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臨時国会召集訴訟

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
最高裁判所判例
事件名 憲法53条違憲国家賠償等請求事件
事件番号 令和4(行ツ)144
2023年(令和5年)9月12日
判例集 民集第77巻6号1515頁
裁判要旨
憲法53条後段の規定により国会の臨時会の召集を決定することの要求をした国会議員は、内閣による上記の決定の遅滞を理由として、国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることはできない。
(反対意見がある。)
第三小法廷
裁判長 長嶺安政
陪席裁判官 宇賀克也林道晴渡邉惠理子今崎幸彦
意見
多数意見 長嶺安政、林道晴、渡邉惠理子、今崎幸彦
反対意見 宇賀克也
参照法条
憲法53条後段、国家賠償法1条1項
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臨時国会召集訴訟(りんじこっかいしょうしゅうそしょう)は臨時国会召集に関する訴訟[1]

概要

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2017年6月22日に野党議員らが日本国憲法第53条に基づき第3次安倍第2次改造内閣に対して臨時国会の召集を要求したのに対して、第3次安倍第3次改造内閣が90日後の2017年9月28日第194回国会を召集した[注 1][2]

小西洋之参議院議員は、臨時国会の召集を要求する権利や臨時国会で質問する権利が侵害されたことへの国家賠償と、内閣が20日以内に召集する義務を負うことの確認を求める訴訟を東京地裁で起こした[1][3][注 2]。また小西を含めた野党議員6人が、東京地裁だけでなく岡山地裁那覇地裁でも臨時国会の早期召集に関する訴訟を提起することとなった[1][4]。なお、憲法第53条には衆参いずれかの総議員4分の1の議員が要求をすれば内閣は臨時国会の召集を決定しなくてはならないと規定しているが、要求から召集までの期間は明示されていない[1][5]

2021年3月24日に東京地裁は「国家賠償について原告が主張する権利は、国会議員として付与された職務上の権限で公益を図ることが目的であり、裁判で救済される個人の権利ではない」「内閣が20日以内に召集する義務については国会議員と内閣はともに国の機関であるとし、機関同士の争いは法律に定めのない限り提起できない」として請求を棄却した[3]。内閣に憲法第53条による法的義務があるかについては判断を示さなかった[3]。なお、岡山地裁や那覇地裁では請求を棄却しつつ、臨時国会召集は「憲法上の法的義務」とした[2]。原告は控訴した。

2022年2月21日東京高裁は一審判決を追認して「個人の権利や利益の保護救済が目的ではなく審判の対象ではない」等として控訴を棄却した[6]。原告は上告した。

最高裁では、小西による東京地裁案件だけでなく岡山地裁案件及び那覇地裁案件も含めて審理され、2023年9月12日に「召集を要求した議員かそうでない議員かで召集後の国会活動の権限に差異はない。内閣に臨時国会召集決定の義務を負わせたもので、日本国憲法第53条は個々の国会議員の権利を保障したものではなく、召集の遅れを理由に国家賠償法に基づく賠償請求はできない。」「内閣が要求から20日以内に召集する義務を負うことの確認については解決可能な法律上の争いに当たる」として国会議員に訴訟で争う資格を認めたものの、「将来に関する訴えで不利益が生じる現実の危険があるとは言えない」として棄却され、原告敗訴の判決が確定した[2][4][5]。4対1による多数意見による判決であり、宇賀克也裁判官は「議員活動ができないことは極めて重大な不利益。天災等の特段の事情がなければ、内閣は20日以内に召集する義務があり、それに反する遅延は賠償命令が相当。」とした上で特段の事情の有無を審理させるために高裁に差し戻す反対意見を述べた[2][4][7]。小西はこれらの判決に対し、「将来、臨時国会召集を要求しても20日以内に召集されない場合、こうした訴訟に訴える道が開かれた」と述べ、一定の評価を示した[1]

脚注

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注釈

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  1. ^ 2017年9月28日に第194回国会を召集したその当日に衆議院解散(冒頭解散)となり、開会された上で審議される国会が実質的に召集されたのは要求から132日後の11月1日の第195回国会になっている。
  2. ^ ここで言う国会質問とは、森友学園問題加計学園問題についての疑惑解明のための質問を意図している[1]

出典

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  1. ^ a b c d e f 安倍内閣の臨時国会召集訴訟、原告側の敗訴確定 最高裁が上告棄却」『産経ニュース』産経デジタル、2023年9月12日。2024年9月8日閲覧。
  2. ^ a b c d 「国会召集「内閣に義務」 議員への賠償は認めず 最高裁判決」『朝日新聞朝日新聞社、2023年9月13日。
  3. ^ a b c 「国会召集、憲法判断せず 東京地裁、「内閣に義務との訴え棄却」」『朝日新聞』朝日新聞社、2021年3月25日。
  4. ^ a b c 「国会召集遅延、権利侵さず最高裁判決 野党議員 敗訴確定 反対意見「20日以内に」」『毎日新聞毎日新聞社、2023年9月13日。
  5. ^ a b 「国会召集訴訟 野党議員らの敗訴確定安倍内閣時 最高裁が上告棄却」『産経新聞産業経済新聞社、2023年9月13日。
  6. ^ 「国会召集訴訟、棄却 東京高裁も憲法判断せず」『朝日新聞』朝日新聞社、2022年2月22日。
  7. ^ 「野党議員側 敗訴確定 安倍内閣国会召集要求3カ月応じず 最高裁、憲法53条で初判断」『東奥日報東奥日報社、2023年9月13日。