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「山崎蒸溜所」の版間の差分

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{{Infobox factory
{{Infobox Scottish Distillery
| name = サントリー山崎蒸溜所
| Name = 山崎蒸溜所<br />Yamazaki distillery
| Type = japan
| image = File:YamazakiDistillery 01.jpg
| Image = File:Yamazaki Distillery 山崎蒸留所05.jpg
| image_size = 300px
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| Image size = 300
| Caption = 2019年10月撮影
| caption = サントリー山崎蒸溜所
| Location =[[大阪府]][[三島郡 (大阪府)|三島郡]][[島本町]]5-2-1{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=20}}
{{Infobox mapframe|zoom=13|type=point}}
| coordinates ={{coord|34|53|35.498|N|135|40|28.402|E|region:JP_type:landmark|display=inline,title}}
| built = {{Start date|1923}}
| Owner = [[サントリー]]{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=20}}
| location = {{JPN}}, [[大阪府]]
| founded = 1923年{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=21}}{{Refnest|group="注釈"|1923年は蒸留所の建設が始まった年であり、蒸留を開始したのは1924年である{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|pp=20-21}}。}}
| coordinate = {{Coord|42.830314|-81.25999|region:CA_type:landmark|display=inline<!--,title-->}}
| founder = [[鳥井信治郎]]{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=20}}
| industry = [[酒類]]
| architect =
| products = [[ジャパニーズ・ウイスキー]]
| employees =
| Status = 稼働中
| Source = 京都西山を水源とする地下水{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}
| architect =
| style =
| Mothballed = 1931年
| Stills = {{Ubl|[[スコッチ・ウイスキー#蒸留|初留器]] 8基{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}|[[スコッチ・ウイスキー#蒸留|再留器]] 8基{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}}}
| area =
| Capacity = 年間700万リットル{{Sfn|ジャクソン|2007|p=252}}
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| misc_heading = 位置
| address = 〒618-0000 [[大阪府]][[三島郡 (大阪府)|三島郡]][[島本町]]山崎五丁目2番1号
| misc = {{Infobox mapframe|zoom=14|frame-width=300|type=point|id=Q1417541}}
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| ABV 1 =
}}
}}
'''山崎蒸溜所'''(やまざきじょうりゅうしょ、{{lang-en|Suntory Yamazaki Distillery}})は、[[サントリー]]<ref>二代目法人、旧・[[サントリーBWS]]/[[サントリースピリッツ]]/[[サントリービール]]/[[サントリー酒類]]〈二代目法人〉/[[サントリーワインインターナショナル]]。</ref>が[[大阪府]][[三島郡 (大阪府)|三島郡]][[島本町]]山崎で運営する[[ウイスキー]][[蒸留酒|蒸留所]]である。


'''山崎蒸溜所'''(やまざきじょうりゅうじょ、{{lang-en|Yamazaki Distillery}})は、 [[大阪府]][[三島郡 (大阪府)|三島郡]][[島本町]]にある[[サントリー]]所有の[[ジャパニーズ・ウイスキー]]の蒸留所。[[日本]]初の[[モルトウイスキー]]蒸留所であり、単一のウイスキー蒸留所としては珍しく多彩な原酒を造り分けることで知られている。
[[1923年]]([[大正]]12年)に着工され、翌[[1924年]](大正13年)11月11日に操業を開始した<ref>[https://www.suntory.co.jp/factory/blog-d/000164.html 11月11日、山崎蒸溜所にとって大切な日] 山崎蒸溜所便り(2021年11月16日)2023年12月14日閲覧</ref>。同社の[[シングルモルトウイスキー]]の主力銘柄「[[山崎 (ウイスキー)|山崎]]」の生産で知られる。


==概要==
== 歴史 ==
=== 背景 ===
サントリーでは、山崎を「水生野(みなせの)」と呼ばれた名水の地だとしている。近隣にある[[水無瀬神宮]]の「離宮の水」は[[名水百選]]に選ばれているほか、かつて[[千利休]]が茶室を設けるなど水質も良く、3つの川([[宇治川]]、[[桂川]]、[[木津川]])が合流することで霧が立ち込めている立地がウイスキーづくりに適しているとされる。
{{Double image aside|right|Shinjirō Torii.jpg|150|Masataka Taketsuru.jpg|150|[[鳥井信治郎]]|[[竹鶴政孝]]}}
{{see also|鳥井信治郎|竹鶴政孝}}
山崎蒸溜所を創設したのは寿屋(のちの[[サントリー]])創業者の'''[[鳥井信治郎]]'''である{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=20}}。寿屋は1907年に「[[赤玉ポートワイン]]」を、1911年には「ヘルメスウイスキー{{Refnest|group="注釈"|ヘルメスウイスキーはラベルに「ヘルメス・オールド・スコッチ・ウイスキー」とあったが、実際には[[ウイスキー]]の定義に当てはまらない模造品であり、もちろん「オールド」でも「スコッチ」でもなかった{{Sfn|エイケン|2018|p=21}}。}}」を発売して大成功を収めており{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|p=235}}{{Sfn|エイケン|2018|p=21}}、1919年には[[ワイン]]の古樽で数年の熟成を経た[[醸造アルコール]]を「[[トリスウイスキー]]」として発売したところ瞬く間に完売{{Sfn|エイケン|2018|p=21}}。このことを受けた鳥井は日本人の味覚にあった本格的なウイスキーづくりを志向するようになっていった{{Sfn|エイケン|2018|p=22}}。そこで[[三井物産]][[ロンドン]]支店にかけあって[[スコットランド]]から技術者を招聘しようとしたところ{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|p=238}}、スコットランドでウイスキーづくりを学んだのち日本に帰国した青年・'''[[竹鶴政孝]]'''を、知己であったムーア博士から推薦された{{Sfn|エイケン|2018|p=22}}。


竹鶴政孝は醸造学を学んだのち1916年に摂津酒造に入社した{{Sfn|エイケン|2018|p=23}}。同社オーナーの阿倍喜兵衛は鳥井と同じように本格的なウイスキーづくりを志向しており、1918年から1920年にかけて竹鶴をスコットランドでのウイスキー留学に送り出していた{{Sfn|エイケン|2018|pp=23-25}}。しかし、竹鶴が帰国した1920年当時の日本は[[第一次世界大戦]]の戦争特需がなくなったことで不景気にあえいでおり{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|p=237}}、摂津酒造にはウイスキーづくりへ投資を行う余裕がなくなっていた{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|p=237}}{{Sfn|エイケン|2018|p=25}}。本場でウイスキーづくりを学んだにもかかわらず模造ウイスキーづくりをしなければならないことに竹鶴は落胆し、1922年には摂津酒造を退社する{{Sfn|エイケン|2018|pp=25-26}}。そこに竹鶴を推薦された鳥井が現れ、1923年6月、竹鶴は寿屋に入社することになった{{Sfn|エイケン|2018|p=26}}。
寿屋(現在の[[サントリーホールディングス]])の創業者で当時の社長である[[鳥井信治郎]]は、日本で本格的なウイスキー製造を目指して蒸溜所開設を企画。[[日本]]初の[[モルトウイスキー]]蒸留所として同所を開設した。1923年には、本場[[スコットランド]]で[[スコッチ・ウイスキー]]の製造を学んだ[[竹鶴政孝]]を招聘し、山崎蒸溜所長に任じた。竹鶴は日本におけるウィスキーづくりの好適地は[[北海道]]であることを訴えるが、輸送コストがかかることに加え、消費者向けの工場見学を考えていた鳥井は、工場の位置のみ「[[京阪神]]付近の交通の便が良い所で、良い水のある場所にする」ように命じ、それ以外のことは竹鶴に任せたとされる。


=== 創業期 ===
[[1929年]]([[昭和]]4年)、山崎蒸溜所は日本初のウイスキー「'''[[サントリーホワイト|白札]]'''」を出荷した。
{{Double image aside|right|Suntory Yamazaki Distillery Aerial Photograph1946.jpg|200|Suntory Yamazaki Distillery Aerial Photograph2020.jpg|200|1946年の山崎蒸溜所の航空写真。画面中心が山崎蒸溜所。{{国土航空写真}}|2020年の山崎蒸溜所周辺の航空写真。画面左上が山崎蒸溜所。右下の川は左から順に[[桂川 (淀川水系)|桂川]]、[[淀川|宇治川]]、[[木津川 (大阪府)|木津川]]。{{国土航空写真}}}}
[[File:YamazakiDistillery 05.jpg|thumb|right|200px|創業当時に稼働していたポットスチル。モニュメントになっている。2017年撮影]]


蒸留所をどこに作るかについて、竹鶴は地形や気候がスコットランドに似ていることから[[北海道]]が理想だとしていた{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|p=238}}{{Sfn|エイケン|2018|p=236}}。一方で鳥井は、遠く離れた北海道に蒸留所を作っては輸送などのコストが嵩むため消費地に近い場所で、かつ大阪の本社近くが望ましいと考えていた{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|p=238}}{{Sfn|エイケン|2018|p=236}}。その結果、[[大阪府]]と[[京都府]]の県境に位置する山崎の地が建設地として選ばれた{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|p=238}}。山崎は名水の地として知られており、古くは[[万葉集]]で言及されているほか、[[水無瀬神宮]]に湧き出る「離宮の水」は[[名水百選]]に選ばれており、[[千利休]]も[[待庵]]という茶室を建てている{{Sfn|エイケン|2018|p=94}}<ref name="suntory_水無瀬神宮">{{Cite web|和書|url=https://www.suntory.co.jp/factory/blog-d/000159.html |author= |title=ウイスキーづくりの理想郷、山崎の地を訪ねる ~水無瀬神宮と天王山~ |publisher=suntory.co.jp |date=2021-08-30|accessdate=2024-02-15 |language=ja}}</ref>。また、蒸留所近郊で[[桂川 (淀川水系)|桂川]]、[[淀川|宇治川]]、[[木津川 (大阪府)|木津川]]という3つの河川が合流していることから一年を通じて濃霧が立つほど湿潤な気候であり{{Refnest|group="注釈"|なお、山崎の気候は年月を経て変化しており、2018年時点では霧の立つ日は月平均1{{Ndash}}2日ほどである{{Sfn|エイケン|2018|p=94}}。}}、ウイスキーの製造・熟成に非常に適した環境であった{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|p=238}}{{Sfn|エイケン|2018|p=94}}。
竹鶴は前述のように北海道でのウイスキーづくりを志しており、10年の契約期間が終了した際、契約を更新せず寿屋を退社。北海道[[余市郡]][[余市町]]に大日本果汁(のちの[[ニッカウヰスキー]])を興している。なお、山崎蒸溜所建設の準備資料や『壽屋スコッチウヰスキー醸造工場設計図』は、初代所長であった竹鶴の遺品中に発見され、余市蒸留所のウイスキー博物館で展示されている<ref>[http://www.nikka.com/guide/yoichi/map/map02.html ウイスキー博物館] ニッカウヰスキー余市峡蒸溜所</ref><ref>[https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000060126.pdf#page=31 山崎付近の手書き地図] 外務省外交史料館展示</ref>。


1923年10月1日には蒸留所用地を購入し{{Sfn|エイケン|2018|p=27}}、同月に山崎蒸溜所の建設を開始{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=21}}。1924年11月11日に日本初の[[モルトウイスキー]]蒸留所として竣工した{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=21}}。ウイスキーづくりに必要な設備は竹鶴の指揮のもとで揃えられ、一部は海外から輸入したものの、[[ポットスチル]]を含む大半の設備は[[竹鶴ノート]]をもとに日本で製造されたものだった{{Sfn|エイケン|2018|p=27}}。ポットスチルは[[ロングモーン蒸留所]]{{Refnest|group="注釈"|ロングモーンは竹鶴が1919年にウイスキーの製造実習を受けた蒸留所である{{Sfn|エイケン|2018|p=24}}。}}に似た形のものが2基あり、イギリスから輸入した[[泥炭|ピート]]と国産の大麦を使って[[麦芽]]を作り、伝統的な[[スコッチ・ウイスキー]]とまったく同じ方法でのウイスキーづくりが始まったのである{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|pp=238-239}}。この頃の山崎はスコットランドの[[スコッチ・ウイスキー#ハイランド_(Highland)|ハイランド地方]]にある典型的な蒸留所のような内装であった{{Sfn|エイケン|2018|p=94}}。なお、初代ポットスチルはその後1958年まで使用され、取り替えられた後は山崎の敷地内にモニュメントとして設置されている{{Sfn|エイケン|2018|p=96}}。
1959年に竣工した製麦棟(現在の事務所棟)は[[佐野正一]]の設計によるもので、第11回[[日本建築学会賞]]を受賞している。


しかしながら山崎でのウイスキーづくりは困難の連続であった{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|p=239}}。また、熟成に時間がかかりすぐには製品として販売できないために寿屋の経営を圧迫し、鳥井はウイスキーづくりの費用を捻出するために歯磨き粉「[[スモカ歯磨|スモカ]]」などの新商品を精力的に開発した{{Sfn|エイケン|2018|p=28}}。そして山崎の操業開始から5年、1929年には日本初の本格国産ウイスキー「サントリーウイスキー」(通称「白札」)が発売されたが{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=21}}、1瓶4.5円という強気の価格設定や{{Refnest|group="注釈"|輸入品スコッチウイスキーの[[ジョニーウォーカー]]黒ラベルが5円であった{{Sfn|エイケン|2018|p=28}}。}}、焦げたような味わい、スモーキーな風味が敬遠されて商業的に大失敗に終わった{{Sfn|エイケン|2018|p=28}}。翌1930年に竹鶴はビール製造の責任者として[[鶴見区 (横浜市)|鶴見]]の工場へ事実上の左遷をされ{{Sfn|エイケン|2018|pp=28-30}}、ついに寿屋の資金が尽きた1931年には山崎は生産休止に追い込まれた{{Sfn|エイケン|2018|p=28}}{{Sfn|土屋|2014|p=212}}{{Refnest|group="注釈"|翌1932年には「スモカ」の製造販売権を売却して資金を捻出、生産を再開した{{Sfn|土屋|2014|p=212}}。}}。そして10年契約の満了間近である1934年3月、竹鶴は寿屋を退社した{{Sfn|エイケン|2018|p=30}}{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|p=239}}{{Refnest|group="注釈"|その後の竹鶴は北海道に渡り大日本果汁(のちの[[ニッカウヰスキー]])を創業し{{Sfn|エイケン|2018|p=31}}、1936年に[[余市蒸溜所]]でのウイスキーづくりを開始した{{Sfn|エイケン|2018|p=33}}。}}。一方で、長きにわたる試行錯誤のすえ1937年に発売した「角瓶」(12年熟成)はついにヒットを果たした{{Sfn|エイケン|2018|p=33}}。
100周年に合わせて2024年([[令和]]6年)にかけて敷地内の改修を進めており、2023年(令和5年)11月1日にリニューアルオープンした<ref name=サントリー20231010>[https://www.suntory.co.jp/news/article/14475.html サントリー山崎蒸溜所リニューアルオープン ―100周年を迎え、さらなる品質向上や蒸溜所魅力訴求を強化―/―主要施設のリニューアルと2種の新見学ツアーを展開―] サントリー・ニュースリリース(2023年10月10日)2023年12月14日閲覧</ref>。


== 設備 ==
=== 戦時中 ===
角瓶がヒットを収めた1937年には[[日中戦争]]が、1941年には[[太平洋戦争]]が勃発したが、山崎は日本軍の指定工場として軍にウイスキーを供給する役割を担ったため国から優先的に原料供給を受けられ、戦時中にあってもウイスキーづくりを中止せずに済んだ{{Sfn|エイケン|2018|p=34}}{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|pp=240-241}}。むしろ毎年のように売上を伸ばしており、1930年には17,000[[リットル]]だった山崎の出荷量は、1944年には771,000リットルにまで増加している{{Sfn|エイケン|2018|p=34}}。戦争末期の1945年になると大阪本社、大阪工場ともに空襲で焼けたが、山崎は幸運にも戦火を免れた{{Sfn|エイケン|2018|p=34}}。それでもウイスキーを詰めた樽は念のため山中のトンネル内に避難させていた{{Sfn|エイケン|2018|p=94}}。なお、ウイスキーに[[香木]]のような独特な香味を付与することで知られる[[ミズナラ]]樽は、海外産木材の輸入が困難になった戦時中に代用品として開発されたものである{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}{{Sfn|土屋|2007|p=246}}。
[[画像:サントリー山崎蒸留所遠景.JPG|thumb|320px|right|サントリー山崎蒸溜所全景]]
山崎蒸溜所では、タイプの異なる複数の設備を使い分けることで、様々な特徴を持ったモルト原酒を作り分けている。


=== 発酵槽 ===
=== 戦後 ===
山崎が戦火を免れたおかげで寿屋は戦後まもなくからウイスキーの販売を継続することができた{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|p=241}}。1945年10月には[[GHQ]]向けにウイスキーを供給するようになり{{Refnest|group="注釈"|供給は1949年まで続いた{{Sfn|エイケン|2018|p=37}}。}}、一般向けにも1946年4月に「[[トリスウイスキー]]」を、1950年には「[[サントリーオールド|オールド]]」を発売した{{Sfn|エイケン|2018|p=37}}{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|p=241}}。その後1960年代に入ると日本国内ではウイスキーブームが起こり、山崎は生産設備の大幅な拡張を推し進めた{{Sfn|エイケン|2018|pp=48-49}}{{Sfn|土屋|2007|p=236}}。1958年にはポットスチルを4基へ増設、1963年には8基にまで増設しており、生産能力はかつての8倍となっている{{Sfn|エイケン|2018|p=49}}。蒸留器の増設はその後も行われており、1968年には4基が増設されて12基となり生産能力が6割向上している{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=25}}。
様々なタイプの原酒を作るため、ステンレス槽のほか、木桶槽を使用<ref>『サントリー山崎蒸留所パンフレット』(2017年)p.8</ref>。木桶槽は温度管理が難しい一方で保湿性に優れ、蒸溜所内に棲みつく[[乳酸菌]]などが働いてウイスキーに豊かな味わいを加えている。


山崎蒸溜所稼働から60周年となる1984年3月14日には「ピュアモルト山崎」{{Refnest|group="注釈"|リリース当初は年数表記がなかったが、1986年からは12年と記載されるようになった{{Sfn|エイケン|2018|p=112}}。}}がリリースされた{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=21}}{{Sfn|エイケン|2018|p=111}}。
=== 蒸溜釜 ===
ポットスチルと呼ばれる単式蒸溜釜を用いて2度蒸溜(初溜、再溜)しており<ref>『サントリー山崎蒸留所パンフレット』(2017年)p.9</ref>、そのための初溜釜、再溜釜各6基を備えている。ポットスチルの形状は主にストレートヘッド型とバルジ型を採用しており、加熱方法も炎を直接当てる直火蒸留と蒸気を使った間接加熱の2種類を用いている。


1987年から1989年にかけて生産設備全体の2/3を更新する大改修を行っており、このときに初めて木製の[[スコッチ・ウイスキー#発酵|ウォッシュバック]](発酵槽)と直火加熱式の[[単式蒸留器|ポットスチル]]を導入している{{Sfn|土屋|2015|p=15}}{{Sfn|ゆめディア|2014|p=45}}。また、並行して酵母の改良も進めており、この頃から様々な種類の原酒を造り分けられるようになった{{Sfn|ゆめディア|2014|p=45}}。山崎蒸溜所元工場長の嶋谷幸雄はこれらの改革を「より複雑なブレンディングやヴァッティングを行うことが可能になったため、ウイスキーの品質は格段に向上したと思います」と評価している{{Sfn|ゆめディア|2014|p=45}}。2013年には4基が増設されて16基となった{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=26}}。合計4基のうち初留2基と再留1基はほぼ円錐形のストレート型で、山崎の初代ポットスチルの形状を改良したものである{{Sfn|ゆめディア|2013|p=26}}。
=== 熟成庫 ===
主に[[ダンネージ式]]で、樽を3、4段積みあげている。熟成に用いるカスク(樽)には、ホワイトオーク製のパンチョンを多く用いられるが、それ以外にもバーレル、ホッグスヘッドといった大きさや来歴の異なるホワイトオーク製の樽や、ヨーロピアンオーク製でシェリーの貯蔵に使われたシェリーバット、さらに[[ミズナラ]](日本産オーク)を用いた和樽の計五種類を用いている。


100周年に合わせて2024年([[令和]]6年)にかけて敷地内の改修を進めており、フロアモルティングや電気式蒸留器の導入を行う<ref name="suntory_official_リニューアル"/><ref name="suntory_official_plan">{{Cite web|和書|url=https://www.suntory.co.jp/news/article/14314.html |author= |title= 2023年サントリー(株)ウイスキー事業方針|publisher=suntory.co.jp |date=2023-02-01 |accessdate=2024-02-22 |language=ja}}</ref>。併せて蒸留所の見学設備もリニューアルし、2023年(令和5年)11月1日にオープンした<ref name="suntory_official_リニューアル"/>。
==シングルモルトウイスキー山崎==
{{Main|山崎 (ウイスキー)}}
シングルモルトウイスキー「[[山崎 (ウイスキー)|山崎]]」。発売開始は1984年。蒸溜所限定販売のものや[[プライベートブランド]]扱いの製品など、公式ラインナップ外の製品も一部存在する。


== 製造 ==
またサントリーホールディングスの傘下である[[ビーム サントリー]]を通じて世界各国でも販売されている。
{{See also|スコッチ・ウイスキー#製造工程}}
山崎蒸溜所の特徴は非常に多彩な原酒を造り分けられる点にある{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=21}}。度重なる改修工事の結果、2024年時点の山崎ではサイズ、形状、加熱方式、冷却方式が異なる8対16基のポットスチルが稼働しており、それらに2種類の糖化槽と発酵槽、複数種類の熟成樽を組み合わせることで、世界的にも類を見ないほど多様な造り分けが可能になっている{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|pp=20-21}}。その種類は100以上に及ぶ{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|p=150}}。このような複雑なウイスキーづくりを行うようになった理由について評論家のチャールズ・マクリーンは、日本の蒸留所間に原酒交換の文化がないことを指摘し、単一の蒸留所で複雑なブレンドを行うには必然的に多種多様な原酒を作らざるを得ないからであると述べている{{Sfn|マクリーン|2017|p=298}}。


==見学==
=== 製麦 ===
麦芽の[[フェノール]]値は0{{Ndash}}40&nbsp;[[ppm]]で{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}、40&nbsp;ppmの麦芽を使った仕込みは年末に行われることが多い{{Sfn|エイケン|2018|p=95}}。一度の仕込みに4{{Ndash}}16トンの麦芽を消費する{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}。1924年にウイスキーづくりを始めた当時は国産大麦と[[イギリス]]産[[スコッチ・ウイスキー#製麦|ピート]]を使って蒸留所内でモルティングが行われていた{{Sfn|エイケン|2018|p=95}}{{Sfn|土屋|2007|p=227}}。しかし1969年には[[スコッチ・ウイスキー#製麦|フロアモルティング]]が廃止され、1969年に導入した機械式のモルティングも1972年には廃止、以降はイギリスの専門業者(モルトスター)から[[麦芽]]を調達するようになった{{Sfn|エイケン|2018|p=95}}{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}。創業100周年となる2023年には、1回あたり1.1トンという極小サイズではあるもののフロアモルティングを再開している{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|pp=21-22}}{{Sfn|西田|2024|p=50}}。
*山崎蒸溜所は、事前予約にて工場内見学を随時実施しており、仕込、発酵、蒸溜、貯蔵の一連の工程をで見学することが可能。見学後は未成年およびドライバー以外はウイスキー館で試飲(有料)もできる。また土・日・祝には、シングルモルトウイスキーの知識や魅力などについて解説するテーマ別の有料セミナーが開催される。電話やインターネットを通じての事前予約。
*山崎蒸溜所敷地内には、鳥井と[[佐治敬三]]の銅像が建っている。「'''山崎ウイスキー館'''」にはウイスキー7000本やポットスチル・発酵槽などが展示されており、サントリーが製造あるいは輸入しているウイスキーを試飲(有料)できる。館内で営業しているファクトリーショップでは、ウイスキーやグラス、使用済み樽を再利用したグッズ等を購入できる。


フロアモルティング用の発芽室は1.4トンの大麦を広げられるスペースが2箇所あり、冷涼な気候を再現するために室温は一年を通じて15℃に保たれている{{Sfn|西田|2024|p=50}}。大麦の浸水・断水を繰り返す工程がおよそ2日、発芽室に大麦を広げて発芽を促す工程がおよそ4日である{{Sfn|西田|2024|p=50}}。その後は[[ドイツ]]製の熱風乾燥機で乾燥させ、除根などの仕上げ工程を経たのち、麦芽としてウイスキーづくりに使用できるようになる{{Sfn|西田|2024|p=50}}。ピートを焚いて乾燥させる設備はない{{Sfn|土屋|2023|p=32}}。サントリーのチーフブレンダーである[[福與伸二]]はフロアモルティングした麦芽で作った原酒について「非常にリッチでコクのあるスピリッツになっています」と述べている{{Sfn|土屋|2023|p=32}}。
===交通===
*[[西日本旅客鉄道|JR西日本]][[JR京都線|東海道本線(京都線)]][[山崎駅 (京都府)|山崎駅]] 徒歩7分
*[[阪急電鉄]][[阪急京都本線|京都本線]][[大山崎駅]] 徒歩10分


=== 仕込み・発酵 ===
==ギャラリー==
{{Double image aside|right|Yamazaki Distillery 山崎蒸留所13.jpg|220|Yamazaki Distillery 山崎蒸留所11.jpg|220|マッシュタン。左が容量100,000リットル、右が25,000リットル|木製のウォッシュバック}}
<gallery>
仕込みに使う水は敷地内の[[井戸]]から採水しており、水源は[[天王山]]を始めとした京都西山である{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}{{Sfn|エイケン|2018|p=95}}。[[硬度]]は90mg/Lであり{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}、硬水を使うことで知られる[[グレンモーレンジィ蒸留所]]と同程度である{{Sfn|ジャクソン|2007|p=136}}{{Sfn|ジャクソン|2007|p=253}}。
ファイル:山崎蒸留所の蒸溜釜 - 画像 233.jpg|蒸溜釜
ファイル:YamazakiBarrels.JPG|山崎蒸溜所の熟成庫
ファイル:山崎245.jpg|山崎25年
File:Yamazake single malt.jpg|山崎のボトル
File:SUNTORY Yamazaki-Distillery bronze statues_20080928.jpg|鳥井信治郎・佐治敬三像と蒸溜釜
ファイル:YamazakiDistillery 06.jpg|鳥井信治郎・佐治敬三像
ファイル:YamazakiDistillery 07.jpg|蒸溜釜
ファイル:YamazakiDistillery 08.jpg|蒸溜釜
ファイル:YamazakiDistillery 09.jpg|熟成庫裏の庭園
</gallery>


[[スコッチ・ウイスキー#仕込み|マッシュタン]](糖化槽)は[[ステンレス]]製で、容量100,000リットル(17.6[[トン]])と25,000リットル(4.5トン)の合計2基が稼働している{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}{{Sfn|エイケン|2018|pp=95-96}}。
== 関連項目 ==

* [[ジャパニーズ・ウイスキー]]
[[スコッチ・ウイスキー#発酵|ウォッシュバック]](発酵槽)は1988年まではすべてステンレス製のものだったが、同年の改修で木製のものが導入された{{Sfn|エイケン|2018|p=96}}{{Refnest|group="注釈"|創業初期の写真では木製のウォッシュバックのようなものが使われていたように見えるが、それを裏付ける記録はない{{Sfn|エイケン|2018|p=96}}。}}。2024年時点では合計20基が稼働しており、その内訳は木製(材木は[[ダグラスファー]]、容量40,000リットル。温度調節機能はない)が8基、ステンレス製(容量140,000リットル)が6基、ステンレス製(容量80,000リットル)が6基である{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}{{Sfn|エイケン|2018|p=94}}。ステンレス製のウォッシュバックはすっきりとした風味に、木製のウォッシュバックは複雑で重厚な風味につながる{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|pp=149-150}}。発酵に使う酵母の多くはサントリー自社製のもので、[[スコッチ・ウイスキー#発酵|ウイスキー酵母]]と[[ビール]]酵母を併用している{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}{{Sfn|エイケン|2018|p=96}}。発酵時間は65{{Ndash}}75時間{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}。
* [[白州蒸溜所]]/[[知多蒸溜所]]:サントリーの他のウイスキー蒸溜所

* [[大山崎山荘美術館]]
=== 蒸留 ===
* [[名神高速道路]]:山崎蒸留所付近を通過するルートが計画されたが、水質に影響が出るため、[[天王山]]にトンネルを開通する工事に変更された。
[[File:Yamazaki Distillery 山崎蒸留所12.jpg|thumb|right|200px|ポットスチル]]
山崎のポットスチルは初留・再留合わせて全部で16基ある{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=21}}。

[[スコッチ・ウイスキー#蒸留|初留器]]は8基あり、容量は15,000リットルで統一されている{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}。内訳は[[スコッチ・ウイスキー#単式蒸留器|ストレート型]]が6基、[[スコッチ・ウイスキー#単式蒸留器|バルジ型]]が2基である{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}。加熱方式はすべてガスによる直火式、冷却方式は6基が[[スコッチ・ウイスキー#単式蒸留器|シェル&チューブ]]、2基が[[スコッチ・ウイスキー#単式蒸留器|ワームタブ]]である{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}。蒸留にかかる時間は7{{Ndash}}8時間{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}。

[[スコッチ・ウイスキー#蒸留|再留器]]も8基あり、内訳はストレート型が3基、バルジ型が5基である{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}。容量は8,000{{Ndash}}10,000リットル{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}。加熱方式と冷却方式はすべて統一されており、蒸気による間接加熱式とシェル&チューブ方式をそれぞれ採用している{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}。蒸留にかかる時間は7{{Ndash}}8時間{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}。

=== 熟成・瓶詰め ===
[[File:Yamazaki Distillery 山崎蒸留所15.jpg|thumb|right|200px|ダンネージ式の熟成庫]]
樽詰め時のアルコール度数は63.5度未満で、熟成環境によって適切な度数に調整される{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}。山崎の熟成庫は[[スコッチ・ウイスキー#熟成|ダンネージ式]]と[[スコッチ・ウイスキー#熟成|ラック式]]がどちらもあるが{{Sfn|エイケン|2018|p=101}}、熟成場所は必ずしも山崎であるわけではなく、[[白州蒸溜所]]や[[滋賀県]]の近江エージングセラーで熟成させることもある{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}。山崎で熟成されるのは生産量のうち1割程度である{{Sfn|エイケン|2018|p=101}}。

熟成に用いる樽は[[シェリー (ワイン)|シェリー]]樽、[[ヨーロッパナラ|スパニッシュオーク]]樽、[[ミズナラ]]樽などさまざまなものを用いている{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|p=150}}。かつては山崎にクーパレッジ(製樽所)があったが、1980年代後半に滋賀県の近江クーパレッジへと移設された{{Sfn|エイケン|2018|p=101}}。

1924年に初めて原酒が詰められた樽はイギリスから輸入されたシェリー樽であり、中身は既に空であるものの2022年現在でも山崎の熟成庫内に保管されている{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2022|p=151}}{{Sfn|エイケン|2018|p=98}}。

=== パイロットディスティラリー ===
山崎蒸溜所内には実験的な製造を行うためのパイロットディスティラリーが存在する{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=22}}。設置は1968年{{Sfn|西田|2024|p=49}}。蒸留所内のワンフロアに設置されており、製造設備が一通り揃っているほか、樽詰め設備やテイスティングルームなども備えている{{Sfn|西田|2024|p=51}}。山崎蒸溜所のブレンダー室長である野口雄志は「設立当時から技術開発や研究開発のための原酒づくりを行ってきたパイロットディスティラリーは、まさにサントリーウイスキーの基幹となる施設です」と述べている{{Sfn|西田|2024|p=51}}。

製造設備はポットスチルが1対2基あり、初留器は直火加熱と電気加熱のハイブリッド式、再留器は間接加熱式、容量は2,300リットルと極小である{{Sfn|西田|2024|pp=51-52}}。糖化槽と発酵槽もポットスチルに合わせたサイズであり、糖化槽は複数方式での仕込みに対応、発酵槽はステンレス製で温度調整が可能なタイプである{{Sfn|西田|2024|p=51}}。

== 製品 ==
[[File:Yamazake single malt.jpg |thumb|right|250px|山崎12年のボトル]]
山崎の原酒はサントリー各種の[[ブレンデッドウイスキー]]に使われるほか、シングルモルトウイスキーとしてもリリースされている{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=23}}。

1984年に初のシングルモルトとして「ピュアモルト山崎」(のちの「山崎12年」)をリリースすると{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=21}}{{Sfn|エイケン|2018|pp=111-112}}、1992年に「山崎18年」を、1998年に「山崎25年」を{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=25}}、2012年に「山崎」(ノンエイジ、熟成年数表記なし)を発売している{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=26}}。

=== 現行のラインナップ ===
<!-- WP:NOTCATALOGに則って冗長な列挙を防ぐため、日本語公式HPに記載が確認されていないボトルは掲載していません。-->
==== 山崎 ====
2012年に5月29日に発売された製品で、熟成年数表記のないノンエイジ製品である{{Sfn|ゆめディア|2012b|p=16}}。[[ハイボール]]をきっかけにウイスキーを飲み始めた人にとって「飲みやすくて理屈抜きに美味しいもの」を作ろうというコンセプトのもとに開発されており、2012年当時のサントリーチーフブレンダーである福與伸二は、ワイン樽で後熟することによって出てくる甘みを活かしたブレンドになっていると述べている{{Sfn|ゆめディア|2012b|p=16}}。

評論家の土屋守は山崎ノンエイジを下記のようにテイスティングしている。
{{Quotation|点数:85点{{Refnest|group="注釈"|採点は100点満点で、75点を平均点としている{{Sfn|ゆめディア|2012a|p=71}}。}}
アロマ:プラム、梅酒、ミント。厚みがありしっかりしている。ベリーの入ったチョコレート、イチゴのタルト。加水でよりスイート。

フレーバー:厚みがあり、甘・辛・酸がバランスよく口中に広がる。余韻は中程度。加水で徐々にドライになり、後口は塩昆布。
総合評価:このクラスとしては非常に複雑で、しっかりとしている。少量の加水がオススメ。|ウイスキーワールド2012年8月号より{{Sfn|ゆめディア|2012a|p=74}}}}

==== 山崎12年 ====
山崎12年は山崎蒸溜所稼働から60周年となる1984年3月14日に「ピュアモルト山崎」として初めてリリースされた{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=21}}{{Sfn|エイケン|2018|p=111}}。リリース当初は年数表記がなかったが、1986年からは12年と記載されるようになった{{Sfn|エイケン|2018|p=112}}。開発を担当したのは鳥井信治郎の次男・[[佐治敬三]]であり{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=21}}、ラベルの「山崎」の文字は佐治敬三自らが揮毫したものである{{Sfn|西川|2022|p=148}}。土屋守は「山崎らしい上品で華のある香りや、しっかりしたボディと熟成感」「多彩な原酒が調和する「バランス」を重視したブレンド」と評している{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=21}}。バーテンダーの谷嶋元宏は「上品でバランスよく飲みやすい。心地よい香りを楽しめる。加水しても崩れないが、できればストレートで。」と評価している{{Sfn|プラネットジアース|2007|p=66}}。評論家の[[マイケル・ジャクソン (ライター)|マイケル・ジャクソン]]は「軽くシロップのようで、はちみつのフレーバーがして、香水のようで、フィニッシュにクッキーのようなドライさをともなう」と評価している{{Sfn|ジャクソン|2005|p=436}}。

==== 山崎18年 ====
1992年に発売され{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=25}}、18年以上熟成させたシェリー樽原酒を中心にブレンドされている<ref name="山崎_製品紹介">{{Cite web|和書|url=https://www.suntory.co.jp/whisky/yamazaki/product/ |author= |title=ラインナップ|シングルモルトウイスキー山崎|サントリー|publisher=suntory.co.jp |date= |accessdate=2024-02-22|language=ja}}</ref>。評論家のデイヴ・ブルームは本品の風味を「コクがありまろやか」「森の中に深く分け入る旅」と評している{{sfn|ブルーム|2018|p=215}}。評論家のチャールズ・マクリーンは「熟成を重ねるにつれ、樽材の影響がより強く出るため、若い「山崎」のエステリーな香りに代わって、レーズンやイチゴジャム、アンズや干し柿のような香りが顕著になる」と述べている{{Sfn|マクリーン|2017|p=297}}。

==== 山崎25年 ====
1998年に発売され{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=25}}、25年以上熟成させたミズナラ樽、スパニッシュオーク樽、アメリカンオーク樽原酒をブレンドしている<ref name="山崎_製品紹介"/>。年間数千本の限定商品である<ref name="山崎_製品紹介"/>。評論家のドミニク・ロスクロウは「しっかりと磨き込まれた埃っぽくて古いオフィスのようなウイスキー」「オークとスパイスのバランスが秀逸」と評している{{Sfn|ロスクロウ|2011|p=235}}。

=== 主な限定品 ===
<!-- WP:NOTCATALOGに則って冗長な列挙を防ぐため、二次出典が見つかり特筆性のあるもの以外は掲載していません。 -->
==== 山崎50年 ====
山崎50年は2005年に初めて数量限定で発売され、その後も2007年、2011年に発売されている<ref name="nikkei_山崎50年">{{Cite web|和書|url=https://www.nikkei.com/article/DGXNASGF0902L_Z01C11A1000000/ |author= |title=サントリー、100万円の「山崎50年」発売 150本限定|publisher=nikkei.com|date=201-11-09|accessdate=2024-02-18|language=ja}}</ref>。3回のリリースいずれも定価は100万円<ref name="nikkei_山崎50年"/>。自家製麦した国産大麦を日本初のポットスチルで蒸留しミズナラ樽で熟成させた原酒を使用しており、栗林幸吉は「香木の[[伽羅]]香とビターチョコとウッディの深い余韻が楽しめる」と評している{{Sfn|栗林|2016|p=46}}。その希少性からオークション市場では高値がついており、2016年には850万円、2018年には[[香港]]で行われた[[サザビーズ]]のオークションで29万8879ドル、当時のレートでおよそ3,270万円で落札されている{{Sfn|土屋|2020|p=180}}<ref name=”nikkan_山崎50年”/>。これはジャパニーズ・ウイスキーの落札額としては当時の史上最高額であった<ref name=”nikkan_山崎50年”>{{Cite web|和書|url=https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00460346 |author= |title= 「山崎50年」に3270万円 香港のサザビーズで落札|publisher=nikkan.co.jp |date=2018-02-02 |accessdate=2024-02-18 |language=ja}}</ref>。

==== 山崎55年 ====
山崎55年は2020年に100本限定で発売された<ref name="suntory_official_山崎55年">{{Cite web|和書|url=https://www.suntory.co.jp/news/article/13651.html |author= |title=サントリーシングルモルトウイスキー「山崎55年」数量限定・抽選販売|publisher=suntory.co.jp |date=2020-01-30|accessdate=2024-02-18|language=ja}}</ref>。全数が抽選販売で、定価は300万円である<ref name="suntory_official_山崎55年"/>。1964年蒸留のホワイトオーク樽原酒や1960年蒸留のミズナラ樽原酒などで構成されている<ref name="suntory_official_山崎55年"/>。その希少性からオークションで人気があり、2020年に香港のオークションでおよそ8,500万円で落札されたほか、2022年には[[ニューヨーク]]のオークションで60万ドル、当時のレートでおよそ8,100万円で落札されている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB180UN0Y2A610C2000000/ |author= |title=「山崎55年」8100万円 競売落札、人気の高さ反映 |publisher=nikkei.com |date=2022-06-18 |accessdate=2024-02-18 |language=ja}}</ref>。

=== 使用されているブレンデッドウイスキー ===
<!-- オールドなどを追加する際には必ず「山崎原酒を使っていることが直接示された信頼できる出典」を提示してください -->
*[[響 (ウイスキー)|響]]{{Sfn|西川|2022|p=150}}
*[[サントリー角瓶]]{{Sfn|西川|2022|p=152}}
*[[碧 (ウイスキー)|碧]]:日本の山崎、[[白州蒸溜所|白州]]、スコットランドの[[アードモア蒸溜所|アードモア]]、{{仮リンク|グレンギリー蒸溜所|en|Glen Garioch distillery|label=グレンギリー}}、アイルランドの[[クーリー蒸溜所|クーリー]]、カナダの[[アルバータ蒸溜所|アルバータ]]、アメリカの[[ジムビーム]]をブレンドしている{{Sfn|西川|2022|p=151}}<ref>{{Cite web|和書|url=http://whiskymag.jp/blendedworld/ |title=新ジャンル「ブレンデッドワールドウイスキー」をめぐる冒険 |publisher=whiskymag.jp |date=2019-06-04 |accessdate=2024-02-18|language=ja}}</ref>。

== 評価 ==
=== 風味 ===
評論家のデイヴ・ブルームは山崎に共通する特徴として「下の中央にウイスキーを少量溜めたとき、決まってフルーツ香が現れる」と評している{{sfn|ブルーム|2018|p=215}}。評論家のチャールズ・マクリーンは山崎のオフィシャルボトルについて「フルーティな甘みが特徴」と評している{{Sfn|マクリーン|2017|p=297}}。

=== 受賞歴 ===
出典はすべてサントリーの製品公式HPによる<ref name="山崎_製品紹介"/><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.suntory.co.jp/company/award/ |author= |title=主なコンペテイション受賞歴 |publisher=suntory.co.jp |date= |accessdate=2024-02-22 |language=ja}}</ref>。
{| class="wikitable" style="vertical-align:bottom;"
|- style="font-weight:bold; text-align:center; background-color:#EAECF0; color:#202122;"
! 年
! 競技会
! 商品名
! 賞
|- style="background-color:#ffffff;"
| 2003年
| ISC
| 山崎12年
| 金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
| 2007年
| ISC
| 山崎12年
| 金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
| 2009年
| SWSC
| 山崎12年
| 最優秀金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
|
| SWSC
| 山崎18年
| 最優秀金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
| 2010年
| ISC
| 山崎12年
| 金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
|
| ISC
| 山崎1984年
| シュプリーム チャンピオン スピリット 全部門最高賞
|- style="background-color:#ffffff;"
|
| SWSC
| 山崎12年
| 金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
|
| SWSC
| 山崎18年
| 最優秀金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
|
| SWSC
| 山崎1984年
| 最優秀金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
| 2011年
| SWSC
| 山崎18年
| 最優秀金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
| 2012年
| ISC
| 山崎18年
| トロフィー 最高賞
|- style="background-color:#ffffff;"
|
| WWA
| 山崎25年
| ワールドベストシングルモルトウイスキー
|- style="background-color:#ffffff;"
|
| SWSC
| 山崎18年
| 最優秀金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
| 2013年
| ISC
| 山崎18年
| 金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
|
| SWSC
| 山崎12年
| 最優秀金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
|
| SWSC
| 山崎18年
| 最優秀金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
| 2014年
| ISC
| 山崎18年
| 金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
| 2015年
| SWSC
| 山崎18年
| 最優秀金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
|
| SWSC
| 山崎25年
| ベストアザーウイスキー賞,最優秀金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
| 2017年
| ISC
| 山崎ミズナラ2014
| 金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
|
| ISC
| 山崎 LIMITED EDITION 2016
| 金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
| 2018年
| ISC
| 山崎12年
| 金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
|
| ISC
| 山崎18年
| 金賞
|- style="background-color:#ffffff;"
| 2019年
| ISC
| 山崎18年
| ダブルゴールド
|- style="background-color:#ffffff;"
| 2023年
| ISC
| 山崎25年
| シュプリーム チャンピオン スピリット 全部門最高賞
|}

==見学==
山崎の創設から100周年となる2023年、施設のリニューアルを行うために同年5月から見学を休止し、同年11月1日にリニューアルオープンをした<ref name="suntory_official_リニューアル">{{Cite web|和書|url=https://www.suntory.co.jp/news/article/14475.html |author= |title=サントリー山崎蒸溜所リニューアルオープン 2023年10月10日 ニュースリリース サントリー |publisher=suntory.co.jp |date=2023-10-10 |accessdate=2024-02-17 |language=ja}}</ref>{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=23}}。リニューアル後はこれまでから見学内容を刷新し、「ものづくりツアー」と「ものづくりツアー プレステージ」という2種類の有料見学ツアーを設置している{{Sfn|土屋|ウイスキー文化研究所|2024|p=23}}。通常のものづくりツアーでは蒸留所見学ののちに「シングルモルト山崎」の構成原酒などのテイスティングができ{{Sfn|西田|2024|p=52}}、プレステージでは通常では立ち入れないエリアを見学することができる{{Sfn|西田|2024|pp=52-53}}。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist}}
{{Notelist}}

=== 出典 ===
{{Reflist|3}}
== 参考文献 ==
* {{Cite |和書
| author = 土屋守
| author2 = ウイスキー文化研究所
| title = ジャパニーズウイスキー イヤーブック 2024
| date = 2024
| publisher = ウイスキー文化研究所
| isbn = 978-4-909432-50-6
| ref = {{SfnRef|土屋|ウイスキー文化研究所|2024}}
}}
* {{Cite |和書
| author = [[土屋守]]
| author2 = ウイスキー文化研究所
| title = ジャパニーズウイスキー イヤーブック 2023
| date = 2022
| publisher = ウイスキー文化研究所
| isbn = 978-4-909432-40-7
| ref = {{SfnRef|土屋|ウイスキー文化研究所|2022}}
}}
* {{Cite |和書
| author = 監修 西川大五郎
| title = ウイスキー図鑑 世界のウイスキー218本とウイスキーを楽しむための基礎知識
| date = 2022
| publisher = マイナビ出版
| isbn = 978-4-83998-100-6
| ref = {{SfnRef|西川|2022}}
}}
* {{Cite book|和書
|author = 土屋守
|authorlink = 土屋守
|year = 2020
|title = ビジネス教養としてのウイスキー なぜ今、高級ウイスキーが2億円で売れるのか
|publisher = [[KADOKAWA]]
|isbn = 978-4-04-604603-1
|ref = {{SfnRef|土屋|2020}}
}}
*{{Cite book|和書
|author = ステファン・ヴァン・エイケン
|translator = 山岡秀雄
|translator2 = 住吉祐一郎
|title = ウイスキー・ライジング ジャパニーズ・ウイスキーと蒸溜所ガイド決定版
|date = 2018
|publisher = [[小学館]]
|isbn = 978-4-09-388631-4
|ref = {{sfnref|エイケン|2018}}
}}
*{{Cite book|和書
|author = デイヴ・ブルーム
|translator = 村松静枝
|translator2 = 鈴木宏子
|title = 世界のウイスキー図鑑
|date = 2018
|publisher = [[ガイアブックス]]
|isbn = 978-4-88282-989-8
|ref = {{sfnref|ブルーム|2018}}
}}
* {{Cite |和書
| author = チャールズ・マクリーン
| coauthors = デイヴ・ブルーム,トム・ブルース・ガーダイン,イアン・バクストン,ピーター・マルライアン,ハンス・オフリンガ,ギャヴィン・D・スミス
| translator = 清宮真理,平林祥
| title = 改訂 世界ウイスキー大図鑑
| date = 2017
| publisher = 柴田書店
| isbn = 978-4388353507
| ref = {{SfnRef|マクリーン|2017}}
}}
* {{Cite |和書
| author = 栗林幸吉
| title = ウイスキー案内
| date = 2016
| publisher = 洋泉社
| isbn = 978-4-8003-0998-3
| ref = {{SfnRef|栗林|2016}}
}}
* {{Cite book|和書
|author = 土屋守
|authorlink = 土屋守
|year = 2014
|title = ブレンデッドウィスキー大全
|publisher = [[小学館]]
|isbn = 978-4093883177
|ref = {{SfnRef|土屋|2014}}
}}
* {{Cite |和書
| author = ドミニク・ロスクロウ
| translator = 郷司陽子
| title = 世界のベストウイスキー
| date = 2011
| publisher = [[グラフィック社]]
| isbn = 978-4-7661-2199-5
| ref = {{SfnRef|ロスクロウ|2011}}
}}
* {{Cite |和書
| author = マイケル・ジャクソン
| authorlink = マイケル・ジャクソン (ライター)
| translator = 土屋希和子,Jimmy山内,[[山岡秀雄]]
| title = ウィスキー・エンサイクロペディア
| date = 2007
| publisher = [[小学館]]
| isbn = 4093876681
| ref = {{SfnRef|ジャクソン|2007}}
}}
* {{Cite book|和書
|author = 土屋守
|authorlink = 土屋守
|year = 2007
|title = ウイスキー通
|publisher = [[新潮社]]
|isbn = 978-4106035937
|ref = {{SfnRef|土屋|2007}}
}}
* {{Cite |和書
| author = マイケル・ジャクソン
| authorlink = マイケル・ジャクソン (ライター)
| translator = [[山岡秀雄]],土屋希和子
| title = モルトウイスキー・コンパニオン 改訂第5版
| date = 2005
| publisher = [[小学館]]
| isbn = 4-09-387512-X
| ref = {{SfnRef|ジャクソン|2005}}
}}
* {{Cite journal |和書
|author = 西田嘉孝
|title = [特別リポート] サントリー山崎蒸溜所
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* {{Cite journal |和書
|author = 土屋守
|title = [記念インタビュー] ジャパニーズウイスキーの次なる100年へ 未来を見据えたビームサントリーの挑戦
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|journal = Whisky World(ウイスキーワールド)
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|title = 元サントリー山崎蒸溜所工場長 嶋谷幸雄さんに聞く 鳥井信治郎と山崎蒸溜所
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|title = サントリー山崎蒸溜所の新蒸溜釜が初お披露目
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|title = 新しい山崎、白州 驚きのノンエイジ
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== 関連項目 ==
* [[ジャパニーズ・ウイスキー]]
== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
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* {{Official|http://www.suntory.co.jp/factory/yamazaki}}
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*[http://www.shimamotocho.jp/gyousei/kakuka/tosisouzoubu/nigiwaisouzouka/kankou/midokoro/odekake_spot/1414045110248.html 山崎蒸溜所] - 島本町
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2024年2月29日 (木) 01:34時点における版

山崎蒸溜所
Yamazaki distillery
2019年10月撮影
2019年10月撮影
地域:日本
所在地 大阪府三島郡島本町5-2-1[1]
座標 北緯34度53分35.498秒 東経135度40分28.402秒 / 北緯34.89319389度 東経135.67455611度 / 34.89319389; 135.67455611座標: 北緯34度53分35.498秒 東経135度40分28.402秒 / 北緯34.89319389度 東経135.67455611度 / 34.89319389; 135.67455611
所有者 サントリー[1]
創設 1923年[2][注釈 1]
創設者 鳥井信治郎[1]
現況 稼働中
水源 京都西山を水源とする地下水[4]
蒸留器数
生産量 年間700万リットル[5]
使用中止 1931年
位置
地図

山崎蒸溜所(やまざきじょうりゅうじょ、英語: Yamazaki Distillery)は、 大阪府三島郡島本町にあるサントリー所有のジャパニーズ・ウイスキーの蒸留所。日本初のモルトウイスキー蒸留所であり、単一のウイスキー蒸留所としては珍しく多彩な原酒を造り分けることで知られている。

歴史

背景

山崎蒸溜所を創設したのは寿屋(のちのサントリー)創業者の鳥井信治郎である[1]。寿屋は1907年に「赤玉ポートワイン」を、1911年には「ヘルメスウイスキー[注釈 2]」を発売して大成功を収めており[7][6]、1919年にはワインの古樽で数年の熟成を経た醸造アルコールを「トリスウイスキー」として発売したところ瞬く間に完売[6]。このことを受けた鳥井は日本人の味覚にあった本格的なウイスキーづくりを志向するようになっていった[8]。そこで三井物産ロンドン支店にかけあってスコットランドから技術者を招聘しようとしたところ[9]、スコットランドでウイスキーづくりを学んだのち日本に帰国した青年・竹鶴政孝を、知己であったムーア博士から推薦された[8]

竹鶴政孝は醸造学を学んだのち1916年に摂津酒造に入社した[10]。同社オーナーの阿倍喜兵衛は鳥井と同じように本格的なウイスキーづくりを志向しており、1918年から1920年にかけて竹鶴をスコットランドでのウイスキー留学に送り出していた[11]。しかし、竹鶴が帰国した1920年当時の日本は第一次世界大戦の戦争特需がなくなったことで不景気にあえいでおり[12]、摂津酒造にはウイスキーづくりへ投資を行う余裕がなくなっていた[12][13]。本場でウイスキーづくりを学んだにもかかわらず模造ウイスキーづくりをしなければならないことに竹鶴は落胆し、1922年には摂津酒造を退社する[14]。そこに竹鶴を推薦された鳥井が現れ、1923年6月、竹鶴は寿屋に入社することになった[15]

創業期

1946年の山崎蒸溜所の航空写真。画面中心が山崎蒸溜所。国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成 2020年の山崎蒸溜所周辺の航空写真。画面左上が山崎蒸溜所。右下の川は左から順に桂川、宇治川、木津川。国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成
1946年の山崎蒸溜所の航空写真。画面中心が山崎蒸溜所。国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成
2020年の山崎蒸溜所周辺の航空写真。画面左上が山崎蒸溜所。右下の川は左から順に桂川宇治川木津川国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成
創業当時に稼働していたポットスチル。モニュメントになっている。2017年撮影

蒸留所をどこに作るかについて、竹鶴は地形や気候がスコットランドに似ていることから北海道が理想だとしていた[9][16]。一方で鳥井は、遠く離れた北海道に蒸留所を作っては輸送などのコストが嵩むため消費地に近い場所で、かつ大阪の本社近くが望ましいと考えていた[9][16]。その結果、大阪府京都府の県境に位置する山崎の地が建設地として選ばれた[9]。山崎は名水の地として知られており、古くは万葉集で言及されているほか、水無瀬神宮に湧き出る「離宮の水」は名水百選に選ばれており、千利休待庵という茶室を建てている[17][18]。また、蒸留所近郊で桂川宇治川木津川という3つの河川が合流していることから一年を通じて濃霧が立つほど湿潤な気候であり[注釈 3]、ウイスキーの製造・熟成に非常に適した環境であった[9][17]

1923年10月1日には蒸留所用地を購入し[19]、同月に山崎蒸溜所の建設を開始[2]。1924年11月11日に日本初のモルトウイスキー蒸留所として竣工した[2]。ウイスキーづくりに必要な設備は竹鶴の指揮のもとで揃えられ、一部は海外から輸入したものの、ポットスチルを含む大半の設備は竹鶴ノートをもとに日本で製造されたものだった[19]。ポットスチルはロングモーン蒸留所[注釈 4]に似た形のものが2基あり、イギリスから輸入したピートと国産の大麦を使って麦芽を作り、伝統的なスコッチ・ウイスキーとまったく同じ方法でのウイスキーづくりが始まったのである[21]。この頃の山崎はスコットランドのハイランド地方にある典型的な蒸留所のような内装であった[17]。なお、初代ポットスチルはその後1958年まで使用され、取り替えられた後は山崎の敷地内にモニュメントとして設置されている[22]

しかしながら山崎でのウイスキーづくりは困難の連続であった[23]。また、熟成に時間がかかりすぐには製品として販売できないために寿屋の経営を圧迫し、鳥井はウイスキーづくりの費用を捻出するために歯磨き粉「スモカ」などの新商品を精力的に開発した[24]。そして山崎の操業開始から5年、1929年には日本初の本格国産ウイスキー「サントリーウイスキー」(通称「白札」)が発売されたが[2]、1瓶4.5円という強気の価格設定や[注釈 5]、焦げたような味わい、スモーキーな風味が敬遠されて商業的に大失敗に終わった[24]。翌1930年に竹鶴はビール製造の責任者として鶴見の工場へ事実上の左遷をされ[25]、ついに寿屋の資金が尽きた1931年には山崎は生産休止に追い込まれた[24][26][注釈 6]。そして10年契約の満了間近である1934年3月、竹鶴は寿屋を退社した[27][23][注釈 7]。一方で、長きにわたる試行錯誤のすえ1937年に発売した「角瓶」(12年熟成)はついにヒットを果たした[29]

戦時中

角瓶がヒットを収めた1937年には日中戦争が、1941年には太平洋戦争が勃発したが、山崎は日本軍の指定工場として軍にウイスキーを供給する役割を担ったため国から優先的に原料供給を受けられ、戦時中にあってもウイスキーづくりを中止せずに済んだ[30][31]。むしろ毎年のように売上を伸ばしており、1930年には17,000リットルだった山崎の出荷量は、1944年には771,000リットルにまで増加している[30]。戦争末期の1945年になると大阪本社、大阪工場ともに空襲で焼けたが、山崎は幸運にも戦火を免れた[30]。それでもウイスキーを詰めた樽は念のため山中のトンネル内に避難させていた[17]。なお、ウイスキーに香木のような独特な香味を付与することで知られるミズナラ樽は、海外産木材の輸入が困難になった戦時中に代用品として開発されたものである[4][32]

戦後

山崎が戦火を免れたおかげで寿屋は戦後まもなくからウイスキーの販売を継続することができた[33]。1945年10月にはGHQ向けにウイスキーを供給するようになり[注釈 8]、一般向けにも1946年4月に「トリスウイスキー」を、1950年には「オールド」を発売した[34][33]。その後1960年代に入ると日本国内ではウイスキーブームが起こり、山崎は生産設備の大幅な拡張を推し進めた[35][36]。1958年にはポットスチルを4基へ増設、1963年には8基にまで増設しており、生産能力はかつての8倍となっている[37]。蒸留器の増設はその後も行われており、1968年には4基が増設されて12基となり生産能力が6割向上している[38]

山崎蒸溜所稼働から60周年となる1984年3月14日には「ピュアモルト山崎」[注釈 9]がリリースされた[2][40]

1987年から1989年にかけて生産設備全体の2/3を更新する大改修を行っており、このときに初めて木製のウォッシュバック(発酵槽)と直火加熱式のポットスチルを導入している[41][42]。また、並行して酵母の改良も進めており、この頃から様々な種類の原酒を造り分けられるようになった[42]。山崎蒸溜所元工場長の嶋谷幸雄はこれらの改革を「より複雑なブレンディングやヴァッティングを行うことが可能になったため、ウイスキーの品質は格段に向上したと思います」と評価している[42]。2013年には4基が増設されて16基となった[43]。合計4基のうち初留2基と再留1基はほぼ円錐形のストレート型で、山崎の初代ポットスチルの形状を改良したものである[44]

100周年に合わせて2024年(令和6年)にかけて敷地内の改修を進めており、フロアモルティングや電気式蒸留器の導入を行う[45][46]。併せて蒸留所の見学設備もリニューアルし、2023年(令和5年)11月1日にオープンした[45]

製造

山崎蒸溜所の特徴は非常に多彩な原酒を造り分けられる点にある[2]。度重なる改修工事の結果、2024年時点の山崎ではサイズ、形状、加熱方式、冷却方式が異なる8対16基のポットスチルが稼働しており、それらに2種類の糖化槽と発酵槽、複数種類の熟成樽を組み合わせることで、世界的にも類を見ないほど多様な造り分けが可能になっている[3]。その種類は100以上に及ぶ[47]。このような複雑なウイスキーづくりを行うようになった理由について評論家のチャールズ・マクリーンは、日本の蒸留所間に原酒交換の文化がないことを指摘し、単一の蒸留所で複雑なブレンドを行うには必然的に多種多様な原酒を作らざるを得ないからであると述べている[48]

製麦

麦芽のフェノール値は0 – 40 ppm[4]、40 ppmの麦芽を使った仕込みは年末に行われることが多い[49]。一度の仕込みに4 – 16トンの麦芽を消費する[4]。1924年にウイスキーづくりを始めた当時は国産大麦とイギリスピートを使って蒸留所内でモルティングが行われていた[49][50]。しかし1969年にはフロアモルティングが廃止され、1969年に導入した機械式のモルティングも1972年には廃止、以降はイギリスの専門業者(モルトスター)から麦芽を調達するようになった[49][4]。創業100周年となる2023年には、1回あたり1.1トンという極小サイズではあるもののフロアモルティングを再開している[51][52]

フロアモルティング用の発芽室は1.4トンの大麦を広げられるスペースが2箇所あり、冷涼な気候を再現するために室温は一年を通じて15℃に保たれている[52]。大麦の浸水・断水を繰り返す工程がおよそ2日、発芽室に大麦を広げて発芽を促す工程がおよそ4日である[52]。その後はドイツ製の熱風乾燥機で乾燥させ、除根などの仕上げ工程を経たのち、麦芽としてウイスキーづくりに使用できるようになる[52]。ピートを焚いて乾燥させる設備はない[53]。サントリーのチーフブレンダーである福與伸二はフロアモルティングした麦芽で作った原酒について「非常にリッチでコクのあるスピリッツになっています」と述べている[53]

仕込み・発酵

マッシュタン。左が容量100,000リットル、右が25,000リットル 木製のウォッシュバック
マッシュタン。左が容量100,000リットル、右が25,000リットル
木製のウォッシュバック

仕込みに使う水は敷地内の井戸から採水しており、水源は天王山を始めとした京都西山である[4][49]硬度は90mg/Lであり[4]、硬水を使うことで知られるグレンモーレンジィ蒸留所と同程度である[54][55]

マッシュタン(糖化槽)はステンレス製で、容量100,000リットル(17.6トン)と25,000リットル(4.5トン)の合計2基が稼働している[4][56]

ウォッシュバック(発酵槽)は1988年まではすべてステンレス製のものだったが、同年の改修で木製のものが導入された[22][注釈 10]。2024年時点では合計20基が稼働しており、その内訳は木製(材木はダグラスファー、容量40,000リットル。温度調節機能はない)が8基、ステンレス製(容量140,000リットル)が6基、ステンレス製(容量80,000リットル)が6基である[4][17]。ステンレス製のウォッシュバックはすっきりとした風味に、木製のウォッシュバックは複雑で重厚な風味につながる[57]。発酵に使う酵母の多くはサントリー自社製のもので、ウイスキー酵母ビール酵母を併用している[4][22]。発酵時間は65 – 75時間[4]

蒸留

ポットスチル

山崎のポットスチルは初留・再留合わせて全部で16基ある[2]

初留器は8基あり、容量は15,000リットルで統一されている[4]。内訳はストレート型が6基、バルジ型が2基である[4]。加熱方式はすべてガスによる直火式、冷却方式は6基がシェル&チューブ、2基がワームタブである[4]。蒸留にかかる時間は7 – 8時間[4]

再留器も8基あり、内訳はストレート型が3基、バルジ型が5基である[4]。容量は8,000 – 10,000リットル[4]。加熱方式と冷却方式はすべて統一されており、蒸気による間接加熱式とシェル&チューブ方式をそれぞれ採用している[4]。蒸留にかかる時間は7 – 8時間[4]

熟成・瓶詰め

ダンネージ式の熟成庫

樽詰め時のアルコール度数は63.5度未満で、熟成環境によって適切な度数に調整される[4]。山崎の熟成庫はダンネージ式ラック式がどちらもあるが[58]、熟成場所は必ずしも山崎であるわけではなく、白州蒸溜所滋賀県の近江エージングセラーで熟成させることもある[4]。山崎で熟成されるのは生産量のうち1割程度である[58]

熟成に用いる樽はシェリー樽、スパニッシュオーク樽、ミズナラ樽などさまざまなものを用いている[47]。かつては山崎にクーパレッジ(製樽所)があったが、1980年代後半に滋賀県の近江クーパレッジへと移設された[58]

1924年に初めて原酒が詰められた樽はイギリスから輸入されたシェリー樽であり、中身は既に空であるものの2022年現在でも山崎の熟成庫内に保管されている[59][60]

パイロットディスティラリー

山崎蒸溜所内には実験的な製造を行うためのパイロットディスティラリーが存在する[4]。設置は1968年[61]。蒸留所内のワンフロアに設置されており、製造設備が一通り揃っているほか、樽詰め設備やテイスティングルームなども備えている[62]。山崎蒸溜所のブレンダー室長である野口雄志は「設立当時から技術開発や研究開発のための原酒づくりを行ってきたパイロットディスティラリーは、まさにサントリーウイスキーの基幹となる施設です」と述べている[62]

製造設備はポットスチルが1対2基あり、初留器は直火加熱と電気加熱のハイブリッド式、再留器は間接加熱式、容量は2,300リットルと極小である[63]。糖化槽と発酵槽もポットスチルに合わせたサイズであり、糖化槽は複数方式での仕込みに対応、発酵槽はステンレス製で温度調整が可能なタイプである[62]

製品

山崎12年のボトル

山崎の原酒はサントリー各種のブレンデッドウイスキーに使われるほか、シングルモルトウイスキーとしてもリリースされている[64]

1984年に初のシングルモルトとして「ピュアモルト山崎」(のちの「山崎12年」)をリリースすると[2][65]、1992年に「山崎18年」を、1998年に「山崎25年」を[38]、2012年に「山崎」(ノンエイジ、熟成年数表記なし)を発売している[43]

現行のラインナップ

山崎

2012年に5月29日に発売された製品で、熟成年数表記のないノンエイジ製品である[66]ハイボールをきっかけにウイスキーを飲み始めた人にとって「飲みやすくて理屈抜きに美味しいもの」を作ろうというコンセプトのもとに開発されており、2012年当時のサントリーチーフブレンダーである福與伸二は、ワイン樽で後熟することによって出てくる甘みを活かしたブレンドになっていると述べている[66]

評論家の土屋守は山崎ノンエイジを下記のようにテイスティングしている。

点数:85点[注釈 11]

アロマ:プラム、梅酒、ミント。厚みがありしっかりしている。ベリーの入ったチョコレート、イチゴのタルト。加水でよりスイート。

フレーバー:厚みがあり、甘・辛・酸がバランスよく口中に広がる。余韻は中程度。加水で徐々にドライになり、後口は塩昆布。

総合評価:このクラスとしては非常に複雑で、しっかりとしている。少量の加水がオススメ。 — ウイスキーワールド2012年8月号より[68]

山崎12年

山崎12年は山崎蒸溜所稼働から60周年となる1984年3月14日に「ピュアモルト山崎」として初めてリリースされた[2][40]。リリース当初は年数表記がなかったが、1986年からは12年と記載されるようになった[39]。開発を担当したのは鳥井信治郎の次男・佐治敬三であり[2]、ラベルの「山崎」の文字は佐治敬三自らが揮毫したものである[69]。土屋守は「山崎らしい上品で華のある香りや、しっかりしたボディと熟成感」「多彩な原酒が調和する「バランス」を重視したブレンド」と評している[2]。バーテンダーの谷嶋元宏は「上品でバランスよく飲みやすい。心地よい香りを楽しめる。加水しても崩れないが、できればストレートで。」と評価している[70]。評論家のマイケル・ジャクソンは「軽くシロップのようで、はちみつのフレーバーがして、香水のようで、フィニッシュにクッキーのようなドライさをともなう」と評価している[71]

山崎18年

1992年に発売され[38]、18年以上熟成させたシェリー樽原酒を中心にブレンドされている[72]。評論家のデイヴ・ブルームは本品の風味を「コクがありまろやか」「森の中に深く分け入る旅」と評している[73]。評論家のチャールズ・マクリーンは「熟成を重ねるにつれ、樽材の影響がより強く出るため、若い「山崎」のエステリーな香りに代わって、レーズンやイチゴジャム、アンズや干し柿のような香りが顕著になる」と述べている[74]

山崎25年

1998年に発売され[38]、25年以上熟成させたミズナラ樽、スパニッシュオーク樽、アメリカンオーク樽原酒をブレンドしている[72]。年間数千本の限定商品である[72]。評論家のドミニク・ロスクロウは「しっかりと磨き込まれた埃っぽくて古いオフィスのようなウイスキー」「オークとスパイスのバランスが秀逸」と評している[75]

主な限定品

山崎50年

山崎50年は2005年に初めて数量限定で発売され、その後も2007年、2011年に発売されている[76]。3回のリリースいずれも定価は100万円[76]。自家製麦した国産大麦を日本初のポットスチルで蒸留しミズナラ樽で熟成させた原酒を使用しており、栗林幸吉は「香木の伽羅香とビターチョコとウッディの深い余韻が楽しめる」と評している[77]。その希少性からオークション市場では高値がついており、2016年には850万円、2018年には香港で行われたサザビーズのオークションで29万8879ドル、当時のレートでおよそ3,270万円で落札されている[78][79]。これはジャパニーズ・ウイスキーの落札額としては当時の史上最高額であった[79]

山崎55年

山崎55年は2020年に100本限定で発売された[80]。全数が抽選販売で、定価は300万円である[80]。1964年蒸留のホワイトオーク樽原酒や1960年蒸留のミズナラ樽原酒などで構成されている[80]。その希少性からオークションで人気があり、2020年に香港のオークションでおよそ8,500万円で落札されたほか、2022年にはニューヨークのオークションで60万ドル、当時のレートでおよそ8,100万円で落札されている[81]

使用されているブレンデッドウイスキー

評価

風味

評論家のデイヴ・ブルームは山崎に共通する特徴として「下の中央にウイスキーを少量溜めたとき、決まってフルーツ香が現れる」と評している[73]。評論家のチャールズ・マクリーンは山崎のオフィシャルボトルについて「フルーティな甘みが特徴」と評している[74]

受賞歴

出典はすべてサントリーの製品公式HPによる[72][86]

競技会 商品名
2003年 ISC 山崎12年 金賞
2007年 ISC 山崎12年 金賞
2009年 SWSC 山崎12年 最優秀金賞
SWSC 山崎18年 最優秀金賞
2010年 ISC 山崎12年 金賞
ISC 山崎1984年 シュプリーム チャンピオン スピリット 全部門最高賞
SWSC 山崎12年 金賞
SWSC 山崎18年 最優秀金賞
SWSC 山崎1984年 最優秀金賞
2011年 SWSC 山崎18年 最優秀金賞
2012年 ISC 山崎18年 トロフィー 最高賞
WWA 山崎25年 ワールドベストシングルモルトウイスキー
SWSC 山崎18年 最優秀金賞
2013年 ISC 山崎18年 金賞
SWSC 山崎12年 最優秀金賞
SWSC 山崎18年 最優秀金賞
2014年 ISC 山崎18年 金賞
2015年 SWSC 山崎18年 最優秀金賞
SWSC 山崎25年 ベストアザーウイスキー賞,最優秀金賞
2017年 ISC 山崎ミズナラ2014 金賞
ISC 山崎 LIMITED EDITION 2016 金賞
2018年 ISC 山崎12年 金賞
ISC 山崎18年 金賞
2019年 ISC 山崎18年 ダブルゴールド
2023年 ISC 山崎25年 シュプリーム チャンピオン スピリット 全部門最高賞

見学

山崎の創設から100周年となる2023年、施設のリニューアルを行うために同年5月から見学を休止し、同年11月1日にリニューアルオープンをした[45][64]。リニューアル後はこれまでから見学内容を刷新し、「ものづくりツアー」と「ものづくりツアー プレステージ」という2種類の有料見学ツアーを設置している[64]。通常のものづくりツアーでは蒸留所見学ののちに「シングルモルト山崎」の構成原酒などのテイスティングができ[87]、プレステージでは通常では立ち入れないエリアを見学することができる[88]

脚注

注釈

  1. ^ 1923年は蒸留所の建設が始まった年であり、蒸留を開始したのは1924年である[3]
  2. ^ ヘルメスウイスキーはラベルに「ヘルメス・オールド・スコッチ・ウイスキー」とあったが、実際にはウイスキーの定義に当てはまらない模造品であり、もちろん「オールド」でも「スコッチ」でもなかった[6]
  3. ^ なお、山崎の気候は年月を経て変化しており、2018年時点では霧の立つ日は月平均1 – 2日ほどである[17]
  4. ^ ロングモーンは竹鶴が1919年にウイスキーの製造実習を受けた蒸留所である[20]
  5. ^ 輸入品スコッチウイスキーのジョニーウォーカー黒ラベルが5円であった[24]
  6. ^ 翌1932年には「スモカ」の製造販売権を売却して資金を捻出、生産を再開した[26]
  7. ^ その後の竹鶴は北海道に渡り大日本果汁(のちのニッカウヰスキー)を創業し[28]、1936年に余市蒸溜所でのウイスキーづくりを開始した[29]
  8. ^ 供給は1949年まで続いた[34]
  9. ^ リリース当初は年数表記がなかったが、1986年からは12年と記載されるようになった[39]
  10. ^ 創業初期の写真では木製のウォッシュバックのようなものが使われていたように見えるが、それを裏付ける記録はない[22]
  11. ^ 採点は100点満点で、75点を平均点としている[67]

出典

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  • 西田嘉孝「[特別リポート] サントリー山崎蒸溜所」『Whisky Galore(ウイスキーガロア)』第8巻第1号、ウイスキー文化研究所、2024年2月、48-53頁、ASIN B0CQT8JGV3 
  • 土屋守「[記念インタビュー] ジャパニーズウイスキーの次なる100年へ 未来を見据えたビームサントリーの挑戦」『Whisky Galore(ウイスキーガロア)』第7巻第2号、ウイスキー文化研究所、2023年4月、30-35頁、ASIN B0BTSHY52S 
  • 土屋守「「響」ブランドの原点を感じる「響 JAPANESE HARMONY」」『Whisky World(ウイスキーワールド)』第5巻第1号、ゆめディア、2015年2月、12-17頁、ISBN 978-4-905131-77-9 
  • 「元サントリー山崎蒸溜所工場長 嶋谷幸雄さんに聞く 鳥井信治郎と山崎蒸溜所」『Whisky World(ウイスキーワールド)』第4巻第1号、ゆめディア、2014年2月、42-45頁、ISBN 978-4-905131-56-4 
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  • 「The Tasting 話題のボトルを飲む」『Whisky World(ウイスキーワールド)』第11巻、ゆめディア、2012年8月、70-74頁、ISBN 978-4-905131-30-4 
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関連項目

外部リンク