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線形力学系 (せんけいりきがくけい、英 : linear dynamical system )とは、行列 で定義され、線形性 を持つ力学系 である。
一般に R n における線形力学系は、ベクトル 値関数 x (t ) ∈ R n と、n 次の正方行列 A により、次のような微分方程式 で表される。
d
d
t
x
(
t
)
=
A
x
(
t
)
{\displaystyle {\frac {\mathrm {d} }{\mathrm {d} t}}\mathbf {x} (t)=A\mathbf {x} (t)}
ただしこれは、x が連続 的に変化する場合であり、離散 系の場合には、
x
m
+
1
=
A
x
m
{\displaystyle \mathbf {x} _{m+1}=A\mathbf {x} _{m}}
で表される。
これが線形であるとは、x (t ) と y (t ) が解ならば、任意のスカラー a, b について、線形結合 ax (t ) + by (t ) も解である、ということを意味している。
線形力学系は、多くの非線形の場合と異なり、完全に解くことができる。このとき、解は行列の指数 etA (連続系)、もしくは累乗 An (離散系)によって表現され、その振る舞いは一般的に行列 A の固有値 、固有ベクトル によって理解できる。
非線形のときでも、変数変換により線型化して解くことができることもある。また、不動点 の周りでの線形近似 は、非線形系を理解するのに役立つ(ハートマン=グロブマンの定理 )。
初期値 x (0) = x 0 が、行列 A の固有ベクトル v k ならば、初期条件は
d
d
t
x
(
t
)
|
t
=
0
=
A
v
k
=
λ
k
v
k
{\displaystyle \left.{\frac {\mathrm {d} }{\mathrm {d} t}}\mathbf {x} (t)\right|_{t=0}=A\mathbf {v} _{k}=\lambda _{k}\mathbf {v} _{k}}
となる。ただし、λk は、固有ベクトル v k に対応する固有値である。このとき、解は、
x
(
t
)
=
v
k
e
λ
k
t
{\displaystyle \mathbf {x} (t)=\mathbf {v} _{k}\mathrm {e} ^{\lambda _{k}t}}
となる。
もし A が対角化 可能ならば、任意の初期値 x 0 は、固有ベクトルの線形結合で一意に表される。つまり、次のような係数 ak が一意に存在する。
x
0
=
∑
k
=
1
n
a
k
v
k
{\displaystyle \mathbf {x} _{0}=\sum _{k=1}^{n}a_{k}\mathbf {v} _{k}}
このとき解は、
x
(
t
)
=
∑
k
=
1
n
a
k
v
k
e
λ
k
t
{\displaystyle \mathbf {x} (t)=\sum _{k=1}^{n}a_{k}\mathbf {v} _{k}e^{\lambda _{k}t}}
となる。
対角化不可能な場合でも一般に行列の指数関数 を用いて
x
(
t
)
=
e
t
A
x
0
(
e
t
A
=
∑
n
=
0
∞
t
n
n
!
A
n
)
{\displaystyle \mathbf {x} (t)=e^{tA}\mathbf {x} _{0}\quad {\biggl (}e^{tA}=\sum _{n=0}^{\infty }{\frac {t^{n}}{n!}}A^{n}{\biggr )}}
と、解を導くことができる。
二次元の線形力学系は、
d
d
t
(
x
y
)
=
A
(
x
y
)
{\displaystyle {\frac {\mathrm {d} }{\mathrm {d} t}}{\begin{pmatrix}x\\y\\\end{pmatrix}}=A{\begin{pmatrix}x\\y\\\end{pmatrix}}}
で表される。この系では、A は 2 次正方行列 である。A の固有値は、行列式 Δ と、トレース τ を用いて、
λ
1
=
τ
+
τ
2
−
4
Δ
2
{\displaystyle \lambda _{1}={\frac {\tau +{\sqrt {\tau ^{2}-4\Delta }}}{2}}}
λ
2
=
τ
−
τ
2
−
4
Δ
2
{\displaystyle \lambda _{2}={\frac {\tau -{\sqrt {\tau ^{2}-4\Delta }}}{2}}}
のように書くことができる。
また、
Δ
=
λ
1
λ
2
{\displaystyle \Delta =\lambda _{1}\lambda _{2}}
であり、
τ
=
λ
1
+
λ
2
{\displaystyle \tau =\lambda _{1}+\lambda _{2}}
である。
もし、
Δ
<
0
{\displaystyle \Delta <0}
ならば、固有値の符号が異なり原点 は、鞍点 (saddle point ) となる。
Δ
=
0
{\displaystyle \Delta =0}
ならば、原点は孤立した平衡点 ではない。
Δ
>
0
{\displaystyle \Delta >0}
ならば、固有値の符号が同じになり、
τ
<
0
{\displaystyle \tau <0}
ならば(漸近)安定、
τ
=
0
{\displaystyle \tau =0}
ならば中立安定 、
τ
>
0
{\displaystyle \tau >0}
ならば不安定になる。また固有値が実数ならば節点 (node ) となる。ただし、二つの固有値が同じときには対角化可能なときスター 、不可能なとき退化節点 (degenerate node ) となる。最後に複素数のときは、渦状点 (spiral ) となる。