「ブレイド群」の版間の差分
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以下n=4とする。 |
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ここに、最初の等式では{{math|{{!}}''i'' − ''j''{{!}} ≥ 2}} であり、第二の等式では{{math|1 ≤ ''i'' ≤ ''n''−2}}である。 |
ここに、最初の等式では{{math|{{!}}''i'' − ''j''{{!}} ≥ 2}} であり、第二の等式では{{math|1 ≤ ''i'' ≤ ''n''−2}}である。 |
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|この表示は、{{仮リンク|アルティン群|en|Artin group}}(Artin group)と呼ばれるブレイド群の一般化を導く。}} |
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これらの関係式は'''ブレイド関係式'''(braid relations)と呼ばれている。{{Refnest |group="注" |
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* {{math|''B''<sub>1</sub>}} は[[自明群|自明な群]]、{{math|''B''<sub>2</sub>}} は[[無限巡回群]] {{math|'''Z'''}} であり、{{math|''B''<sub>3</sub>}} は[[三葉結び目]]の[[結び目群]]と同型である。 |
* {{math|''B''<sub>1</sub>}} は[[自明群|自明な群]]、{{math|''B''<sub>2</sub>}} は[[無限巡回群]] {{math|'''Z'''}} であり、{{math|''B''<sub>3</sub>}} は[[三葉結び目]]の[[結び目群]]と同型である。 |
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* {{math|''n'' ≥ 3}} に対し、{{math|''B<sub>n</sub>''}} は 2つの生成 |
* {{math|''n'' ≥ 3}} に対し、{{math|''B<sub>n</sub>''}} は 2つの生成元を持つ[[自由群]]と同型な部分群を含む。従ってこれらの群は[[可換群|非可群]]な無限群である。 |
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* 単位元を除くすべての {{math|''B<sub>n</sub>''}} の元は、その[[位数 (群論)|位数]]が無限である。即ち、{{math|''B<sub>n</sub>''}} は[[捩れ (代数)|捩れを持たない]]。 |
* 単位元を除くすべての {{math|''B<sub>n</sub>''}} の元は、その[[位数 (群論)|位数]]が無限である。即ち、{{math|''B<sub>n</sub>''}} は[[捩れ (代数)|捩れを持たない]]。 |
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置換による対称群の作用と類似して、様々な数学的設定における{{math|''n''}}個の対象の組や{{math|''n''}}重の[[テンソル積]]に対して、ブレイド群は以下の自然な作用を有する。 |
置換による対称群の作用と類似して、様々な数学的設定における{{math|''n''}}個の対象の組や{{math|''n''}}重の[[テンソル積]]に対して、ブレイド群は以下の自然な作用を有する。 |
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{{math|''G''}} を任意の群、{{math|''X''}} を {{math|''G''}} の元のすべての {{math|''n''}} |
{{math|''G''}} を任意の群、{{math|''X''}} を {{math|''G''}} の元のすべての {{math|''n''}}個の組の集合で、それらの積が {{math|''G''}} の単位元となる集合とすると、<math>\sigma \in B_n, \{x_i\}\in X</math>に対する以下の写像は{{math|''X''}} の上への{{math|''B<sub>n</sub>''}}の[[群の作用|作用]]である。 |
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: <math> \sigma_i \left (x_1,\ldots,x_{i-1},x_i, x_{i+1},\ldots, x_n \right)= \left (x_1,\ldots, x_{i-1}, x_{i+1}, x_{i+1}^{-1}x_i x_{i+1}, x_{i+2},\ldots,x_n \right ). </math> |
: <math> \sigma_i \left (x_1,\ldots,x_{i-1},x_i, x_{i+1},\ldots, x_n \right)= \left (x_1,\ldots, x_{i-1}, x_{i+1}, x_{i+1}^{-1}x_i x_{i+1}, x_{i+2},\ldots,x_n \right ). </math> |
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別な例として、ブレイド群の作用を持つ[[モノイダル圏]]として{{仮リンク|ブレイドモノイダル圏|en|braided monoidal category}}(braided monoidal category)が考えられている。そのような構造は、現代の[[数理物理学]]で重要な役目を果し、量子[[結び目不変量]]を導く。 |
別な例として、ブレイド群の作用を持つ[[モノイダル圏]]として{{仮リンク|ブレイドモノイダル圏|en|braided monoidal category}}(braided monoidal category)が考えられている。そのような構造は、現代の[[数理物理学]]で重要な役目を果し、量子[[結び目不変量]]を導く。 |
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=ブレイド群の表現= |
==ブレイド群の表現== |
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ブレイド群 {{math|''B<sub>n</sub>''}} の線形[[群の表現|表現]]として古典的な{{仮リンク|Burau表現|en|Burau representation}}や、{{仮リンク|Lawrence-Krammer(-Bigelow)表現|en|Lawrence–Krammer representation}}が知られている。{{Refnest |group="注" |これらはより一般的なLawrence表現の特殊化である。}} |
ブレイド群 {{math|''B<sub>n</sub>''}} の線形[[群の表現|表現]]として古典的な{{仮リンク|Burau表現|en|Burau representation}}や、{{仮リンク|Lawrence-Krammer(-Bigelow)表現|en|Lawrence–Krammer representation}}が知られている。{{Refnest |group="注" |これらはより一般的なLawrence表現の特殊化である。}} |
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== {{math|''B''<sub>3</sub>}} とモジュラー群の関係 == |
== {{math|''B''<sub>3</sub>}} とモジュラー群の関係 == |
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{{Main|モジュラー群}} |
{{Main|モジュラー群#群論的な性質}} |
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ブレイド群 |
ブレイド群 B<sub>3</sub>は、[[モジュラー群]]<math>\Gamma</math>の中心拡大(central extension)である。即ち、<math>B_3</math>の[[中心 (代数学)#群の中心|中心]]を<math>Z(B_3)</math>により表すとき以下の[[完全系列#短完全列|短完全列]]を満たす: |
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:<math>\ |
:<math>1 \to Z(B_3) \to B_3 \to \Gamma \to 1</math> |
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従って<math>\Gamma \cong B_3/Z(B_3)</math>である。 |
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の中の格子として実現される。 |
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[[File:Braid-modular-group-cover.svg|thumb|{{math|''B''<sub>3</sub>}} は、モジュラー群の{{仮リンク|普遍中心拡大|en|universal central extension}}(universal central extension)である。]] |
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さらに、モジュラー群は自明な[[群 (数学)#中心・中心化群・正規化群|中心]]を持ち、モジュラー群はその中心 {{math|''Z''(''B''<sub>3</sub>)}} を modulo とする {{math|''B''<sub>3</sub>}} の[[商群]]である。同じことであるが、{{math|''B''<sub>3</sub>}} の[[内部自己同型]]群と同型である。 |
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<!--===Relation between {{math|''B''<sub>3</sub>}} and the modular group=== |
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[[File:Braid-modular-group-cover.svg|thumb|376px|{{math|''B''<sub>3</sub>}} is the [[universal central extension]] of the modular group.]] |
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The braid group {{math|''B''<sub>3</sub>}} is the [[universal central extension]] of the [[modular group]] {{math|PSL(2, '''Z''')}}, with these sitting as lattices inside the (topological) universal covering group |
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:<math>\overline{\mathrm{SL}(2,\mathbf{R})} \to \mathrm{PSL}(2,\mathbf{R}).</math> |
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Furthermore, the modular group has trivial center, and thus the modular group is isomorphic to the [[quotient group]] of {{math|''B''<sub>3</sub>}} modulo its [[center (group theory)|center]], {{math|''Z''(''B''<sub>3</sub>)}}, and equivalently, to the group of [[inner automorphism]]s of {{math|''B''<sub>3</sub>}}.--> |
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ここで、この[[同型]]を構成する。 |
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:<math>a = \sigma_1 \sigma_2 \sigma_1, \quad b = \sigma_1 \sigma_2</math> |
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と定義する。ブレイド関係式より、{{math|''a''<sup>2</sup> {{=}} ''b''<sup>3</sup>}} であることが従う後者の積を {{math|''c''}} で表すことにすると、{{math|''c''}} が {{math|''B''<sub>3</sub>}} の中心の中に含まれることを意味するブレイド関係式 |
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:<math>\sigma_1 c \sigma_1^{-1} = \sigma_2 c \sigma_2^{-1}=c</math> |
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を得ることが分る。{{math|''C''}} を {{math|''c''}} により[[群の生成系|生成された]] {{math|''B''<sub>3</sub>}} の[[部分群]]とすると、{{math|''C'' ⊂ ''Z''(''B''<sub>3</sub>)}} であるので、この群は[[正規部分群]]であり、[[商群]] {{math|''B''<sub>3</sub>/''C''}} をとることができる。{{math|''B''<sub>3</sub>/''C'' ≅ PSL(2, '''Z''')}} であることが分り、この同型は明確な形で表すことができる。[[剰余類]] {{math|σ<sub>1</sub>''C''}} と {{math|σ<sub>2</sub>''C''}} は次のように写像される。 |
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:<math>\sigma_1C \mapsto R=\begin{bmatrix}1 & 1 \\ 0 & 1 \end{bmatrix} \qquad \sigma_2C \mapsto L^{-1}=\begin{bmatrix}1 & 0 \\ -1 & 1 \end{bmatrix}</math> |
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ここに、{{math|''L''}} と {{math|''R''}} は標準的な{{仮リンク|スターン・ブロコット木|en|Stern-Brocot tree}}(Stern-Brocot tree)の上の左と右の移動である。これらの移動はモジュラー群を生成することがよく知られている。 |
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言い替えると、モジュラー群の共通な[[群の表示|表示]](presentation)は、 |
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:<math>\langle v,p\, |\, v^2=p^3=1\rangle</math> |
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であり、ここに、 |
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:<math>v=\begin{bmatrix}0 & 1 \\ -1 & 0 \end{bmatrix}, \qquad p=\begin{bmatrix}0 & 1 \\ -1 & 1 \end{bmatrix}</math> |
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である。 |
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{{math|''a''}} から {{math|''v''}} への写像と {{math|''b''}} から {{math|''p''}} への写像は、全射群準同型 {{math|''B''<sub>3</sub> → PSL(2, '''Z''')}} である。 |
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{{math|''B''<sub>3</sub>}} の中心は、{{math|''C''}} に等しく、{{math|''c''}} が中心に含まれるという事実の結果であり、モジュラー群は自明な中心を持ち、上の全射準同型は[[核 (代数)|核]] {{math|''C''}} を持つ。 |
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=関連する群= |
=関連する群= |
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==純粋ブレイド群== |
==純粋ブレイド群== |
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ブレイドの紐の交差の上下を無視すると、{{math|''n''}} 本の紐のブレイドは {{math|''n''}} 個の元の置換を定める。実際ブレイド <math>\sigma_i |
ブレイドの紐の交差の上下を無視すると、{{math|''n''}} 本の紐のブレイドは {{math|''n''}} 個の元の置換を定める。実際ブレイド <math>\sigma_i \in B_n</math>の像を[[対称群#互換|隣接互換]] {{math|''s''<sub>''i''</sub> {{=}} (''i'', ''i''+1) ∈ ''S<sub>n</sub>''}} とする写像は、ブレイド群から[[対称群]]への[[全射]][[群準同型]] {{math|''B<sub>n</sub>'' → ''S<sub>n</sub>''}} である。 |
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この準同型 {{math|''B<sub>n</sub>'' → ''S<sub>n</sub>''}} の[[核 (代数学)|核]]を'''純粋ブレイド群'''(pure braid group)と呼び、{{math|''P<sub>n</sub>''}} と書く。即ち純粋ブレイド群は以下の[[完全系列|短完全 |
この準同型 {{math|''B<sub>n</sub>'' → ''S<sub>n</sub>''}} の[[核 (代数学)|核]]を'''純粋ブレイド群'''(pure braid group)と呼び、{{math|''P<sub>n</sub>''}} と書く。即ち純粋ブレイド群は以下の[[完全系列#短完全列|短完全列]]を満たすものである。 |
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: <math>1\to P_n \to B_n \to S_n \to 1.</math> |
: <math>1\to P_n \to B_n \to S_n \to 1.</math> |
2024年11月2日 (土) 08:51時点における最新版
数学においてブレイド群(braid group、組みひも群とも呼ぶ)とは、直観的には平行に張られた複数の紐(braid)において、その隣り合う紐を交差させる操作を生成元とし、常に同じ絡まり方を生じる異なる交差操作の等式を関係式とする群である。特に紐がn本のときこの群をBnと書く。
ブレイド群は1925年にエミール・アルティンにより初めて明確に定義された。しかしそれ以前に配置空間の基本群として、1891年のアドルフ・フルヴィッツのモノドロミーの論文において暗に現れており[1]、更に遡ってガウスもアルティンと同様の着想を得ていたとも考えられている。
定義
[編集]特殊なnの場合
[編集]以下n=4とする。
一列に並んだ4点が二組あり、それらの間を結ぶ平行な紐が4本ある下図(以下eにより参照)のような状況を考える。
これらの紐に対し隣同士の紐を交差させる以下の3つの操作を考える。
これらの紐の交差においては上下を区別しており、例えば以下はとは異なる操作と看做される(これは後述の積の定義によりの逆元であると看做せる)。
及び、その交差の上下を逆にした操作を繰り返して得られる一つの具体的な紐の状態をブレイド又は組紐と呼ぶ(以下上図の自身もブレイドとも看做すこととする)。
二つのブレイドa, bがあるとき、aの右にbを繋げaの元の左の端点とbの右の端点を新たな端点とするブレイドを、aとbの積abと定義する。 以下に例を示す。
a | b | ab | |
---|---|---|---|
例1 | |||
例2 |
任意のブレイドと、冒頭のブレイドの積は元のブレイドを変えない(即ちは単位元)。 また任意のブレイドに対し、その右端の全点を通る縦線を軸として鏡映反転させたブレイドとの積を取るととなるため、常に逆元が存在することがわかる。 従ってブレイドは上記の積に関して群となり、この群がである。 定義よりの任意のブレイドを及び、その逆元の積として表現することができる。
をを生成元とする群とみたとき、その基本関係式は下記1~3と定められる。これらは本質的に同じ絡まり方を表すブレイドに関する等式であり、1は対象に共通の紐がない交差操作は可換であることを示す条件で、2及び3はライデマイスター移動III型の同値性に相当する。
一般のnの場合
[編集]この例を n 本の紐へ一般化して、群 Bnは次の表示により定義される。[注 1]
ここに、最初の等式では|i − j| ≥ 2 であり、第二の等式では1 ≤ i ≤ n−2である。 [注 2] これらの関係式はブレイド関係式(braid relations)と呼ばれている。[注 3]
基本的性質
[編集]- Bn 上には、Dehornoy順序と呼ばれる左不変な全順序が存在する。
ブレイドの解釈
[編集]結び目としての解釈
[編集]ブレイドの両端をつなげることにより一つの結び目又は絡み目が得られる。 逆に、すべての結び目と絡み目は少なくとも一つのブレイドとして表現可能であることが知られている(アレクサンダーの定理)。 ブレイドは生成子 σiに関する語(word)として与えられるため、計算機プログラムで結び目を扱う方法として採用されている。
写像類群とブレイドの分類への関係
[編集]ブレイド群 Bn は、n 個の穴を有する円板の写像類群(mapping class group)と同型であることを示すことができる。これは直感的には、写像類群の各元が穴同士を入れ替えるので、元の作用前後の同じ位置にある穴を繋ぐ紐の集合をブレイドと看做すことでブレイドと対応させることができることによる。
写像類群の元に関するニールセン・サーストン分類(Nielsen-Thurston classification)によって、ブレイドを周期的、可約、擬アノソフの3種類に分類することができる。
ブレイド群の作用
[編集]置換による対称群の作用と類似して、様々な数学的設定におけるn個の対象の組やn重のテンソル積に対して、ブレイド群は以下の自然な作用を有する。
G を任意の群、X を G の元のすべての n個の組の集合で、それらの積が G の単位元となる集合とすると、に対する以下の写像はX の上へのBnの作用である。
この対応は、成分xi と xi+1 の位置を交換し、更にxiをxi+1に関する内部自己同型を付加しただけであるため、作用後の元の成分の積が再び単位元であることが保証される。また、これがブレイド群の関係式を満たすことも確認できる。
別な例として、ブレイド群の作用を持つモノイダル圏としてブレイドモノイダル圏(braided monoidal category)が考えられている。そのような構造は、現代の数理物理学で重要な役目を果し、量子結び目不変量を導く。
ブレイド群の表現
[編集]ブレイド群 Bn の線形表現として古典的なBurau表現や、Lawrence-Krammer(-Bigelow)表現が知られている。[注 4]
Burau表現は、1変数の整係数ローラン多項式環の一般線形群への表現と看做せる:
Burau表現が忠実であるか否かは長い間問題となっていたが、n ≥ 5 に対しては否定的であることが判明した。
Lawrence-Krammer(-Bigelow)表現は、2変数の整係数ローラン多項式環の一般線形群への表現と看做せる:
2001年頃Stephen BigelowとDaan Krammerが独立に、この表現を用いてすべてのブレイド群が線型であることを証明した。
1996年、C. Nayakとフランツ・ウィルチェック(Frank Wilczek)は、SO(3)の射影表現の類似として、ブレイド群の射影表現が分数量子ホール効果における準粒子に関する物理的意味を有することを提唱した[2]。
その他
[編集]計算関係
[編集]ブレイドには生成元σ1, ..., σnによる正規化表現が存在し、ブレイドの語の問題(word problem)を効率的に処理することができる。 実際数式処理システムには、生成元で与えられたブレイドに対してこの問題を解くことができるものがある。[注 5] 語の問題は、ローレンス・クラマー表現(Lawrence-Krammer representation)を通しても効率的に解くことができる。
その他、ブレイド群に関する計算論的に難しい問題があるため、暗号理論への応用が提案されている。[3]
B3 とモジュラー群の関係
[編集]ブレイド群 B3は、モジュラー群の中心拡大(central extension)である。即ち、の中心をにより表すとき以下の短完全列を満たす:
従ってである。
関連する群
[編集]純粋ブレイド群
[編集]ブレイドの紐の交差の上下を無視すると、n 本の紐のブレイドは n 個の元の置換を定める。実際ブレイド の像を隣接互換 si = (i, i+1) ∈ Sn とする写像は、ブレイド群から対称群への全射群準同型 Bn → Sn である。 この準同型 Bn → Sn の核を純粋ブレイド群(pure braid group)と呼び、Pn と書く。即ち純粋ブレイド群は以下の短完全列を満たすものである。
純粋ブレイド群は、その元が単位置換に写像されるものであるため、幾何学的には各々の紐において起点と終点が必ず同じ位置にあるブレイドの全体と解釈することができる。
また純粋ブレイド群は、以下の分裂する短完全系列を満たすため、一般論から自由群の半直積を繰り返し取ったものと看做すこともできる。
関連事項
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ に対して、即ちB∞を、屡々右のように定義することがある: Bn は、1本の新しい紐を最初の n 本の紐のいづれとも交差することなく加えることにより、(n+1)-本の糸のブレイド群 Bn+1 の部分群として埋め込める。 そのような包含関係を前提として、すべての n ≥ 1 に対するブレイド群の合併(帰納極限)をB∞とする。
- ^ この表示は、アルティン群(Artin group)と呼ばれるブレイド群の一般化を導く。
- ^ ブレイド関係式は、ヤン・バクスター方程式(Yang–Baxter equation)の理論の中で重要な役目を担う。
- ^ これらはより一般的なLawrence表現の特殊化である。
- ^ 例えばGAP3 の CHEVIE と呼ばれるシステムでは、特別な種類のブレイド群をサポートしている。
出典
[編集]- ^ Magnus, Wilhelm (1974). “Braid groups: A survey”. In Newman M.F.. Proceedings of the Second International Conference on the Theory of Groups. Lecture Notes in Mathematics. 372. Springer. pp. 463–487. doi:10.1007/978-3-662-21571-5_49. ISBN 978-3-540-06845-7 2021年9月29日閲覧。
- ^ Nayak, Chetan; Wilczek, Frank (1996), “2n Quasihole States Realize 2n-1-Dimensional Spinor Braiding Statistics in Paired Quantum Hall States”, Nuclear Physics B 479 (3): 529–553, arXiv:cond-mat/9605145, Bibcode: 1996NuPhB.479..529N, doi:10.1016/0550-3213(96)00430-0 Some of Wilczek-Nayak's proposals subtly violate known physics; see the discussion Read, N. (2003), “Nonabelian braid statistics versus projective permutation statistics”, Journal of Mathematical Physics 44 (2): 558–563, arXiv:hep-th/0201240, Bibcode: 2003JMP....44..558R, doi:10.1063/1.1530369
- ^ Garber, David (2009). "Braid Group Cryptography". arXiv:0711.3941v2 [cs.CR]。
さらに先の書籍
[編集]- Birman, Joan; Brendle, Tara E. (26 February 2005), Braids: A Survey, arXiv:math.GT/0409205. In Menasco & Thistlethwaite 2005
- Carlucci, Lorenzo; Dehornoy, Patrick; Weiermann, Andreas (23 November 2007), Unprovability results involving braids, arXiv:0711.3785
- Kassel, Christian; Turaev, Vladimir (2008), Braid Groups, Springer, ISBN 0-387-33841-1
- Menasco, W.; Thistlethwaite, M., eds. (2005), Handbook of Knot Theory, Elsevier, ISBN 0-444-51452-X
外部リンク
[編集]- Braid group - PlanetMath.org
- CRAG: CRyptography and Groups at Algebraic Cryptography Center Contains extensive library for computations with Braid Groups
- Chernavskii, A.V. (2001), “Braid theory”, in Hazewinkel, Michiel, Encyclopedia of Mathematics, Springer, ISBN 978-1-55608-010-4
- Stephen Bigelow's exploration of B5 Java applet.
- Lipmaa, Helger, Cryptography and Braid Groups page, オリジナルの2009年8月3日時点におけるアーカイブ。
- Braid group: List of Authority Articles on arxiv.org.