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力学系 の理論において、ハートマン=グロブマンの定理 (英 : Hartman–Grobman theorem )とは、不動点 周りの解析において、元の方程式と近似的に線形化 した方程式が局所的に等価であることを示す定理。数学者D. M. グロブマンとP. ハートマンによって示された[ 1] [ 2] [ 3] 。
写像 の繰り返しで記述される離散力学系
x
x
+
1
=
f
(
x
n
)
(
n
=
0
,
1
,
⋯
)
f
:
R
n
→
R
n
{\displaystyle {\begin{aligned}&x_{x+1}=f(x_{n})\quad (n=0,1,\cdots )\\&f:\mathbf {R} ^{n}\rightarrow \mathbf {R} ^{n}\end{aligned}}}
もしくは、微分方程式 で記述される連続力学系
d
x
d
t
=
g
(
x
)
(
t
∈
[
a
,
b
]
,
x
∈
R
n
)
g
:
R
n
→
R
n
{\displaystyle {\begin{aligned}&{\frac {dx}{dt}}=g(x)\quad (t\in [a,b],\,\,x\in \mathbf {R} ^{n})\\&g:\mathbf {R} ^{n}\rightarrow \mathbf {R} ^{n}\end{aligned}}}
を考える。これらの系の時間発展は、写像の反復
x
0
,
⋯
,
x
n
,
x
n
+
1
,
⋯
f
(
x
n
)
=
f
∘
f
∘
⋯
∘
f
(
x
0
)
{\displaystyle {\begin{aligned}&x_{0},\cdots ,x_{n},\,x_{n+1},\cdots \\&f(x_{n})=f\circ f\circ \cdots \circ f(x_{0})\end{aligned}}}
または、微分方程式の定める流れ (一径数部分群 )
ϕ
t
:
R
n
→
R
n
ϕ
t
(
x
0
)
)
=
x
(
t
)
(
x
(
0
)
=
x
0
)
ϕ
s
∘
ϕ
t
=
ϕ
s
+
t
{\displaystyle {\begin{aligned}&\phi _{t}:\mathbf {R} ^{n}\rightarrow \mathbf {R} ^{n}\\&\phi _{t}(x_{0}))=x(t)\quad (x(0)=x_{0})\\&\phi _{s}\circ \phi _{t}=\phi _{s+t}\end{aligned}}}
で与えられる。
こうした力学系に対し、
f
(
x
¯
)
=
x
¯
{\displaystyle f({\bar {x}})={\bar {x}}\,}
(離散力学系)
g
(
x
¯
)
=
0
{\displaystyle g({\bar {x}})=0\,}
(連続力学系)
を満たす点x を不動点 、もしくは平衡点 という。
写像の反復もしくは時間変数t に関して定常的となる不動点の近傍の振る舞いを解析することは、力学系の挙動を理解する上で重要である。また、離散系の不動点において、ヤコビ行列Df の固有値の絶対値が全て1ではない場合、不動点は双曲型 であるという。同様に微分方程式の定める連続系の不動点において、ヤコビ行列の固有値Dg の実部が全て0ではない場合、不動点は双曲型であるという。不動点が双曲型であれば、そこでの安定性の議論が可能となる。
一般に非線形な力学系の理論は困難を伴うが、それに比して、線形な力学系 の解析は容易である。実際、不動点x を有し、n次の正方行列 A で記述される線形な離散力学系
x
n
+
1
=
A
x
n
{\displaystyle x_{n+1}=Ax_{n}\,}
や連続力学系
d
x
d
t
=
A
(
x
−
x
¯
)
{\displaystyle {\frac {dx}{dt}}=A(x-{\bar {x}})}
については、行列A の固有値 、固有ベクトル を評価することで、その振る舞いを完全に調べることができる。
そこで非線形な力学系の解析においても、ヤコビ行列 Df' によって、不動点近傍で線形化 した方程式
f
(
x
¯
)
=
f
(
x
¯
)
+
D
f
(
x
¯
)
(
x
−
x
¯
)
+
⋯
≈
D
f
(
x
¯
)
(
x
−
x
¯
)
{\displaystyle {\begin{aligned}f({\bar {x}})&=f({\bar {x}})+Df({\bar {x}})(x-{\bar {x}})+\cdots \\&\approx Df({\bar {x}})(x-{\bar {x}})\end{aligned}}}
に帰着させれば、近似的であるが線形力学系の手法で、不動点周りの挙動を理解することができる。ハートマン=グロブマンの定理は双曲型不動点において、その近傍での局所的な挙動が、線形化した方程式で解析できることを保証する。
離散版
微分同相写像
f
:
R
n
→
R
n
{\displaystyle f:\mathbf {R} ^{n}\rightarrow \mathbf {R} ^{n}}
に対し、x がヤコビ行列Df の固有値の絶対値が全て1ではない双曲的な不動点とする。このとき、x の近傍U と同相写像 h で
h
(
f
(
ξ
)
)
=
D
f
(
x
¯
)
h
(
ξ
)
∀
ξ
∈
U
h
:
R
n
→
R
n
{\displaystyle {\begin{aligned}&h(f(\xi ))=Df({\bar {x}})h(\xi )\quad \forall \xi \in U\\&h:\mathbf {R} ^{n}\rightarrow \mathbf {R} ^{n}\end{aligned}}}
を満たすものが存在する。すなわち、x の近傍でf とDf は局所的に位相共役 である。
連続版
微分方程式
d
x
d
t
=
g
(
x
)
{\displaystyle {\frac {dx}{dt}}=g(x)}
で記述される連続力学系において、その流れをφ t とする。x が、ヤコビ行列の固有値の実部が全て0ではない双曲型不動点であるとする。このとき、x のある近傍U が存在し、U においてφ t と線形化した方程式
d
ξ
d
t
=
D
g
(
x
¯
)
ξ
(
ξ
=
x
−
x
¯
)
{\displaystyle {\frac {d\xi }{dt}}=Dg({\bar {x}})\xi \quad (\xi =x-{\bar {x}})}
が定める流れ
e
t
D
g
(
x
¯
)
{\displaystyle e^{tDg({\bar {x}})}}
は局所的に位相共役となる。
^ D. M. Grobman, "О гомеоморфизме систем дифференциальных уравнений (Homeomorphisms of systems of differential equations)," Dokl. Akad. Nauk SSSR , 128 , pp.880-881 (1969)
^ P. Hartman, "A lemma in the theory of structural stability of differential equations," Proc. A.M.S. , 11 , p.610-620 (1960)
doi :10.2307/2034720
^ P.Hartman, "On local homeomorphisms of Euclidean spaces," Bol. Soc. Math. Mexicana , 5 , p.220-241 (1960)