ホンビノスガイ
ホンビノスガイ | |||||||||||||||||||||
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ホンビノスガイ(房総半島産)の3Dモデル
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分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Mercenaria mercenaria (Linnaeus, 1758) | |||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||
ホンビノスガイ(本美之主貝) | |||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||
Hard clam Northern quahog |
ホンビノスガイ(漢: 本美之主貝、英: Hard clam、学名: Mercenaria mercenaria)は、二枚貝綱マルスダレガイ科の一種。海岸に近い潮間帯の砂や泥の中に生息する。原産分布海域は北アメリカ大陸の大西洋側[1][2] である。食用になるため、アメリカ合衆国西海岸やヨーロッパ、台湾、中華人民共和国などに移入されている[3]。日本の東京湾などにも定着し、後述のとおり漁獲対象になっている。
別名
[編集]英名は成長した大きさにより呼称の変化する「出世貝」であり、小さい順に countneck, littleneck, topneck, cherrystone と変化し、最も大きいものが quahogs または chowder clam と呼ばれる。
名前を漢字で記すと本美之主貝となる。これはローマ神話の美の女神であるウェヌス女神からのエポニムで命名されたビーナス属 Venus に当て字された美之主に由来する(本来は北海道に生息するビノスガイ(当時は V. stimpsoni)に与えられた名称であった)。現在の学名では当てはまらないように見えるが、和名の命名時には本種がビーナス属に分類されていた。現在はメルケナリア属 Mercenaria に分類が変更されている[4]。ビノスガイも同様にメルケナリア属に変更された(M. stimpsoni)ため、これらは同属となる。
2007年に水産庁が「魚介類の名称のガイドライン」[5] を策定する以前は大アサリと呼ばれていた。なお、中部地方沿岸部でよく食用とされる大アサリは、和名ウチムラサキSaxidomus purpurataという別種の貝である。また、ハマグリの減少に伴って白ハマグリやオオハマグリという名前で市場に流通する事もあったが、和名シロハマグリは同じマルスダレガイ科で南米に産するPitar albidusを指すため、本種を指して「シロハマグリ」と呼ぶのは誤用である。
分布
[編集]原産分布域は北米大陸の大西洋岸で、カナダのプリンス・エドワード島からアメリカ東海岸を経てメキシコ湾にかけて広く分布し、潮下帯から水深12メートル程度までの砂質から砂泥質の海底に生息する。
日本への移入
[編集]元々は日本に生息していなかったが、1998年に東京湾の幕張人工海浜(千葉県千葉市)で発見された[1]。1999年に京浜運河、2000年に千葉港、2003年に船橋付近、さらには2000年代になって大阪湾で発見されている[6][7][8]。原産地である北米大陸から船舶の船体に付着したかバラスト水に混ざって運ばれ、東京湾や大阪湾に定着したと考えられている。しかし、バラスト水が由来ならば、北米大陸からの船舶の発着があり当然本種が発見されるはずの名古屋港や横浜港、神戸港では未発見であるなど、移入手段を断定するには証拠が不足しているとの指摘がある[9]。なお、名古屋港に隣接する三河湾や伊勢湾は外観がホンビノスガイに類似するウチムラサキの漁場として知られている。
諸外国での人為移入
[編集]オランダ[10]、フランス[11]、イギリス[12]、ベルギー[13]、中華人民共和国[14] などでは水産資源として人為的に移入され定着した。
外来種問題
[編集]現時点では在来種への被害報告はない[15]ものの、ハマグリと比較して繁殖力が強いため、今後は何らかの影響が予想される。
生態
[編集]成貝の殻長は最大で10cm以上になる比較的大型の貝であり、厚く硬い貝殻の表面には同心円状の肋が表れる。殻の色は生育環境により白っぽいグレーから黒ずんだ色と変化に富む。ハマグリと比較して丸みが強く、左右非対称で、殻頂がやや曲がった形をしている。
酸素欠乏や低塩分に対する耐性があり赤潮や青潮にも強いことから、アサリやハマグリが生息不可能な水域にも生息する[16][17]。
漁業
[編集]アメリカでは重要な食用貝であり、広く漁獲対象とされている。特にロードアイランド州では州の貝に選ばれている。
日本では主に、千葉県市川市、船橋市地先の三番瀬で鋤簾[18]や底引き網漁[19]にて漁獲されている[16][20]。また、東京湾最奥部の干潟域では潮干狩りでも採取される。
日本での繁殖が確認されたのが比較的近年で、アサリ漁場に多く生息するため、かつては邪魔者として扱われることが多かったが、後述のとおり砂抜きが容易なこと、食味の良さが注目され、2005年頃から行徳漁協による漁獲と流通が行われ[16]、当初は首都圏、2010年代からは京阪神でも鮮魚店やスーパーなどに販売チャネルが拡大し、水産物として採貝される機会が増えた。2013年には漁業権が設定され、現在は船橋市漁業協同組合では重要な海産物として「浜の救世主」と評価している[21]。2017年には千葉県が「三番瀬産ホンビノス貝」を千葉ブランド水産物に選ぶ[22]までになった。「江戸前の貝」として人気も高まり、東京湾の千葉県側北部海域では2018年の水揚げ量が2500トンと5年間で2.3倍に増えた。ただ在来種の貝に比べて水産資源としての知見は少なく、千葉県は2020年度から市川市や船橋市の漁業と協力して、季節ごとの重量や殻の大きさの変化、漁船の隻数や操業日数、漁獲量をデータベース化する計画である[23]。
日本での流通
[編集]ホンビノスガイ(ホンビノス貝、本ビノス貝とも)と表記され流通している。
料理
[編集]アメリカ合衆国東海岸で好まれ、クラムチャウダーやバター蒸し、ワイン蒸しにして供される。小ぶりのホンビノスガイは、ニューヨークやニュージャージー州にて、西洋わさびを加えたカクテルソースやレモンと共に生食もされる。
日本では、酒蒸しや焼き料理などアサリやハマグリと同様の料理法で食され[23]、価格も割安である[24]。 主産地の千葉県船橋市では水産業界や飲食店が2019年から「日本クラムチャウダー選手権」を始めるなど消費拡大を図っている[21]。
調理時に出てくる塩気はアサリやハマグリに比べやや強め。砂抜きは不要[25]または比較的簡単で、暗所で海水程度の塩水に一晩ほど漬けておくことで、ほぼ完全に砂抜きが完了する。
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ホンビノスガイのバター蒸し
脚注
[編集]- ^ a b 外来生物と沿岸環境 (PDF) 浅沼講義サイト
- ^ 杉原奈央子「東京湾湾奥部における外来種ホンビノスガイ( Mercenaria mercenaria )の生態に関する研究」,東京大学学位論文 博農第3977号, doi:10.15083/00007301
- ^ Mercenaria mercenaria 国際連合食糧農業機関(FAO)Fisheries and Aquaculture Department、2017年12月23日閲覧
- ^ 「白はまぐり」の正体は? 東邦大学理学部 東京湾生態系研究センター
- ^ 魚介類の名称のガイドラインについて 水産庁 平成19年7月
- ^ 「東京湾奥のホンビノスガイ(移入種)について.」『ひたちおび』第94号、東京貝類同好会、13-17頁、ISSN 09121900、全国書誌番号:00044923。
- ^ 西村和久「東京湾奥アサリ漁場に生息するホンビノスガイ(移入種)について」『日本貝類学会連絡誌・ちりぼたん』第36巻第3号、2005年、NAID 110004997585。
- ^ ホンビノスガイ Mercenaria mercenaria (PDF) 環境省自然環境局
- ^ 大谷道夫「日本の海洋移入生物とその移入過程について」『日本ベントス学会誌』2004年 59巻 p.45-57, doi:10.5179/benthos.59.45
- ^ Kaas P. (1937) Venus mercenaria L., een nieuwe mollusk voor de Nederlandshe Fauna. Basteria, 2: 58-60.
- ^ Ruckenbusche H. (1949) Le clam. Note sur Venus mercenaria L.Son introduction et son elevage dans le bassin de la Sudre. Revue des Travaux de l'Institut des Peches Maritimes ,15:99-117.
- ^ Heppel D., (1961) The naturalization in Europe of the quahog Mercenaria mercenaria (L).Journal of Conchology, 25:21-34.
- ^ Tebble N. (1966) British Bivalve Seashells. Alden press, London.pp. 212
- ^ Lin Z., Lu Z., Chai X., Fang Jun X., and Jiong Ming. (2008) Karyotypes of Diploid and Triploid Mercenaria mercenaria (Linnaeus). Journal of Shellfish Research, 27: 297–300.
- ^ 海の外来種情報/ホンビノスガイ 海洋生態研究所
- ^ a b c 濱崎瑠菜、工藤貴史「ホンビノスガイ漁業の発展過程から考える東京湾における人と生物と水の関係」『水産振興』604巻(東京水産振興会)p.1-49, 2018/04/01,hdl:2115/70212
- ^ 中村泰男、金谷弦、小泉知義、牧秀明「大井人工干潟(京浜運河・東京湾)周辺の環境変動と二枚貝の生残:とくに溶存酸素濃度と底泥硫化物に着目して」『水環境学会誌』2012年 35巻 8号 p.127-134, doi:10.2965/jswe.35.127
- ^ “船橋名産「ホンビノス貝」について詳しく調べてみた【後編〜漁に密着〜】”. 鎌ケ谷船橋あたり (2017年10月1日). 2023年8月9日閲覧。
- ^ “ど迫力の漁を間近で体感!!~船橋漁協スズキ漁&ホンビノス貝漁の漁業体験ツアー~”. 3分休憩 (2015年12月25日). 2023年8月9日閲覧。
- ^ ホンビノスガイ (PDF) 千葉県
- ^ a b 「ホンビノス貝、船橋の名物に/水揚げ量 日本一肉厚で風味豊か/クラムチャウダーでうま味凝縮」『日経MJ』2020年3月9日(フード面)
- ^ 『平成29年度千葉ブランド水産物の認定について』(プレスリリース)千葉県農林水産部水産局水産課、2017年11月20日。オリジナルの2017年12月24日時点におけるアーカイブ 。2023年8月9日閲覧。
- ^ a b 「ホンビノスガイの資源管理」『日経MJ』2020年3月2日(フード面)2020年3月8日閲覧
- ^ 【彩時季】ホンビノス貝 アサリの半額、調理簡単『日本経済新聞』夕刊2020年2月22日(2020年3月8日閲覧)
- ^ 「お手頃 ホンビノス/ハマグリに似た外来種/砂抜き不要 調理簡単」『読売新聞』朝刊5月30日