説明困難な症状(Medically Unexplained Symptoms)英語版)と記述されている。しかしながら、自律神経失調症という用語そのものは2024年時点でも医学論文で見られる表現である[注釈 2]

批判

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自律神経失調症は、暫定的な診断[25]であるとか、「便宜的な“診断名”」[26]、「病名のくずかご」[27]、「ゴミ箱的診断」で「医学的に正しいものとは言いがたい」[28]、安易な使用が「精神疾患の鑑別をなおざりにし,時に身体疾患の厳密な鑑別さえ失わせてきた」という批判[21]がある。

症状

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日本臨床内科医会による一般向けの冊子(2002年)では以下の、日常起こりがちな症状が挙げられていた[12]

めまい、肩こり、倦怠感、疲労感、微熱、頭痛、頭重感、手足の痺れ痛み冷え、顔がほてる、息切れ、動悸下痢便秘、胃部不快感、食欲不振、胃痛、悪心、不眠、寝汗。

医学書や医学辞典に挙げられている症状は以下の通りである。

各書籍の「自律神経失調症」の項で症状に何が挙がっているか
書籍↓/症状→ 倦怠感 めまい 頭重 頭痛 動悸 息切れ 胸部不快感 腹部違和感 その他
医学書院 医学大辞典[29] 「多臓器にわたる不安定で消長しやすい自律神経系身体的愁訴」
医歯薬出版最新医学大辞典[3] 「臨床的には種々の自律神経系の愁訴」
同上/(項目名は「不定愁訴症候群」)[30] 疲労感・しびれ感
現代精神医学事典[4]
南山堂医学大辞典[7] のぼせ,冷え性,発汗,下痢,不眠
ストレス科学辞典[6]
新版精神医学事典[10]
現代臨床精神医学[9]
朝倉内科學[31] 腹痛,下痢,しびれ,いたみ

治療

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多くの患者は内科ではなく心療内科神経科に通院する[要出典]。治療には抗不安薬やホルモン剤を用いた薬物療法や、睡眠の周期を整える行動療法などが行われている[要出典]。最近では体内時計を正すために強い光を体に当てる、見るなどの療法もある[要出典]

西洋医学での改善が認められない場合は、鍼灸[32]整体マッサージカウンセリングなどが有効な場合もある[要出典]

成長時の一時的な症状の場合、薬剤投入をしないで自然治癒させる場合もある[要出典]。また、自ら自律訓練法を用いて心因的ストレスを軽減させ、症状を改善させる方法もある[要出典]

薬物療法

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トフィソパムは自律神経失調症に対して適応がある[33]頭痛めまい不安、意欲低下などの症状を改善するとされる一方、副作用にもめまいや頭痛が含まれる[33]

漢方薬

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漢方薬の場合、若年から老年まで幅広い年齢に適用できる[信頼性の低い医学の情報源?][34]。副作用が既往に生じたものは原則として適応外[35]

症状と所見を元にした頻用処方を以下に示す(主訴→随伴症状の順)[35]

脚注

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注釈

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  1. ^ G90.9 Disorder of autonomic nervous system, unspecified[15]
  2. ^ 医学中央雑誌で、2019年から2024年まで、自律神経失調症を検索したところ、299件以上の論文(会議録除く)があった。

出典

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  1. ^ a b ICD10コード:G90.9標準病名マスター作業班。2024年9月7日閲覧。
  2. ^ a b c 医学書院 2009, p. 1368.
  3. ^ a b c d 医歯薬出版 2005, p. 886.
  4. ^ a b c d 弘文堂 2011, p. 503.
  5. ^ a b c 日外アソシエーツ 1990.
  6. ^ a b 日本ストレス学会 & 財団法人パブリックヘルスリサーチセンター 2011, p. 491.
  7. ^ a b c 南山堂 2015, p. 1182.
  8. ^ 日本神経学会用語委員会 2008, p. 209.
  9. ^ a b c d 金原出版 2013, p. 292.
  10. ^ a b c 弘文堂 1993, p. 377.
  11. ^ a b 井口 登美子 1993.
  12. ^ a b 自律神経失調症”. 日本臨床内科医会 (2002年7月). 2024年9月8日閲覧。
  13. ^ 実務教育出版 2011, p. 491.
  14. ^ 大谷真「自律神経失調症 autonomic dystonia」『有斐閣 現代心理学辞典』有斐閣、2021年。ジャパンナレッジ
  15. ^ WHO作成 ICD-10リスト(2007) G90 Disorders of autonomic nervous system”. 2007年12月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月7日閲覧。
  16. ^ 標準病名マスター作業班 病名検索”. 2009年1月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月7日閲覧。
  17. ^ a b c 田村直俊「自律神経失調症と自律神経不全症」『自律神経』第52巻第1号、日本自律神経学会、2015年、(2)-(3)頁。
  18. ^ a b 阿部達夫 (1982). “不定愁訴症候群”. 東邦医学会雑誌 29 (3): 318-327. 
  19. ^ 阿部 達夫 1965.
  20. ^ 南山堂 2015, p. 2157.
  21. ^ a b 宮岡 等 2009.
  22. ^ 天野 雄一 2009.
  23. ^ 宮岡 等 & 宮地 英雄 2011.
  24. ^ 岡田 宏基 2017.
  25. ^ 日本女性心身医学会 2015.
  26. ^ 田中 聡 2011.
  27. ^ 永田 勝太郎 2007, p. 111.
  28. ^ 渡邉 義文 2005.
  29. ^ 医学書院 2009, p. 1369.
  30. ^ 医歯薬出版 2005, p. 1618.
  31. ^ 朝倉書店 2007, p. 57.
  32. ^ 桑原 俊. 自律神経失調症の良導絡治療. 日本良導絡自律神経学会雑誌 2019; 64: 102-9.
  33. ^ a b 処方薬事典 トフィソパム錠50mg「トーワ」の基本情報”. 日経メディカル. 2024年9月7日閲覧。
  34. ^ 精神疾患・発達障害に効く漢方薬―「続・精神科セカンドオピニオン」の実践から (精神科セカンドオピニオン) 内海 聡 (著)
  35. ^ a b c d e f g h i j k 日本医師会『漢方治療のABC』医学書院〈日本医師会生涯教育シリーズ〉、1992年、129-132頁。ISBN 4260175076 

参考文献

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  • 伊藤 正男、井村 裕夫、高久 史麿 編『医学書院 医学大辞典』(2版)医学書院、2009年。ISBN 978-4-260-00582-1 
  • 『南山堂医学大辞典』(20版)南山堂、2015年。ISBN 978-4-525-01080-5 
  • 『最新医学大辞典 第3版』(3版)医歯薬出版、2005年。ISBN 978-4-263-20563-1 
  • 『現代精神医学事典』弘文堂、2011年。ISBN 978-4-335-65143-4 
  • 『新版精神医学事典』弘文堂、1993年。ISBN 4-335-65080-9 
  • 『現代臨床精神医学』(12版)金原出版、2013年。ISBN 978-4-307-15067-5 
  • 日本ストレス学会、財団法人パブリックヘルスリサーチセンター『ストレス科学事典』実務教育出版、2011年。ISBN 9784788960848 
  • 『内科學』(9版)朝倉書店、2007年。ISBN 978-4-254-32230-9 
  • 永田 勝太郎『心身症の診断と治療 : 心療内科新ガイドラインの読み方』診断と治療社、2007年。ISBN 9784787815637 
  • 日本女性心身医学会 編『最新女性心身医学』ぱーそん書房、2015年。ISBN 9784907095246 
  • 『ステッドマン医学大辞典 改訂第6版』(6版)メジカルビュー社、2008年。ISBN 978-4-7583-0021-6 
  • 『和英医学用語大辞典』日外アソシエーツ、1990年。ISBN 978-4-8169-0915-3 
  • David Robertson『ロバートソン自律神経学』(3版)エルゼビア・ジャパン、2015年。ISBN 9784860343040 
  • 野間 俊一「DSM-5 によって失われた身体症状症に関連する歴史的概念」『精神科治療学』第32巻第8号、2017年8月、997-1002頁。 
  • 岡田 宏基「医学的に説明困難な身体症状 ─ MUS (medically unexplained symptoms) および FSS (functional somatic syndrome) ─」『精神科治療学』第32巻第8号、2017年8月。 
  • 田中 聡「神経衰弱」『精神科治療学』第26巻増刊号 神経症性障害の治療ガイドライン、2011年10月、209頁。 
  • 宮岡 等、宮地 英雄「機能性身体症候群 (FSS)」『精神科治療学』第26巻増刊号 神経症性障害の治療ガイドライン、2011年10月、261頁。 
  • 田中 英高「起立性調節障害」『精神科治療学』第22巻第7号、2007年7月、791-800頁。 
  • 熊野 宏昭「うつ病,自律神経失調症,心身症の鑑別」『日本医師会雑誌』第139巻第9号、2010年12月、1845-1849頁。 
  • 宮岡 等「精神科診療とFSS」『日本臨牀』第67巻第9号、2009年9月。 
  • 渡邉 義文「身体愁訴とうつ近縁疾患」『綜合臨牀』第54巻第12号、2005年12月、3092-3096頁。 
  • 井口 登美子「婦人科と自律神経失調症」『日本産科婦人科学会雑誌』第45巻第5号、1993年5月。 
  • 天野 雄一「身体症状の訴えが持続する患者への対応」『心身医学』第49巻第3号、2009年、255-259頁、doi:10.15064/jjpm.49.3_255 
  • 瀧井 正人「不定愁訴症候群(いわゆる自律神経失調症)の臨床像に関する検討 : 当科心身症外来患者における知見に基づいて」『心身医学』第34巻第7号、1994年10月、573-580頁、doi:10.15064/jjpm.34.7_573 
  • 片山 義郎「自律神経失調症と精神神経科臨床」『心身医学』第29巻第1号、1989年1月、63-69頁、doi:10.15064/jjpm.29.1_63 
  • 阿部 達夫「ビタミンと臨床」『日本内科学会雑誌』第54巻第9号、1965年、989-1006頁、doi:10.2169/naika.54.989 
  • 安部井 瑠美子「自律神経失調症の臨床的および機能的研究」『日本内科学会雑誌』第50巻第5号、1961年、369-381頁、doi:10.2169/naika.50.369 
  • 角田 美穂「精神科外来における病名記載の実態に関する検討」『信州医学雑誌』第54巻第6号、2006年、387-393頁、doi:10.11441/shinshumedj.54.387 
  • 日本神経学会用語委員会『神経学用語集』(改訂第3版)文光堂、2008年5月12日。ISBN 9784830615375 

関連項目

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外部リンク

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