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米子市会計事務所社長殺害事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

米子市会計事務所社長殺害事件(よなごしかいけいじむしょしゃちょうさつがいじけん)とは2009年に発生した殺人事件。

概要

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2009年2月21日午前11時から午後0時にかけて、鳥取県米子市日ノ出町会計事務所代表(当時82歳)と同居女性(当時74歳)が会計事務所兼自宅のビルで殺害され、キャッシュカードを奪われて現金約1200万円を引き出される事件が発生[1]。2人の遺体は青いシートでくるまれ、会計事務所の施錠された部屋等に遺棄されていたため、当初は行方不明とされたが、6月3日に遺体が発見された[1]

2009年6月4日鳥取県警察は会計事務所の会計担当者(当時54歳)を死体遺棄容疑で逮捕した[1]

2009年6月24日、会計担当者を強盗殺人容疑で再逮捕した[2]。取り調べで被疑者は工具を用意した上で会計事務所代表らを殴打や首を絞めて殺害した後、遺体を隠蔽し、被害者のキャッシュカードで現金約1200万円を引き出していたことが判明する[2]

2009年7月15日鳥取地検は会計担当者を強盗殺人と死体遺棄の罪で起訴した[3]。その後、窃盗詐欺の罪でも追送検、追起訴された[4][5]

裁判

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裁判員裁判を行うにあたって公判前整理手続が行われ、争点は強盗殺人罪の適用に絞られた[6]。また、複数人殺害の事件は裁判員裁判としては初めての事件として注目され、死刑求刑の可能性も指摘された[7][8]

2010年2月23日鳥取地裁[9](小倉哲浩裁判長)で裁判員裁判初公判が開かれ、被告人は殺害を認めた上で「強盗目的で殺害したというのは事実と違います」と述べて強盗目的を否認した[10]

冒頭陳述で検察側は会計担当者だった被告人が、事務所の資金繰りのために個人資金をつぎ込んだ結果、借金が嵩んだと指摘[10]。そのため、大型モニターで借金の増減のグラフなどを示しながら、会計事務所代表への長年の恨みを晴らすとともに預金を引き出すために殺害を決意したと述べて強盗目的があったと主張した[10]。一方、弁護側は、被告人が会計事務所代表から給料を全額支給されていなかったことや、日常的に叱責され、私的な用事の手伝いを度々強いられていたことなどの事情から「もう我慢できない」と精神的に追いつめられ末の犯行で、強盗目的ではなかったと主張した[10]。同日午後には凶器などの証拠調べに続いて証人尋問が行われ、裁判員1人が質問した[11]

2010年2月24日、引き続き証人尋問が行われ、裁判員2人が被告人の妻などに質問した[12]。弁護側証人として出廷した会計事務所元経理担当の女性は、被告人が会計事務所代表に怒鳴られる姿をたびたび目撃したなどと述べ、被告人のために嘆願書を提出しようと元同僚らと相談していると明かした[12]。男性裁判員は女性に「普段から(被告人は)会計事務所代表の自宅に出入りできたのか」などと質問した[12]

検察側証人として出廷した被告人の妻に対しては女性裁判員が「被告が給料をもらえていなかったのは知っていたか」と尋ね、妻は「事件後に初めて知った」と答えた[12]。同日に被告人質問も行われ、事件の動機を弁護人に聞かれた被告人は「精神的に追いつめられた状態を逃れたい、その一心でやった」と述べた[12]

2010年2月25日、遺族と被告人の長男が証人出廷し、同居女性の長男は「優しくもあり厳しくもある母だった。(被告には)死をもって償ってほしい」と述べて被告人に死刑を求めた[13]。一方、会計事務所代表の長男は「事件は加害者、被害者という単純な図式ではなく、複雑な気持ちだ」と被告人が追い詰められていた状況に理解を示し無期懲役を求めた[13]。また、被告人の長男は同居女性の長男が「もし死刑が確定したら私を恨みますか」と質問されると、長男は「そう思われても当然です」と答えた[13]

2010年2月26日、論告求刑公判が開かれ、検察側は「2人の命を奪った結果はきわめて重大だが、追い詰められた末の犯行で、一定の同情の余地は否定できない。遺族は積極的には極刑を望んでいない」として被告人に無期懲役を求刑した[14][15]。弁護側は「動機は、十数年にわたる抑圧された状況から逃れるためだった」として改めて強盗目的を否定、有期刑を求めた[15]

最終意見陳述で被告人は「裁判が注目され、プレッシャーをかけて申し訳ありません」と述べ、裁判が結審した[15]

2010年3月2日鳥取地裁(小倉哲浩裁判長)で判決公判が開かれ、被告人に求刑通り無期懲役の判決を言い渡した[16]

2010年9月13日広島高裁松江支部(古川行男裁判長、中野信也裁判長代読)は一審・鳥取地裁の無期懲役判決を支持、被告側の控訴棄却した[17][18]。控訴審でも弁護側は改めて強盗目的を否定したが「会計事務所代表を殺害しようとした段階で、被告は通帳やキャッシュカードを奪うことなどを決めていた」として弁護側の主張を退けた[18][19]9月21日、被告側は判決を不服として上告した[20]

2012年7月2日最高裁第二小法廷(小貫芳信裁判長)は被告側の上告を棄却する決定を出したため、被告の無期懲役の判決が確定した[21]

脚注

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  1. ^ a b c 読売新聞』2009年6月4日 全国版 東京朝刊 2社会38頁「男女不明 部下の男を死体遺棄容疑で逮捕 2遺体を発見」(読売新聞東京本社
  2. ^ a b “強盗殺人容疑で再逮捕 米子の税理士死体遺棄”. MSN産経ニュース. (2009年6月24日). https://web.archive.org/web/20090905082545/http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090624/crm0906242032033-n1.htm 2009年9月5日閲覧。 
  3. ^ 『読売新聞』2009年7月16日 全国版 大阪朝刊 3社28頁「2人強殺、容疑者起訴 裁判員裁判対象事件/鳥取地検」(読売新聞大阪本社
  4. ^ 『読売新聞』2009年7月30日 鳥取 大阪朝刊 鳥取23頁「米子の強殺被告 窃盗などで追送検=鳥取」(読売新聞大阪本社)
  5. ^ 『読売新聞』2009年8月14日 鳥取 大阪朝刊 鳥取25頁「米子の社長ら殺害 部下の役員追起訴=鳥取」(読売新聞大阪本社)
  6. ^ 『読売新聞』2009年9月12日 鳥取 大阪朝刊 鳥取31頁「米子の強殺 公判前手続き始まる=鳥取」(読売新聞大阪本社)
  7. ^ 『読売新聞』2010年2月21日 全国版 大阪朝刊 3社35頁「米子2人強殺 死刑求刑の可能性も 裁判員あす選任手続き」(読売新聞大阪本社)
  8. ^ “裁判員裁判:初の死刑求刑の可能性 強盗殺人で鳥取地裁”. 毎日新聞. (2010年2月22日). https://web.archive.org/web/20100307042906/http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100222k0000e040013000c.html 2010年3月7日閲覧。 
  9. ^ 米子支部では裁判員裁判を行わないため本庁となる。
  10. ^ a b c d “強盗目的を否認、殺害は認める 強盗殺人罪などで初公判”. 朝日新聞. (2010年2月23日). オリジナルの2013年5月12日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130512100445/http://www.asahi.com/special/080201/OSK201002230115.html 
  11. ^ “裁判員裁判:凶器の工具など証拠品確認 鳥取の強盗殺人”. 毎日新聞. (2010年2月23日). https://web.archive.org/web/20100228031001/http://mainichi.jp/select/jiken/saibanin/news/20100224k0000m040065000c.html 2010年2月28日閲覧。 
  12. ^ a b c d e “裁判員裁判:鳥取強殺公判 裁判員が被告の妻に質問”. 毎日新聞. (2010年2月24日). https://web.archive.org/web/20100228024114/http://mainichi.jp/select/jiken/saibanin/news/20100225k0000m040053000c.html 2010年2月28日閲覧。 
  13. ^ a b c 『読売新聞』2010年2月26日 全国版 東京朝刊 3社37頁「裁判員法廷の詳報 25日の鳥取地裁から 遺族「極刑を」「無期に」」(読売新聞東京本社)
  14. ^ “鳥取の2人殺害の裁判員裁判 被告への求刑は無期懲役”. 朝日新聞. (2010年2月26日). オリジナルの2010年3月9日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100309024929/http://www.asahi.com/special/080201/OSK201002260075.html 
  15. ^ a b c 『読売新聞』2010年2月27日 全国版 大阪朝刊 3社37頁「米子2人強殺結審 弁護側、改めて強盗目的否定 有期刑求める」(読売新聞大阪本社)
  16. ^ “鳥取強殺、求刑通り無期懲役の判決 裁判員「重い役割だった」”. 日本経済新聞. (2010年3月2日). オリジナルの2024年9月27日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20240927082141/https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0204L_S0A300C1CC1000/ 
  17. ^ “二審も無期、裁判員裁判の判決支持 鳥取の2人殺害”. 朝日新聞. (2010年9月13日). https://web.archive.org/web/20100915033633/http://www.asahi.com/national/update/0913/OSK201009130029.html 2010年9月15日閲覧。 
  18. ^ a b 『読売新聞』2010年9月14日 全国版 東京朝刊 3社37頁「米子の2人強殺 被告側控訴棄却」(読売新聞東京本社)
  19. ^ 『読売新聞』2010年6月22日 鳥取 大阪朝刊 鳥取33頁「米子の2人殺害 1審での強盗目的 弁護側改めて否定=鳥取」(読売新聞大阪本社)
  20. ^ 『読売新聞』2010年9月23日 鳥取 大阪朝刊 鳥取27頁「米子2人殺害 被告が上告=鳥取」(読売新聞大阪本社)
  21. ^ “鳥取2人強殺、被告の無期懲役確定へ 最高裁が上告棄却”. 日本経済新聞. (2012年7月4日). オリジナルの2024年9月27日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20240927082934/https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0403B_U2A700C1CC1000/