病院列車
病院列車(びょういんれっしゃ)は、戦地から傷病兵の輸送に使われた列車である。重症患者、伝染病患者および精神病患者を輸送の対象としていた。
傷病者が輸送される軍用列車には、重症患者用の病院列車と比較的軽症な患者を運搬する患者列車があった[1]。
病院列車は、軍兵站管区よりも後方に特別に編成運行され、患者が少数である場合は、一部が軍用列車または普通列車に連結された。病院列車の車側および屋蓋には赤十字が標識され、後送機関として赤十字条約の適用を受けた[1]。
車両は管理室、病室、薬室、手術室、滅菌室、消毒室、包厨室、倉庫などに区分され、患者の収容、治療および看護に従事する軍医、看護長および看護兵が衛生材料を携行して乗り込んだ[1]。
大日本帝国の病院列車
[編集]国内で病院列車として運用された客車の詳細は病客車を参照。
日露戦争では、病院列車は用いられず、満州事変では関東軍が北満で病院列車を運行した[要出典]。
満洲事変下の1931年(昭和6年)時点で病院列車が2編成、病院船2隻が運用されており、日本赤十字社から派遣された医師と看護婦が軍の指揮のもとで衛生隊を補助した[2]。
進駐軍の病院列車
[編集]連合軍は日本へ進駐すると傷病兵を横浜港に揚陸し、厚木から航空機で本国に送還する体制を取った。占領下初の軍事列車として臨時病院列車の運行が始まり、昭和20年9月7日から11日までの5日間に横浜港駅-厚木間に11列車で約4,400名の傷病者を輸送した[3]。
また、連合軍は日本への進駐する際に各地の病院を接収し、野戦病院とした。そこで基地から病院へ傷病兵を輸送するため東京-青森・東京-佐世保間に病院列車を定期運行するよう国鉄に指令。昭和21年2月に「Allied Limited」・「Dixie Limited」等の1000番台列車が運行するまで運転を続けた。運転間隔は1週間ないし10日ごとに各1往復で、編成は荷物車1両、食堂車1両、二等寝台車3両、一・二等寝台車1両、一等寝台車1両、展望車1両の8両編成であった。昭和20年12月には旧軍時代の病客車を畳からベッドへ改造し、編成中の寝台車をこれらに置き換えている[4]。
昭和25年、朝鮮戦争が勃発すると傷病兵輸送が活発になり、既存の病客車に加えて連合軍専用客車の1、2等寝台車や部隊簡易寝台車も病客車代用として動員された。最盛期の昭和25年12月には1週間に34列車、延べ127両で3,200人以上を輸送し、昭和27年3月までに延べ24,839人の傷病兵を輸送した[5]。
朝鮮戦争中は航空機で立川基地に後送された傷病兵をキャンプ・ドルウの軍病院に収容するダイヤも組まれ、国鉄と東武鉄道を直通する専用列車が運転された。経路は青梅線西立川駅-東武鉄道西小泉駅間で、昭和26年10月から昭和27年2月まで1~2両の病客車を連結した専用列車が深夜に走った[6]。
各国の病院列車
[編集]-
第一次世界大戦期フランスの病院列車(1918年)
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第二次大戦中、病院列車に改造されるLMSの客車(イギリス)
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病院列車から救急車へ移送される傷病兵(1939年ドイツ)
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病院列車の車体表記(1944年アメリカ)
関連項目
[編集]- 病院船
- 医療用航空機
- 鉄道外科
- 病客車、連合軍専用客車#Hospital Car(病院車)、Krankentransportzug
- 保健車 - 日本国有鉄道が職員の巡回健康診断に使用した客車
- ドクタートレイン - 九州新幹線を用いた急患搬送協力体制
出典
[編集]- ^ a b c 国民百科大辞典 1936, p. 17406.
- ^ 戦時の日本赤十字社京都支部 1931, p. 22-29.
- ^ 鉄道終戦処理史 1957, p. 269客列車は2、3等客車からなる7両編成
- ^ 鉄道終戦処理史 1957, p. 269-270.
- ^ 鉄道終戦処理史 1957, p. 270-272.
- ^ 東武鉄道六十五年史 1964, p. 430なお、国鉄と東武の中継は東北本線久喜駅で行われたが、滞留せずノンストップで運行した。
参考文献
[編集]- 井上忠男『戦争と救済の文明史: 赤十字と国際人道法のなりたち』PHP研究所 2003年
- 富山房百科辞典編纂部『国民百科大辞典 11』冨山房、1936年、17406頁。NDLJP:11816115/94。
- 日本赤十字社京都支部「戦時の日本赤十字社京都支部」『少年赤十字』、日本赤十字社京都支部、1931年11月、22-29頁、NDLJP:1776989/15。
- 『鉄道終戦処理史』日本国有鉄道総裁室外務部、1957年、269-272頁。NDLJP:1695197/137。
- 東武鉄道年史編纂事務局 編『東武鉄道六十五年史』東武鉄道、1964年、430頁。NDLJP:2504143/497。